II
家が見えなくなったところで土方は漸く銀時から解放された。
「坂田テメー!」
「悪ィ!…でもウチの兄貴達、普通じゃないの分かっただろ?アイツらとは早く離れた方がいい。」
「だからって何で俺がっ…」
「気持ちは分かるけど、あそこでお前がノーマルだって言ったら『やっぱりパー子狙いか!』って
なるに決まってんだから…。頼むよ…アイツらは放っておくしかねェんだよ。」
「…お前も苦労してんだな。」
兄達の論理には納得いかないものの、銀時自身が一般的な感覚を持っているのはせめてもの救いだった。
「坂田、一つだけ言っておく。」
「お前がゲイじゃないってことは…」
「そうじゃねえ。…俺の鞄、お前の妹が持ったままだ。」
「あっ…」
再び顔を合わせると面倒なことになるのは必至で、結局、土方はその場に残り銀時が鞄を取りに
行くことになった。
「銀時兄ィ、おっ帰り〜。」
「…ただいま。」
家に戻った銀時は兄妹に笑顔で出迎えられた。パー子は「ニコニコ」という表現にピッタリ当てはまる
笑顔であるが、兄達は「ニヤニヤ」に近い表情だった。銀時は嫌な予感しかしない。
「パー子お前、土方の鞄…」
「あー、やっぱり気付いた〜?だっていきなり銀時兄ィと土方さんが行っちゃうから〜…」
「悪ィ悪ィ。今から届けてくっからよ…」
「はいっ。落とさないように気を付けてネ。」
「…何かあったのか?」
やたらと楽しげに鞄を差し出すパー子と、それを相変わらずニヤニヤ見ている兄達―銀時は聞かずには
いられなかった。
「やっだ〜。何かあったのは銀時兄ィの方でしょ♪…いつからなの?」
「何が?」
「水臭いじゃないか銀時。恋人が出来たんなら兄ちゃん達に知らせてくれてもいいだろ?」
「恋人ォ!?」
金時の言葉に銀時は仰天する。
「俺にいつ恋人ができたってんだよ!」
「もう隠さなくていいぞ。俺は、堅物の銀八兄ィと違ってそーゆーの理解あるから。」
「何を言うか金時。今の時代、固定観念に縛られていては教師などできん。俺も可愛い弟の恋を応援するぞ。」
「良かったね、銀時兄ィ。もちろん私も応援してるからね。」
「…俺が誰と付き合ってるって?」
「土方さん。」
予想通りのパー子の答えに、銀時はガックリと肩を落とす。
「あのなァ…俺と土方はただ同じクラスなだけで…」
「でも友達じゃないって言ってたじゃない。それで、金時兄ィが土方さんのことゲイだって言ってて…
私、ピンときたの!」
「いや、それは…」
「大丈夫!私はいつだってお兄ちゃんの味方よ!」
「良かったなァ、銀時。ププッ…」
肩を震わせる兄達は、明らかにパー子の勘違いに気付いている。
「ねえ…今日は急だから断わられちゃったけど、いつかちゃんと紹介してよね。」
「そうだそうだ。土方くんをウチに呼びなさい。」
「何なら泊まっていっちゃえば?」
「えぇっ!金時兄ィ、泊まりってそんな…」
「女の子なら間違いがあっちゃマズイと思うけど…相手は男だし、いいんじゃね?なあ、銀八兄ィ?」
「おお、構わんぞ。…で、いつにする?」
「呼ぶわけねーだろ!俺と土方は「「銀時!」」
銀時が否定しようとした途端、兄達の眼光が鋭く光る。
「お前まさか…パー子が間違ってるなんて言わねェよな?」
「いや、だって…」
「可愛い妹が心から祝福してくれてんだぞ?お前は幸せ者だよな?」
「いや、だから…」
「早く土方くんとウチに来る日取りを決めてきなさい。」
「そ、それは…」
これは単にからかっているのではない。愛する妹のため、あわよくば土方とくっ付けようとしている―
ただならぬ危機感を覚えた銀時は、この場を打開する術を必死に考えた。
「ちゃんとパー子がいる時に連れて来いよ。」
「(それだ!)そんなことして、土方がパー子に惚れたらどーすんだよ。」
銀時は兄達にだけ聞こえるように言った。
兄達に動揺の色が見てとれ、銀時はこの線で押していけば間違いないと確信する。
「土方がパー子に惚れたら、本当のことをパー子に伝えて口説くだろうなァ…。土方って、俺達一家が
憧れて止まないサラッサラ黒髪ストレートだし?成績優秀でスポーツ万能でバレンタインには
抱えきれねェ程のチョコもらうし?そんなヤツに好かれたらパー子だって悪い気しねェだろうなぁ…」
「………」
「銀時…」
「えっ、なに、金時兄ィ?やっぱ連れて来ない方がいい?」
「お前…土方をオトしてから連れて来い。」
「はあぁぁ!?」
「おっ、金時名案だな。」
「だろ?…そんだけモテて特定の相手がいないってことは、ゲイっつーのも意外と当たってるかも。」
「一理あるな。…よしっ、銀時頑張れよ。」
「お前と土方がくっ付いたら、パー子が喜ぶからな。」
二人の兄は銀時の肩や背中をバシバシ叩いて激励する。
「俺の気持ちは無視かよ!例え土方がそうでも、俺は違うからな!!」
「銀時…お前と土方くんを応援すると言った時の、パー子の瞳の煌めきを見たか?」
「ここ最近で一番の煌めきだったよな…」
「知らねー!」
「お前の不幸とパー子の幸せ…比べたらパー子の幸せを選ぶのが兄の務めだろ?」
「金時…土方くんは成績優秀でスポーツ万能、銀時憧れのサラサラヘアーだそうだから、不幸ではないだろ。」
「それもそうだな。弟も幸せ、妹はもっと幸せ…いいことだらけじゃねーか。」
「お兄ちゃん達、何の話してるの?」
長いこと放置されていたパー子がたまりかねて会話に入る。
兄達は慌てて取り繕う。
「いやっ…銀時のヤツが土方くんをウチに呼ぶのは恥ずかしいと言うのでな…」
「そうそう。だから俺が、ナンバーワンホストとして誘い方を伝授して…」
「銀時兄ィが嫌なら無理して呼ばなくてもいいけど…鞄は早く届けてあげた方がいいんじゃない?」
「あっ…。俺、行って来る!」
「行ってらっしゃ〜い。」
「頑張って来いよ〜。」
「帰って来なくてもいいぞ〜。」
三者三様の送り出しをされ、銀時は土方の待つ所へと戻っていくのだった。
「テメーの家は随分遠かったんだな…」
「マジでゴメン!」
銀時が戻ると土方は米神に青筋を浮かべて待っていた。
「…また兄貴達に捉まってたのか?」
「あー…まあ、そんな感じ…」
流石に土方をオトせと言われて送り出されたとは言う気になれず、銀時は言葉を濁す。
「…ウチ、寄ってくか?」
「へっ?」
「家に帰りずれェならウチに来てもいいぞ。」
「マジで?…ていうか、こんな夜にいきなりって…お前の親、大丈夫なのか?」
「怪我してたから連れて来たってことにすればな…」
そういえば、ボコボコにやられたにも関わらず一切手当てをしていなかった。
不思議なもので、気付いてしまうと急に傷が痛みだす。このまま家に帰れば兄達に土方のことを
聞かれて「もっと頑張れ」とかなんとか説教されるだけだ―銀時は土方の家に行くことにした。
(11.05.10)
すみません。前回、前中後編くらいで終わると言いましたが終わらないので「I、II、III…」にしました。それからこの話、拍手コメントでのリクエストを基にした作品です。
といってもリクエストはCP有りだったので、完全に添えてはいないのですが…「不良な銀さんを手当てしたのが切欠で仲良くなる話」というリクでした。他にも色々と
素敵シチュをリクエストいただいてるので、作品の中で書いていこうと思います。リクエスト下さった舞夜様、このような形になって申し訳ありませんが、少しでも
楽しんでいただけたら幸いです。続きはこちら→★