たまには友情がテーマでもいいんじゃないかと思いまして・・・



日が暮れた頃の何処かの公園。
小さな子どものいなくなったその場所に、十名ほどの高校生が集まっていた。
唯一の女生徒は、一人の男子生徒に後ろ手に腕を捩じられ動きを封じられている。
そこから少し離れた所に残りの男子生徒が輪になっており、その中心にも男子生徒が一人。
中心の男子生徒とその他の男子生徒の制服が異なることから、彼らは同じ学校の生徒ではないことが分かる。
中心にいる男子生徒は傷だらけで、立っているのもやっとのような状態に見えた。

「お兄ちゃん!もうやめて!死んじゃう!!」

ふわふわした銀髪を左右に束ねた女生徒が涙ながらに叫ぶ。

「大丈夫だ…。こんなヘタレ野郎なんかにゃ殺られねーよ…」
「ンだとコラァ!!」
「ぐっ!!」

男子生徒の輪が縮まり、中心に立つ銀髪の男子生徒に暴行を加える。

「おらおらどーした白夜叉さんよー…」
「反撃したけりゃしてもいーんだぜ。」
「そしたらテメーの妹はどうなるか分かんねーけどな。」
「ヒャハハハハ…」

どうやら妹を人質にとり、銀髪の彼を集団で痛めつけているようだ。

「お兄ちゃん!もういいから!逃げて!!」

妹の悲痛な叫びが響き渡る。

「逃げていいってさ〜。」
「どーするよ『お兄ちゃん』?逃げる?」
「そしたら妹は俺らで可愛がってやるからよー。」
「パー子ちゃん、だっけ?おっぱい大きいね〜。」
「パー子に手ェ出しやがったらテメーら全員ぶっ殺す!」
「あ!?その前にテメーをぶっ殺してやんよ!」
「かはっ…」

蹴りが鳩尾に入り、兄は鮮血の混じった体液を吐き出して倒れた。
もう見ていられない―パー子が思わず目を閉じた時、背後で短い呻き声が聞こえ、腕が自由になった。

「えっ…」

驚いたパー子が後ろを振り返ると、そこには兄と同じくらいの体格の男が立っており、その足元に
先程までパー子を拘束していた男が転がっていた。

「誰だテメー!?」
「…おいアンタ、これ持って大通りまで行け。」
「あ…」

威嚇に近い質問は無視し、男はパー子に鞄を託すと輪の方へ向かって行く。

「また捕まると邪魔だから、さっさと逃げろ。」
「あ、はい!」

男に言われ、パー子は鞄を抱えて公園の外へ走った。けれど兄は助かるのか、男が何者なのか
気になり、大通りまでは行かずに物陰からそっと様子を伺うことにした。

「何モンだテメー!?」
「坂田のダチか!?」

男は先程スルーした質問をもう一度浴びせられていた。
黙って殴りかかればいいものを、こういう時、悪者というのは意外と律儀なものである。
ちなみに「坂田」とは倒れている銀髪の彼のことである。

「俺ァただの真面目な塾帰りの高校生であって、コイツのダチなんかじゃねーよ。」

そして「誰だ」と尋ねられて「○○高校の△△です」などと正直に名乗らないのも定石である。
だから結局、何処の誰かも分からない相手に殴りかかることになるのだが、これまでのやりとりを
無駄だと思ってはいけない。無駄に見えて無駄が大切なのがこの世の中なのである。

「そのガリ勉野郎が何の用だ!!…うぐっ!」

向かってきた男は拳一発で地面に沈んだ。
倒れていた坂田が薄らと目を開け、男を見上げる。

「ひじ、かた…?」
「よう。起きたんなら手伝え。」

漸く男の名前が判明し、これで話が進めやすくなった。…賢明な読者の皆様は既にお分かりだと思うが
「ひじかた」とは、「肘肩」でも「肱型」でもなく「土方」と書く。そして言うまでもなく黒髪でV字前髪で
瞳孔開き気味である。…そして自称真面目な高校生なので咥え煙草はしていない。

とにかく、その土方はとても助けに来たとは思えぬ台詞を吐いたのだった。
言われた坂田はフラつきながらも何とか立ち上がる。

「俺、結構やられてるんだけど…」
「あ?助けてほしいのか?」
「…いらね。」
「やんのかテメー!」
「たった二人に何ができる!」
「やっちまえ!」

土方の助けを坂田は「いらない」と言ったにもかかわらず、この場にいた時点で二人VSその他大勢は
決定事項である。坂田一人を取り囲んでいた男達が土方と二人を取り囲んだ。



十分後。立っていたのは土方一人であった。土方は、息を切らしてしゃがみ込む坂田の腕を引いて立たせ、
そのまま坂田の右腕を担いで出口へ歩きだす。

「テメー、白夜叉とか呼ばれる伝説の不良じゃなかったのかよ…」
「あのなぁ…かなりのハンデがあったんだぜ?」
「ハンデなら取り除いてやったじゃねーか。」

土方が顎で出口を指すと、そこには涙目のパー子が立っていた。
パー子は傷だらけの兄に駆け寄る。

「お兄ちゃんっ!バカバカ…こんなになるまで我慢しなくてもよかったのに…。」
「怖い思いさせて悪かったな…」
「私なんかより、お兄ちゃんが…」

パー子の目から大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。
兄は左手でくしゃくしゃと妹の頭を撫でた。

「ひっく……あの、ありがとうございました。」
「おう。」

泣きじゃくりながらもパー子は土方に礼を言い、土方はそれに短く応える。
そして満身創痍の兄を妹に預けるわけにもいかず、土方が坂田を家まで送り届けることにした。

三人分の鞄をパー子が持ち、土方に支えられて兄も歩を進める。

「あの…土方さんって、お兄ちゃんのお友達なんですか?」
「友達じゃねーが…まあ一応、同じクラスだな。」

二人は同じ高校の同じクラス。けれどサボリの常習犯でケンカ三昧の坂田と、風紀委員で教師からも
一目置かれる優等生の土方とは全くといっていいほど接点がなかった。
このように言葉を交わしたのも今日が初めてである。

「土方さん、強いんですね。柔道とか空手とか…何かやってるんですか?」
「…剣道。」
「すっごーい!だからあんなに強いんですね!」
「別に…」
「おいパー子、騙されるなよ?」

土方を褒めまくる妹に兄が待ったをかける。

「さっきの見ただろ?打撃とか蹴りとか…剣道と関係ねーよ。ケンカ慣れしてるだけなんだよ。」
「それでも強いんだからすごいじゃない!しかもサラッサラの黒髪、羨ましいわ〜。」
「パー子…コイツにだけは絶対ェ惚れるなよ?」
「…坂田オメー、シスコンか?」
「ちっげぇよ!こんなくりんくりん、もらってくれるなら誰でもいいけどなぁ…俺の知り合いだけは
ダメなんだ。もしそんなことになったら、俺は兄貴達に殺される…」
「プッ…兄貴かよ…」

伝説の不良も案外可愛い所があるのだと土方は思わず吹き出した。

「笑うな!ウチの兄貴達はなァ…マジで怖ェんだよ!」
「…そうなのか?」

土方はパー子に振る。

「私には優しいお兄ちゃん達ですけど…男同士だと、ちょっと荒っぽくなることもあるかも。」
「ちょっとじゃねーよアレは…。俺が頭悪いのは、兄貴達に殴られたり蹴られたりしたせいだと思う。」
「…授業サボってばっかだからだろ。」
「違ェよ!兄貴達のせいでバカになって、授業聞く気にならなくなったの!ったく…身長は追い付いた
ってのに、未だに勝てねェしよー…。そんで、末っ子で紅一点のパー子にだけベタ甘なんだ…」
「…楽しそうだな。俺ァ兄弟いねェから羨ましいぜ。」
「いいなァ一人っ子…憧れるぜ!」


そんなことを話しているうちに、三人は坂田家に到着した。
家の前には金髪の男と、銀髪で眼鏡をかけた男が立っていた。二人を見て坂田は露骨に顔を顰める。

「何で二人揃ってんだよ…。金時は仕事の時間だろーが…」
「…あれが怖ェ兄貴達か?見た目そっくりだな。」
「見た目『だけ』な。…眼鏡かけてんのが一番上の銀八。で、金髪の方が二番目の金時。」
「ふーん…」
「「パー子!!」」

二人の兄達もこちらに気付き、一直線にパー子の元へ駆け寄る。

「遅かったじゃないか!」
「ごめんね銀八兄ィ。…金時兄ィは今日、仕事休み?」
「お前が帰って来ないのに仕事なんてしてる場合じゃないだろ。」
「何処に行ってたんだ?悪い輩に絡まれてやしないかと心配で心配で…」
「えっと実は…悪い人たちに絡まれてて…」
「「何ィ!?」」
「銀時はどうした!?こういう時に『白夜叉』の名を使わずしていつ使う!?」
「あ…だから、銀時兄ィと土方さんが助けてくれたのよ。」
「「土方さん〜?」」

兄達は鋭い視線を銀時と土方に向けた。銀八は土方から引き剥がすように銀時の腕を引く。

「おい銀時、あの男は誰だ?」
「土方さんは銀時兄ィのお友達よ。…ねっ?」
「あー…友達っつーか、同じクラスのヤツ?」
「ソイツが何故パー子と一緒にいるんだ!」
「それは偶々…」
「助けてくれたって言ったじゃない。私が捕まっちゃって、銀時兄ィは反撃できなくて…そこに
土方さんが来て皆やっつけてくれたの!土方さん、すっごく強かったのよ〜。それに、怪我した銀時兄ィを
ここまで送って来てくれたし。…そうだ!土方さん、お礼に夕飯ご馳走するわ。」
「えっ…」

パー子の申し出に、これまで蚊帳の外だった土方はどう反応してよいか分からなかった。
そして銀時は金時にも詰め寄られていた。

「おい銀時!まさかパー子は…」
「ちっ違う違う!ただの恩返し!」
「…本当だろうな?」
「パー子につまらん男を紹介しやがったらタダじゃおかねェぞ!」
「だからそんなんじゃねーって!土方は偶々通りがかっただけ。パー子は礼を言いたいだけ!それだけ!」
「よしっ。…土方くんと言ったね?」
「はあ…」

銀八は取って付けたような笑顔で土方に近付いていく。

「初めまして。俺は長男の坂田銀八。高校で教師をしてる。両親は仕事で海外にいてね…私が親代わり
なんだよ。妹と弟が世話になったようだね。」
「あ、いえ…」
「妹がああ言ってることだし、ウチに寄って行きなさい。」
「あの、俺、家に帰らないと…」

ここまでで充分異様な雰囲気を感じ取った土方は、なるべく関わり合いになりたくないと思った。
これ以上、土方とパー子を一緒にいさせたくない銀時も援護射撃する。

「そうそう、早く帰らないと土方の親御さんが心配するもんなっ!」
「それじゃあ、失礼しm「貴様…パー子の誘いを断る気か?」
「あ、いや、そういう意味では…」

営業スマイルを捨て、銀八がいきなり土方の胸倉に掴みかかる。それを金時が止めた。

「よせよ兄さん。きっとこいつはゲイなんだって。」
「は?」

とんでもないことを言われ、土方は銀八から解放される。

「なるほど…女に興味がないんじゃパー子の魅力が分からないのも無理はない。」
「だろ?じゃなきゃ、パー子とお近付きになれるチャンスを棒に振るヤツなんかいないって。」
「おいっ、俺は…むぐっ!」
「そ、そういうわけで、俺、土方送ってくっから!」

銀時に口を塞がれ、土方は引き摺られるように坂田家から遠ざかっていく。
そんな二人の様子をパー子は目を煌めかせて見詰めていた。


(11.05.07)


タイトルにあるように、この話のテーマは「友情」です。土方くんと銀時くんは最後までお付き合いしませんのでご了承ください。もちろん、銀時くん以外と

土方くんの恋愛もありません。冒頭のケンカのシーンくらいはシリアス目でいこうと頑張ったのですが途中(名乗る名乗らないの辺り)で挫折しました^^;

そして、台詞で出てくるまで登場人物の名前を明かさないようにしようと試みたのですが、地の文での呼び名がコロコロ変わって読みにくかったらすみません。

前中後編くらいで終わる予定です。続きは数日中にアップできると思いますので、暫くお待ち下さい。

追記:続き書きました。こちら