自分の想いに気付いた時はもう、引き返せないほどに強くなっていた。
男同士、大人と子ども、教師と生徒―障害だらけの恋―それでも諦めなかったのは、
どこかで期待していたから。

俺を見る目が何となく他の人とは違う気がして…勘違いかもしれないけれど、一度きちんと俺の想いを
伝えたいと、そう心に決めて、あの人と出会った高校を卒業した。


*  *  *  *  *


どうせ伝えるなら少しでも可能性を高めた方がいい。
性別や年齢は変えようがないから、あの人の「生徒」でなくなるのを待って想いを伝えることにした。
それが今日だ。
入学式の最中もずっと、どう言えばいいかを考えていた。
結局、ストレートに「好きだ」と言うのが一番いいと思った。
…というか、それ以外の言葉が思い付かなかった。

入学式を終え、俺は家に戻った。両親は働いているから家には俺一人。あの人に電話をするのに丁度いい。
俺は自分の部屋の中央に正座し、深呼吸をしてから携帯電話を開いた。
高校はまだ春休み中だ。けれど、あの人にとっては休みじゃないから学校にいるはず。

先月まで通っていた学校の電話番号を呼び出す。…通話ボタンを押す指が震えた。


『はい、銀魂高校です。』
「あ、あの…先月まで三年Z組にいた土方ですが…坂田先生、いらっしゃいますか?」
『はい。お待ち下さい。』

保留のメロディーが流れる。…フーッ、とりあえず第一関門は突破…か?よしっ、次が本番だ!

『あー…もしもし?』

出た!…いや、当然なんだけども。落ち着け、俺…。まずは挨拶からだ!

「お久しぶりです。」
『卒業式から三週間か…まあ、久しぶりと言えば久しぶりだな。』
「お元気ですか?」
『特に変わらず…。お前は?入学準備とかで忙しいのか?』
「入学式はついさっき終わりました。」
『えっ、もう?最近の大学は始まるの早ェな…』
「もっと遅い大学もあるみたいですけど…」
『ふーん…。』

どうしよう…挨拶から雑談になってしまった。ここでいきなり告白というのは不自然過ぎる…

『で、どうした?お前のことだから何か用があってかけてきたんだろ?』
「はい。」

良かった!聞いてくれて…。これなら言える!…よしっ、言うぞ!!

「……好きです。」

言えたァァァァ!!

『…は?』
「あなたのことが好きです。」

一度言ってしまうと、吹っきれて何度でも言えそうな気になった。このまま押していけば本当に…

『えっと……ああ、エイプリルフールか…』

けれど先生の反応は意外なものだった。
そうか!今日、四月一日はエイプリルフールだ!なんて日を選んでしまったんだ、俺は!!

「違いますよ。」
『はいはい分かりましたよー…』

何とか、何とかして本気だってことを伝えないと…

「本当に好きなんです!誤解を招くような日に伝えたのは失敗でした。でも、正式にあなたの生徒で
なくなったら伝えようと…四月になるのを待ってたんです。」
『………あー、悪ィ。今からちょっとやることあるから、後でな。』
「待って下さい!本当に俺…」

無情にも電話は一方的に切られてしまった。
俺は、フラれたんだろうか…?でもこれじゃあ不完全燃焼だ。明日、改めて電話してみよう。

そう思い携帯電話を閉じた瞬間、着信を知らせる音が鳴った。
…先生!?
緊急時の連絡用にとクラス全員に知らされていた先生の番号。登録はしていたけれど使ったことはなかった。
もちろん、かかってきたのも今が初めてだ。

俺はまた深呼吸をしてから通話ボタンを押した。

「も、もしもし?」
『土方か?さっきはいきなり切って悪かったな。』

やっぱり先生だ!…ということは、本当に用事があってさっきは電話を切ったのかな?

「あ、あの…もう用事は終わったんですか?」
『あれは職員室を出る口実だよ。職場の電話でする話じゃねェだろ?』
「そうですね…」

学校が先生にとっては「職場」であることを忘れていた。迷惑をかけてしまったな…

「すみません。」
『それで…本当に本当なんだな?』
「はい。本当に本当に好きです。」
『…お付き合いするって意味で?』
「はい。」
『………』

暫く沈黙があって、それから確かに「俺も…」と聞こえた!

こうして俺は、坂田銀八先生…いや、もう先生じゃないな…坂田さんと「そういう関係」になった。



after graduation〜side H〜



「よ、よう…」
「こんばんは。」

その日の夜、坂田さんの仕事が終わってから食事をする約束をした。
卒業式以来会ってなかったけど、全然変わってなくて、なんか安心した。
まあ、三週間しか経ってないんだから当たり前か…。

そういえば何も考えずに来ちまったが、こんな格好で良かったんだろうか?一応、初デートなのに…
俺はジーパンに黒のパーカーといういつも通りの格好だ。…入学式で着たスーツの方が良かったか?
向こうだってスーツだし…。

「じ、じゃあ行くか。」
「はい。」

特に気にしてないみたいだ。良かった…。
駅ビルに入ってすぐエレベーターに乗り、坂田さんが最上階のボタンを押す。
エレベーター内は二人だけ。どうしよう…こういう時、何を話せばいいんだ?
…気まずい。非常に気まずい…。もう何時間もエレベーターに乗ってる気がする。

「あ、あのよー…」

チンッ

「あ…つ、着いたな…」
「はい。」

結局、何も話せないまま目的地に着いた。…俺といるの、つまらないとか思ってないだろうか?
よしっ!次は俺から話しかけよう!でも何を話せば?…うーん……そうだ!まだ何処の店で食べるか
決めてないからそれを聞こう!

「あの…」

…応答がない。聞こえなかったのかな?よしっ、もう一度…

「あのっ…」

やっぱり応答がない。…何か、考え事をしているような…?
よ、よしっ…じゃあ次は、名前を呼んでみよう。…大丈夫。さっきから頭の中で何度か呼んでるから。

「さ、坂田さん!」
「へっ?…あ、ああ、悪ィ…何?」

ちょっと声が裏返ってしまったが何とか呼べたし、坂田さんも漸く気付いてくれた。

「あの…どこの店に、しますか?」
「あ、ああ、そうね……あそこにするか?」
「はい。」

坂田さんって呼んだこと、特に何も言われなかったな…。
そんなことを気にしていたら、坂田さんがどの店を指したのか見そびれてしまった。
まあ、坂田さんに着いて行けばいいか…。 俺は坂田さんと一緒の方向に歩いて行った。

「な、なあ…さっき、坂田さんとか、言わなかったか?」
「あっ…」

やっぱり来た!

「だ、ダメですか?」
「べ、別にダメじゃねェけど…何で?」
「だって…もう『先生』じゃないし…」
「それもそうか…」

良かった…。坂田さんで大丈夫みたいだ…。
と、思ってたのに…

「なんか、よそよそしくねェか?」
「そ、そうですか?じゃあ、何て呼べば…」
「えっと…………ぎっ銀八、とか?」
「えぇっ!そそそそんなこと…」

ぎぎぎぎ銀八!?そんな、そんな……そそそそりゃ、総悟とかは「銀八の旦那」とか呼んでたけど、
俺はそんな風に呼んだことなかったし、いきなりそんな…

「ほら…ちょっと呼んでみ?」
「えっ!」

ど、どうしよう…。で、でも…折角そういう関係になったんだし、呼んでみたい気もする…。

「ぎ、ぎん…」

恥ずかしくて相手の顔なんか見られない。

「…ぎ、ぎん、ぱちさん…」
「うぉっ!」

呼べた!!…でもなんか、ビックリしてないか?気のせいかな…?
そういえば、俺のことは何て呼ぶんだろう?…も、もしかして「十四郎」とか!?

「あ、あのー…」
「なっなに!?」
「お、俺のことも、その…名前で、呼ぶんですか?」
「へっ?あ、あー…そうね。そうしようかなー…ハハッ…」

やっぱりそうなんだ!たっ確かに、その方がそういう関係らしいけど…なんか、ドキドキするな…。

「とっ…」
「っ!」

ヤバイ…ドキドキなんてレベルじゃねェ!逆に心臓止まりそう!!

「と…とーし…」
「やっぱ、待って下さい!」
「へっ?」
「あああの…今まで通りで、いいです。」
「あっそう?…なに?名前で呼ばれんのが恥ずかしいのか?若いなァ…」
「っ…そっちこそ、俺が呼んだ時、赤くなってたじゃないですかっ。」

その通りなんだけど…はいそうですと言えるほど素直じゃない。だからつい、適当なことを言ってしまった。
本当は、俺が呼んだ時にどんな顔をしていたかなんて見る余裕はなかった。だけど…

「はぁ?そそそんなことあるわけねーだろ。」

急に焦り出したところを見ると、意外と当たっているのかもしれないと思えてきた。
もう一度、呼んでみようか?二回目だし、今度は相手の表情を見て呼べるかもしれない。

ぎんぱちさん。」
「っ!」

呼んだ瞬間、顔が真っ赤になった。…マジでか!?
なんか、俺まで顔が熱くなってくる…

「おっお前の方こそ、呼んどいて赤くなるのは反則だぞ!お前が赤くなるから、俺もつられて
赤くなっちまっただろ…」
「は、反則ってなんですか!赤くなってるのを人のせいにしないで下さい。」
「いーや、お前のせいだね。俺は別に呼び方なんてどーでもいいんだけど、お前がもじもじするから
何となく恥ずかしい気分になっただけだ。」
「…じゃあ俺のこと、名前で呼んでみて下さいよ。」
「えっ?」

呼ばれて赤くなったくせにそれを認めようとしないから、挑戦的な態度に出てしまった。

「ったく…さっき俺が呼ぼうとしたのを止めたの忘れたのか?あれ、照れ臭くなったんだろ?」
「ち、違います!そっちが恥ずかしそうだったから止めてあげたんです!」
「ほ〜…俺は全っ然、恥ずかしくないけど?ただ呼ぶだけだし…」
「じゃあ、呼んでみて下さい!」
「いいよ。」

本当は名前で呼ばれるなんて死ぬほど恥ずかしいけど、今更引くわけにはいかない!
先生は咳払いなんかして、勿体付けている…

「…とっ、とーーーーーーー…」

呼ぶなら早く呼んでくれェェェ!!

「…どうしたんですか?」
「いやちょっと…なんか、違うかなァって…」
「…何が違うんですか?」
「だからさァ…こんなムキになって言うことじゃないような…」

もしかして…先生も呼ぶのが恥ずかしいんだろうか?
尤もらしいことを言ってはいるが、相変わらず顔は真っ赤で説得力がない。

「そんなこと言って…本当は恥ずかしくて言えないだけでしょう?」
「なっ!ち、違うって言ってるだろ!」
「どうだか…」
「そういう態度とるんならもう、お前なんか『お前』で充分だ!」
「そっちがそう来るなら、俺だって『お前』にしますよ?」
「おいおい…人生の先輩に対してお前はねェだろ。」
「じゃあ人生の先輩らしく、後輩のことはちゃんと名前で呼んで下さい。」
「生意気な後輩は『お前』でいいんだよ。」
「素直じゃない先輩も『お前』でいいと思います。」
「コノヤ…あ、あれっ?」
「えっ?」

先生が急に言葉を止めたので俺もそこで我に返った。…ここは、食品売り場?なんでだ?

「…エスカレーター、下りた?」
「…みたいですね。」

先生の選んだ店に行くつもりが、話に夢中でいつの間にかエスカレーターを下りていたらしい。

「あ、あの…上に、戻りますか?」
「あー…面倒だから、ここで何か買ってウチで食うか?」
「ウチって…先生のですか!?」

い、いきなり家に行くなんて…そんな、心の準備が…

「…土方ン家ってわけにはいかねェだろ?」
「そうですけど…あっ、今『土方』って…」
「そっちこそ、『先生』つったじゃねーか…」
「あっ…」
「ま、何でもいいか…」
「そうですね。」

それから俺達は買い物をして、先生の家に向かった。

一緒にメシ食って、テレビ見て、帰りは駅まで送ってくれて…全てが特別なことのように感じた。
何だかこう…胸の辺りがポカポカする。これが…あ、愛し合う、ってことなのかな?。
だからきっと、名前呼ぶのも呼ばれるのも、買い物するのもメシ食うのも、こんなにドキドキするんだ。

俺達は、こ、ここ…恋人同士なんだっ。


(11.04.04)


リクエスト下さったTico様は土銀派なので、土銀っぽく…とか思ったのですが、あんまり土銀っぽくなりませんでした^^; 3Zはどちらかといえば土銀の方が好きです。

生徒×先生という下剋上萌えです。まあ、今回の話は卒業後なので攻受はどっちでもいいですけどね。というか、この二人に攻受が付くのはまだまだ先だと思います。

今のところ土方くんがちょっと余裕あるっぽいですが、それだって「銀八先生に比べて」です。一般的に見たら二人ともお子ちゃまなお付き合いですから(笑)

機会があればこの話の続きを書くかもしれません。…同じようなことを言ってる話が他にもあるので、いつになるか分かりませんが^^;

それでは、ここまでお読みくださりありがとうございました。

 

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