「仕方ねーから付き合ってやるよ。」
「おいおい土方くん…何でそんなに上から目線?」
「テメーが付き合ってくれっつったから返事してやったんだろ…喜べ、万事屋。」
「ナニ言ってんの?告白する勇気もない土方くんのために、俺が言ってやったんだよ?」
「あ?それは悪かったな…。じゃあ、テメーがくたばるまで一緒にいてやるからありがたく思え。」
「だから何で上から目線?ていうか、先にくたばりそうなのはソッチでしょ?武装警察の副長さん。」
「テメーの方こそ色んな事に首突っ込みやがって…。先に逝ったら盛大な葬式してやるよ。」
「じゃあオメーが先に逝ったら、立派な墓立てて毎日墓参りしてやるから。…ありがたく思え。」
「そんなら俺は、生まれ変わってもテメーと一緒にいてやるからありがたく思え!」
「あ?俺なんか更にもう一回生まれ変わっても一緒にいてあげるからね!」
「あ?だったら俺ァ、更に更に生まれ変わっても…」
「俺は更に更に更に…」
…確かに、そんなこと言ったよ?でもさァ…そんなこと、恋人同士なら一度くらい言うだろ?
ていうか、俺と土方はそういう甘ったるい雰囲気じゃなかったし、そもそも生まれ変わりなんて
本気で信じてたわけじゃないし…なのに、なのにさァ…
「…何でこんなことになるワケ?」
「知るかっ…。テメーが俺に惚れたのが原因だろ、銀時……いや、金時か?」
「あー、うん。金時が源氏名で、本名は銀時。」
「そうか…」
俺は今、金時という名でホストをやってる。本当は銀髪の銀さんだけど、金髪に染めてるから金さんな。
で、俺に悪態付いてるこいつはトシ…って通り名しか知らなかったんだけど、土方十四郎だろうな…。
俺達は歌舞伎町のとある店で出会い、徐々に惹かれていって、でもまだその気持ちが何なのか判らなくて
一応「友人」としてトシ…土方の家に行くことになって、呼び鈴押して土方が出迎えてくれた瞬間
ああ、俺、コイツのこと好きなんだって自覚して…そしたら、前世の記憶が蘇ってきた。
「ていうか、原因は土方の方だろ。お前が先に俺のこと好きになったんじゃん。」
「それでもテメーが俺に惚れなきゃ『こう』はならなかっただろ…」
「そうなんだけどさァ…」
俺達は最初から前世の記憶を持っていて互いを探してたとか、そんなんじゃない。
だが両想いになった途端、前世の記憶が降って湧いたように脳内に流れ込んでくるんだ。
どういう仕組みかは知らねェが、告白なんかしなくても、想い合った瞬間に記憶が戻る。
だから、俺が自覚した瞬間に記憶が蘇ったということは、土方が既に俺のことを好きだったということだ。
何でそんなに詳しいのかって?…今まで何回も生まれ変わって、同じことしてるからだよ!
そう。俺達は既に何度も生まれ変わり、そして恥ずかしながら何度も恋に堕ちているんだ…。
万事屋と真選組副長として(記憶にある中でだが)最初の人生を歩んだ俺達は、その後、幼馴染とか、
生徒と教師とか(逆もあった)、弁護士と検事とか、白猫と黒猫とか…とにかく色んな関係で出会い、
暫くは当時の記憶だけで平和に暮らしていて、そのうち記憶が蘇って…その繰り返しだ。
そして今回は…
「まーた、随分と可愛らしいカッコの土方くんと出会っちゃったなァ…」
「るせっ…」
目の前にいる「土方」は、白のワイシャツ…いや、「ブラウス」に紺色のVネックセーター、
赤を基調としたチェックのロングスカートを着ている。
そして、長い黒髪はポニーテールにしていて、その根元には白のレースのリボンが結んである。
俺達のいるリビングは白と淡いピンクで統一されていて、でも男が居心地悪くなるようなメルヘンな
感じじゃなくて、清楚な女の子の部屋って感じだ。
ただコイツ、歴とした「男」なんだよね…。
元がいいのか、ファンデーションと口紅だけで、黙っていれば背の高い女にしか見えないけど、
声は記憶にある副長さんそのままだし、前世の記憶がない時も普通に地声で喋ってた。
「そのカッコ、真選組の副長さん的にはどうなのよ?」
「うるせェって言ってんだろ…。過去の記憶なんざ、今の今までなかったんだからよ…」
「でもこうして過去のことを思い出すとさァ…今回はかなり濃くない?ホストとオカマって…」
「俺は女の格好するのが好きなだけでオカマじゃねーよ。」
「いやだってお前、オカマバーで働いてるじゃん。」
「オカマバーじゃねェ!女装クラブだ。…ていうか俺は、あの店の常連客なだけで働いてねーよ。」
「あっ、そうなの?オススメ料理とか色々教えてくれたからてっきり…」
ホスト仲間に連れられて行ったオカマバー…じゃなくて女装クラブ?で、俺はコイツと出会った。
生まれ変わっても・・・
数ヶ月前。ホスト仲間と二人で店を訪れた俺は、連れと一緒にカウンター席に座った。
そしたら一人の大きい女―だと、その時は思った―が隣に座り、声を掛けてきた。
「この店来んのは初めてか?」
「あっ…はい。」
喋った瞬間男だと判る低い声。逆隣にいる連れがソイツに話し掛けた。
「よう、トシ…」
「晋助…お前の連れか?」
「まあな…。コイツは金時。ウチの店のナンバーワンホストなんだぜ?金時、コイツはトシっつって…
まあ、この店の有名人だな…」
「有名人?」
「そう。…お前も一瞬、本物の女だと思っただろ?ここまでの上玉はなかなかいねェよ…」
「確かに…」
「どうも…」
それから俺は、閉店の時間まで高杉とトシと三人で話しながら飲み食いした。
その時のトシの印象は、格好はともかく気が合うヤツって感じだった。
* * * * *
「あの店じゃなかったら、どこでオカマしてんの?」
「だから俺はオカマじゃなくて、女装が好きなだけだ。」
「…一緒でしょ?」
「違ェ。…俺は別に、女になりたいわけじゃねェ。だがオカマっつーのは…たまに違うヤツもいるが…
心が女のヤツを言う。アイツらは女として生きることを望んでいる…ヤツが多い。」
「お前は男として生きたいの?その格好で?」
「何も四六時中この格好ってわけじゃねーよ。…仕事の時は大概スーツだし、これもヅラだし…」
「そうなの!?」
「テメーまさか、俺を『彼女』にしようとしてんじゃねェだろーな…」
トシは俺を睨み付けた。可愛いカッコしてても怖ェよ…鬼の副長健在か?
「どうなんだ、おい…」
「ち、違うって!男とか女とかどーでもいいっつーか、むしろ男でホッとしたっつーか…」
「ケッ…どーだか…」
「本当だって!だって俺、ゲイだし!」
「…はっ?」
「ホストは仕事としてやってるだけで、マジで俺、女の子に興味ねェの。
だから、格好だけとはいえ、女の子に見えるお前に惚れたのがなかなか信じられなくて…」
「…じゃあなんで、俺に惚れたんだよ…」
「性格が合うのに男とか女とか関係ねェじゃん。それに、スッピンは絶対ェ俺好みだと思った。
…まあ、過去の記憶が戻ったから、スッピン見る前にどんな顔だか分かったけどね。」
「…で?お前好みの顔だったかよ…」
「おー、勿論よ。」
「今までとは、ちょっと違うけどな…」
「えっ?」
そう言うとトシは何処からかメイク落としシートを持ってきて、俺の前でメイクを落とし始めた。
「あ、あの、別に今スッピンにならなくても…」
「どうせこの後仕事だから、構わねェよ…」
「あ、そう?…仕事って、何してんの?」
「ホスト。」
「えっ?……えっ?えっ?…えェェェェェ!?」
メイクを落とし終えたトシは、グレーのカラーコンタクトを外し、黒髪ロングのヅラも外した。
現れたのは金髪碧眼の男の顔。俺は、その男に見覚えがあった。
「おまっ…トシーニョぉぉぉぉ!?」
「やっと気付いたか…」
そいつはライバル店のナンバーワンホストだった。
…ライバルだなんて思ってるのはウチの店だけで、向こうの店はそんなこと思ってないだろうけど。
数年前にできたその店は、外国人ホストの店として売り上げを伸ばし、瞬く間に当時業界一位だった
俺の店を抜いた。俺はその時も今もナンバーワンをキープしているが、業界一位の店のナンバーワンと
二位のナンバーワンじゃ、モチベーションが全然違う。
一位の店のナンバーワンってことは、全ホストのナンバーワンってことだ。
「マジかよ…。マジで今回濃すぎるだろ…。女装好きなナンバーワンホストって…。あれっ?あの店の
ホストって全員外国人じゃなかったっけ?お前、日本語上手いとかいうレベルじゃねェよな?経歴詐称?」
「嘘は吐いてねェよ…。生まれも育ちも日本だが、父親はフランス人で母親はアメリカ人だからな。
二人とも出会う前から日本で働いていたから、結婚しても俺が生まれても当然日本での生活を続けて、
ガキの頃、周りと髪や瞳の色が違うことにコンプレックスを感じていた俺は、女の格好をする時くらい
黒髪になってみたくて…という設定だ。」
「設定って、おい…。まあ、お前の生い立ちはよく分かったけどさァ…あー…でもどうしよう…」
「何が?」
「今回ばかりは両想いになっても、お付き合い開始ってわけにはいかないなと思って。」
「は?何でだよ。」
「だって俺ら、ライバル同士じゃん。」
「ライバル?」
トシ…いや、トシーニョ?…面倒だから土方でいいや。
土方はやはり俺のことをライバルだなんて思っていないらしい。
「お前の店ができて、ウチの店は業界一位から転落したの。だからお前の店は俺の店のライバル。」
「…店は店だろ。」
「俺だってお前をライバルだと思ってんの。お前に鞍替えした客も多いし…」
「そう、なのか?」
「お前の趣味のことバラしたら、客減るかなァ…」
本気でそんなことしようなんて思ってないけど、ちょっと困らせてみたくて言ってみた。
でも土方は平然と言い放つ。
「ほとんど皆、知ってるぞ。」
「はぁ!?女装趣味を!?何で!?」
「コスプレDayとかで…お前の店でもあるだろ?」
「あるけど…お前、そん時女装してんの?」
「ああ。髪は金髪だけどな。…外国人ホストっつーのがウリだから。」
「へ、へぇ〜…」
金髪のままなら、余計に女に見えるだろうな…。外国人の方がデカくても違和感ない気がする。
「でもよー…コスプレしろって言われて女装するか、フツー。
新人とかがウケ狙いでするなら分かるんだけど、お前、店のナンバーワンだろ?」
「最初はウケ狙いを装うつもりだったんだ。だが、化粧の仕方とかスカート履いた時の歩き方とかで
普段からやってると客に見抜かれて…さすが、本物の女は目敏いよな。」
「…それでも、大丈夫だったの?」
「むしろ指名客が増えたぜ。女ってこういうの好きだろ?タカラヅカとか…」
「タカラヅカは逆だろ…」
でもまあ、人気が出るのも分かるな…。俺だってゲイだとカミングアウトした途端、指名が増えたし。
女友達とも彼氏とも違う存在っつーのかな?そんなんが受けるんだろ…
「じゃあトシーニョさんは、向かうところ敵なしじゃないっすか…」
「敬語使われてムカついたのは初めてだな…」
「だってよー…マジで勝ち目ねェじゃん。」
「お前だってナンバーワンなんだろ?他の店と比べなくてもいいじゃねーか。」
「あー、はいはい。一位のヤツに限ってそういうこと言うんだよねー…」
「…お前の店の売り上げが上がればいいんだな?」
「なに?客でも紹介してくれんの?ていうか、そんなことしていいの?」
「ウチの売り上げが落ちなきゃ大丈夫だろ…。オーナーだって、他を蹴落としたいわけじゃねェし。
お前んトコもウチも盛り上がればいいじゃねーか。」
「…どうやって?」
「それは今から考える。…だから、作戦が成功したら付き合え。」
「へーへー…真選組の頭脳さんに期待してますよー。」
「期待してねェだろ。ていうか、昔のことを引き合いに出すのやめろ!今は今だ!」
「はーい。」
やっぱり、過去の土方的には今の自分が恥ずかしいらしい…。
「クスッ…」
「笑うな、クソ天パ!」
「あっ、その呼び方懐かしいね…多串くん。」
「だから誰だよ多串って…」
「ハハハ…」
この後は、互いに職場である其々のホストクラブへ出勤した。
* * * * *
あの日から、俺はどうやったらウチの店の売り上げが伸びるかを考えていた。
土方も色々考えてくれているみたいだが、俺のことなんだから俺が考えなきゃダメだろ。
それに…好きなヤツとは付き合いたいじゃん。それなら売り上げだ何だと言うなって思われそうだけど
そこは譲れないんだよ。対等な関係がいいんだよ!でも、どうすれば…
「ハァー…」
「やっぱり金さんも弱気になっちゃいますか?」
「へ?」
店の控室で考え事をしていたらオーナーの新八から声を掛けられた。
…ウチのオーナーは新八つっても、万事屋にいた新八よりずっとゴツイ顔してるからね。
「今日は売り上げ落ちても仕方ないんで、大丈夫ですから。」
「おいおい…開店前にオーナーがそんなこと言っていいのかよ。」
「ハハハッ…だって今日は、例の外国人ホストクラブがコスプレデーなんですよ。」
「なるほどね…。イベントがあると、そっちに客が集中するもんな…」
「知ってて溜息吐いてたんじゃないんですか?」
「いや…プライベートでちょっとね。」
「金時…オーナーも、来てみろよ。面白いモンが見れるぜ。」
「んー?」
「何ですか?」
高杉に呼ばれて俺はオーナーと共に店の外へ出た。
「うわぁ…凄い人集りですね…」
高杉の指差す方向には、大勢の女の子が集まっていた。…そこは件の外国人ホストクラブ。
「女共が騒いでやがる。…ナンバーワンの『お姫様』が来たらしいぜ。」
「お姫様って……あっ、本当にお姫様ですね。」
「ホントだ…」
車から出てきたのは薄いブルーのドレスを身に纏った金髪美女。
「噂には聞いてましたけど…あれ、本当にトシーニョさんなんですか?」
「もっと近くで見てみるか?」
「ちょっ…」
高杉はオーナーの許可も取らず勝手に店を離れていく。
どうせ今日はあまり客が来ないだろうし…俺とオーナーも敵情視察の名目で高杉に付いて行った。
「完成度高ェな、おい…」
「そうですね…」
緩くウェーブがかった金髪の上に小さなティアラを乗せ、ドレスの裾を少し持ち上げて歩く。
つけまつげまでしてアイメイクもバッチリだ。近くで見ても本当にお姫様にしか見えない。
…ほら、ネズミの国とかにいるプリンセスみたいな感じ。
「金時!」
「えっ…」
目が合ったと思った瞬間、「お姫様」が俺の名を呼ぶ。女の子達の視線が一気に俺に集まる。
それだけでもかなり居心地が悪いのに、お姫様はどんどん俺に近付いてきた。
「お姫様」を取り囲んでいた人の輪が、俺とお姫様を取り囲む輪に変わる。
「売り上げ伸ばす方法、思い付いたぜ。」
「へっ?…えぇっ!?」
俺にしか聞こえないような小声でそう言うと、なんとお姫様は俺に抱き付いてきたんだ!
周りから、悲鳴のような歓声のような声が上がる。
俺は、この状況をどう打開すればいいのかパニック状態の頭で必死に考える。
でも俺が動く前にお姫様から離れていった。けれど、それだけじゃ終わらなかった。
「今日は一緒に帰ろうな、ハニー♪」
「………は?」
お姫様はとんでもないセリフを残して、笑顔で手を振りながら店の中に入っていった。
はにい?はにー?ハニーぃぃぃぃ!?ちょっ、俺、姫コスしてるヤツからハニーって言われたのか!?
ふざけんなオイ!俺達まだ付き合ってもいねーし、どっちが受けかも決まってねーのによくも…
言ってやりたいことは山ほどあったが、女の子達から質問責めに遭い、オーナーと高杉がちゃっかり
「話なら店でどうぞ」とか言って…結局その日はいつも以上に仕事が忙しかった。
その日からウチの店は「プリンセスのハニーがいる店」として有名になり、最盛期を超える売り上げを
上げるようになった。土方の店は更にその上を行く繁盛ぶりだが、それでもオーナーは満足しているようだ
。
「向こうの方がホストの数も客席も多いですからね。」
「そうかよ…」
「あっ、ハニーさん、ご指名ですよ。」
「俺は金時だ!」
「ああ、すいません。そう呼んでいいのはトシーニョさんだけですよね。フフッ…」
「違ェェェェ!!」
遠い昔から恋人同士だった俺達は、こうして再び恋人同士になった。
(11.01.29)
一度はやりたかった生まれ変わりネタです。…あまり設定を活かせていないのはいつものこと^^; この二人はどんな境遇にあっても恋に堕ちる運命だと信じています!
でも一話に設定を盛り込み過ぎてセリフが説明口調になってしまった…。キャラブックか何かで最初にトシーニョを見た時は「何これ?」となりましたが(笑)アニメで見たら
いい感じだったので、トシーニョは「アリ」だと思います。でも本名はトシーニョじゃない方がいいな(笑)。女装ホスト(?)結構気に入ったので、そのうち続きを書くかもしれません。
その時は、金さんといちゃいちゃさせたいなァ…。CPはどうしよう…。女装攻めもいいけど、金さんが抱きやすいようにエッチの時だけ女装しないというのも捨て難い…。
どっちもできるリバ?うーん…暫く考えたいと思います。 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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