※「おひるね」の続きです。






はじめてのおさそい


ここは銀魂保育園。三歳児クラスの皆は室内で自由遊び中です。
ままごと、お絵かき、ヒーローごっこ……思い思いに遊ぶ子ども達の中で一人だけ、お部屋の隅に
じっと立っている男の子がいました。
その子の名前は坂田銀時くん。銀髪天然パーマという珍しい特徴を持つ銀時くんは先日、一つ上の
クラスの子に「へん」と言われてとても嫌な気持ちになったのです。

けれど今は元気です。それなのにどうして遊ばないのでしょう。
銀時くんはブロックで遊ぶ子のことをじっと見ていました。

「ブロックで遊びたいの?」

気付いた新八先生が銀時くんに声をかけます。銀時くんは首を振りました。

「じゃあ何して遊ぶ?」
「いい」

遊びたくないということなのでしょうか。そんなはずはありません。
新八先生は、ブロックで遊びたいけれど恥ずかしがって仲間に入れないのだと考えました。

「銀時くん、先生はブロックしたいから一緒に来てくれる?」
「いいよ」

ホッとしたような、嬉しそうな顔をした銀時くん。新八先生は銀時くんと手をつなぎ、
ブロックで遊んでいる子のもとへ行きます。

「十四郎くん、一緒に遊ぼう」
「いいよ」

新八先生が十四郎くんの向かいに座ると、銀時くんは先生の後ろに隠れました。
それを見て新八先生は「十四郎くんと話すのが恥ずかしいんだな」と思いました。

銀時くんにとって十四郎くんはヒーローなのです。他の子が「へん」と言った銀時くんの髪の毛を
十四郎くんは「カッコイイ」と言ってくれました。だからきっと、そんな十四郎くんと仲良くなり
たいのだと新八先生は思ったのです。

新八先生と銀時くんが来ても、十四郎くんは黙々とブロックを組み立てています。
黄色いブロックを積み上げ、その上に赤いブロックを乗せました。

「十四郎くん、何作ってるの?」
「マヨネーズ」
「上手だね。銀時くんもそう思わない?」
「うん」

これまであまり接点のなかった二人を近付けようと新八先生が仲立ちします。

「銀時くんは何が好きなの?」
「いちご」
「そうなんだー。十四郎くんもいちご好き?」
「うん」
「ほんと?」

自分と同じものが好きだと聞いて、銀時くんは嬉しくなりました。そして遂に話しかけることが
できたのです。
実を言うと、十四郎くんはマヨネーズをかけると何でも美味しく食べられるのですけれど。

「いちごつくっていーい?」
「いいよ」

十四郎くんは自分の手元にある赤いブロックを銀時くんに渡します。もう大丈夫だと思った
新八先生は、そっとその場を離れました。
赤いブロックを組みながら銀時くんは、ずっと言いたかったことを言ってみることにしました。

「あのさ、にちようびにウチであそぼう」
「だめ」
「えっ……」

勇気を振り絞った銀時くん。でも残念ながら断られてしまいました。けれど銀時くんは
諦めません。とても悲しい気持ちになりましたが、頑張って十四郎くんに聞きます。

「なんでだめなの?」
「ほーくえんだから」

十四郎くんは日曜日に保育園へ行くつもりのようです。

「にちようびは、おやすみだよ」
「ジャンプほーくえんにいくの」
「ジャンプほーくえん、とおい?」
「とおいよ」

銀時くんは知りませんでしたが、ジャンプ保育園はここから少し離れたところにある、
休日保育も行っている場所です。

「ジャンプほーくえんおわったらウチであそべる?」
「おかあさんにきいてみるね」
「うん!」


その日、銀時くんは最後まで十四郎くんと一緒に楽しく遊びました。


*  *  *  *  *


お迎えの時間。銀時くんのお父さんが保育園に到着しました。
銀時くんのお父さんはメガネをかけていますが髪は銀時くんと同じ銀髪天然パーマで、保育園の
先生達はこっそり「大きい銀時くん」と呼んでいます。

「銀時ー」

銀時くんは何人かの子ども達と紙芝居を見ていましたが、お父さんの声を聞き、入口へ駆けて
いきました。けれどその表情はあまり嬉しそうではありません。

「はやいー」

お迎えが早過ぎると銀時くんは不満そう。お父さんは銀時くんを抱き上げて帰ろうとしますが、
銀時くんは手足をばたつかせて嫌がります。

「やだー!かえんないー!」
「銀時くん、また明日遊ぼうね」
「やだぁぁぁぁぁ!」

先生が一緒になだめても銀時くんの機嫌は直らず、遂にお父さんの腕を抜けて紙芝居に戻って
しまいました。

「紙芝居が終わったら帰るか?」
「やだ。とーしろーくんとかえるの!」

銀時くんは十四郎くんに抱き着きました。
今日はずっと一緒だったんですよ――先生の話を聞いてお父さんは「なるほどな」と思いました。
ここ数日、銀時くんは家で十四郎くんの話ばかりしていたのです。
自分のピンチを救ってくれた十四郎くんとやっと仲良くなれて、離れたくないのでしょう。
お父さんは銀時くんの隣に座ります。

「日曜日、遊びに来てって言えたか?」
「いえた!」

銀時くんは得意げに話しました。どうやら、十四郎くんを家に招くことはお父さんと決めていた
ようです。

「とーしろーくんのおかあさんが、いいよっていったら、くるって」
「そうか。じゃあ、十四郎くんのお母さんがお迎え来るの待ってるか?」
「うん!」

銀時くんのお父さんは「そういうことらしいのですみません」と先生に言って、十四郎くんの
お母さんを待たせてもらうことにしました。



銀時くんのお父さんが保育園に来てから紙芝居二つ。十四郎くんのお母さんがお迎えに来ました。
十四郎くんのお母さんも一目でそうと分かる程そっくりです。けれどかなり恰幅がよく、先生達は
十四郎くんも将来そうなるのではと、ちょっとだけ心配しています。

笑顔でお母さんの元へ駆けていく十四郎くん。銀時くんはお父さんの手を引いて十四郎くんの
後を追おうとします。

「日曜日のこと、十四郎くんのお母さんに聞いておいで」
「おとうさんきいて」
「ハハッ、恥ずかしいのか?」

仕方ないなと笑いながらお父さんは銀時くんと一緒に行ってくれました。

「十四郎くんのお母さん、こんばんは」
「あら銀時くんのお父さん、こんばんは」
「十四郎くんには銀時がいつもお世話になって……」
「そんな……こちらこそ仲良くしていただいて」

お家に来てと早く言ってくれないかなと思いながら銀時くんは大人達の話を聞いていました。
その間、十四郎くんは帰りの支度をしています。

「今も、日曜日に銀時くんのお家に行きたいなんて言うからダメだって言ったところなんですよ」
「うちは構いませんよ。実を言うと、銀時が誘ったんです。な、銀時」
「はい」
「そうでしたの。でも今度の日曜は私、仕事でして……ごめんね銀時くん。十四郎は日曜日も
保育園なのよ」

十四郎くんのお母さんは身を屈めて銀時くんに謝りました。

「ジャンプほーくえん?」
「そうよ。十四郎から聞いたの?」
「うん。ジャンプほーくえん、おわったらあそべる?」
「保育園終わったら夜になっちゃうから……ごめんね」
「やだ!きて!」

お母さんの許可がもらえず、銀時くんは涙目です。

「銀時、言うこと聞かないと十四郎くんに嫌われるぞ」
「やだー!」

十四郎くんに嫌われるのはイヤだけど日曜日に遊べないのもイヤ。銀時くんはしくしくと泣き
始めました。
ここで心優しい十四郎くんの登場です。泣いている銀時くんを見てすぐに駆け付けてきました。

「よしよし」

銀時くんの頭を撫でる十四郎くんを見て、お父さんは銀時くんが十四郎くんと一緒にいたがる
理由がよく分かりました。

「でしたら、その次の日曜日はいかがでしょう?」
「その日は休みですけれど……お邪魔してもいいのかしら?」
「ご覧のとおり、銀時がお世話になってるお礼です」
「まあそんな……本当にいいんですか?」
「もちろんです」
「では……」
「はい」

ありがとうございます、いえいえこちらこそとお礼を言い合う大人達を、子ども達はきょとんと
見上げています。

「十四郎、二つ目の日曜日に銀時くんのお家に行くわよ」
「ふたつ?」
「そう。一回目はジャンプ保育園、その次は銀時くんのお家ね」
「わかった」

十四郎くんにお母さんが説明するのと同時に、銀時くんへお父さんが説明します。

「十四郎くん、次の次の日曜日に来てくれるって」
「くるの!?」
「そうだぞ。良かったな」
「うん!」

良かった良かった――銀時くんも十四郎くんも笑顔で帰って行きました。

(13.06.22)


幼児パロの続編です。といっても時間軸としてはこちらが前になりますが。
後編は二人のお家デート(?)になります。アップまで少々お待ち下さいませ。

追記:後編はこちら