※単独でも読めますがお題部屋の「たとえ遊びでも側にいたかった」と同じ設定です。
おひるね
ここは銀魂保育園年中組。今からお昼寝の時間。皆、パジャマに着替えているところです。
銀時くんもいつものように、大好きな十四郎くんの隣で着替えています。
「あたらしいパジャマかってもらったんだ。とうしろう、さいしょにみていいよ」
そう言って銀時くんは自慢のパジャマを自分のロッカーから取り出しました。
きちんと畳まれているそれは水色の生地に小さなショートケーキが沢山描かれていました。
甘いものが大好きで、特に苺とケーキには目がない銀時くんらしいパジャマだと十四郎くんは
思います。
けれど、気になることも一つありました。それは、パジャマにフリルがついていることです。
「あー、ぎんときのパジャマ、おんながきるやつだ!へんなのー」
「あっ……」
銀時くんは別のお友達に指摘されて漸く、自分のパジャマが女の子用だと気付きました。
「へん」――お友達はそんなに悪気なく使った言葉でした。けれど、銀時くんにとって一番
言われたくない言葉だったのです。
* * * * *
一年前。園庭で遊んでいた銀時くんは、ふいに一つ上のクラスの男の子に話し掛けられました。
「ねえ、なんでしらがなの?」
「え……」
銀時くんの銀色の髪の毛を不思議に思ったようですが、一緒に遊んだこともない子に突然聞かれ、
銀時くんは困ってしまいます。するとその男の子は、
「こどもなのに、しらがなんてへんだよ」
と言いました。銀時くんがイジメられてるわけではありません。男の子は銀時くんの髪が他の人と
違うと言いたいだけなのです。けれどまだ、多くは言葉を知らない子ども。ストレートな表現しか
できませんでした。
何の話をしているのだろうと男の子のお友達が集まってきます。答えない銀時くんに代わり、
男の子はお友達に聞きました。
「こどもなのにしらがって、へんだよな?」
「うん」
「…………」
同意した子も銀時くんを傷付けるつもりはありませんでした。けれど銀時くんは「へん」と
言われたことに酷くショックを受けています。いつも「静かにしなさい」と怒られるくらい
お話しの好きな銀時くんが黙ったままです。
周りの子達は「へん」「なんで」を繰り返しています。
「どうしたの?」
そこへ、志村新八先生がやってきました。新八先生は銀時くんの担任の先生です。
最初に銀時くんへ話し掛けた男の子が聞きます。
「せんせい、このコなんでしらがなの?」
「銀時くんは、お父さんもこんな髪の色なんだよ」
「おとなはしらがでもいいけど、こどもがしらがなのはへんだよ」
へんだへんだと他の子達も騒ぎ立てました。
「そんな風に言わないの」
「だってへんだもん」
「わぁぁぁぁん!」
「銀時くん!」
遂に耐え切れなくなった銀時くんは、泣きながら自分のクラスへ駆けていきました。
新八先生も急いで後を追い掛けます。
「ころんだの?」
「うぅ……」
お部屋に入ると十四郎くんが近寄ってきました。正義感が強い彼は、泣いているお友達がいると
すぐに駆け付けて来てくれるのです。
「いたい?」
「ううん」
十四郎くんに頭を撫でられながら聞かれて、銀時くんは痛くないと首を振ります。
「ねえ……おれのかみのけ、へん?」
「大丈夫。変じゃないよー」
空かさず新八先生が答えましたが、銀時くんが聞きたいのは大人の意見ではありません。
自分と同じ、子どもから見て変かどうかなのです。
「十四郎くんも同じだよね?」
これ以上銀時くんが傷付かないように、新八先生は十四郎くんに頷いてもらおうと頑張ります。
急に質問された十四郎くんはよく分からなくて「うーん」と考えていました。
もう一度、銀時くんが聞きます。
「かみのけしろいけど、へんじゃない?」
「ぎんくんのかみのけは、ふわふわできらきらでカッコイイよ」
おお、と思わず新八先生は感心しました。
十四郎くんと銀時くんは同じクラスですが、特別仲良しというわけではありませんでした。
自由時間に一緒に遊ぶのは別のお友達。今だって銀時くんは外遊び、十四郎くんは室内遊びを
選んでいました。
そんな、あまり関わりのない子に対しても十四郎くんは優しさを発揮したのです。
しかも、お世辞や同情心からではない素直な優しさです。十四郎くんの、迷いのない発言は、
銀時くんを「へん」と言っていた子達の気持ちを簡単に塗り替えました。
「ほんとだ、キラキラしてる!」
「すげー!」
「いいなー」
銀時くんの目からはもう涙が消えています。
「さわってもいーい?」
最初に銀時くんに声を掛けた男の子が尋ねました。銀時くんが「いいよ」と言うと、男の子は
そっと銀時くんの頭に手を置きました。
天然パーマのその髪は、男の子の手の平をふんわり押し返します。
「ふかふかだ!」
「ほんと?ねえ、わたしもさわらせて」
「ぼくも!」
あっという間に銀時くんは大人気。乱暴に触る子がいないか新八先生は少し心配しましたが、
ある子は宝物に触れるように、またある子は小動物を撫でるようにその感触を味わいました。
その頃になると十四郎くんは「もう大丈夫」とばかりに外へ遊びに行っていました。
けれど銀時くんは、十四郎くんのおかげで人気者になれたと分かっています。自分を助けてくれた
十四郎くんを、これからは自分が助けてあげようと決めたのでした。
* * * * *
そして現在。あの日、銀時くんを非常に悲しませた「へん」が再び襲ってきたのです。
十四郎くんと仲良くなるきっかけになった言葉ではありますが、やはり言われたくはありません。
何で女の子用だと教えてくれなかったんだ――銀時くんは、パジャマを一緒に選んでくれた
お父さんを心の中で恨みます。
「ぎんときはケーキがすきだからいいの」
ちょっと怒った様子でそう言ったのは十四郎くんでした。彼が着ているのは、お母さんお手製の
マヨネーズワッペンが胸元に付いたパジャマ。本当は銀時くんのように、好きなものがいっぱい
描かれている服を着てみたい。そんな憧れも含んだ言葉でした。
最初に「へん」だと言った子は銀時くんに謝りました。彼だって甘いケーキは大好きだから。
すっかり元気を取り戻した銀時くんは、もう一つ十四郎くんに見せたいものがあったことを
思い出しました。
半ズボンを脱ぎ、パジャマを履く前に十四郎くんを呼びます。
「みてみて」
「あっ!」
銀時くんのパンツ姿に十四郎くんは目を輝かせました。
……そういう意味じゃありませんよ。彼はまだ四つ。銀時くんとはお友達同士。
「マヨリーンだ!」
銀時くんのパンツにはマヨリーンがプリントされていたのです。
マヨリーンとは、とある大手マヨネーズメーカーのマスコットキャラクターです。
マヨネーズボトル型パンツを履いた中年のキューピーといった見た目にもかかわらず、
関連商品が意外と売れている不思議な魅力を持つキャラクターです。
十四郎くんはマヨネーズと同じくらいマヨリーンが大好きでした。
「おれも、おなじのもってるよ」
「おそろいだね」
「ぎんときもマヨリーンすき?」
「うん」
実のところ銀時くんにはマヨリーンの魅力がよく分かりません。
けれど、十四郎くんとお揃いになりたくてマヨリーンパンツを買ってもらったのです。
「お着替え終わったかなー?」
「はーい」
お布団を敷いていた新八先生が来たので、銀時くんも急いでケーキパジャマを着ました。
銀時くんと十四郎くんのお布団は隣同士です。銀時くんがタオルケットの下から十四郎くんの
お布団の中へ手を伸ばすと、十四郎くんはその手をきゅっと握りました。
寝相があまりよくない銀時くん。起きる時にはいつも頭と足が逆さまになっていて手も離れて
しまいますが、今日こそは頑張って繋いでいようと気合いを入れて目を閉じるのでした。
(13.05.12)
photo by 素材屋angelo
ケーキパジャマとマヨリーンパンツが書きたかっただけです^^ マヨリーン、アニメオリジナル回にしか出てきてないから知らない方もいるのかしら?
一年前のシーンでは「ぎんくん」と呼んでいた十四郎くんが、「ぎんとき」と呼ぶようになるまでとか、この二人にはまだまだ書きたいことがあるので
忘れたことにまたお目見えするかもしれません。
それにしても前作「たとえ遊びでも〜」をアップしたのが2年以上前なんですね。時の流れの早さにビックリです。そうか、
うさぎ年だったんだ……
ここまでお読み下さりありがとうございました。
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