中編


トシさんのおじいさんの家へ行ってから約三週間後、今日はトシさんを俺のジィさん家に招く日だ。
片付けが嫌いなジィさんのせいで、俺は前日にジィさんの家へ行き片付けをする羽目になった。
…俺だって片付けなんか好きじゃねェけど、トシさんが来るのにごちゃごちゃしてたら悪いもんな。

片付けをしてたら面白そうなものを見付けた。かなり古そうなノートで表紙に「万事屋銀ちゃん日誌」と
書いてあった。万事屋銀ちゃんというのは、俺のご先祖様が江戸時代にやっていた店の名だ。店と言っても
何かを売っていたわけではなく、頼まれたことを何でもやる便利屋みたいな商売をしていたらしい。
そのため、ジィさんの雑貨屋は「江戸時代創業」ってことになってるけど…万事屋と雑貨屋って違うよな?
そもそも万事屋銀ちゃんは江戸、つまり今の東京にあったらしい。それなのにジィさん家は箱根ってことは
最低でも一回は引っ越したんだろ?しかもこの雑貨屋はひいジィさんが始めたって聞いたような…

まあ、テキトーな俺のジィさん達の話は置いといて、この「万事屋銀ちゃん日誌」は多少期待できそうだ。
何てったってこのご先祖は土方十四郎と同じ時代を生きているんだ!…ただの商人だから接点はないと思うけど、
当時の暮らしを知るのは土方十四郎を知る上でも重要なことだからな。

…でもその前に部屋を片付けないと。トシさん、あと一時間くらいで来ちまう。
俺はひとまず万事屋銀ちゃん日誌を机の上に置いて片付けを始めた。


*  *  *  *  *


「おー!本当に土方十四郎そっくりじゃないか!」
「えっ…あ、あの…」
「ジジィ、いきなりソレかよ!トシさんは先輩なんだから、失礼なことすんじゃねェよ!」

最寄り駅までトシさんを迎えに行ってジィさんの家に連れてきたら、挨拶もなしにジィさんは言った。

「先輩?同級生じゃなかったのか?」
「違ェよ。トシさんは二年生で…」
「なら銀時と同い年だろ?」
「えっ」
「うっ…」
「それともトシくんも銀時と同じで一浪かい?」
「あ、えっと…」

クソジジィ…読者にも秘密にしていたことをあっさりバラしやがってェェェ!!

「そーですよ!俺とトシさんは同い年!でもトシさんは一学年上だから、先輩は先輩なの!」
「分かった分かった…そう怒鳴らんでもいいだろ?ほれ、トシくんが困っておるぞ」
「誰のせいだよ!…もうジィさんは店番してろ!トシさん、行こ」
「お、おい」

これ以上ここにいたらジィさんに何言われるか分からない。
俺はトシさんの手を引いて、店の奥の住居スペースへ入って行った。



「ホント、すいませんでした。失礼なジィさんで…」
「気にしてねェよ。さすが銀時のジィさんだなって思ったくらいで…」
「…それ、どういう意味ですか?」
「銀時もいきなり『土方十四郎の子孫ですか』って声かけてきただろ」
「でっでも、その前にちゃんと自己紹介したし…」
「ハハッ…。ところでよ、そろそろ手ェ離してくんねぇか」
「あっ!」

俺は慌ててトシさんの手を離した。ジィさんから逃れるために勢い余って繋いじまったんだった!
やべェ!トシさん、変に思ってないかな…

「あの…すいませんでした。ジィさんがあれで、つい、その…」
「構わねェよ。それと、俺にあんま気を遣わなくていいから。…同い年なんだろ?」
「うっ…そこには触れないで下さい」
「別に一浪くらい珍しいことじゃねェだろ」
「…でもトシさんは現役なんでしょ?」
「まあ…」
「ハァー…」
「…もし銀時が同学年だったら、俺達出会ってなかったかもな」
「えっ!」
「学年が違えば時間割だって変わるんだ。そしたらあの日のあの時間、銀時は大学に来てなかったかもしれないだろ? 」
「言われてみれば…」

トシさんと初めて会ったのは後期の初日。一限の始まる少し前の時間だった。
二年の授業がどうなってるか詳しくは知らねェけど、もしかしたらその日は二限からだったかもしれないし
授業の教室によっては、あの場所を通らなかったかもしれない…

「まあ、俺と会えなくても大した問題じゃないけどな」
「そんなことありません!トシさんのおかげで俺、土方十四郎の研究に身が入ったんですから!」
「…それは元からだろ?」
「違うんですよ。あの頃、ちょっとダレていたというか、やる気がなくなってた時で…」

まさか土方十四郎に欲情するようになってたなんて言えない。それがなくなったのはトシさんが…なんて
もっと言えない。

「そうだったのか…」
「はい。だから良かったんです。トシさんに会えて」
「そうか?なんか、照れるな…」
「ハハハ…。あっ、荷物はその辺に置いて下さい」
「ああ」

トシさんは荷物を下ろすと机の上で視線を止めた。そこにはさっき俺が見付けた万事屋銀ちゃん日誌が
置いてあるけど…もしかして、トシさん気になってる?

「トシさん?」
「あ、ああ、悪ィ。そこの、古い本みたいなのは何かの資料か?」
「いえ。部屋を片付けてたら出てきたんです。中はまだ見てないけど、多分、先祖の日記かと…」
「先祖?それって何年くらい前のものなんだ?」
「江戸時代後期だから…」
「そんなに!?すげぇな…」
「一応、この日記を書いた人が分かってる範囲で一番古い人なんですよ。なので家系図もそこから始まっていて…」
「家系図!?そんなのがあるのか!?」
「ありますよ。…見ます?」
「い、いいのか?」
「はい。ちょっと待ってて下さい」

俺はジィさんの部屋に家系図を取りに行った。
それにしてもトシさん、ウチの家系図なんか見てどうすんだろ?別に何も楽しいことなんかないのに…

(10.09.08)


土方十四郎を中心とした歴史に関心がある銀時君は、自分の家の歴史には全く興味がありません。続きはこちら