※基本は原作設定ですが、銀さんは指名手配されている攘夷志士です。
※銀さんは性格が少し幼い感じです。




好きになってはいけない人だった


対テロ特別武装警察真選組屯所内会議室。今日は定例の幹部会議が行われていた。
局長の近藤と共に前に座る土方が三枚の手配書を並べて口を開く。

「過激派攘夷浪士の三巨頭―狂乱の貴公子・桂小太郎、鬼兵隊の高杉晋助、そして白夜叉・坂田銀時―
ヤツらはかつて攘夷戦争で共に戦った戦友らしい…。そしてこの三人のうち桂と坂田は現在、
江戸に潜伏しているとの情報が入った。…監察が掴んだ確かな情報だ。」
「するってェと…この二人が結託して江戸で暴れようとしてるってことですかィ?」

一番隊隊長の沖田が土方に問う。

「そこまでは分かってねェ。…だが、もしヤツらが手を組んだのだとしたら厄介だ。」
「そうですかねィ?俺ァ、潰す相手が一つに固まっててくれた方が楽だと思いやすが…」
「ヤツらを甘く見るな、総悟。」
「ふふふ副長…大変です!」
「!?」

何の前触れもなく会議室の襖が開けられ、監察の山崎が血相を変えて入ってきた。

「どうした!?」
「いいいい今そこに、しっ白夜叉が…」
「なに!?間違いないのか?」
「はい!」
「近藤さん!」

山崎の報告を受け、土方は近藤に指示を仰ぐ。近藤は黙って頷き沖田に向かって言った。

「一番隊は俺と共に坂田を追うぞ!…ザキ、ヤツはどっちに行った?」
「い、いや、それが…」
「「「!?」」」

山崎の後ろから現れた人物に幹部達は一斉に腰の刀に手を掛けた。
戸惑いを隠しきれぬまま山崎が言葉を続ける。

「もう、ここにいるんです…」
「こんにちは〜。」

件の「白夜叉」が敵地である真選組の屯所へ、こともあろうに笑顔で手を振りながら現れたのだ。
土方は坂田に視線を据えたまま山崎の腕を掴んで引き寄せた。

「どういうことか説明しろ、山崎!」
「ふっ副長…実は、その…」
「…あーっ!!土方十四郎だ!」

坂田が声を上げたことで室内の緊張感はいっそう高まる。
しかし当の坂田は我関せず、土方を指差すと瞳を煌かせて真っ直ぐそちらへ向かって歩いていく。
土方は山崎を突き飛ばし、いつでも抜刀できる体勢をとった。
他の幹部達は土方を支点に坂田を取り囲むようにして構えているが、坂田は尚も笑顔を崩さない。

「初めまして。土方十四郎くんだよね?俺、坂田銀時。」
「…ここに何の用だ?」
「土方くんに会いに来たんだ。…キミ、テレビで見るよりカッコイイね。」
「あ!?ふざけてんのかテメー!」
「そんなことないよ〜。…あっ、テレビで見た時もカッコイイと思ったけどね?でも実物はそれ以上。」
「そんな理由でのこのこやって来たってのか?…俺達をナメてんのか、救いようのないアホなのか…」

土方は坂田の両手に手錠を掛けた。

「十時三十七分、確保。」
「何これ?…初回から手錠プレイ?土方くんってクールな顔して案外マニアックなんだ…
あっ、大丈夫だよ。俺、そういうのもイケる口だから。」
「テメー、状況分かってんのか?これはプレイじゃねェ。今からテメーは尋問を受けるんだ。」
「えっ、土方くんも俺に興味があるの?何でも聞いてっ!」
「洗いざらい吐いてもらうからな…来い。」
「は〜い♪」

土方に連れられ取調室へと向かう坂田の足取りは軽い。残された者達は呆然と彼らの進む方を見ていた。
近藤が山崎に問う。

「…一体どういうことなんだ?」
「俺だってよく分からないんですよ。いきなりやって来て副長に会いたいって…」
「そうか…」
「面白そうなんで行ってきやす。」

沖田は楽しそうに土方達の後を追った。



「あれっ?」

自分達に続いて取調室へ入ってきた沖田に、坂田は首を傾げる。

「ボウヤ誰?」
「…誰がボウヤでィ。」
「総悟、いいから座れ。」
「へ〜い…」
「テメーはこっちだ。」

沖田が隅の記録席に着くと、土方は坂田をもう一方のテーブルに着かせた。
坂田は沖田を指差して土方に尋ねる。

「ねえ…あのコ誰?」
「アイツはウチの一番隊隊長だ。」
「隊長?へ〜…まだ若いのにすごいね。でもさァ、なんで隊長くんがここにいんの?」
「土方さんは見られると興奮する性質(たち)なんでねィ…」
「総悟お前、ナニ言ってんだ?」
「えーっ!そうなの!?」
「おい…」

話の見えない土方を置いて、沖田と坂田の会話は続いていく。

「手錠プレイにゃ動じなかったってのに、随分と驚いてるじゃねーかィ。
…見られると何かマズイことでもあるんで?それとも自信がねェのかィ…白夜叉ともあろうお人が…」

挑発的な態度を取る沖田にも坂田の表情は変わらない。

「う〜ん…そういうワケじゃないんだけど、俺としては二人だけで楽しみたいっていうか…
あっ、土方くんの趣味を否定する気はないからね。」
「だから何の話をしてんだよ!」
「それを俺の口から言わせる気?…土方くんのエッチ!」
「は?」
「とんだ変態ヤローだ、土方コノヤロー。」
「総悟、テメーはもう黙って記録してろ!」
「はいはい…。えーっと『土方さんはエロい』っと。」
「そこは書かなくていい。」
「何でィ…被疑者の言葉はちゃんと記録しとけって、アンタいつも言ってるじゃねーかィ。
さぁ、尋問を続けて下せェ…」
「続けろって…今まではただの無駄話じゃねーか…」

土方は短く息を吐いて銀時の向かいに腰を下ろす。

「隣に来てくれないの〜?」
「誰が行くか!」
「土方くんって大胆な趣味の割りに照れ屋さん?…そのギャップもいいねぇ。」
「えー…『土方さんは変態のくせに照れ屋』っと。」
「いい加減にしろ、総悟!真面目にやらねェなら他のヤツと代われ!」
「じゃあ記録に値するようなことを聞き出して下せェ。」
「チッ…今からやんだよ!」

土方は坂田をキッと正面から見据える。

「今から俺が聞くことに答えろ。」
「そんなに見詰められるとドキドキしちゃうなァ…」
「名前は?」

これ以上坂田のペースに乗せられては堪らない―土方は坂田の発言を無視して尋問の体勢に入った。

「坂田銀時。…銀時って呼んでね。」
「歳は?」
「う〜ん…正確なトコは分かんねェんだ…。まだ二十代だと思うよ。」
「出身は?」
「それもよく分かんねェな…。ねぇ、昔のことより今のことを聞いてよ。」
「…住所は?」
「特に決まってない。…ここ最近はイケダヤってホテルに泊まってるよ。」

坂田がホテル名を口にした瞬間、土方の目の色が変わった。

「…テメーの仲間も一緒か?」
「仲間っつーか…今回は俺、ヅラに手伝ってほしいって言われてこっちに来たんだよねー。
だから、ホテルにいるのはヅラの仲間だな。」
「…ヅラって誰だ?」
「あれっ、知らない?…んだよヅラのヤツ…『俺は有名だから』とかっていつも変装してるくせに
全然有名じゃねェじゃねーか…。自意識過剰なんじゃねェの、アイツ…」
「いいからヅラってヤツのフルネームを教えろ。」
「ヅラ小太郎。…知ってる?」
「ヅラ…小太郎?………まさか、桂か!?」
「あー…そうとも言うような、言わないような…」
「どっちだ!?テメーを呼んだのは桂なのか!?」
「なに?土方くんは、俺よりヅラに興味があるの?やっぱりサラサラヘアーが好きなのかチクショー!」

坂田は手錠で繋がった両手で拳を握り、ダンダンとテーブルに打ち付ける。

「おい…好きとかじゃねーよ。テメーと桂に繋がりがあんのかって聞いてんだ…」
「あっ、そっち?なぁんだ…俺の交友関係が気になるならそう言ってよ。」

何を勘違いしたのか嬉しそうに顔を上げた坂田に、土方は頭を抱えたくなった。
だが、大物攘夷浪士同士の繋がりを暴けそうなこの状況で、仕事を投げ出すわけにはいかない。
土方は気を取り直して尋問を続ける。

「それで?テメーの言う『ヅラ』ってのは桂小太郎なのか?」
「うん、そう。でもヅラはただのダチだからね。心配しなくても大丈夫だよ。」
「呼ばれたと言ったな…何で桂はテメーを呼んだんだ?」
「デカい仕事するから手伝えって。なんかね…ターミナルを爆破するんだって。」
「ターミナルを!?」
「あんだけデカいもんが爆発したら、すっげぇ面白いと思わねぇ?」
「どこが面白いんだ!テメー、あそこにどれだけの人間がいると思って…」
「えーっ!!ターミナルって人がいんのか!?じゃあ、爆破ナシ。」
「お前…本気で言ってるのか?」
「当ったり前じゃん!人がいるとこを爆破なんかしたら、皆死んじゃうだろ?」
「………」

目の前にいるのは確かに手配書の坂田銀時そのものであるが、彼から出てくる言葉はテロリストのそれとは
到底思えないようなものばかりだった。

「ちょっと俺、ヅラにやめろって言って来るね。」
「その必要はねェ。…俺が行く。」
「俺がって……あっ、もしかして土方くん、110番通報する気?こんなん聞いちゃったら、そうするよねー…。
でも俺さァ、一応、指名手配犯ってことになってんのよ。」
「お前…マジでナニ言ってんだ?」
「いや、信じられない気持ちは分かるよ。でも本当なんだ。だから、お巡りさんには俺から聞いたって
言わないでね?そうしないと、土方くんまで仲間だと思われちゃうから。ねっ?」
「いやだから…何で警官の俺が110番通報しなきゃなんねェんだよ。」
「………警官?誰が?」
「俺が。」
「………土方くんが?警官?」
「ああ。」
「えっ…だって土方くん、真選組のメンバーなんでしょ?…潜入捜査中?」
「は?またワケの分からねェことを…。ここは特別武装警察真選組の屯所で、俺はそこの副長だ!」
「特別…武装、警察?」
「そう。」
「えーっ!!真選組ってアイドルグループか何かじゃないの〜!?」
「ブッ…」

ずっと隅で笑いを堪えていた沖田であったが、遂に吹き出してしまった。

「ははははは…」
「総悟、うるせェぞ!」
「いや〜、これ耐えるのは無理でさァ…ブフフッ…。白夜叉がこんなに愉快な野郎だったとは…」
「そんなに笑わなくたっていーじゃん。集団でテレビに出てたから、てっきり何とか48の男版かと…。
そこの隊長くんは、チーム『真』とかのリーダーで…」
「あははははは…」
「総悟っ!」

バシバシと机を叩きながら笑う沖田を窘め、土方は気を取り直して坂田へ説明する。

「とにかく…俺らは警察で、それもテメーのような攘夷浪士を取り締まるのが専門なんだよ。
…桂達はお前がここに来ることを止めてくれなかったのか?」
「ヅラには『やめておけ』って言われたけど…気になっちゃったもんは仕方ないじゃん。
ダメだと言われようが、好きになる時はなるもんだろ?」
「…で?テメーは俺らに協力する気があんのか?」
「うん。…ターミナル爆破はナシにしたいし、土方くんとも一緒にいたいし。」
「分かった。…総悟、今までの話、近藤さんに伝えて来い。」
「へい。土方さんが色仕掛けで白夜叉の協力を取り付けたって言ってきやす。」
「違ェよ!桂の潜伏場所とターミナル爆破計画についてだ!」
「はいはい…。でも本当にコイツの話、信用していいんで?のこのこ出ていったら待ち伏せされてて…
なんてことになったらどうしやす?」
「そうなっても勝てるくらいの戦力で乗り込めばいいだけの話だろ…」
「簡単に言ってくれますねィ…」
「乗り込む時にゃ俺も行く。」
「へいへい…じゃあ、近藤さんに伝えてきやす。」

沖田が取調室を出て行き、そこは土方と坂田二人だけの空間になった。

「あ、あの…俺、嘘言ってないよ?」
「ったりめーだ…。俺達にガセ掴ませるのが目的なら、わざわざテメーが来る必要はねェよ。
だが、これからどうする気だ?俺達は桂を捕まえるぜ?…古い知合いなんだろ?」
「でも、悪いことするヤツがお巡りさんに捕まるのは仕方ないじゃん。」
「そ、そうか。」
「それにしても土方くんが警察だったなんてビックリだな〜。その辺の芸能人よりカッコイイのに…」
「アホか…。俺ァただの田舎モンだ…」
「そんなことないよ〜。こうして二人きりでお話できるなんて夢みたい。」

坂田は繋がれた両手を開いて顎を乗せ、ニコニコと土方に微笑みかける。

「お前…自分の立場、分かってんのか?」
「…やっぱこの後、牢屋とかに入るんだよね?」
「分かってんじゃねーか…」
「せっかく土方くんと仲良くなれたのに、残念だなァ…。たまには会いに来てくれる?」
「…まだ取調べが必要だから、暫くはここにいてもらうつもりだ。」
「マジで!?まだ土方くんとお話できるの!?」
「お話って…取調べだぞ?」
「何でもいいよ〜。やったぁ〜、土方くんと一緒にいられる〜♪」

手錠を掛けられているにも関わらず、坂田は至極嬉しそうで、鼻歌まで歌い出した。
そんな坂田を見ていると、このまま攘夷浪士として投獄するのが可哀想に思えてくる。
真選組副長として犯罪者を見逃すわけにはいかない。けれどどう考えても、土方には目の前にいる男が
過激派攘夷浪士などという危険人物には思えなかった。


その後、土方を中心にした真選組の捜査により、坂田が扇動したとされていた数々のテロ活動は
攘夷戦争の英雄の名を騙った別人の犯行であることが明らかになった。
それにより白夜叉・坂田銀時の指名手配は解かれ、彼は晴れて自由の身となったのである。



*  *  *  *  *



「土方さん、本当にいいんですかィ?実際にヤツが関与していた事件もありやしたが…」
「坂田はテロだと知らずに手伝わされただけだからいいんだよ…」
「その様子だと、証拠は全部揉み消したってトコですか…」
「人聞きの悪い事を言うな。俺ァただ、読みやすいように要点を絞って捜査報告しただけだ。」
「…鬼の副長にも情があったんですねィ。」
「どういうことだよ…」
「素直に懐かれて絆されたってとこですか?」
「そんなんじゃねーよ…」
「おっ…噂の恋人が来たようですぜィ。」
「まだ恋人じゃねェよ…」
「…『まだ』なんですねィ?」
「るせェ…。俺が休みだからって、サボるんじゃねーぞ。」


土方は沖田にそう告げると、笑顔でこちらへ駆けてくる坂田の元へ歩いていった。


(11.02.07)


敵同士として出会いながら恋に堕ちるロミオとジュリエット的な二人を書きたかったのですが…なんか違う^^; しかも後半、色々端折り過ぎですね…。

沖田の口調が意外と難しかったです。指名手配犯である銀さんに敬語は使わないだろうし、もちろん「旦那」なんて呼ばないだろうし…。

今回のお題はヅラの心境のつもりでした。「土方を好きになったせいで銀時が攘夷志士でなくなってしまった!」みたいな。それなのにヅラが出せなかった。

というわけで、おまけに銀さんとヅラの会話を付けました。…あっ、ヅラは銀さんから情報を得た真選組によって捕まっています。短いですが「おまけ」です。