中編


真選組屯所では朝から「副長子ども化事件」の捜査をしていたが、すぐに暗礁へと乗り上げてしまった。
何らかの薬物投与の可能性を疑い、土方以外に症状の出ている隊士はいないことから、外で食べた
物が怪しいというところまでは容易に推測ができた。しかも昨日、土方は早めに仕事を終えて一人で
飲みに出かけている。ならばその店を調べようとしたところで、何処の店か分からなかったのだ。

手分けして土方の馴染みであろう店に聞いてみたが、全て「昨日は来ていない」との結果だった。
花街も訪ねてみたが、昨日どころかここ数年、接待以外では来ていないと言われた。
だが土方は昨日、確かに六時頃屯所を出て、日付が変わるまで帰って来なかった。

「実は沖田隊長が一服盛ったとか?」
「あ?俺なら俺だと堂々宣言して土方さんの慌てふためく様を観察してるぜィ。」
「ですよねー……」

やるべきことがなくなった山崎は、バドミントンラケットを握ったまま縁側で沖田と話をしていた。

「あー……暇だ。こんな時副長がいたら、怒鳴って殴って雑用の一つでも任せてくれるのに……」
「山崎ィ、そんなに暇なら土方さんの代わりに俺のバズーカの的になるか?」
「遠慮しときます。」
「……昼寝でもするか。」

遊び相手がおらずつまらない沖田は、アイマスクを装着してごろりと寝転がった。

そこへ、万事屋から帰った近藤によって新たな情報が齎され、隊士達は一筋の光明を見出した。

「旦那も小さく!?」
「そうだ。トシと同じく今朝急に、らしい。それとな……」
「二人がラブラブ〜!?」
「そうなんだ。トシは新八くん達を覚えていないし、万事屋も俺のことは知らないと言った。
だが何故か二人は相手のことを知っていて、それどころか将来結婚するんだと……」
「そんな面白ェことになってんですかィ?」

自分も見てみたかったと瞳を輝かせる沖田を近藤は「面白くない」と一喝する。

「このままトシが大人になったら、万事屋と結婚するんだぞ!?そんなこと認めるわけにはいかん!」
「結婚はともかく、このままじゃ仕事に差し支えるし、早く戻ってもらわないと困りますよね。」
「そのとーり!」

山崎の言葉に近藤は大きく頷く。

「それで?トシの昨日の足取りは掴めたのか?」
「それが……」
「あの野郎、俺らの知らねェ店で飲んでたようで、サッパリなんでさァ。」
「でも、旦那も同じ状態ってことはかぶき町の店じゃないですか?それに旦那なら知り合いも多いし、
足取りが掴みやすいかもしれませんよ。」
「うむ。今日、かぶき町を巡回するのは総悟だったな?」
「へいへい……ついでに聞き込みしてくりゃいいんでしょう?」
「頼んだぞ!よしお前ら、トシのことは心配だと思うが、まずは通常業務に戻ってくれ。」
「「はいっ。」」

近藤の号令で隊士達は各々の持ち場に戻り、沖田はまたアイマスクをして横になった。


*  *  *  *  *


「……それで、沖田さんが来たんですか?」

夕方近くになって漸く巡回に出た沖田は、ペアを組む平隊士と共に万事屋を訪れた。
まだ何も分からないと言う沖田に食ってかかる神楽を制止しつつ、新八が来訪理由を確認した。

「まあ俺としちゃ、うるせェ野郎がガキになってせいせいしてんだけどな。」
「そんなこと言わずにお願いしますよ。銀さんがよく行く飲み屋を教えますから。」
「……何処だか分かってんじゃねェのか?」
「分からないんです。銀さん、いつもフラッと出て行くもんで……多分、歩きながら店を決めるん
じゃないかと……」
「旦那らしいねィ。……ってことは、こっち経由でも時間がかかりそうだな。」
「そうですか……」
「じゃあ、お前は先に旦那の行き付けの店を回ってろ。」
「えっ?隊長は……?」
「俺ァ、ちびっこバカップルを確認してから行く。……隣か?」
「あっ、はい……」

部下を先に行かせて、沖田は「子ども達」の確認に向かう。正直なところ、沖田にとってはこちらが
本題なのだろう。面白がっているのは分かるが、彼らと半日一緒にいただけで疲れてしまった
新八は素直に和室へ案内した。

「開けるよー。」
「ん〜……」

返事の仕方で嫌な予感はしたものの新八が襖を開けると、二人はまたぴちゃぴちゃと水音を立てて
舌を舐め合っていた。

「へェ……」

感心したような声を発しながら沖田は携帯電話を構え、二人の様子をカシャリと撮影した。

「あっ、総悟……何しに来たんだよ!」

沖田の存在に気付いた土方は舌を離し、銀時を護るかのように抱き締めて沖田へ背を向ける。

「十四郎、アイツ誰?」
「総悟。すっげぇイジワルなんだ。」

背を向けたまま振り返り沖田を睨みつける土方。

「沖田さん……こんな子どもでも虐めてるんですか?」
「やってねェよ。そもそもチビは朝メシ食ってすぐここに来たんだ。そんな暇はなかったぜ。」
「そうなんですか?じゃあ何で……」
「さあな。……おいチビ、俺がオメーに何したってんだ。」

二人の側にしゃがんで土方に話し掛ける沖田の表情は意外と真剣で、新八は何だかんだ言っても
調べる気があるのだと安心していた。けれども、

「……忘れた。」
「あ?」

対する土方の答えはあまりに呆気ないもので、沖田は眉間に皺を寄せた。

「忘れたってどういうことだクソガキ。」
「どうでもいいだろ!お前には関係ねー!」
「関係なくねーよ。真面目に話せ!」
「やだ。」
「……なあ十四郎、お前この兄ちゃんにイジメられてんのか?」

睨み合う沖田と土方の間に銀時が口を挟んだ。

「オレは平気だ。けど総悟、銀時に手ぇ出したら許さねーぞ!」

銀時には微笑みを向け、沖田には敵意を剥き出しにする土方。
そんな土方の態度に銀時も不安が募ってくる。

「兄ちゃん、もしかして十四郎を攫いに来たのか?」
「……だったらどうする?」
「ダメ。十四郎を連れてかないで。」
「大丈夫だ、銀時。オレはお前と一緒にいる。総悟なんかにゃ負けねぇ!」
「本当に?絶対?」
「ああ、絶対だ。」

沖田に聞いたはずが、気付けばまた二人の世界に入っている。

「ったく、勝手に人攫いにしやがって……。おいオメーら、将来結婚するってのは本当か?」
「そうだよ。」
「銀時、あんまりコイツと話さない方がいい。」
「まぁ聞きなせェ若いの……オメーらが本気で結婚してぇってんなら、俺は応援してやるぜ。」
「本当か!?十四郎、コイツいいやつだな!」
「……本気か、総悟?近藤さんは怒ってたのに……」
「愛し合ってる二人を引き裂くなんざ、俺にはできねぇよ。」
「総悟……。悪ぃ、オレ、お前のこと誤解してた。」
「いいってことよ。」

新八は、二人を応援するのだと言う沖田に黒い羽根と尻尾が生えているように見えた。
けれど自分の力では沖田を止めることはできそうもないし、二人の遊び相手になってくれるなら
その間に家事をしようと考え、和室を後にした。

「じゃあまず、結婚式の練習でもするか?」
「する!」
「練習?何をやるんだ、総悟?」
「結婚式と言えば誓いのキスだろィ。」
「それならオレ達得意だよなっ、十四郎?」
「ああ。」
「へぇ……ならやってみてくれィ。」
「おう。」
「いいぞ。」

二人は立ち上がって向かい合い、唇と唇をちゅっと合わせた。

「どうだ!」
「まだまだだねィ。」
「大人のチュウもできるぞ。……十四郎。」
「おう。」

沖田の評価が気に入らなかったのか、二人は些かムッとした様子で相手の舌を舐め合った。

「どうだ!」
「へぇ……舌使うことも知ってんのか。」
「まあな。」
「でもちょっと違うな……。本物のキスってのは、唇も舌も同時に合わせるもんだぜ。」
「同時に?」
「総悟、どうやるんだ?」
「口をちょっと開けたままくっ付いて、それから相手の口ん中に舌を入れるんだ。」
「へぇー……」
「銀時、やってみようぜ。」
「ああ。」

二人は沖田の言うとおりに口を少し開けてキスをして舌を伸ばす。

「おー、いい感じいい感じ。写真撮ってやるからそのままキスしてな……」
「ん〜……」

携帯電話のシャッター音を聞きながら、銀時と土方は口内で舌を絡ませ合っていた。



「それじゃあ、末長く幸せにな。」
「ありがとう、総悟。」
「じゃあな、兄ちゃん。」
「あのっ調査の方、よろしく頼みますよ?」
「分かってるって。……元に戻んなかったら、今日撮ったもんで遊べなくなるからな。」

にやりと笑って携帯電話を振りながら、沖田は万事屋を後にした。



*  *  *  *  *



数日後。真選組はついに銀時が問題の日に訪れた飲み屋を突き止めた。そこは江戸の外れにあり、
銀時も初めて訪れた店であった。店を見付けるまでは骨が折れたものの、そこからはとんとん拍子に
捜査が進んだ。

「局長〜、旦那に薬を渡した張本人から話を聞けました!」
「でかした、ザキ!」

件の店で「銀髪の侍」は常連客の一人と意気投合していたとの情報を得て、真選組はその客に
事情を聞きに行ったのだった。

「その人に悪気は全くありませんでした。ただ、商売で手に入れた薬を譲っただけだと……」
「商売?」
「その人、色んな星からの輸入品を扱ってるらしくて、その日も偶々持っていた精力剤を……」
「ん?精力剤?」
「そうなんです。一時的に肉体を若返らせて昔の体力を取り戻す薬みたいです。」
「にしても、若返り過ぎじゃないか?」
「それに関しては飲み過ぎたんだろうと言ってました。おそらく旦那は話をよく聞かずにたくさん
飲んじゃったんじゃないですかね。」
「アイツならやりかねんな……。それで、元に戻る方法はあるのか?」
「あっ、はい……薬の取説をもらってきました。」

山崎は小さく冊子状に折り畳まれた説明書を手渡して続ける。

「元に戻るのは、子どもには少し難しいですけど、できなくはありませんね。」
「うむ……この際、多少の恥は我慢してもらうしかないな。」

説明書に目を通しながら近藤は相槌を打つ。

「ただ、副長が小さくなった原因を考えるとちょっと不可解な点が……」
「どういうことだ?トシも偶然同じ店にいて薬をもらったんだろ?」
「いえ……『銀髪の侍』だけに渡したと言っていました。」
「じゃあトシは万事屋からもらったのか?」
「だとしてもおかしいですよ。副長がそんな得体の知れない薬を軽々しく飲むだなんて……」
「そうだなぁ……」
「考えられるとしたらコレなんですけど……」

山崎は近藤の手にある説明書のある箇所を指した。

「こっこれはないだろ!」
「俺もそう思いましたよ。副長は旦那とは全然違うところで偶然同じような薬を飲んで、同じ日に
縮んだだけかもしれないって。でも……」
「……そこまで偶然が重なる可能性は低いな。」
「はい……」
「よしっ、とにかく万事屋へ行こう!少なくとも万事屋はこの方法で元に戻るはずだからな。」
「そうですね。」
「俺も行きますぜィ。」

面白いことが起こりそうな気配を感じとった沖田も加わり、三人はかぶき町へ向かった。



*  *  *  *  *



「いらっしゃい。」
「あの二人は?」

万事屋の玄関。出迎えた新八に近藤が尋ねた。

「和室で、というか押し入れで遊んでますけど……」
「押し入れで?」
「実は、四六時中いちゃいちゃしてるんでそれを禁止したら、隠れるようになっちゃって……」
「た、大変なようだな……」
「まあ……でも、近藤さんが来たと言えば出てくると思うんで……」
「あっいや、そういうことならトシ達の前に新八くんとチャイナさんに話しておきたいことが……」
「……どうぞお入り下さい。」

わざわざ三人揃って訪ねて来たのだから、ただ様子を見に来たのではないのだろうと推測し、
新八は真選組の三人を事務所へ通した。


「元に戻す方法、見付かったんですか!?」
「ああ。」
「お手柄ネ!」

席に着くと山崎から、銀時が飲み屋で薬をもらったこと、それを飲み過ぎて子ども化したこと、
そして元に戻す方法も分かったことを説明した。

「それで、どうすればいいんですか?」
「それがだな……」

近藤は迷いながらも薬の説明書を新八に渡した。

「えっ、これって……」
「どうやるアルか?」
「かっ漢字ばっかで、神楽ちゃんには読めないと思うよ!」

新八は神楽が見えないよう説明書を折り畳んだ。

「そもそも、そういう用途に使うものらしくてな……なあに、心配はいらない。俺が責任持って
二人を元に戻してみせる!」
「……ど、どうやって?」
「二人にきちんと教えるさ。こういうことを教えるのも大人の仕事だ。」
「まあ、そうですけど……」
「何を教えるネ?」
「とっとにかく任せましたよ!」

神楽に知られてはマズイと新八は会話を打ち切った。

「ンだよチキショー……」
「チャイナ、俺が教えてやろうか?」
「あー!!これでちびっこバカップルともおさらばできて嬉しいね、神楽ちゃん!」
「そうアルな。アイツらいっつも、ちゅっちゅちゅっちゅしてウザかったアル。」
「ほ、本当だよね〜。」

無事に話題が逸らせてホッとしたのも束の間、山崎が神妙な顔付きで「そのことなんだけど……」と
切り出した。

(11.11.16)


後編は18禁になりますが、まだできていないので少しだけお待ち下さい。まずは、ここまでお読みくださりありがとうございました。

追記:続きを書きました。注意書きに飛びます