後編


「ひーじかーたくーん!」
「旦那…また来たんですかィ?」

土方を呼んだってのに、出てきたのは沖田くんだった。…偶々近くにいたのかな?
ちょうどいい…先に沖田くんに俺達の関係を認めさせちまおう。

「土方って照れ屋だからさっ…俺から会いに来てやらねーとね…」
「ていうか、お二人はまだ付き合ってないって聞きやしたけど?」
「ンなわけねーだろ。俺達は愛し合ってるんだよ?…沖田くんはその辺、よ〜く分かってるでしょ?」
「じゃあ何で土方さんは、付き合ってないなんて言ったんでしょうねィ?」
「照れてんだよ。恋人とラブラブだなんて、部下には言いにくいんだろ…」
「そうですかィ…」

沖田くんは含みのある笑顔を見せる。俺の言うことを信用してるわけじゃなさそうだけど、
面白そうだからノッてやるってとこかな?相変わらず、若いくせに食えねェな…。まっ、それでもいいや。
…おっ、ゴリラが来た。

「おー、万事屋じゃないか。…何か用か?」
「オメーに用はねェよ。…恋人の土方くんに、ちょっとね。」
「恋人ォォォ!?いいいいつからトシと…」
「今日からでーす。」
「総悟、おまえは知ってたのか!?」
「俺も今知りやした。…まあ、土方さんが旦那を、ってのはもう何年も前から知ってやしたけど。」
「そんなに前からトシは万事屋のことを?全然気付かなかった…。万事屋、トシのことをよろしく頼む!」
「こちらこそ、よろしく〜。」

よぉしっ!近藤は完璧に信じてる。コイツが応援してくれりゃ、土方だって俺と付き合う気になるんじゃね?

「それで…土方は?」
「ああ…トシなら所用でちょっと出ていてな…。あと三十分もすれば戻るから、中で待っててくれ。」
「えっ、いいの?それじゃあ遠慮なく…」
「近藤さん…土方さんに今日、半休取らせてやったらどうです?」
「おっ、総悟いいこと言うなァ。よしっ、そうしよう。…今夜はお妙さんのところに行くのを止めて
屯所にいるとするか…。」
「土方さん、きっと喜びますぜ?旦那だって、交際初日くらいは二人きりで語り合いたいでしょう?」
「いやぁ〜、沖田くん、若いのに気が利くねェ…」

沖田くんが善意でそんなことを言うわけないって分かってるけど、この後、土方が休みになるのは
願ったり叶ったりだし、俺達が付き合うのを邪魔するつもりはないみたいだから、ありがたく乗っておこう 。

俺は、屯所の応接室で待たせてもらった(高級茶菓子付きだ!)。

*  *  *  *  *

「どういう了見だ、テメー…」

門番か誰かに俺が来てることを聞かされたんだろう。土方は応接室に姿を現した瞬間から不機嫌だった。
でも、こんなのは想定内だ。むしろ、こんな態度の土方が俺のことを好きていてくれてると思うと
自然に口元が緩んでしまう。
そしたら土方に「ヘラヘラすんじゃねェ」って怒られた。
でもダメだ…。そんなこと言われたって顔が勝手にニヤケちまう。今まで、俺とケンカとかした後、
土方は一人で反省会とかしてたのかな?「もっと優しくすればよかった」とか思ってたのかな?

「おいテメー…」
「帰ったのか、トシ。」
「近藤さん…」

ゴリラが来たら土方の表情が途端に柔らかくなった。
…何かムカつくけど、ここは恋人(予定)の余裕でもって寛大な態度を…

「水臭いじゃないか、トシ…。確かに俺はまだ、お妙さんと一緒になれてはいないが
それでも、お前の幸せは素直に喜べるんだぞ。」
「幸せって…何のことだ?」
「もう隠さなくていいぞ。組の皆がお前と万事屋の交際を知っている。」
「なっ…交際!?」
「総悟が、めでたいことは皆で共有した方がいいって、隊士達にメールを一斉送信してくれてな…」
「い…一斉、送信…」
「それと、今日はもう上がっていいぞ。」
「は?」
「今日から付き合い始めたんだろう?急ぎの仕事はないし、二人きりで過ごせ。なっ?」
「ちょっ…」

土方が急展開に追いつくより早く、近藤は「トシの分まで頑張るぞ」と言って部屋を出て行った。
襖の閉まる音で我に返った土方は俺のキッと睨み付けた。

「いやぁ…沖田くんがまさかそこまでやるとは、ね…。ハハッ…」
「テメーは…」
「そんなに怒らなくたっていいじゃん。俺達が好き合ってるのは事実なんだし…」
「だが俺は、テメーと付き合った覚えはねェ!」
「あっ、好き合ってるのは認めるんだ?だったらお付き合い開始でいーじゃん。」
「それは少し先だっつったじゃねーか。」
「どこが少し!?」
「だから俺は…」
「それだけ待ったって言いたいんでしょ?でもね、俺、改めてお前との思い出を振り返ってみたわけよ。」

最初の方だけだけど…っていうのは内緒な。言わぬが花ってヤツだよ。

「そしたら、大分前からお前のこと好きだったんだって分かったの。」
「嘘吐け。」
「嘘じゃないよ。…聞いて?」
「チッ…」

土方は舌打ちをしながらも俺の向かいの座イスに腰を下ろしてくれた。



「えっと…まず、屋根の上でやり合った時のことだけど……あん時お前、俺のこと斬ったじゃん?
こう、肩のとこをグサッと…」
「そうだな…」
「でも、不思議と嫌なヤツだとは思えなかった。…理由があって俺に向かってきたのが分かってたし、
その『理由』に真っ直ぐなお前が、その、まぶしかったっつーか…」
「嘘吐け…」

懐から煙草を取り出した土方の頬が、薄らと赤くなっている気がする。…いける!

「嘘じゃないって。花見ん時、私服が見れてよかったし…ていうかお前、着流しの時、前開け過ぎ。
目のやり場に困るんですけど…」
「っ…男の胸元が開いてたからって、それが何だってんだよ…」
「しょーがねェだろ…。俺は土方のことをそういう目で見てるんだから…」
「ウソつけ…」
「まだ信用してもらえない?…蚊の天人の時、初めてここに来た時はドキドキしたなァ〜…」
「………」

うーん…なかなかしぶといな…。

「一緒に映画観たこともあったよね?」
「…偶然会っただけだろ?」
「でもあの日、ちょっとデートみたいじゃなかった?メシ食って、映画観て、風呂入って…。
今思うと、何もしなかったのは勿体なかったなァとか思ったり…」
「そうかよ…」

あとひと押しってトコかな?でも、振り返ったのはここまでなんだよね…。
これ以降はアドリブでいくしかねェか…。えっと、サウナの後は………あっ、アレがあった!

「お通ちゃんが一日局長した時さァ…」
「意味不明なマスコットで業務妨害した時だな?」
「違うって〜。人質救出に協力したじゃ〜ん。」
「何が協力だ…。そもそも、お前らがいなけりゃ、一日局長は誘拐されなかったんだよ。」
「まあまあ、あん時はお前にイイトコ見せようとして空回りを…(したってことにしておこう)」
「そ、そんなん…信じられっか…」

土方の頬がまた赤く…ちょっとは信じてくれたみたいだな。よしっ、この調子でいくぞ!次は…

「九兵衛んトコ乗り込んだ時はさァ…」
「…テメーがヒトの目に皿括り付けたり、長ェこと厠に籠ってたりした時のことか?」
「あっ、うん…ごめんなさい。で、でもあの時、身を呈して新八を護ってくれたって聞いたぜ?」
「…メガネを逃がした後、あのチビにやられたけどな…」
「そ、それは、九兵衛が女だと判ったからだろ?そんなお前の優しさに俺は…」
「でもテメーはチビに勝った。」
「あー…」

ヤバイ…この話題はもう止めよう!次、次……えーっと…あっ!

「沖田くんのお姉さんが…」
「………」

うっ…これも不味かったかも。土方の表情が強張ってる。…まだ触れてほしくないのかな?俺としては
色々思うこともあるけど、土方のことをまた一つ知れて良かった的な感じに纏めようと思ったんだけど…
まあ、土方が嫌ならこの話題はさっさと終わらせよう。

「病院の屋上で煎餅を…」
「てめっ…あん時、覗いていやがったのか!?」
「あ…あー、覗くっていうか、そのー…」

やべェ!話を早く終わらせるために、最後のシーンを出したのは失敗だった!そうだよ!
あん時、土方は俺に気付いてなかったんだよ!これじゃあ俺、泣いてるとこ盗み見たヤな奴じゃん!

「え、えっとね…あん時は、その…」
「もういい。」
「ちょっ!」

土方は立ち上がって部屋から出て行こうとする。ここで別れたらお付き合いどころじゃなくなる!
俺は土方の腕を掴んで―というか、両腕で縋りつくようにして―引き止めた。

「待って!あん時は、お前が思い詰めた顔で屋上に行くから気になって…」
「ヒトを自殺志願者みたいに言うな!」
「さすがにそれはないと思ったけど…でも心配だったの!」
「心配なんかされたくねェ!」
「好きなヤツの心配して何が悪い!!」
「好きなヤツだから心配かけたくねーんだよ!!」
「………」
「………」

えっと……あれっ?俺達、かなり恥ずかしいこと言ってねェか?
腕を振り回して俺から逃れようとしていた土方も我に返ったのか、ピタリと動きを止めた。

互いにどうすればいいか分からず固まっていると、スッと襖が開いて近藤が顔を覗かせた。

「あ、あのー…トシ?できれば、その…もう少し小さい声で話してくれると…」
「こっここここ近ど…」
「ヒューヒュー…熱いよお二人さん。はい、視線はこっちー…」
「「えっ?」」

ピロリーン―近藤の後ろから携帯電話を構えた沖田くんが現れ、軽妙な電子音を鳴らしてニヤリと笑う。

「いやぁ〜、大声で好きだとか言って抱き合っちゃって…ラブラブですねィ。…ねっ、近藤さん?」
「そ、そうだな…。仲が良くて何よりなんだが…あの、仕事中のヤツらもいるから、もう少し…」
「静かにしやがれバカップルコノヤロー…。そんで、いつまで抱き合ってるんでィ。」

俺は慌てて土方から手を離した。…抱き合ってるつーか、掴まえてただけなんだけどね…。
近藤は「それじゃあ、ごゆっくり」と言い、沖田くんは腹黒い笑みを浮かべて携帯電話を操作しながら
部屋を出て行った。
土方はその間、ずっと固まったままだった。



「えっと…とりあえず、座ろっか…」
「チッ…」

物凄く不本意って顔をして、土方はさっきと同じ位置に座った。
俺は少し考えて、さっきの席―土方の向かい―ではなく、土方の左隣に座ってみた。

「おい…」
「何処に座ろうと俺の勝手だろ。それに…」
「お、おい…」

俺は土方の左腕に自分の右腕を絡める。土方は俺をじっと見詰める…というか睨み付けてるけど、
気付かないフリをして俺は正面を向いていた。

「掴まえてねェと、逃げられそうで…」
「誰が、逃げるか…」
「だってさっき…」
「チッ…」

出て行こうとしてたのを言おうとしたら、好きなヤツ発言も思い出したのか、土方はまた舌打ちして
そっぽを向いた。…こういう反応、なんかガキみたいだな。拗ねてプイって…ちょっと可愛いじゃん。

俺はもっと体を密着させて、土方の肩に頭を乗せてみた。

「そんなわけでね…銀さんは土方くんが心配なわけよ。」
「余計なお世話だ…」
「でもお前さ…あの後、妖刀に取り憑かれてヘタレになるし…」
「………」
「あん時、鉄子に『元に戻れないかもしれない』とか言われて、マジで焦ったんだぜ?
でも…お前はちゃんと戻ってくれた。」
「別に…テメーのためじゃねェよ…」
「分かってるよ…。お前は真選組が……近藤の真選組が、一番なんだろ?それでいいんだよ…。
その真っ直ぐなトコに惹かれたんだから。」
「………」

土方は咥えていた煙草を灰皿に押し付け、新しい煙草を取り出して火を付ける。
…俺が左側にくっ付いてるってのに、土方はかなり遠慮なく左腕を動かしてくれちゃって…

俺は少し体を離して―でも腕は絡めたまま―土方に言った。

「ちょっ…おい、もう少し大人しくできねェ?肘とか肩とかガンガン当たってるんですけど…」
「いつまでもひっ付いてるテメーが悪い。」
「つれねーの…。いっそのこと、土方くんの上に座ってやろうかな…」
「自慢の天パが燃えて、ますますチリチリになっても知らねーぞ…」
「ナニ今でもちょっとチリチリみたいに言ってんの?銀さんのはフワフワだからね、コレ。」
「どっちも似たようなもんだろ…」
「テメー、自分がサラツヤストレートだからって偉そうに…。銀さんのコレはハンデだから。
銀さんがストレートだったら、カッコよさが留まるところを知らなくて皆メロメロメロウだからね!」
「……じゃあ、縮毛矯正でもなんでもやって、好みの女を落とせや…」
「あれっ?また拗ねてる?可愛いなぁ〜…」

頬をちょんとつついてやったら、土方は大袈裟に腕をぶん回して俺の方を向いた。

「かかか可愛いってなんだ!」
「そうやって吃るトコも可愛いよ。」
「っざけんな!可愛いのはテメーの……あ、いや、何でもねー…」

土方は平静を装うように座り直したけど、顔は真っ赤で全然装えてねェ…。ていうかさァ…

「お前…銀さんのこと、可愛いとか思ってたワケ?」
「思ってねーよ!」
「いや…さっき、言ったよね?」
「言ってねー…」
「はいはい…。そういう意地っ張りなトコも可愛いよね、土方くんは。」
「………」
「あれぇ?今度は言ってくんないの?お前の方が可愛いよ的な台詞…」
「…ンなこと、さっきも言ってねーよ。」
「でも思ってるんでしょ?」
「…思ってねーよ。」
「ウソつき。」
「ウソじゃねーし…」
「クスッ…」
「あ?」

自分が笑われたと思ったんだろう…土方は眉間に皺を寄せて俺を見た。

「違うって…。最初と逆だなぁと思ったらちょっと楽しくなってさ…」
「最初?」
「お前がここに来た時。俺が何言ってもお前は『嘘吐け』って…。でも今、俺がウソって言って…」
「………」
「なぁ…もういいだろ?」
「…何が?」
「俺がここに来た目的、忘れちゃった?」
「……忘れて、ねェ。」
「だったら…ねっ?」
「………」
「俺と付き合うのは、いや?」
「……ぃやじゃ、ねぇ…」
「じゃあ…付き合ってくれる?」
「………」

言葉を探して目を泳がせて、でも言葉が見付からずに視線を落として…それから土方は首を縦に振って
「うん」と言った。鬼の副長が「うん」って…やっぱり、コイツの方が可愛いだろ…。ギャップ萌え?
…でも土方には、俺の方が可愛く見えてんだろ?そういう見る目のないトコも可愛いよな…。


こうして、俺と土方は晴れて恋人同士になれました。めでたしめでたし。


(11.01.18)


というわけで、土方さんの(多分銀さんも)六年越しの片想いは実を結びました。二人とも、自分が可愛い自覚はなくて、互いに「コイツ、野郎のくせに可愛いな…」とか

思っていればいいと思います^^ 私は二人とも可愛いしカッコいいしエロいと思います(エロいは余計だ…)。二人の思い出のエピソードはまだまだあるのですが、

ここでは話の流れ上、泣く泣くカットいたしました。動乱編後の振り返りはおまけにしましたので、よろしければどうぞ。