たとえ遊びでも側にいたかった


ここは銀魂保育園年中組。
園児一人一人が決められた席に座り、前に立つ担任―山崎先生―の話を聞いています。

「これからお絵描きをします。今年はうさぎ年なので、うさぎの絵を描きましょう。」
「せんせい!ぼくはうさぎより、エリザベスがかきたいです。」
「小太郎くん、あのね…」
「わたしはキoアサインサインがかきたいアル!」
「サンシoインかな?でもね、神楽ちゃんには是非ともうさぎを…」
「おれはゴセイブラoクがいいでさァ…」
「総悟くんまで…。皆が色々描きたいのは分かりました。でも、それはまた今度にしましょう。
バラ組さんもユリ組さんも皆でうさぎの絵を描いて、ホールに飾ることになっています。」

バラ組、ユリ組とは、それぞれ年長、年少組の名前です。

「わかりました。」
「わかったアル。」
「おれはいやでィ。」
「総悟くん…ミツバちゃんも今頃うさぎの絵を描いてるんだよ。」
「うさぎ、かきます!」

バラ組にいる大好きな姉と一緒ならと、総悟くんもうさぎの絵を描く気になったようです。
山崎先生はもう一人の担任―志村新八先生―と一緒に園児達に画用紙とクレヨンを配りました。

園児達は一斉に思い思いのうさぎを描いていきます。先程別のものが描きたいと言っていた園児達も
きちんとうさぎを描いているようで、先生達はホッと一安心。
…と思いきや、少し気になる絵を描いている子を山崎先生は見付けました。

「あの…十四郎くん?それは、何かな?」
「マヨネーズ。」

ああ、やっぱり…と、山崎先生は思いました。

「十四郎くん、今日はうさぎを描くんだよ?」
「ぼくはマヨネーズがすきです。」
「うん…それは分かってるよ。でも今は、皆でうさぎの絵を描く時間なんだ。もう一枚紙をあげるから
こっちにうさぎを描いてごらん?」

山崎先生は十四郎くんの画用紙を新しいものと交換しました。
すると、十四郎くんの目からボロボロと涙が零れました。

「マヨネ…ズ……」
「ああ…ごめんね、十四郎く痛っ!!」

山崎先生の背中に何かがぶつかりました。

「ジミーてめぇ!よくも、とうしろうをなかせたな!」

山崎先生の背中に当たったのは十四郎くんの隣に座っていた銀時くんでした。仲良しの十四郎くんが
泣かされた仇打ちにと、山崎先生の背中に体当たりしたのです。更に攻撃を加えようとする銀時くんを
新八先生が抱え上げました。

「はなせ〜!」
「銀時くん…山崎先生はちゃんと十四郎くんに『ごめんなさい』したよ。」
「えっ?」

新八先生の腕の中で暴れていた銀時くんの動きがぴたりと止まりました。
「ごめんなさい」と言われたら「いいよ」と言って許す―銀時くんが四年間の人生で学んだことです。

「とうしろう…ごめんなさいっていわれた?」
「うん。」
「ねっ?じゃあ、銀時くんも山崎先生にごめんなさいしよう?」
「…ごめんなさい。」

銀時くんは渋々、山崎先生に謝りました。山崎先生は笑顔で「いいよ」と言ってくれます。
けれど、これで万事解決したわけではありません。

「ジミー、とうしろうのえ、かえせよ。」
「別に取ったわけじゃないよ。でも、まずはうさぎを…」
「ケチケチすんなよ。とうしろうはマヨネーズがだいすきなんだ。」
「いや、だからね…」
「おれだってイチゴかいたし!」

銀時くんは誇らしげに自分の絵を見せました。新八先生がすぐに新しい紙を持ってきます。

「銀時くん、次はうさぎを描こう?十四郎くんも、銀時くんと一緒なら描くでしょ?」
「しかたねーな…。とうしろう、いっしょにかこう?」
「おれ、マヨネーズがいい。」

銀時くんの誘いにも乗らず、十四郎くんは頑なに黄色いクレヨンを握り締めています。

「そうだ!とうしろう…マヨネーズうさぎにしようぜ!」
「マヨネーズうさぎ?」
「おれもイチゴうさぎにするから!」

そう言って銀時くんは先程のイチゴの絵にうさぎの耳のようなものを描き加えました。

「できたっ!…ほら、とうしろうも、かいて。」
「う、うん…」

十四郎くんもマヨネーズの絵を完成させてから、銀時くんを真似てうさぎの耳を描き加えました。
先生達も個性的な「うさぎ」を認めてくれたようです。
「マヨネーズ」「イチゴ」と本人が言っているとはいえ、彼らの描くそれは黄色の丸と赤の丸。
そこにうさぎの耳のようなものを描き足せば、黄色いうさぎと赤いうさぎに見えなくもありません。
他にも、緑色や紫色を使い独自の感性でうさぎを描く子もいました。

*  *  *  *  *

五時半頃、お迎えの遅い延長保育組は皆、教室からホールに移動します。
銀時くんは廊下を歩きながら十四郎くんに尋ねます。

「ねえ、とうしろう…きょうは、なんじがえり?」
「7じがえり。」
「よかった!おれも7じがえりだから、いっしょにかえろ。」
「いいよ。」

この保育園は夜の八時十五分まで利用できますが、今日は二人とも七時頃お迎えのようです。
十四郎くんと一緒に帰れることが分かり、銀時くんは嬉しそうにホールへ向かいました。

ホールの壁には今日、幼児組(三〜五歳児)の皆が描いたうさぎの絵が貼ってありました。
自分の絵を見付けた銀時くんは、いきなり山崎先生に突進しました。

「ぐへっ…ちょっ、銀時くん、何するの!」
「なんであんなトコにはったんだよ!ジミーのバカ!」
「銀時くん、バカなんて言葉は使っちゃダメでしょ。」
「バカバカバカバカバカ…」
「銀時くん!」
「せんせー…」

十四郎くんもやって来て、山崎先生のエプロンを引っ張りました。

「十四郎くん、ちょっと待っててね。今、銀時くんとお話してるから…」
「ジミーのバ〜〜カ!」
「銀時くん!気に入らないことがあるからって、バカなんて言っちゃいけません。それから
何度も言ってるけど、先生の名前は山崎退で、ジミーじゃありません。」
「せんせー…」
「十四郎くん、ごめんね。もう少し待っててくれる?」

待ち草臥れたのか、十四郎くんは勝手に話し始めます。

「マヨネーズうさぎ、とって。」
「えっ?十四郎くんの描いた絵?あの絵は暫く貼っておくんだよ。」
「やだ。とって。」
「やだって…」
「おれのイチゴうさぎもとれ!あんなトコにはるな!」
「だからあの絵は…」
「どうしたんだィ?」

声を掛けたのは園長のお登勢先生。

「実は…この子たちが絵を取ってほしいと…」
「絵って、今日描いたうさぎかい?」
「はい…」

お登勢園長は銀時くんと十四郎くんの前にしゃがみました。

「あそこに貼るのはダメなのかい?」
「だめ!」

銀時くんがハッキリと答えました。

「じゃあ、どこならいいんだィ?」
「あっち!」

銀時くんは斜め上を指差しましたが、先生達にはイマイチ伝わりません。
お登勢園長は銀時くんを抱いて指を差した方向へ歩きます。
その後ろを山崎先生と十四郎くんもついていきました。

四人が壁の前に来た時、銀時くんが「ここ!」と言いました。けれどそこは皆の絵が―もちろん
銀時くんの絵も―貼ってある場所です。

「ちゃんと貼ってあるじゃないかィ。」
「ちがう〜!」
「えんちょーせんせー…」

これまで黙っていた十四郎くんが園長先生を呼びました。

「何だい?」
「あのね…となりがいいです。」
「隣?」
「あっ、もしかして…二人の絵を隣同士に貼ってほしいってこと?」
「はい。」
「…アンタもそれがいいのかィ?」
「うん!」

お登勢園長が腕の中の銀時くんに聞くと、銀時くんは笑顔で頷きました。

それから、山崎先生は二人の絵を隣同士に貼り直してくれました。

*  *  *  *  *

「…ということがあったんですよ。」

山崎先生はお迎えに来た銀時くんのお父さんに今日あったことを話しました。

「ハハハ…そうでしたか。ご迷惑をお掛けしました。」
「いえ…。でも、本当に仲が良いですね。他の子と遊ばないわけじゃないんですけど…」
「銀時にとって、十四郎くんはヒーローみたいな存在ですからね。」
「えっ?逆じゃないんですか?」

十四郎くんに何かあると、銀時くんはいつも全力疾走で駆け付けていました。

「山崎先生は、今年からこの保育園に来たんでしたね?」
「ええ。」
「去年…銀時は一つ上のクラスの子に、髪が変だって言われたんですよ。」
「そうなんですか?」
「その子に悪気はなかったんだと思います。珍しいのは事実ですから…」
「はあ…」

銀髪の天然パーマ―確かに日本の保育園では滅多に見ることができません。

「その時、近くにいた子達も口々に変だと言って…銀時自身、周りとの違いに気付き始めた
時期でしたから、落ち込んでしまってね…。先生方もフォローしてくださったのですが…」

子どもには、大人の立ち入れない子どもだけの社会があることを山崎先生は知っています。
どんなに大人が否定しても、子どもが「変だ」と言えば「変」になってしまうこともあるのです。

「銀時くん…辛かったでしょうね…。」
「そこで、ヒーローの登場ですよ。泣きながら教室に戻った銀時に、十四郎くんが駆け寄ってきて
くれて…あの子はいつもそうなんでしょう?」
「そうですね。十四郎くんは優しいので、泣いてる子を見付けるとすぐに来てくれますよ。
…あっ、十四郎くんが泣いた時は銀時くんが真っ先に駆け付けてます。」
「そうですか…。銀時はあの時、駆け寄ってきてくれた十四郎くんに、自分の髪が変かどうか
聞いたそうです。そしたら十四郎くん、何て言ったと思います?」
「…何て言ったんですか?」
「ふわふわでキラキラでカッコイイ、だそうです。」
「へぇ…」
「十四郎くんの言葉をきっかけに、銀時の髪はカッコイイということになったみたいです。」
「そんなことがあったんですか…」
「だから、銀時にとって十四郎くんは特別なんです。いつだって、側にいたいんですよ。」

そんな話をしていると、銀時くんと十四郎くんが手を繋いでやって来ました。
十四郎くんのお迎えがまだ来ていないので、銀時くんは帰りの支度をせず遊んでいるのです。

「ぎんときのおとうさん、こんばんは。」
「こんばんは。いつも銀時と遊んでくれてありがとう。」
「どういたしまして。…ぎんとき、これでいいのか?」
「うん。」
「…ほんとうにこれで、けっこんできるのか?」
「そうだよ。」
「なんだ…銀時は十四郎くんと結婚するのか?」
「うん!だからあとで、とうしろうのおかあさんにも、あいさつするんだ。」
「ハハッ、そうか…。さっきの『こんばんは』は結婚の挨拶のつもりだったのか〜。」
「けっこんしたいときは、おとうさんとおかあさんに、あいさつするんだよ。」
「よく知ってるなぁ…」
「…あっ、とうしろうのおかあさんきた!いこう!」
「うん!」

十四郎くんのお母さんの姿を確認し、二人は手を繋いで走って行きました。
そして今度は銀時くんが「こんばんは」と挨拶をします。
山崎先生は二人の将来が心配になり、銀時くんのお父さんに尋ねました。

「あの…いいんですか?」
「何がですか?」
「いや、銀時くん…十四郎くんと結婚するって…」
「あんなに楽しそうなんですからいいんですよ。…ねえ、十四郎くんのお母さん?」
「あら、今の挨拶はそういうことだったんですか?」
「ええ。銀時のヤツ、結婚したい時は親に挨拶するってどこかで覚えてきたらしくて…」
「そうでしたか。…銀時くん、十四郎とずっと仲良くしてね。」
「うん!」

常識人・山崎先生の心配をよそに、二人の保護者達は「結婚といえば誓いのキスだ」などと
息子達を焚き付け、息子が男の子とキスするところを携帯電話で撮影していました。



*  *  *  *  *



「…で、そん時のムービーがこれ?こんな古いデータ、よく残ってたな…」
「母さん、アルバムとか作るの好きだからな…」
「十四郎も俺もちっちぇーな…。でもよ、何で今更こんな動画、十四郎にメールして来たんだ?」
「さあな…。何か気付いたんじゃねェの?」
「卒業したら一緒に暮らそうとしてるってことを?」
「そこまで具体的かは分かんねェけど…つーか銀時、テメーは本当に卒業できんだろーな?
何で未だに一般教養受けてんだよ…。フツー、四年になったら卒論くらいで…」
「大丈夫だって。ちゃーんと単位とって、十四郎のご両親に挨拶するからさっ。」
「挨拶っつっても『こんばんは』じゃねーぞ。」
「ハハハ…分かってるって。…ていうか、その前にプロポーズとかしなくていいわけ?俺達、
当たり前のように一緒に住む計画立ててたけどさァ…」
「…してほしいなら考えてあるぞ。」
「あっ、待って!俺も考えてんのがあるから言いたい!…でも、十四郎のも聞きたいなぁ…」
「じゃあ、同時に言ってみるか?」
「うん。…せーの!」



ずっと側にいてください


(11.01.10)


切ないお題だけど切なくない話第二弾は園児パロ(幼馴染)です。お題の「遊び」を本当の遊びにしてみました^^ …そんなことより、背景画像が気になって

本文に集中できませんよね^^; 私、どこまでうさマヨを推すつもりなんだろう…。世間(?)では「うさぎんとき」なる可愛い生き物が登場しているというのに…。

せめて、通常の銀&土アイコンにうさ耳生やせばいいんだと思うのですが、今更そんなことしても面白くない気がして…悪い癖です^^; 園児のままで終わっても

良かったのですが、ちゃんとくっ付けたい思いもあり、最後は大学生になってもらいました。二人が正式にお付き合いしたのは中学生くらいからで、その頃には

男同士がマイノリティだと分かっているので、親には内緒で付き合ってたんだと思います。でも実際にはバレてたという…後書きで本文の補足してすみません。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 

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