※切ない15の恋物語「好きになってはいけない人だった」の続きです。
白夜叉の引退と桂の逮捕を受け、警察組織トップの松平片栗虎は褒美を届けるため真選組屯所を訪れた。
隊士達を一堂に集め、近藤が代表して褒美の品を受け取る。
「ぃよ〜くやった近藤…。ターミナル爆破を阻止し、桂を捕え…俺も上司として鼻が高い。」
「今回の件はトシの功績が大きいんだ、とっつぁん。トシが坂田を改心させることに成功して…」
「そ〜だったな。トシ…お前の愛の力で白夜叉は正義に目覚めたそうじゃないか…よくやった。」
「…は?」
「総悟の報告書に書いてあったぞ。お前が白夜叉の手を取り『江戸のために力を貸してくれ』と言うと
白夜叉は頬を染めて頷き、それから二人は熱〜いキッスを…」
「待ってくれ、とっつぁん!その報告書は間違いだ!」
「そんなことありやせん。俺ァ見たままを書いただけでさァ。」
「嘘吐け!俺とアイツは…」
「まあまあ…細かいことはいいじゃないか。トシの影響で坂田がテロ活動を止めたのは確かだし、
とっつぁんも、わざわざこうして褒めに来てくれたわけだし…なっ、トシ。」
「…そもそも近藤さん、何で総悟の報告書をそのまま上に持ってったんだ?訂正させろよ…」
「俺はその場にいなかったから、てっきり報告書通りのやりとりがあったんだとばかり…」
「ンなわけねーだろ…」
疑うことを知らない上司と、土方を困らせる時にだけ一所懸命になる部下…二人の間に挟まれて土方は
溜息を吐かない日はなかった。
結局、松平は土方と坂田の関係を誤解したまま帰って行ってしまった。
この想いを告げるには近すぎて
「こんにちはー。土方くんいますか〜?」
武装警察真選組屯所。そんな物騒な門前で、まるで友人の家へ遊びに来たような呑気な声で鬼の副長を
呼ぶ男―坂田銀時。なぜかバドミントンラケットを持って門番していた山崎は、呆れ顔で応対する。
坂田は二日に一度は土方に会いに来ている。
最初の方は微笑ましく見守っていた隊士達であったが、一応容疑は晴れたとはいえ、元指名手配犯の
坂田がこうも頻繁に出入りしていいものかと疑問視する者も出て来ていた。…土方もその一人である。
ただし土方の場合、半分は坂田の身を案じてのことであった。攘夷活動を止めてしまった坂田が
大人しく一般市民として暮らしているならまだしも、攘夷浪士の敵である真選組と深く関わっていると
思われれば、裏切り者として攻撃を受けるかもしれない。
そのような理由から土方は、何度も坂田と話をしているのだが、坂田は構わず会いに来ていた。
「あの…何度も言ってますけど、ここは警察なんで、そんな気軽に来るところじゃ…」
「大丈夫大丈夫。土方くんにも言われたけど、俺が好きで来てるんだから。」
「…副長なら今いないですよ。そういえば、電話するって言ってたような…」
「マジ!?じゃあ、すぐ帰んなきゃ!」
坂田は全速力で元来た道を戻って行った。
「副長ー…さっき、坂田が来てましたよ。」
「アイツまた…」
山崎から報告を受け、土方は溜息交じりにタバコの煙を吐き出した。
上司と部下に加え、最近は坂田の行動も溜息の種となっていた。
「…で?」
「副長は不在だと言っておきました。」
「それでよく引き下がったな。」
「副長が電話をするかもしれないと言ったら、飛んで帰りましたよ。」
「なるほど…。アイツ、携帯持ってねぇからな…今度からその手で行くか。」
「はい。」
「だがこれで、アイツに電話をしなきゃいけなくなったな…」
「長時間ここに留まられるよりはいいでしょ?それに…」
山崎は思わせぶりに「溜め」を作る。
「どうせこの後、会うつもりなんでしょ?だったら『今から行く』って電話するくらいいいじゃないですか
。」
「チッ…余計な勘を働かせんじゃねぇ。」
「図星だからって睨まないでくださいよ。最近の副長、休みの度にかぶき町行ってるんですから、
誰でも分かりますって。」
「〜〜っ!」
「付き合ってるんですか?」
「いや…」
「別に俺、副長の恋人が男だからって偏見ないんで安心して下さいよ。あそこまで真っ直ぐに好かれたら
絆されても仕方ないですよね。」
「だから違うって…」
「またまたァ…。坂田だって、副長に言われたから頑張って働いてるんでしょ?
結構評判いいみたいですよ、万事屋銀ちゃん。」
万事屋銀ちゃんとは、坂田がかぶき町に開いた何でも屋だということは説明するまでもないだろう。
坂田は桂ら攘夷浪士達と決別したため、宿なしの文なしになってしまった。そのため土方は、重要参考人の
勾留という名目で坂田を取調室に住まわせ、副長室の掃除などの「バイト」をさせていた。
そのうち他の隊士達からも雑用を頼まれるようになり、掃除や洗濯、食事の買い出しなどはもちろんのこと
、
簡単な補修工事まで手掛けるようになっていった。
坂田の器用さと一つのことは続かない飽きっぽさから土方は、何でも屋を開業したらどうかと
提案するのだが、初めのうち坂田はあまり乗り気ではなかった。何でも屋をするからには当然、
屯所を出て行かなくてはならない。そのための資金は屯所内での雑務で貯まっているものの、
土方と毎日は一緒にいられなくなるのが坂田にとって辛かった。
けれど結局、「一人前になった姿を見たい」と土方に言われ、坂田は自立を決意し、今に至る。
「そんなわけで、一人前になったから付き合い始めたんでしょ?」
「付き合ってねーよ。…何度も言わせんじゃねぇ。」
「…本当に付き合ってないんですか?」
「ああ。」
土方は面倒くさそうに返事をする。
「何で、付き合わないんですか?」
「……さあな。」
「分からないってことは、付き合ってもいいくらいには想ってるんですよね?」
「かもしれないが…別に、今の関係で不満もねぇんだ。」
「…一緒にいて、楽しいですか?」
「そうだな…」
「まっ、副長がそれでいいならいいんですけど。…真選組以外の友達って初めてじゃないですか?」
「るせェ…」
「ハハッ…じゃあ俺は仕事に戻ります。」
山崎は仕事に戻り、土方は坂田の自宅兼事務所へ電話を入れてからかぶき町へ出掛けた。
* * * * *
「いらっしゃ〜い。…電話ありがと。」
「おう。」
万事屋を訪れた土方を、坂田は満面の笑みで迎え入れる。
土方が事務所の長イスに腰掛ければ、さっと灰皿が出て来るので、そこへとんとんと灰を落とす。
そうしているうちに坂田が台所で二人分の茶を入れて運んでくる。
もうすっかりお決まりのパターンになっていた。
二人は向かい合って座り茶を啜る。
「万事屋の仕事、評判いいみたいだな。」
「そうでもないよ。…土方くんは相変わらず忙しいみたいね。ちょっと痩せたんじゃない?」
「そうか…?」
「そうだよ。土方くんって、自分のことに無頓着なトコがあるから心配で…」
「…オメーはヒトのことなのによく気付くよな。」
「土方くんだからだよ。…好きな人のことは、よく見てるからよく分かる。」
真っ直ぐに見詰められ、居たたまれなくなった土方がふいと視線を逸らすと、坂田はふっと微笑み
土方の隣―逸らした視線の方―へ移動する。
「―っ!」
「やっぱり痩せてる…」
坂田の腕が土方の腰に回った。
「忙しくても、ちゃんと食べなきゃダメだよ。」
「…おう。」
他の人に言われたら「余計なお世話だ」などと感じるところであるが、坂田の言葉は不思議と素直に
受け入れられる。おそらく百パーセント善意で言っていることが分かるからであろう。
「好きな人には、いつも元気でいてほしいからね。」
「おう…」
坂田はこのようにして土方への好意をことあるごとに伝えているが、土方はそれに対して何もしない。
肩や腰を抱かれても抵抗はしないが、かといって坂田はそれ以上のことをするわけでもない。
坂田が迫ってきたら拒むつもりはないが、それを望んでいるのかと問われれば首を傾げてしまう。
自分がどうしたいのか、土方はよく分かっていなかった。
(俺も腕を回したら、コイツは喜ぶんだろうか…)
ものは試しと土方は坂田の腰に腕を回した。
「ひ、土方くん?」
これまでにない土方の行動に、坂田は動揺を隠しきれない。
「どうした?」
「どうしたって、それはこっちの台詞…」
「…何が?」
土方は悪戯っ子のような笑みを浮かべて坂田の髪に頬に触れる。
「…もしかして、俺をからかってる?そういう悪い子にはチュウしちゃうぞ。」
「………」
言われて土方は坂田の唇をじっと見詰める。
「ちょっ…冗談だって!冗談だからそんなに見ないでよ。恥ずかしいなぁ…」
(コイツの口って…)
「あの、土方くん…?何でさっきから黙ってんの?…怒ってりゅ!?」
何の前置きもせず、坂田が言い終わらぬうちに土方は坂田を引き寄せて唇同士を合わせた。
突如重なった唇に坂田は目を見開いたまま固まってしまう。
(何コレ何コレ何コレぇぇぇぇ!!土方くんとチュウしてるよ今!!)
「おい…」
「えっ?」
いつの間にか唇は離れていて、それでも至近距離に土方の顔があり、坂田は身体中が熱くなるのを感じた。
「目くらい瞑れ。」
「あっ、ゴメン。…じゃなくて、なんっ!!」
再び言葉の途中で唇が押し付けられ、坂田は言われた通りに目を閉じるしかなかった。
(土方くんは悪戯や嫌がらせでこういうことする子じゃないし…だとしたら、いいってことかな?)
坂田は舌を伸ばして土方の唇をぺろっと舐めてみた。
「っ!!」
漸く我に返った土方は坂田の肩を押して距離を取る。
「…これ以上はダメなの?」
「ダメじゃねえ、けど…」
「だったら…ね?」
(くそっ…)
土方は再び距離を詰めてくる坂田の襟首を掴んで引き寄せ、二人の距離はまたゼロになった。
今度はすんなりと坂田の舌を受け入れ、二人は深く深く口付けを交わす。
(次離れた時に好きだって言えばいいか…。吸い付きたくなるような口してる坂田が悪い。)
全ての責任を転嫁し、土方は坂田との口付けに酔いしれていく。
こうして、敵同士だった二人は今日、恋人同士となった。
(11.06.01)
このお題更新するの4ヶ月ぶりなんですね!楽しみにしている方がいらっしゃいましたらすみませんでした。前作を書いた時に「続きが見たい」というコメントをありがたくもいただきまして
続きを書くことにしました。普通にパラレル倉庫へ上げようかとも思ったのですが、いい感じのお題があったのでそれに沿った内容にしてみました。冒頭のシーンもいただいたコメントから。
「沖田の書いた報告書を近藤さんやとっつぁんが見たら楽しい」みたいなことを言って下さったので^^ キスしてるせいで告白できない土方さんと、言われなくても分かってる銀さんの話、
楽しんでいただけましたら幸いです。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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