※あまり暗い感じではないですが、悪魔が人間を死に至らしめます。
※死ぬのは銀魂キャラではなく、名もなき人です。
以上をお読みになり、大丈夫と思われた方のみお進み下さい↓
ここは天の国。ここに暮らす天使達は今日も幸せを振りまくため、地上に舞い降ります。
しかし、そんな天使の役目を全く果たそうとしない者がおりました。
その天使の名は銀時。
あまりにも天使の仕事をしないため、銀時は遂に大天使様に呼ばれてしまいました。
禁断の関係その八:天・地
「銀時〜、おんし、真面目に働くぜよ〜」
大天使様の第一声を受け、銀時はその場に崩れ落ちました。
「おまっ、辰馬ァ!?何でオメーが大天使なんだよ!ここはお登勢のババァとか、松陽先生だろーが!
よし、今すぐ松陽先生と交代しろ!あの人こそ大天使に相応しい!」
「アッハッハッハ…仕方ないぜよ。天使といえば天パじゃと、誰かが言っちょった」
「誰かって誰だよ」
「それは秘密じゃ〜」
「…そんなアホなこと言うの、どーせ管理人だろ?ったく、それだったら俺を大天使にしろっつーの!
使えねェ管理人だぜ」
こうして銀時は馬車馬のように働き、地上に―特に銀魂ファンサイトを運営している管理人に―
ありったけの幸福を振りまくのでした。めでたし、めでたし。
「おいぃぃぃっ!何だ今のナレーション!何が『こうして銀時は…』だよ!全然こうしてねェよ!」
「銀時おんし、神様を怒らせちゃいかんぜよ」
「神様って管理人か!?っざけんなよ!アイツ、どさくさに紛れて自分が一番幸せになろうとしたぜ?
あんなヤツ、神様じゃねーだろ!」
「いやいや…最上位の神様は『読者が神様』と言うちょる。つまり、管理人さんも神様ぜよ」
「最上位の神って…原作者か?ていうか、随分神様いっぱいだな。
…あれっ?じゃあ天使ってあんまり偉くねェの?」
銀時は遂に、自分が天の国で最下層に位置することに気付きました。
「またムカつくナレーションを…」
「まあまあ、とにかくおんしゃ、真面目に働くぜよ」
「幸せってのはなァ…人それぞれ違うもんなんだよ。
小さなことから幸せを見出せる人間が一番幸せなヤツだと、俺は思うね」
自分が働きたくないばかりに、銀時は尤もらしいことを言って役目から逃れようとします。
ですが、大天使様がそれを許すはずがありません。
「おんしの言う、小さなことから幸せを見出す力を与えるのが天使の役目ぜよ」
「えっ、そうなの?」
「そうじゃ。おんしも持っておるエンジェルステッキを人間の頭上で振ると
その人間の幸せを見出す力が上がるっちゅー仕組みじゃ」
「つまり…実際には何も変わらないけど、幸せを感じやすくなるってこと?
もっとこう…ステッキを振ると大金が手に入るとか、そんなんじゃねェの?」
「アッハッハッハ…そんなことができたら魔法使いぜよ〜」
「つっまんねーの!何だよ、その地味な能力。俺、主人公やってる身だから、もっと派手じゃねーと…」
原作で必殺技の一つもないくせに、随分と贅沢なことを言っていますね。
「ナレーションうぜェェェ!!さっきから何だよ…俺に対して悪意のあるナレーションしやがって!
ていうか、今更だけどいつもと口調が違わね?何これ?丁寧語にして児童書気取りか?
こんなもんガキが読むかよ。ていうか、誰も読まねーよ!バーカ、バーカ!」
全く働かない銀時は、大天使様にボコボコにされて地上へ送り出されたのでした(笑)
* * * * *
「チクショー、辰馬の野郎…ていうか、管理人の野郎!何でボコボコにされなきゃなんねェんだよ…。
あー、仕方ねェ…いったん降りるとノルマ達成するまで戻れねェし、仕事すっか…」
やっとのことで銀時がやる気を出すと、どこからともなくエンジェルステッキが現れました。
「…これがエンジェルステッキ?ただ、白い棒に厚紙で作った星貼っただけじゃねーか…学芸会の小道具?」
銀時はまたしても余計なことを言ってしまいました。
文字だけのこの世界、銀時さえ黙っていれば、皆が勝手に素晴らしいステッキを想像してくれたでしょうに…
これからも銀時には様々な試練が降り注ぐことでしょう。
「ちょっと待て!いい加減もう普通に話進めようぜ?俺も真面目にやるから、なっ?」
………銀時は辺りを飛び回り、不幸そうな人間を探すことにしました。
「そうそう、そんな感じで……おっ、あの女にしよう!」
銀時が見付けたのは髪の長いメガネをかけた女性。彼女は意中の男性に振り向いてもらえず悩んでいるようです。
彼女は物陰からそっと意中の相手を見ています。銀時は彼女の頭上でステッキを振りました。
…言い忘れていましたが、天使の姿は人間には見えていません。
彼女は再び意中の相手に想いを伝えましたが、断られてしまいました。
しかし何故だか彼女は嬉しそうです。「もっと私を蔑むがいいわ!」などと言っているのが聞こえます。
どうやらMに目覚めたようです。これで何度フられても大丈夫ですね。
「…こんなんでいいのか?まあ、幸せそうだからいいか…」
相手の男性は迷惑そうにしていますが、そこは一先ず目を瞑り、銀時は次のターゲットを探します。
「せっかくだから病院とか行ってみっか。病気は治せねェけど…病は気からって言うもんな」
急にまともなことを言い出した銀時…天変地異の前触れでしょうか?
「るせェよ。俺だってやるからには真面目にやるっつーの!」
銀時は近くの総合病院へ飛んで行きました。
* * * * *
「あれっ…なんか変なヤツがいる」
銀時が病院に着くと、そこには妙な格好をした者がおりました。
黒のスーツに黒のネクタイは喪服のようにも見えますが、頭には二本の触覚のようなもの、
背中からは黒い羽が生えています。そして何よりも異様なのはその者の大きさです。銀時の掌ほどしかないのです。
銀時は人間の大人と同じくらいの大きさですから、その者が如何に小さいか分かりますね。
「なんだアイツ…人間にしちゃあ小さすぎるな…」
銀時がじっと見ていると、その者がこちらを見て目を丸くしました。
人間には銀時が見えないはずです。けれどその者は真っ直ぐ銀時に向かって来ます。
「お前…天使だな?」
「…そういうお前は誰だ?俺のことが見えるってことは人間じゃねェのか?」
「アホかっ!こんな小さな人間がいるわけねーだろ!…どうやら俺を退治しに来たってわけじゃなさそうだな」
「退治?…あっ!お前、悪魔か!?」
「気付くの遅ェよ…」
「悪魔って随分小せェんだな…。あっ、俺、銀時。ヨロシクね」
「…天使によろしくされてたまるか」
「名前くらい教えてくれたっていいじゃん」
「誰が名乗るか」
「じゃあお前のこと、小悪魔ちゃんって呼ぶことにするね」
「誰が小悪魔だ!俺は十四郎だ!…あっ」
どうやらこの者は十四郎という名の悪魔のようです。
悪魔とは、言うまでもなく天使と真逆の、人々に不幸を振りまく存在です。
そして、この悪魔を見張るのも天使の役割の一つなのです。
「悪魔は見付けたら天の国に連れ帰るのが決まりなんだよねー」
「けっ…一目で俺の正体が分からないようなマヌケに、俺が捕まるとでも思ってんのか?
…俺は何としてでも地の国に帰ってやるんだ!」
「あっ、帰るの?ならいいや…じゃあねー」
「お、おい…お前、本気で言っているのか?」
「だから帰るんでしょ?人間を不幸にするなら立場上、止めなきゃなんないけど…帰るならいいじゃん」
「お前、何も分かっていないんだな。…新人か?」
「新人じゃねェけど…まあ、勉強とかは嫌いだから、天使に必要な知識とやらはほとんどねェよ」
「ハァー…そんなんでよく今までやってこれたな…」
「ハハハ…俺、今まであんまりこっち来てなかったんだよね〜。だってノルマ達成しねェと戻れないんだぜ?」
「…当然だろ」
「あれっ?もしかして悪魔にもノルマあんの?」
「…ああ」
銀時は初めて知る悪魔の生態に、天使であることも忘れて興味津々です。
「それってやっぱ厳しいの?ちなみに天使は、百人幸せにしねェと帰れないんだ…かなり厳しくね?」
「俺達悪魔は…一人の人間を不幸にすればいい。だから、早いヤツなら数秒で終わる」
「えー、いいなァ。俺も悪魔に生まれりゃよかった」
「お前、本気で言ってるのか?天使のくせに…人が不幸になってもいいって言うのか?」
「不幸になっていいわけじゃねェけど…」
「しかも、一年に一人は不幸にしねェとテメーの存在がなくなっちまう…」
「そうなのかァ…それはちょっと大変だな。…あっ、でも、数秒で終われば、あとは一年間寝ててもいいってこと?」
「…まあな。何人も不幸に出来れば、その分だけ地の国に長くいられる」
「それは魅力だな」
頑張った分だけ休めるというのは、銀時にとって非常に魅力的に思えました。
「ちなみに、十四郎は人間界に来てどのくらい?」
「……十一ヶ月と二十九日」
「おいおい…まさかとは思うが、まだ誰も不幸にしてねェのか?」
「そうだ…。魔力が尽きかけてるせいで、俺はこんな小さくなっちまってる」
「マジでか…。お前、ナニのんびりしてんの?早くしないと死んじまうんだろ?
その辺のヤツ、ちょちょっと不幸にしちゃえよ。…あの医者なんてどうだ?
女にモテそうな顔(ツラ)してるし、医者だから金持ちだろうし、少しくらい不幸にしても…」
銀時の発言はとても天使とは思えません。そんな銀時に、悪魔の十四郎は戸惑っているようです。
「…お前はあの医者が死んでもいいヤツだと思うか?」
「へっ?」
「俺達の言う不幸ってのは『死』を意味する」
「えっと…つまり、一年に最低一人は殺さねェとダメってこと?」
「ああ…。ってことで、たった一日捕えておくだけで俺は死ぬ。そしたらお前の手柄になるぜ。
人間を百人幸せにしなくても、楽に天の国へ戻れるんじゃねェか?…良かったな」
「お前、死ぬつもりなのか?」
銀時には目の前の悪魔が役目を果たすとは思えませんでした。
けれど十四郎は首を横に振ります。
「捕らえられたら仕方ねェが、自ら死を選ぶつもりはねェ。それならこんなに長く生きてねェよ」
「お前…何歳?」
「…千と四十六歳だ」
「千んんん!?俺の三倍以上生きてんのかよ…」
「…それだけ人間を殺してきたってことだ」
「でも…仕方ねェじゃねーか。そうしねェとお前が死んじゃうんだもん」
「………」
その時、二人の横をベッドが通り過ぎました。ベッドには老人が苦しそうに横たわっています。
病気が悪化し、これから緊急手術が行われるようです。
銀時は閃きました。
「あのジィさんにしよう!」
「は?お前、何言って…」
銀時は十四郎を片手でつまみ上げて手術室に向かいます。
「あのジィさんなら長くはもたねェ。だったらいいだろ?」
「そういう問題じゃ…」
「ジィさんだってただ死ぬより、誰かのために死ぬ方がいいに決まってる」
「悪魔のために死ぬなんて嫌に決まってんだろ!離せ!」
「いいから早くやれよ!そしたらジィさんはお前の命になれるんだぞ!」
「それでもダメだっ!この人を大切に思ってる人が大勢いる…」
「えっ…」
十四郎に言われて銀時が見てみると、手術室の前には沢山の人が集まっていました。
恐らく、この老人の家族や友人達でしょう。
「分かっただろ?俺はこんなに大勢の人を悲しませるつもりはねェ」
「…だったら凶悪犯とかは?刑務所行くか?」
「それもダメだ。どんな悪人にだって、必ずそいつを護りたいと思う人間がいるもんなんだ。
だから俺は、一人でひっそりと息を引き取るような、そんな人間を探してるんだ」
「………」
十四郎の行いは正しいと銀時は思いました。
けれど銀時は、十四郎に生きてほしいとも思います。そこで銀時はある賭けに出ることを決めました。
「やっぱりお前、あのジィさんにしろ」
「だからそれは…」
「大丈夫。…お前と一緒に、俺も力を使う」
「…そしたら、俺の力が打ち消されるだけじゃねェのか?」
「俺の…天使の力は、気の持ちようを変えるだけだ。ジィさんが死ぬのは変えられねェ。
でも俺が力を使えば、遺された人達はジィさんが死んでも幸せを感じられる」
「…人が死んで、幸せに思えるワケねェだろ」
「大丈夫!俺を信じろ!」
銀時にも確証はありませんでした。けれど、こうでも言わなければ心優しい悪魔は死んでしまいます。
「しかし…」
「ヤバイ!医者達が慌ててる!ジィさんもすげェ苦しそう!十四郎、早く!」
「いや…」
「もういい!俺がやる!…この楊枝みてェな杖を振り回せばいいんだな?」
「ちょっ…」
銀時は十四郎の腰に下がっていた杖を取り、老人に向かって十四郎ごと振り回しました。
老人は息を引き取りました。
その瞬間、銀時の手の中にいた十四郎が一気に大きくなりました。背丈は銀時と同じくらいです。
残り僅かな人間の寿命が、悪魔を救ったのです。
本来の大きさに戻った十四郎を見て、銀時は呼吸が止まるかと思いました。
黒い艶やかな髪に憂いを秘めた瞳、すらりと伸びた手足に大きな黒い翼。
天の国にいるどの天使よりも美しいと感じました。
十四郎は元に戻ったことが判ると、慌てて銀時の肩を掴みました。
「早くしろ!」
「えっ、なにが?」
「何がじゃねーよ!お前、天使の力を使うんだろ!早く!医者が家族の元に行く前に!」
「あ、ああ…そうだった」
銀時はその場にいる全員が幸せになれるようにと願いながら、院内を飛び回ってステッキを振りました。
それから、老人の手術をした医師が家族の元に行きました。
医師の話を聞き、集まっていた人達は老人の横たわるベッドへ駆け寄り涙を流します。
(やっぱり、この状況で幸せにすることはできなかったか…)
銀時がそう思った時、老人の孫らしい幼い女の子が言いました。
「おじいちゃん、笑ってるね」
涙を流していた大人達はその言葉にハッとなります。銀時も改めて老人の顔を見てみました。
確かに、女の子の言うように老人は微笑んでいるように見えます。
女の子の母親らしき女性がいいます。
「おじいちゃん、ずっと病気で苦しんでいたものね。漸く苦しみから解放されたんだわ…」
「おじいちゃんはこれから天国に行くの?」
「そうね。皆のことを見守りながら、天国で楽しく暮らしていくわね」
周りにいる他の人間達も、うんうんと頷きながら女の子と女性の会話を聞いています。
その顔には、単なる悲しみだけではない何かが見て取れました。
銀時と十四郎は揃って病院を後にします。
「…今日は、助かった。礼を言う」
「いいって。俺も得したから」
「得?」
「そっ。夢中でステッキ振ってたら、病院内にいた全員を幸せにできたみてェで…一気にノルマ達成!」
「そうか…良かったな」
「にしても人間ってすげェな。アイツら『ジィさんの分まで生きよう!』って希望に溢れてた」
「…そうだな」
「それにさ…ジィさんが安らかに逝けたのは十四郎の力だぜ?」
「ナニ言って…」
「十四郎の力のおかげで、ジィさんは長いこと苦しんでいた病気から解放されたんだ」
「それでも…俺のせいで寿命が削られた。千年以上生きている俺と違って、人間の時間は貴重なんだ」
「…それが分かってるから、十四郎は生き続けてるんだね?」
「………」
銀時は漸く、十四郎が苦しみながらも生き長らえてきた理由が分かりました。
十四郎が役目を果たせず死んでしまったら、今まで十四郎が関わった人間の命が無駄になってしまいます。
「そんな大層なモンじゃねェよ。俺は、人のモンもらって生きてんだ。
だから、そう簡単にくたばるわけにはいかねェ…ただそれだけだ」
「それでいいんじゃないかな。ところで…明後日は、十時にここで待ち合わせでいい?」
「待ち合わせだ?ふざけた事ぬかしてんじゃねーよ。俺ァ、地の国に帰る。…お前だってノルマ達成したんだろ?」
「そうなんだけどさァ…十四郎、ここに来て十一ヶ月と二十九日って言ってたじゃん?
ってことは、明後日から新たな一年が始まるってことでしょ?」
「それはそうだが…」
「だったら俺、ここに残って条件のいい人間探しとくよ」
「条件だァ?」
「十四郎の力で幸せに死ねる人間」
「っざけんな!」
「大丈夫だよ。俺がいれば全員幸せになれる。…もちろん、十四郎も」
「っ!!」
ほんの一瞬ですが、銀時の瞳が煌めいたのを十四郎は見逃しませんでした。
十四郎は心臓を直接掴まれたような衝撃を受けました。
その後、十四郎は予定通り地の国に帰りましたが、銀時のことが頭から離れませんでした。
そして約束の時間に約束の場所で銀時と再び会うことになるのです。
「なあ、コイツはどう?××国の死刑囚。三時間後に刑執行なんだ」
「お前…何でそんなに詳しいんだ?」
「こういうのは、ちゃんと文書になってっから探るのは簡単なんだよ」
銀時は人間に見えない存在なので、書類をこっそり見ることは別段難しいことではありません。
「天使が泥棒みたいなマネしていいのかよ…」
「だったら次からは十四郎がやってよ。…十四郎は悪魔だから大丈夫でしょ?」
「そもそも、天使が悪魔と一緒にいるなんて…」
「じゃあ何で来たの?」
「うっ…」
「と、いうことで…××国にレッツゴー!」
こうして銀時は、心優しき悪魔と共に人間界を飛び回るのでした。
(10.07.15)
えーっと…色々おかしな設定ですみません^^; 天使と悪魔のノルマに差があり過ぎる気もしますが…十四郎のように悩む悪魔は稀で、他の悪魔達は食事をする感覚でやってます。
だから、自分の生死とは関係ないのに、地上に降りたら百人幸せにするまで帰れない天使の方がある意味大変です。ちなみに、十四郎がもらった老人の寿命はほんの数秒です。
残り寿命が数秒でも一人は一人なので十四郎は一気に魔力を回復して、元の大きさに戻りました。
こんな完全パラレルを最後までお読み下さりありがとうございました。
追記:おまけを書きました。18禁です→★
ブラウザを閉じてお戻りください