おまけ
遂に坂田先輩と約束した土曜日がやって来た。
昨夜はドキドキしてなかなか眠れなかったのに、今朝はあり得ないくらい早く目覚めた。
そして俺は、約束の二時間も前に待ち合わせ場所に着いた。
坂田先輩…来てくれるよな?もし来てくれなかったら…。
いかんいかん…ポジティブだ。ポジティブなことだけ考えろ十四郎!
大丈夫。坂田先輩は来てくれる。むしろ今日のことを楽しみにしてくれている!そうだ。そうに違いない!
* * * * *
来たっ…坂田先輩だ!
こちらに向かって歩いてくる坂田先輩が見えた。
時間は十時五分前。会議にはいつも遅刻する坂田先輩が…ヤベェ!感動して涙が…
俺は必死で涙を堪えて、普段通りの表情を取り繕う。
「先輩、おはようございます」
「おはよー、多串くん」
「多串じゃありません、土方です」
「ハハハ…相変わらずだねー」
「先輩こそ…」
俺達はいつもの挨拶を交わして映画館に向かった。
ちなみに見る映画はペドロシリーズ最新作「借りぐらしのペドロッティ」。
俺も好きだが、先輩もペドロシリーズが好きなことは知っている。だからこの映画にしたんだ。
* * * * *
「意外と感動する映画だったね」
「はい。まさかペドロの家が借家だったなんて…」
「うんうん。しかも家具も全てレンタルって…あれは驚きだったよねー」
映画が終わると先輩から昼メシに誘ってくれて、近くのファミレスに入った。
メシを食いながら先輩とさっき見た映画について話をする。
先輩は本当に楽しそうで、この映画を選んでよかったと思った。
「あのさァ、多串くん…」
ひとしきり映画について語り合い、メシも食い終わって(先輩はデザートも食った)そろそろ店を出るかという時
先輩が何やら思い詰めた表情で口を開いた。
「多串じゃありません、土方です。…なんですか?」
「えっと、多串くんは…すっ好きな人とか、いるの?」
「多串じゃありません、土方です。…いますよ」
「…ウチの学校?」
「はい」
「…俺の知ってる人?」
「はい」
「………誰?」
「坂田先輩…」
「!」
「…は、好きな人いるんですか?」
「へっ…」
先輩は何が起きたか分からないといった感じだ。
鳩が豆鉄砲食らったようって、今の先輩みたいな顔を言うんだろうな。
神妙な顔つきで話を切り出した先輩が、今は目をパチパチさせている。
俺の発言で先輩がこうもくるくると表情を変えるなんて…なんか、すげェ楽しい。
「どうなんですか、先輩?」
「へっ?あ、あー…俺ね。俺は、まあ……いるよ」
「ウチの学校の人ですか?」
「ま、まあね」
「俺の知ってる人ですか?」
「そ、そーだと思うよ」
「……誰ですか?」
「………教えない」
「ここまで来てそれはないでしょう?先輩の好きな人は誰ですか?」
「…多串くんが教えてくれたら、教える」
「俺も、先輩が教えてくれたら教えます。それと、俺は多串じゃなくて土方です」
「先に、言ってよ」
「先輩からどうぞ」
「………」
「………」
先輩は口を尖らせて小声でボソッと「早く言えよ」と言ったきり黙ってしまった。
言ってしまいたい気持ちもある。だがそれ以上に、先輩に好きだと言われたい。
それから俺達はほとんど会話らしい会話をせずにファミレスを出た。
* * * * *
「じゃあ先輩、今日はありがとうございました」
「あ、うん」
俺達は待ち合わせた駅に戻ってきた。
俺はここから電車に乗るが、先輩の家はここから歩いていけるらしい。
今日のデートはこれで終わりだ。
俺は自動改札を通ると後ろを振り返る。
先輩が手を振ってくれたので、俺も振り返した。
ふと、先輩が振っていた手を止めてゆっくりと下ろした。
俯いて立ち、下ろした手で拳を握っている。先輩…どうしたんだろう?
「あのさっ…俺、土方くんだから!」
「えっ…」
「じゃあねっ!」
「あっ…」
先輩はバッと顔を上げ、それだけ言うと逃げるように走り去って行った。
何だったんだ?先輩は今、何て言った?
「俺、土方くんだから」とかなんとか…。俺が一体どうしたってんだ?
…そういえば、先輩からまともに名前呼ばれたのって初めてかもしれない。
いつも「多串」なんてワケの分からないあだ名で呼ばれて…何で急に本名で呼んだ?
その時、今日俺が先輩に投げかけた質問が脳裏に浮かんだ。
『先輩の好きな人は誰ですか?』
もしかして…あれの答えなんだろうか?
だとしたら、今まで呼んだことのなかった本名で呼ばれたのも納得できるような…
告白する時くらいは、ちゃんとした呼び方をするもんだろう。
俺は携帯を取り出してメールを打つ。
もちろん、宛先は坂田先輩だ。
件名:俺は
本文:坂田先輩です
坂田先輩からすぐに返信が来た。
件名:土方くんへ
本文:これからもよろしく
俺もすぐに返信する。
件名:多串じゃないんですね
本文:こちらこそよろしく
件名:まあね
本文:これからはちゃんと呼ぶよ♥
件名:そうですか
本文:ありがとうございます♥
件名:土方くんへ
本文:♥♥
件名:何ですか?
本文:♥♥
件名:呼んでみたかっただけ
本文:♥♥♥♥
件名:そうですか
本文:♥♥♥♥
俺達はそれからずっとメールのやり取りをしていた。
こうして俺と坂田先輩は恋人同士になった。
* * * * *
夏休み。俺達は毎日のように会っていたが、デートらしいことはせず図書館で勉強をしていた。
坂田先輩は受験生だ。恋人ができて受験に失敗したなんて言われたくないから、ちゃんと勉強しないといけない。
なのに…
「ねえ土方くん…映画見に行かない?」
「先輩…勉強はいいんですか?」
「ちょっとくらい息抜きしたっていいじゃん」
「そんなんじゃ受験失敗しますよ?」
「そしたら土方くんと同級生になれるね」
「………」
この人はさらりとこういうことを言ってのけるから…いかんいかん。流されるな十四郎!
「先輩…そんな考えじゃ俺の後輩になりかねないですよ?」
「あー、それもいいかも。土方せんぱ〜い」
「いい加減にして下さい。そもそも俺、今日は昼メシ代しか持ってないんで映画は無理です」
「じゃあさ、俺ん家でDVD見ない?」
「…は?」
「それなら金かかんないし…決定!」
「決定って…」
「さあ、早く片付けて行こう!」
「ちょっ…」
先輩は自分の勉強道具をさっさと鞄にしまうと、俺の問題集も勝手に閉じて片付け出す。
こうなると逆らえないんだよな…
俺達は図書館を出て先輩の家に向かった。ていうか、先輩の家に行くなんて初めてだ。すっげェ緊張する…
(10.07.29)
意地っ張りな二人も漸くくっつきました。くっついた途端バカップルになるのは若さゆえ、ですかね^^; 続きは18禁です→★