「ふっ副長…見回り、ご苦労様です。よよよろしければどうぞっ」
「おう。気が利くじゃねェか」

蒸し暑いある日、巡回を終えて屯所の自室へ戻ると、山崎が麦茶を持ってきたので一気に飲み干した。
麦茶を飲み終えた瞬間に総悟が入ってきて、そういえば山崎は何やら怯えていたなと思ったが遅かった。
俺は自分の不注意を悔みながら意識を手放した。



禁断の関係その五:同性



麦茶を飲んで倒れた土方が次に目を覚ました時には部屋に誰もいなかった。
土方はまだ怠さの残る体に叱咤して何とか起き上がると、なぜか髪が胸の下くらいまで伸びていた。
そして、自分の胸にないはずのものがあることに気付き、次いで、自分の股間にあるはずのモノがないことに気付く。
身長も縮んでいるようで制服が緩い。
土方は今の体格に合わせてベルトを締め直すと、勢いよく部屋の襖を開けた。

「総悟ォォォ!!」

聞き慣れない高い声が自分から発せられていることに目眩を起こしそうになりながら、土方はドスドスと屯所内を進んでいく。


「ここにいやがったか…総悟テメー…」
「おやおや、どちらのお嬢さんでィ。勝手に俺らの制服なんか着て…」
「テメー分かってて言ってんだろ?…俺は土方十四郎だ!」
「本当に土方さんなんですかィ?驚きやした…いつのまに女になったんで?」
「しらばっくれやがって…いーから早く元に戻せ!」
「土方さん…俺がそんなこと知ってると思ってるんですかィ?」
「お前、まさか…」
「男ってのは後先考えずに行動するもんでィ。…あっ、アンタは今、女でしたねィ」
「副長、すいませんでしたァァァ!!」

沖田と押し問答しているところに山崎がやって来て土下座する。

「隊長に脅されたとはいえ、俺は何てことを…」
「山崎、テメー…」

土方は土下座している山崎の後頭部を踏み付ける。

「すいません!本当に、本当にすいませんでしたァァァ!!」
「テメー…最初からこうなること分かってて飲ませたのか?あ!?」
「すいません!すいません!すいません!」
「………」

床に額を擦り付けて謝り続ける山崎に、土方の溜飲も徐々に下がってくる。
土方は山崎の頭から足を外し、襟首を掴んでじっと見つめる。

「それで…元に戻る方法は?」
「す、すいません。分かりません」
「調べろ。今すぐ!」
「はっはい!」
「ところで…なに、赤くなってやがる」
「いっいやー…副長、美人だなァと…」
「ふざけてんのかテメー…」
「違いますって!本当に美人ですよ!」
「…それを聞いて俺が喜ぶとでも思ってんのか?」
「す、すいません。でも…長い髪も似合ってますよ」
「昔はこれくらいの時もあったが…今になると鬱陶しいだけだな」
「そんな土方さんにプレゼントでさァ」

どこから持ってきたのか、沖田は土方に白いレース地のリボンを手渡す。

「まさかとは思うが…これで髪を結えと?」
「もちろんでさァ。ついでに旦那にも見てもらったらどうですかィ?どうせ会う約束してんでしょう?」
「あっ…」

性別が変わった衝撃ですっかり忘れていたが、沖田の言うように本日は恋人と会う約束をしていた。
しかも約束の時刻は既に過ぎている。仕事柄、土方が遅れることは多々あるので銀時は気にしていないだろうが
土方はできる限り早く万事屋へ行かなければと思う。

「総悟…後で覚えてろよ!それから山崎は、着物を持って来い!」
「えっ、何の着物ですか?」
「何でもいいから、今の俺の丈に合ったのを…」
「分かりました!」

土方は沖田にリボンを投げ付け、自室に引き返していった。

それから土方は、その辺にあるヒモで髪を一つにまとめ、山崎の持って来た着流しを着てかぶき町へ向かった。
出かける際に「今日中に元に戻る方法を調べろ」と山崎に念を押して。



(この姿、アイツは何て言うかな…。鏡を見てみたが、そんなに顔は変わってなかった。
山崎が言うように美人だとは到底思えねェ…だが、一応、女には見える。というか、女にしか見えない。
つまり…アイツと歩いていても変じゃねェってことだ。…恋人同士に見えるかもしれねェ。
常々、アイツにはもっとちゃんとした相手が相応しいんじゃねェかと思っていた。
俺なんかを好きになっちまったばっかりに、アイツは後ろめたい思いをしてるんじゃねェのかと…)

親しい人達に自分達の関係を公表しているとはいえ、自分達が少数派であることは重々承知している。
それ故に土方は、日頃から「銀時の恋人には女性の方が相応しい」と思いながら付き合っていたのだ。
今回、思わぬ事態から自身が女になり、これで「普通の」恋人同士のように振舞えるのではないかと思った。

土方は期待と不安でドキドキしながら万事屋の呼び鈴を押した。

「い、いらっしゃ…えっ?」
「…は?」

土方が来たのだと思っていつものように玄関を開けた銀時は、目の前の人物を見て固まった。
しかし土方も、出迎えた銀時の格好に固まる。

「えっと…どちら様で?」
「土方だ。…総悟に妙なモン飲まされて、気付いたら女になってた」
「マジでか…」
「ところで…お前はまたオカマバーのバイトか?」
「あ、いや、そのー…」

土方の目の前にいる銀時は、左右に髪を結い、女性物の着物を着ていた。
だが、今の土方と同じくらい…つまり、いつもより若干小さいようにも見える。

「銀時お前…なんか縮んでねェか?」
「じっ実はですね…俺も、女になっちまった、みたいな?」
「はぁぁぁ!?」



数日前。銀時に坂本から小包が届いた。
そこにはピンク色の液体の入った小瓶と「これを飲むと女になれます」という手紙。
銀時がオカマバーでバイトをしたと聞き、銀時が女になりたがっていると勘違いしてこの薬を送ったようだった。

銀時はすぐに薬を捨てようとして、ふと思った。これを飲めば土方と歩いても不自然ではないのではないか、と。
実は銀時も「土方の恋人には女性の方が相応しい」と考えていたのだ。
そこで、土方と会う日に合わせて薬を飲んだのだが、それを素直に口に出すのは気が引ける。

「いやァ…ダチが送ってきた荷物に入ってたんだけど、甘そうだから飲んでみたら後から手紙が出てきて…」
「それに、女になるって書いてあったワケか…。ったく、お前らしいっつーか、なんと言うか…」
「ハハハ…まあ、とりあえず中に入れよ」
「ああ」

本当は二人とも、男女カップルのフリをして飲みでもに行こうと思っていたのだが
相手も女性の姿になった今、そんな気も失せてしまった。

二人はソファに並んで座ってお茶を啜る。

「…にしてもオメー、何だよその髪」
「あ?そういうテメーは髪が長くなってサラサラムカつき度が増したなコノヤロー。天パなめんなよ」
「そういうことじゃねェよ…。結う位置が左右でバラバラだって言ってんだよ」

銀時の髪は明らかに右側の方が高い位置で結われていた。

「へっ?…あー、これね。どうしても同じになんなくてよー…」
「オメー、こういうの慣れてるだろ?」
「パー子の時のあれはくっ付けてるだけで、髪なんか結ったことねェし…」
「仕方ねェな…」

土方は立ち上がると銀時の髪を束ねているヒモを解く。

「えっ、ナニ?オメーが結うのか?」
「ああ」
「…あのさァ、くしとか使わねェの?」
「オメーの髪がクシくれェで真っ直ぐになるわけねーだろ」
「まあ、そうなんだけどね…」

土方はしゃべりながらもテキパキと銀時の髪を結び直す。


「できたぞ」
「…早すぎねェ?人の髪だと思ってテキトーにやったんじゃ…」
「テメーがやった時よりマシになってるぞ。…鏡見て来い、鏡」
「本当かなァ…」

全く信用できないといった顔つきで鏡を覗き込んだ銀時は、その出来栄えに感心した。

「おー…ちゃんと揃ってる!それに、なんか、こう…根元でギュッてなってて動いてもずれねェ!」
「フッ…」
「お前、何でこんなことできんの?そのポニーテールも自分でやったのか?」
「ああ…昔は毎日やってたからな」
「お前って…女装癖とかあったワケ?」
「違ェよ!昔は今くらい髪が長かったから、こうやって束ねてただけだ!」
「あ、そうなんだー」


姿は違えど、二人はいつものように他愛もない会話をしている。その時、土方の携帯電話が鳴った。

「山崎か…ああ。………何ィ!?…それ以外に方法はねェのか?チッ……分かった」

通話を終えた土方に銀時が尋ねる。

「あの…仕事?」
「いや。元に戻る方法を調べさせていたんだが…その…」
「なに?まさか戻れない、とか?」
「いや。だが、その…」
「何だよ。ハッキリ言えよ」
「……体内に、精液を取り込めば戻るんだとよ」

土方はボソボソとつぶやくように言った。

「え、ナニそのお約束なエロ設定…」
「知るかっ!そんで、山崎はお前と会ってんの知ってるから『すぐ戻りますね』とか抜かしやがって…」
「あー…まあ、協力したいのはやまやまなんだけどね」
「お前が無理だとすると…買うしかねェか」
「買うって…男を?」
「ああ。どーせこのナリじゃ俺だって分からねェだろうし…」

二人とも女性である以上、精液の提供は第三者に頼むしかなかった。

「確かに、金で解決した方が後々面倒じゃなくていいよな。…じゃあ、お前が金出して、俺が相手する」
「…なんでだよ」
「だって、どう戻るか分からねェんだろ?その場ですぐに戻ったら、鬼の副長が男買ったって噂になるぞ」
「だからってお前にそんなことさせられるかよ」
「それ言ったら俺だってさー…」
「………」
「………」

お互い恋人に男を買うようなことはさせられないと譲らない。
その時、土方があることに気付く。

「お前が飲んだ薬の瓶とか箱とかってまだあるか?」
「へっ?あー…これに入ってたけど?」

銀時は送られてきた小包ごと土方に渡し、土方はその中を色々と調べた。その結果…

「やはりこのままで男とヤんのは俺だな」
「だから土方は…」
「ただし、その男ってのはお前だけどな」
「えっ?」

土方は銀時に小包内の手紙を見せる。
そこには「約一ヶ月で効果がなくなります」と書いてあった。

「俺のは土方が飲んだ薬と違って、放っておけば男に戻るってこと?」
「そのようだな。銀時お前…こういうのはちゃんと読んだ方がいいぞ」
「あ、うん。今度から気を付けまーす」
「ったく…」


こうして約一ヵ月後、銀時は元の姿に戻り、その後すぐに土方も元の姿に戻った。


(10.07.09)


このお題(多分)唯一の原作設定です。当サイトにおいて「同性」って禁断の関係じゃないのですが…同性が禁断の関係だと思ってる二人の話ってことです。

そして、同性は同性でも男同士ではなく女同士に挑戦しようとしたのに、女体化を全く活かせていなくてすみません。肝心なところ(元に戻る過程)を端折ってすみません。

でもそれを書くにはカップリングと年齢制限の問題があって…一周年記念のお題なので本編は皆さんに読んでいただけるようにしたかったんです。ご了承ください^^;

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

追記:続き書きました。一応18禁ですが、相変わらず女体化は活かされておりません→

 

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