「先生、好きです」
「多串くんさァ…五月五日生まれだったよね?」
「えっ…あ、そうですけど…」
「じゃあさ…誕生日過ぎたらまたおいで」
「えっ…」
卒業式の日、決死の覚悟で担任に告白したらよく分からない答えが返ってきた。
上手くかわされたのかとも思ったが、約二ヶ月後の俺の誕生日に(学校は休みなので)電話で再度告白したら
あっさりOKがもらえた。こうして俺・土方十四郎は、元担任・坂田銀八と付き合うことになった。
禁断の関係その四:年の差
一年後―
土方が目を覚ますと隣にあるはずの温もりがなくなっていた。
土方はベッドから下りてリビングにつながる扉を開ける。そこでは家主の銀八が朝食の支度をしていた。
「げっ…もう起きたのかよ…。休みの日くらい、もうちょいゆっくり寝てろよなー」
「アンタの方こそ、いつもは昼くらいまで寝てるじゃねェか」
付き合って一年経ち、土方からはすっかり敬語が消えている。
銀八も特にそれを咎めることはせず、少し恥ずかしそうに言った。
「俺だって、今日くらいは早起きするってーの」
「もしかして…俺の誕生日だから?」
朝から豪勢な食事が並べられた食卓に土方の瞳は輝く。
銀八は照れ隠しに頭をボリボリ掻きながら付け加えた。
「それと、一周年記念…のような?」
「覚えてたのか…」
「そりゃあね。お前の誕生日と同じ日だから」
「そういやあ…何で誕生日だったんだ?」
「何が?」
「誕生日過ぎたらもう一度告れってアレ、何か意味があったんだろ?」
「あー、そのことね…」
銀八は一年と少し前のことを思い返す。
「最初に好きだって言ってくれた日さァ…三月だったじゃん?三月はさァ…マズイんだよねー」
「…どういうことだ?」
「卒業式が終わっても、三月末までお前は俺の生徒なワケよ。生徒と付き合うわけにはいかないでしょ」
「意外と真面目なんだな…」
「俺はいつだって真面目ですぅ。一ヶ月かそこら我慢しなかったせいでクビになるなんてゴメンだね」
「はぁ!?そっち!?」
「当たり前だろ…教師ってヤツはつぶしがきかねェんだよ。特にこのご時世、転職は難しいの」
「知るかっ」
「ハハハ…」
久しぶりに教師らしい一面を見て惚れ直していたのに…と土方はムクれる。
だが、結局「誕生日」の謎が解けていないことに気付く。
「それだったら四月でいいじゃねェか。何でわざわざ誕生日って…」
「お前の誕生日に拘ってたワケじゃねェけど…まあ、丁度いい時季だと思ったからそう言っただけだよ」
「丁度いいって?」
「…高校生として担任の俺を見る時と、大学生になって俺を見る時じゃ印象が変わるもんだろ。
卒業したら、俺なんか十も年上のただのオッサンだからな。若気の至りで済むならその方がお前のためだと思ったんだ」
「若気の至りなんかじゃねェよ」
「うん。だから、大学生活が落ち着いた頃にもう一度考えて、それでも俺でいいならって思ったの」
「それで…誕生日?」
「そっ」
土方と一度も目を合わせようとしない銀八は、恥ずかしいことを言っている自覚はあるようである。
また、思った以上に銀八に愛されていることを知り嬉しいと思う反面、それを素直に言えるような土方ではない。
「アンタのそういうとこ、なんかムカつく…」
「はぁ!?ここは『さすが先生!』ってなるとこだろー?」
「ならねェよ。チッ…大人ぶりやがって」
「大人ぶるって…俺はお前と違って大人だからね?」
「…俺だって大人だ」
「ハハッ…そうだな。今日で二十歳だもんな」
「ついでに言うと、アンタと同世代だ」
「へっ?」
土方が本日二十歳になったことで「大人」と言うのは分かるが、なぜ十歳も離れた自分と同世代になるのか分からない。
きょとんとしている銀八に、土方はニヤリと笑って問う。
「アンタ、今いくつだ?」
「いや、知ってんでしょ?お前の十コ上、今年で三十…」
「つまり、十月生まれのアンタは今二十九歳だろ?」
「…だから?」
「だから、二十歳の俺と二十九歳のアンタは同世代だろーが」
「もしかして…同じ二十代ってこと?」
「そうだ」
土方は何故か勝ち誇ったようにフフンと笑った。
「何でそんなに得意気なんだかサッパリ分からん。俺…すぐに三十代になるからね?」
「すぐじゃねェ。五ヶ月と五日後だ!」
「あー、はいはい。…五ヶ月と五日後には同世代じゃなくなりますねー」
「くっ…」
銀八に尤もなことを言われ、一瞬言葉に詰まった土方だったが、負けじと言い返す。
「そしたらまた十年後に同世代になる!」
「…お前さァ、十年後も俺と一緒にいる気?」
「あ?十年後だろうが五十年後だろうが一緒にいる気に決まってんだろ!なめんなよ!」
「ホント…若いって怖いね」
「だからアンタと同世代だって…」
「あー…そうね。俺もまだまだ若いからさァ…十年後も五十年後もお前と一緒にいる気、かもよ?」
「かも、かよ…」
「かも、だよ」
クスリと笑う銀八に、土方はチッと舌打つ。
「まあまあ…先のことはその時に考えることにして、今は今を祝おうぜ」
「おう」
銀八はキッチンからワインを持ってくる。
「朝から飲むのかよ…」
「今日くらいいいだろ?お前が堂々と酒飲めるようになった日なんだからさ」
「それは、まあ…」
「と、いうわけで…」
銀八は二つのグラスにワインを注ぎ、一つを土方に渡してカチャンと合わせた。
「ハッピーバースデー十四郎」
「おう」
「それと…一周年ありがとう」
「二年目もよろしくな、銀八」
「うん」
今度は土方からグラスを合わせ、そして二人はほぼ同時にグラスを口に運ぶ。
ゴールデンウィーク最終日、恋人達はこうして幸せな時を共に過ごすのであった。
(10.07.07)
お題その二の「教育現場」で書けなかった3Z小説です。高校卒業してから一年以上経過している設定ですが…誰が何と言おうと3Z小説です(笑)!
せっかくの3Z設定なのに、(元)教師と生徒ってことを全く活かせていない、ただの年の差カップルの話になってしまいました^^;
銀八先生はこの後「十月来るな!」と思って過ごしそうです。誕生日によって縮まったり広がったりする年の差に一喜一憂する二人は可愛いと思います。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
追記:続き書きました。18禁です→★
ブラウザを閉じてお戻りください