俺は担任の先生に恋してる。
高校に入学してすぐに一目惚れして、それからずっとアタックし続けてるけど、いつも返事は「ノー」だった。
真面目な人だから教え子に手を出すなんてしないとは思ってたけど…いや、それより男同士って方が問題かな?
担任の名は土方十四郎。十四人兄弟でもないのに十四郎って名前だ。
俺とは違って黒いサラサラヘアーのいい男。…あっ、俺も今は黒髪だった。
本当は違うんだけど、ガキの頃から髪の色が理由でイジメられて…まあ、三倍返し位にやり返してたけど
それも面倒になって、小学校に上がる時に黒く染めることにした。
でも染めたって天パは天パだ。あーあ、土方先生みたいなサラサラヘアーになりたいなァ。
…そんな土方先生とももうすぐお別れか。卒業したくねェよ…。
でももう、卒業式は明後日なんだよなァ…。このまま卒業したら、ただの元教え子でしかなくなる。
何とかして先生と最後の思い出を作りたい!
それから俺は、どうしたら特別な存在になれるのかを考えながら過ごした。
禁断の関係その二:教育現場
卒業式当日。俺はドキドキしながら学校に向かった。
先生は俺を見て何と言うだろうか。怒られるかもしれない。卒業式に出してもらえないかもしれない。
…それでもいい。たくさんいる教え子の一人になるよりマシだ。
校門をくぐると他の生徒の視線が突き刺さる。それも気にせず教室へ向かった。
ガラリと扉を開けると、それまでざわついていた教室が静まり返る。先生はまだ来てないな…。
俺はいつも通り、自分の席に座った。
「坂田、お前、その髪…」
前の席のヤツが俺に話し掛けてくる。
「あー…朝、起きたらこうなってた」
「そんなワケねーだろ!染めたんだろ?」
「違ェよ。今までが染めてたの。コレが元の色」
俺は昨日、学校が終わると美容院に行き、黒い色を全て落としたのだ。
「マジでか?金髪じゃねーか」
「本当だぞ。俺は金時と幼稚園から一緒だから知っている」
「るせェ、ヅラ…お前、隣のクラスなのに何でいんの?」
「ヅラじゃない桂だ。…金髪のお前が見えたので気になって来てみたのだ」
「あっそ…」
いつもはウザいヅラだけど、今日は証人になってくれて助かったな。
「それで金時、なぜ今更元に戻したのだ?」
「先生に本当の俺を見てほしかったから」
ヅラは俺が土方先生を好きだと知っている。でも、今言ったことは嘘だ。
本当は、とにかく先生の印象に残る形で卒業したかったから。
卒業式の日にいきなり金髪になる生徒なんて、そうそういないはずだ。
「お前の言う先生だが…先程、校長室に呼ばれていたぞ」
「えっ、何で?」
「当然だろう。受け持ちの生徒が急に金髪になったのだ。それも卒業式の日に」
「もしかして先生、怒られんの?」
「怒られるだけで済めばよいがな…」
「まさかクビ、とか?」
「さあな」
「…俺、校長ンとこ、行ってくる!」
「おっおい、金時!」
俺は校長室に走った。
まずい…こんなことになるとは思わなかった。
せいぜい俺が怒られて終わるかと…ごめん、先生!
「あのっ!」
「坂田?」
「先生ごめん。俺、俺…」
「坂田、大丈夫だから、お前は教室に戻ってろ」
「でも…」
「いいから」
結局俺は校長室を出されてしまった。
それでも先生が心配で、ドアにくっついて中の声を聞いた。
『それでキミは、彼があの髪になるのを知っていたんだね』
『はい』
…どういうことだ?俺が勝手に金髪にしたのに…
『報告をしなかったのは申し訳ありませんでした。ただ、坂田は卒業式に出させてあげて下さい』
『しかしあんな金髪で…』
『彼はあれが本来の色なんですよ?…周りと違うことで辛い目に遭い、それで黒く染めていたんです』
『だったら今日も染めていてくれれば…』
『最後の日くらい、本当の姿になってもいいでしょう?ずっと自分を偽っていると悩んでいたようです。
そして坂田は、この学校なら自分を受け入れてくれそうだとも言っていました。
この学校を信頼して、十年以上隠してきた本来の自分を見てもらいたいと…校長、彼は間違っていますか?』
先生…俺が怒られないために、そんなウソまで吐いて…
『…分かった。彼がそこまで我が校を信頼してくれているのなら、認めよう』
『ありがとうございます!』
『ただし、今後このようなことは事前に相談するように。分ったね、土方先生』
『はい。申し訳ありませんでした』
『では教室に行きなさい。生徒が待ってる』
『はい。失礼します』
ヤバイ!先生が来る!
俺は急いで廊下の端まで走った。
「先生ごめん。あんなウソまで…」
俺は教室に着く前の先生を呼び止めて謝った。
「坂田、聞いてたのか…」
「本当にごめんなさい」
「気にすんな。ほら、卒業式だぞ」
「うん」
俺は他の生徒と一緒に無事、卒業式に出席できた。
* * * * *
式が終わり、いったん仲間内で集まってメシを食いに行った後、俺は再び学校へ戻った。
「あの…土方先生いますか?」
「坂田…帰ったんじゃなかったのか?」
「戻ってきた。先生に、どうしても言いたいことがあって」
「分かった」
先生は俺を教科準備室に入れてくれた。
「先生…今日は本当にごめんなさい」
「だからもう、それはいいって…」
「それと俺、先生のこと好きだよ」
「…それと今日のこととは別問題だ」
やっぱり最後だからって流されてくれないか…
「でも俺は、大好きな先生に守ってもらえてすげェ嬉しかった。最後にいい思い出ができたよ」
「最後って…まるで死ぬみたいな言い方だな」
「ハハッ…死にはしないけど、でも、イギリスは遠いから…」
「イギリス?」
「親がイギリスで仕事してて、俺だけこっちで生活してるって知ってるでしょ?
卒業したら来いって言われてたんだ」
「お前、大学はどうするんだよ」
「あっちにだって大学はあるし…」
「…いつ、発つんだ?」
「三日後の土曜日。一時の便だけど…見送りには来なくていいよ」
「何で…」
「先生が俺のこと好きだって勘違いしちゃうから。だから絶対来ないでね」
「坂田…」
「話はそれだけ。ありがとう先生。それと…さようなら」
「…ああ」
俺は大好きな先生に別れを告げて学校を去った。
* * * * *
土曜日。朝早くから空港で待ってみたけど、やっぱり先生は来ない。…あと十五分で出発だ。
あーあ…ひょっとしたらと思ったんだけどなァ。そんなにうまくはいかない……えっ…マジで?
「坂田!」
「せん、せ…」
「間に合ってよかった。これ、餞別…」
「あ、ありがと…じゃなくて!何で来たの?勘違いするから来るなって言ったよね?
最後だからって同情しなくていいから」
「…同情なんかじゃ、ねェよ」
「えっ!」
「もう、大分前からお前のことを好きになってる。だが…教え子と付き合うわけにはいかねェだろーが」
「…じゃあ何で、今日は来てくれたの?」
「本当は、このまま俺のことなんか忘れてくれた方がお前にとってはいいと思った。
教師としては来るべきじゃなかったんだ。だが…」
「先生も…最後の思い出?」
「まあ、そんなところだ」
先生は恥ずかしそうに笑った。
先生のこんな貌、初めて見た。…なんか、可愛いかも。
「それじゃあ俺達、ずっと両想いだったってこと?」
「…そういうことになるな」
「じゃあ今日から恋人同士?」
「恋人ってお前…イギリスに行くんだろ?」
「先生ごめん。イギリスには行くけど…大学の入学式までには帰ってくるんだ」
「………はぁ!?」
「本当にごめん!最後の賭けだったんだ。これで無理なら諦めようって…。でも俺、嘘は言ってないよ。
親から『卒業式終わったら遊びに来い』って言われたから行くんだし…」
「坂田テメー…」
「あっ、もう行かなきゃ!…お土産買ってくるからねー」
「帰ったら覚えとけよ、坂田ァ!」
「行ってきまーす!」
帰ったら先生にめちゃくちゃ怒鳴られそうだけど…でもいいんだ。
だって俺達は恋人同士になれたんだから!
俺は足取り軽く飛行機に乗り込んだ。
(10.07.03)
お題が「教育現場」なので銀八先生を期待していた方、申し訳ありません。しかも無駄に金さんだし^^; 特に金さんらしい(ホストっぽい)話じゃないのですが
銀髪より金髪の方が「染めてる」って目で見られて風当たりは強いのではないかと…。そしてお題が「教育現場」なのに、くっついたのは空港という…校内いちゃいちゃがなくてすみません。
でも、真面目な土方先生ですから学校でそういうことは、ね^^ ここまでお読みいただきありがとうございました。
追記:おまけ(続き)書きました→★
ブラウザを閉じてお戻りください