※時間軸としては、第七話と第八話の間という設定です。
ヘタレな恋人 第九話:そんな恋人に惚れた自分が負け
土方と一夜を共にした翌朝、昼近くになって銀時は万事屋へ戻った。
「たっだいま〜」
「お帰りなさい、銀さん」
「銀ちゃん、お帰りアル」
「おう。これお土産〜」
銀時は和菓子屋の包みを新八に渡す。
「また土方さんに買ってもらったんですか?」
「まあな」
「銀ちゃん、おねだりも程々にしといた方がいいアルヨ」
「別にねだってませんー。土方が超優しいから買ってくれるんですぅ」
「そんなこと言って…どうせ物欲しそうな顔でお菓子を見てたんでしょ。全く…」
「だから違ェって。俺、アイツが土産買ってることも知らなかったんだからよー」
「えっ?どういうことですか?」
銀時は宿を出てから万事屋へ戻るまでの出来事を話し始めた。
「帰る前に茶でも飲んでくか…ってなって、茶屋に入ったんだよ。そんで、アイツは荷物が邪魔だとか言って
着替えとかローショ…あ、まあ、色々入ってる風呂敷包みをレジに預けたんだよ。そこまでは普通だろ?」
「そうですね」
「そうアルな」
「そんで、今回は俺、ちゃんと自分で飲み食いした分は払ったわけよ」
「…何でそんなに偉そうなんですか」
「大人として当然のことアル」
「るせェな…。…で、アイツもアイツで会計して、預けてた荷物も受け取ってココまで送ってくれた。
そしたら玄関前でその土産が出てきたんだよ!すげくね?」
「はあ…」
イマイチ何処が凄いのか分かっていない様子の新八達に、銀時はハァと溜息を吐く。
「…ガキには難しかったかなァ。だから土方は、店に荷物を預ける時にこっそり土産の注文をしてたんだよ。
しかも俺に見付からないように玄関に着くまでずっと隠してたんだぜ?俺もさァ…『買ってやる』とか言われたら
たまには遠慮しようと思ってんだけど…ここまでされたらもらうしかなくね?」
「まあ、そうですけど…」
「だろ?アイツきっと、俺が遠慮しそうなこと察知したんだよ。それでわざと、もらってくれなきゃ困るような
状況を作ったんだよ。買って、店の外に持ち出しちまった食いモンは返品できねェからな」
「そうアルか…」
「そう!だから、その菓子は土方くんの優しさが詰まってるから、よーく味わって食うんだぞ。
それから、ちゃんと銀さんの分も残しておくよーに」
ただもらっただけなのに恩着せがましい態度をとる銀時に神楽が不満を言う。
「銀ちゃんはお店で食べたアル。だからこれは私と新八で食べるネ!」
「これは土方が俺のために買ってくれたんだぞ。だからお前達にも分けてやるだけありがたいと思え」
「だから何でそんなに偉そうなんですか?」
「そうネ!偉いのはトッシーであって銀ちゃんじゃないアル!」
「でも土方は恋人の俺が相手だから優しいんだ。お前らは、お・ま・け」
「そんなのズルイアル!私だってトッシーにお土産買ってもらいたいネ!」
「神楽ちゃん、それはちょっと…」
「新八は悔しくないアルか!?」
「まあ…いつも銀さんがお世話になってるお礼くらいはしたいよね」
「それはいい考えネ!」
「おいおい…オメーら何言ってんの?そんなん迷惑だろーが」
だんだん変な方向に話が進んできたと思い、銀時は軌道修正を試みる。
「日頃の感謝を伝えるのに何で迷惑なんですか?」
「新八ィ、きっと銀ちゃんは、私達までトッシーに優しくされるのが嫌アルヨ」
「なるほど…。そんな独占欲全開じゃ、そのうち土方さんに嫌われますよ」
「ナニ言ってんの?土方は俺のこと大好きだからね。好き過ぎて困っちゃうくらいだからね」
「銀ちゃん…言ってて虚しくないアルか?」
「ここまで思い込みが激しいとは思いませんでしたよ」
新八と神楽は銀時に憐みの視線を向ける。
「オメーら信用してねェな?本当だからね?もうこれ以上ないってくらい、土方から愛されちゃってるからね!」
「はいはい分かりましたよ(棒読み)」
「良かったアルなー(棒読み)」
「絶対ェ、信じてねェだろ!」
「よく分かりましたね」
「銀ちゃん、すごいアルー」
「ふざけんなァァァ!!」
二人から全く相手にされず、銀時は声を張り上げる。
「大声出したって信用できないものは信用できないんですよ」
「何でそんなに信用できねェんだよ」
「決まってるでしょ」
「決まってるアル」
「…な、何だよ」
「土方さんの方がモテるからです」
「そうアル」
「はぁ?んなこと関係ねェだろ…」
「関係ありますよ」
「トッシーがモテるってことは、皆がトッシーのいいところを分かってるってことネ」
「まあ…アイツは見た目がいいからな」
「そんなモテる土方さんが、銀さんなんかに執着するわけないじゃないですか」
「なんかって何だよ!俺達は付き合ってんだぞ!ってことは、アイツも俺のこと好きだってことだろーが」
自分でも何でムキになっているのか分からなかったが、とにかく愛されていることを二人に認めさせたかった。
だが、新八と神楽は一向に信じる気配がない。
「それだって…たまたまフリーだった時に銀ちゃんが好きだって言ったからに違いないアル」
「神楽ちゃん、そこまで言ったら可哀相だよ」
「いつまでも夢を見たままじゃダメアル」
「それはそうだけど…でも、土方さんに告白するなんて恐れ多いことを平気でやってのけるのは
神経が図太い銀さんくらいしかいないかもしれないよ?」
「確かに…銀ちゃんほど図々しい人はいないかもしれないアルな」
「お前ら本当にいい加減にしろよ…。よしっ、こうなったら土方をここに連れて来てやるから!
銀さんにメロメロの土方を見て腰抜かすんじゃねェぞ!」
「えっ、土方さんをここに招待するんですか?」
「じゃあ一緒に遊べるアルか?」
「優しい土方さんだからきっと一緒に遊んでくれるよ!やったね、神楽ちゃん」
「やったアル!」
「オメーらと遊ぶために来るんじゃねェから!…おーい、聞いてる?」
銀時を無視して、新八と神楽は土方を持て成す計画を練り始めた。
そんなことがあって前回(第八話)、銀時は土方を万事屋へ招待したのだった。
* * * * *
招待の翌日。
土方が帰った後で、銀時は新八と神楽の前でふんぞり返っていた。
「どうだ!」
「どうだって…何がですか?」
「だからー…実際に土方を見て分かっただろ?」
「分かったアル」
「よしよし」
「トッシーは本当に優しいヤツネ」
「…えっ?違ェだろ…いや、アイツは優しいけど、そうじゃなくて銀さんにメロメロで…」
「土方さんって本当に優しかったよね。一緒に遊んでくれたし」
「だからさァー、確かにアイツは優しいけど、銀さんにもメロメロだっただろ?」
「そうでしたか?」
「むしろ怯えてた気がするアル」
「言われてみれば…銀さん、まさか土方さんを脅して恋人になったんじゃないでしょうね?」
「んなコトするわけねーだろ!」
「全く、酷い男アル!」
「本当に。…僕らだけでも土方さんと仲良くしようね」
「そうするアル!」
その後も銀時の言葉を全く聞かず、新八と神楽の中で土方の株が上がり、銀時の株は下がり続けた。
(新八も神楽もなんだよ…俺のこと全く信用してねェ。俺と土方はラブラブだってのに…
まあ、こないだは別れ話されると思ってたから多少ビクついてたかもしれねェけど…てか、アイツはヘタレだから
おどおどしてんのが普通なんだよ。でも、そんなこと言っても信じてもらえねェよなァ…。
俺だって土方がこんなヘタレだとは思わなかったし…。まあ、ヘタレなとこもアイツのいいところだとは思うんだよね。
いつも俺のことを一番に考えてくれてるし。…優しいアイツに新八と神楽が懐くのも無理はねェか。
結局のところ…)
―そんなアイツに惚れた俺の負け、だな。
そんなことを考えながら銀時は、新八と神楽にも人気の土方は自分の恋人なのだと誇らしくも思った。
(10.06.08)
肝心のヘタレ土方さんが出せませんでした^^; でも子ども達相手に惚気る銀さんを書きたかったんです。銀さんはヘタレな土方さんにすっかり慣れて、
最初の頃のようなイライラは感じなくなっています。それどころか、愛されてると実感して嬉しくなっています…新八達には伝わりませんでしたが(笑)
確認したら第一話をアップしたのがちょうど二ヶ月前でした。次回、遂に最終話です!最後はいちゃらぶエロで終わらせたいなぁ、と思っております。
第十話は銀土版と同時にアップいたしますので、銀土版の話数が追い付くまで暫くお待ちください。今月中にはアップします! ここまでお読み下さりありがとうございました。
追記:続きをアップしました。18禁です。→★
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