「じゃあ、またなー」
「お、おう…」

一夜を共にした翌朝、土方は銀時を万事屋まで送り届けてから屯所に帰った。



ヘタレな恋人 第八話:恋心が冷めてしまいそう



自室へ戻った土方は、一人で思い悩んでいた。

(昨日アイツは「ヤりたくない」と言った。…だが結局ヤってしまった。…俺がヤりたいと言ったからだ。
確かに銀時が「ヤりたいならそう言っていい」と言ってくれたから言ったんだが…本当に言っちまって良かったのか?
優しいアイツのことだ。俺なんかにも、きっと気を遣ってくれる。だから本当はヤりたくなくて、勇気を出して言ったのに
俺がヤりたそうだから受け入れてくれたんじゃないのか?)

銀時は土方に「嫌だ」と言わせる目的で言ったのだが、そんなことを知らない土方はどんどんと悪い方向へ考えていく。

(もしかしてあれは、遠回しに「別れたい」と言ってたんじゃねェか?…「俺の愛を疑うのか?」とも言われたな。
そんな風に思わせる俺に、愛想が尽きたのかもしれねェ。
俺はアイツのことが好きだ!だが、アイツが俺みたいなつまらねェ男といたって幸せになれるはずがねェ。
これから俺はどうすれば?
アイツから別れを切り出されたら飲むしかねェだろう。だが、俺にも優しくしてくれるアイツは
嫌なのに我慢して交際を続けるかもしれねェ。…いっそのこと、俺から別れ話を持ちかけた方がいいのか?
…いや、ダメだ。アイツをフるなんてことは出来ねェ。くそっ…どうしたらいいんだ!)

勝手に銀時の熱が冷めていると思い込み、土方はその後も悩み続けた。



*  *  *  *  *



それから十日ほど経ったある日のこと、銀時が屯所にいる土方の元を訪れた。

「なんだ…元気そうじゃん」
「なん、で…」
「電話にも出ねェし、街でも見かけねェし…ケガでもしたのかと思ったぜ」
「す、すまん。その…」
「あー、いいよ。仕事が忙しかったんだろ?気にすんなって」

実は、電話もできないほど真選組の仕事が忙しかったわけではない。
ただ「銀時が別れたがっている」と誤解している土方は、自分なんかと会わない方が銀時も嬉しいのではないかという
結論に至り、銀時との接触を避けていたのである。

「なァ…今度の休みにウチ来ねェ?新八と神楽が連れて来いってうるさくてよー…」
「え…」
「ダメ?一緒にメシ食って、ちょっと話すだけだからさっ」
「(話?…別れ話か?…そうか!優しいコイツは言えないから家族が代わりに言うのか…)わ、分かった」
「あ、本当?サンキュー。二人には失礼なことすんなって言っておくからなっ」
「そんな…(別れる時までなんていいヤツなんだ…)」
「じゃあまたな。仕事、頑張り過ぎんなよー」
「お、おう…」

銀時は笑顔で手を振って屯所を後にした。



*  *  *  *  *



「いらっしゃい」
「お、おう…」
「その包み…」
「ああ…良かったら皆で食ってくれ」

約束の日。土方は大きな菓子折を持って万事屋を訪れた。

「気ィ遣わなくて良かったのに…。まっ、くれるモンはもらうけどな」
「ああ…(今までこんな俺と付き合ってくれた感謝の印だ)」

未だに別れ話をされると思っている土方の表情は硬い。

「…土方?オメー、具合でも悪いのか?」
「いいいや、そんなことはねェ。大丈夫だ」
「そうか?…おーう、オメーら準備はできたかー?」

土方が草履を脱いで玄関を上がると、銀時が奥に声を掛ける。恐らく新八と神楽がいるのだろう。
奥から「いいアルー」という声が返って来たのを確認してから、銀時は土方を部屋へと招き入れた。


「いらっしゃい、土方さん」
「よく来たアルな、トッシー」
「お、おう…」

土方は新八と神楽に満面の笑みで迎えられた。
新八が土方を和室に案内する。

「こちらへどうぞ。食事の用意ができてますよ」
「仕方ないからマヨネーズもあるアル。ありがたく思えヨ」
「おーい…メシ作ったのほとんど俺だし、マヨネーズ買おうって言ったのも俺…」
「大人げないですよ。『三人で準備した』で、いいじゃないですか」
「そうヨ。銀ちゃんばっかトッシーに褒められようなんてズルイアル」
「何だよー…土方と付き合ってんのは俺だぞ」
「いつもイチャイチャしてるんだから今日は譲るネ。ご飯の後トッシーは私とトランプするアル」
「えー…僕、皆で人生ゲームやろうと思ってたのに…」
「仕方ないアルな。トランプの次にやらせてやるネ。…新八は銀行係アルヨ」
「分かったよ」

土方がポカンとしている間にも、主に新八と神楽で次々に今日のプランが決められていく。
ふと、銀時が所在なさげに立ち尽くしている土方に気付いた。

「オメーら…当の土方が突っ立ったままじゃねェか」
「あっ、すいません土方さん。…ここに座って下さい」
「あ、ああ…」

新八は座布団を勧め、土方はその上に座った。

「恋人を放っておくなんて…銀ちゃんは気が利かないアルな」
「えっ、俺?さっきまでオメーらがもてなしてたじゃねーか…」
「まあまあ二人とも、ケンカはそのくらいにして…ほら、土方さんが困ってますよ」
「新八ィ…オメーだけいい子ちゃんになろうなんざ百年早ェんだよ…」
「そうネ。一人だけいいカッコしてズルイアル。ズルイメガネ…略して、ズルイメガネアル!」
「…全然略してないよね?」
「細かいことは気にするなアル」
「土方…どれにマヨネーズかける?…あっ、全部だよな?」

新八と神楽の言い争いの隙をつき、銀時がマヨネーズ片手に土方に話しかける。

「あっ、銀ちゃんズルイアル!トッシー、マヨネーズなら私がかけてあげるヨ」
「神楽ちゃんもズルイじゃないか。僕だって何かしたいよ…」
「じゃあここは間を取って俺が…」
「全然、間じゃないアル!騙されないネ!」
「やっぱりここは僕が…」
「私ネ!」
「俺だろー」



その後も万事屋の三人は競って土方を持て成した。

食事の後は予定通りトランプと人生ゲームで遊び、それから新八は神楽を連れて志村家へ帰って行った。


二人きりになり、銀時は土方にビールを出す。

「悪ィな…新八も神楽もうるさくってよー…疲れただろ?」
「いや…。その、今日は一体、何だったんだ?」

まだ、銀時が別れたがってると思っている土方は
今日の持て成しが「最後の思い出作り」なのではないかと疑っている。

「別に何ってワケじゃねェんだけどよー…アイツら土方と話がしたいって聞かなくて…」
「話?二人からは何も聞いてないぞ?」
「あー…違ェって。重要な話があるとかじゃなくて、オメーとおしゃべりしたいってこと」
「俺と?何でだ?」
「…銀さんの彼氏だからな」

本当は銀時が家で「土方って優しいんだぜ」と(ヘタレな面は隠して)恋人自慢ばかりするものだから
銀時ばかり優しくされてズルイ!となり、新八と神楽も土方と楽しく遊びたいと言うので呼んだのだ。
だが、さすがにそれを土方へ伝えるのは恥ずかしいと思われたため、銀時は適当に言葉を濁した。

「…品定めってことか?」
「そんなんじゃねェよ。銀さんが仲良くしてるヤツとは、二人も仲良くしてたいんだって」
「仲良くって…もう、気持ちが冷めたんじゃねェのか?」

遂に土方はずっと思い悩んでいたことを聞いてみた。
銀時はきょとんとした顔をしている。

「ナニソレ?俺がいつそんなこと言った?」
「あ、いや、その…前に、ヤりたくないと…」
「あー…何だよ。まだそれ引きずってんの?違うって。アレは、えーっと…そう!罰ゲーム的な感じだ」

土方のヘタレを治すためにやったと言えば、また「ヘタレな俺なんて…」と沈んでいきそうなため
銀時は口から出まかせを言う。

「…罰ゲーム?」
「罰ゲームっつーか、賭けっつーか…俺がよー…『土方は優しい』って言ったら、神楽が…
いや、新八だったかな?とにかくどっちかが、『土方はすぐキレるはずだ』みたいなことを言うから…
それで、わざと怒りそうなこと言ってみて、土方が怒らなかったら俺の言うことを信じろ的な?」
「そうだったのか…。すまん。また俺はお前を疑ってしまって…」
「いや、俺の方こそ悪かったな。いきなりンなこと言われたら驚くよな」
「あ、いや…」
「たまには俺にも謝らせて。…ゴメンね土方」
「ぁ…」

銀時は微笑みながら謝って、土方の唇に自身のそれを合わせる。

こうして恋人達の夜は更けていった。


(10.05.25)


タイトルと内容があってませんね^^;「恋心が冷めてしまいそう」と銀さんが思っているのではないかと土方さんが思い悩む話でした。

最終話が近付き、だんだんとラブラブな感じになってきました^^ 銀さんはかなりヘタレな土方さんのことが好きになっていて、どうやら万事屋で惚気ていた模様です。

新八や神楽に優しくされる土方さんって、土銀ではあまり書いたことがないような気がします。ヘタレな土方さんは「優しい」ということで子ども達もとっつきやすいんでしょうね。

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。 続きは暫くお待ちください。

追記:続きはこちら