ヘタレな恋人 第三話:おろおろする姿にため息


土方と付き合って一ヶ月が過ぎた。相変わらずアイツは俺が聞かねェと何も言わねェ。
それをいいことに俺は、ほぼ毎日のように何かしら奢らせていた。
デートの時の食事代はもちろん、巡回中のアイツを掴まえて団子屋連れていったり(食うのは俺だけ)
そんな時間もない時はコンビニでプリン買わせたり…。アイツも嫌がる素振りは見せねェし
こんくれェ高給取りのアイツには何ともねェのかも、とか思うようになってきてた。

「なあ土方…今日はあの店の期間限定パフェ食いたい」
「あっあの、その…」
「ダメか?」
「いや、その、ダメってわけじゃ…」
「じゃあ行こうぜ」

今日は午後から空いてるという土方とデートだ。俺はアイツの手を取って甘味処へ向かう。
奢ってくれるご褒美として、アイツから言い出さなくても手は繋いでやることにしてる。


甘味処に入って、二人がけの席に向かい合って座り、俺はメニューを広げる。
いつだってメニューを見るのは俺だけだ。…土方は糖分に興味ないからな。

「なあ…ケーキも頼んでいい?」
「あ、ああ…」
「お前は?いつものコーヒー?」
「ああ…」
「…たまには何か食ったら?ここ、軽食もやってるぜ」
「えっ?」

毎回俺に合わせてもらってんのも悪い気がして、俺は土方にメニューを渡した。
今までと違う俺の行動に驚いたのか、土方はメニューを持ったまま固まっている。
…食い物屋に来て何か食えって言うのがそんなに変か?

「…とりあえず、メニュー開けば?」
「えっ?あ、ああ…」

俺に促されてメニューを開くが、視線を彷徨わせているだけで恐らく何も見えていない。
何なのコイツ…。何でメニュー渡されたくらいでそんなに焦ってんの?
そりゃあ、いつもは俺が勝手にパフェとかケーキとかあんみつとか注文して
コイツはコーヒーか緑茶くらいだよ?
居酒屋とかメシ屋とかではそれぞれ注文するけど、甘味処で食い物注文したことねェよ。
…だからってそんなに慌てることか?食いたくねェならそう言えばいいだけじゃねーか。
ハァー…本当に世話の焼けるヤツだ。

「お前、腹減ってねェの?」
「まっまあ、そんなには…」
「じゃあいつも通りコーヒーでいいか」
「あっでも、これ…」

土方はメニューをちょっとだけ持ち上げた。

「たまには食いてェかなと思って渡しただけだから。いらねェならいいよ」
「す、すまん…」
「謝ることじゃねェだろ?…ていうか、お前の奢りだし」
「あ、それは…そう、だが…」

…なんか歯切れ悪ィな。そういやぁ、ここに来る前もちょっと渋ってたな。
今までなら「あれ食いたい」「そうか」で終わってたのに…さすがに奢るのが嫌になったのか?
でもなァ…これ、俺から聞いてやるのヤだなァ。聞いたら奢ってもらえなくなるんだろ?
あー…くそっ!そんな何かを訴えるような目で見るんじゃねェよ!俺は知らねェ!
何も気付いてねェからなっ!

俺は土方の熱視線(?)を振り切ってパフェとケーキとコーヒーを注文した。

*  *  *  *  *

「いやー美味かった!ごっそーさん」
「あ、ああ…」

甘味処を出ても土方の表情は冴えない。相変わらず目だけでこっちに訴えてくる。
ハァー…もうかなり奢ってもらったし、ここらで潮時か…。
まあ、俺が貧乏なのは知ってっから、本当にピンチの時は助けてくれんだろ…。バイバイ、俺の甘味生活。
非常に不本意ではあったが、俺は糖分三昧の日々に別れを告げて土方に聞いてやった。

「なあ…俺に何か言いたいコトあんだろ?」
「えっ!」

…ナニ驚いてんの?あれだけ何か言いたそうにしてたのに気付かれてねェとでも思ったか?アホだな、コイツ。

「今日会った時からずっと変だったじゃん。そんくれェ分かるっつーの」
「そ、そうか…」
「…で、ナニ?」
「いや、その…たまには、お前んトコのガキ共も連れてきてもいいんじゃねェかと…」
「はぁ?新八と神楽を?デートに?」

あれっ?奢るのが嫌とかそういう話じゃねェの?

「…デートっつーか、その、一緒にメシ食う時とか…」
「何で?」
「あっ、別にお前と二人なのが嫌ってワケじゃ!ただ、その…」
「いいから言えよ」
「あ、あの…アイツらは、その…メシ、食わなくていいのか?」
「はぁ?食ってるに決まってんだろ。神楽なんか人一倍…いや、人十倍くらい食ってるぜ」
「そっそうか…。じゃあ、お前はもっとちゃんとしたモン食わなくて平気なのか?」
「はぁ?」

何だ?何が言いてェんだ?つーか「ちゃんとしたモン」って何だよ。

「マヨラーのテメーには糖分の良さが分かんねェんだよ」
「あ、いや…好きなモン食うのは構わねェが、メシはメシで食った方が、いいんじゃねェかと…」
「…今日の昼メシならウチで食ってきたけど?」
「そっそうなのか?それなら良かった…」
「…あのさァ、お前、結局ナニが言いたいわけ?」
「その…会う度に何か食いたいっつーから…余程、その…金がねェんだなと」
「あ?」
「い、いやっ、オメーには養わなきゃなんねェガキがいるんだし、気にすることはねェ」
「はあ」
「ただ…もし、メガネとチャイナも腹空かせてるなら一緒にと思って…。
だがさっき聞いたらガキはちゃんと食ってるみてェだから、もしかしてガキに食わせてオメーは
我慢してるんじゃねェかと…」
「それで『ちゃんとしたモン食え』って言ったわけね」
「あ、ああ…。余計なことだとは思ったんだが、お前の体が心配で…すまん」

コイツ…たかられてんのも気付かず、ずっとそんなコト考えてたのか?
俺だけじゃなく新八と神楽の心配までして…お人好しっつーか、何というか…

「オメー、もうちょい人を疑った方がいいんじゃねェの?」
「疑う?何で恋人を疑うんだ?」
「はいはい、そーですね」
「おい、俺ァ本気でオメーの心配を…」
「分かってるって。ありがとな。でも大丈夫。本当はそこまで金に困ってねェんだけど
オメーと一緒にいたくて色々言ってただけだから」

嘘だけど…今まで奢ってくれた礼にこんくらいのサービスはしてやるよ。
土方は真っ赤になってアワアワしてる。…なんか楽しくなってきたからもうちょっとサービスしてやるか。

「土方ァ…少し早いけどホテル行かねェ?サービスしてやるよ」
「なっ!おまっ、こんな街中でそんな…」
「はいはい。じゃあ静かで二人きりになれる所に行こうな」

俺は土方の手を引いてホテルに向かった。

今日のホテル代は俺が……いや、割り勘にしよう。


(10.04.15)


前回は土方さんが少し可哀相な感じで終わりましたが、今回いつの間にか甘い感じに…銀さんが絆されてきました^^

ヘタレも度が過ぎると愛しく思えてくるのでしょうね(笑)。基本的に面倒見のいい銀さんですから、手のかかる土方さんといるのも苦ではないのかと…。

まあ、今度どうなるかは分かりませんけれど^^;  続きは18禁です

 

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