ヘタレな恋人 第九話:そんな恋人に惚れた自分が負け
「副長…尾けられてますね」
巡回していた平隊士が背後に何者かの気配を感じ、一緒にいた土方に耳打ちする。
それを聞いた土方は大きく溜息を吐いた。
「…放っとけ」
「えっ、ですが…」
「別に襲ってきやしねェから安心しろ」
「そうなんですか?もしかして…殺気を感じないとか、そういうことですか?」
「まあ…」
「すごいですね。さすが副長…」
隊士に尊敬の眼差しを向けられ、土方は申し訳ない気持ちになる。
そもそも土方は後ろにいる人物が誰だか分かっているのだ。ここのところ毎日のように尾けられている。
巡回を終えて屯所に戻るまで、何者かはずっと土方達を尾行していた。
出迎えた山崎もその存在に気付く。
「副長…また連れてきちゃったんですか?」
「連れてきたんじゃねェよ。勝手に付いてきたんだ」
「そんなこと言わないで、中に入れてあげたらどうですか?」
「仕事の邪魔になるだろ…だいたい、今夜会う約束してんだよ」
「そうなんですか?じゃあ、副長の仕事が終わるまで待っててもらいますか」
「ああ」
土方はまた一つ溜息を漏らして自室に入った。
* * * * *
「トシー、万事屋が来てるぞー」
「………」
暫くすると、土方が気付かぬフリをし続けていた人物を、何も知らない近藤が連れてきてしまった。
銀時も見付かってマズイと思っているのか、常以上に視線を彷徨わせている。
「近藤さん…今、仕事中なんだが…」
「トシは真面目だなァ…。せっかく恋人が会いに来たんだ。少しくらい話をすればいいだろ」
「あ、あのっ、俺、もう帰るから…」
「万事屋も遠慮せずにゆっくりしていけ。…俺が許可するから」
帰ろうとする銀時を近藤が引き止め、結局、副長室で二人きりにされてしまった。
「…何か用か?」
銀時の用件は分かっているのだが、土方は一応儀礼的に聞いた。
「あの…カラダ、大丈夫?」
「ハァー…」
土方は今日何度目か分からない溜息を吐く。
「あのよー…あれから何日経ってると思ってんだ?もう大丈夫だって何度も言っただろ?」
銀時が土方の体を気にかけている理由、それは初めて土方を抱いた日にあった。
初めてにもかかわらず無茶をしたという自覚のある銀時は、その後の土方の体調が心配でならなかった。
その日から一週間ほど経過しているのだが、銀時は毎日「こっそりと」土方の様子を見に来ている。
最初の何日かは土方も、銀時を見付けると「どうした?」と聞き、「体は大丈夫だ」と伝えていた。
だが、何度「大丈夫だ」と言っても銀時は「様子を見に来る」のをやめないため
最近は声を掛けるのも面倒になり、気付かないフリをしていたのだった。
「土方は、優しいから…本当は辛いのに、俺に気を遣ってくれてるんじゃないかって…」
「だから…例えそうだったとしても、ここまで日が経てば回復するって…これも何度も言っただろ?」
「で、でも…」
「お前が俺のことを気にかけてくれんのは嬉しいけどよ…お前にだって仕事があんだろ?
ガキ二人とデカい犬も食わせていかなきゃなんねェんだし。…本当にもう大丈夫だから。なっ?」
「…本当に?」
「ああ」
「…分かった」
「じゃあ…また今夜な」
「うん。仕事の邪魔してゴメンね」
銀時はまだ心配そうに土方を見つめていたが、仕方なく副長室を後にした。
「なんだ…もう帰るのか?」
「あ…」
玄関に向かう銀時を近藤が呼び止めた。
「あー…その、俺…土方に会いに来たわけじゃねェから」
「そうだったのか?じゃあ、何でここにいたんだ?」
「その…ちょっと心配なことがあって、土方は元気かなァと…」
「心配?トシに何かあったのか?」
銀時が土方を心配していると聞き、近藤も心配になる。
「何かっつーか、その…前に会った時、無茶させちゃったから…」
「無茶?」
「まあ…色々、あったから…疲れが残って、ないかと…」
夜のあれこれを他人に話したら土方が嫌がると思い、銀時は肝心な所をぼかして話す。
「よく分からんが…遅くまで飲み歩いたとか、そんなところか?」
「ま、まあ、そんな感じ。…だから、心配になって…」
「それで様子を見に来たってわけか」
「ああ…」
「それなら堂々とトシに会えばいいだろう?」
「でも…仕事の邪魔はしたくないし…」
「それで様子を見るだけにしようとしてたのか…」
「ああ」
「偉い!」
「…へっ?」
近藤は腕を組み、感心したようにうんうんと頷く。
「万事屋…お前がそこまでトシを大事に思ってくれているとはな…」
「あのー…」
「確かにトシは、直接『疲れてないか?』とか聞いても『疲れてる』なんて素直に言えるヤツじゃないよな」
「まあ…」
「お前はそれが分かっていて、敢えてこっそり様子を見ようとしていたんだな…。偉いぞ、万事屋!」
「そ、そうか?」
「ああ!お前にならトシを任せられる。これからもトシを見守っていてくれ!」
「で、でも…さっき、もう大丈夫だから自分の仕事しろって言われたし…」
「そうか。じゃあ…見守りの合間に仕事をすればいいんじゃないか?」
「その手があったな。よしっ、次からはちゃっちゃと仕事を終わらせて様子を見に来よう!」
「よろしく頼むぞ」
「おう!」
土方の知らないところで、銀時はこれからも「こっそり」様子を見に来ることを決めたのだった。
* * * * *
数日後。土方は銀時を自室に呼び出した。
イラついた様子でタバコを吹かす土方を前に、銀時は正座して縮こまる。
「あ、あの…土方?いや、土方様?」
「土方でいい。…今度は何だ?」
「な、何のことでしょう?」
「何のことでしょう、じゃねェよ。毎日毎日…何で俺の周りをうろついてんだよ」
「それは、その…土方様…いや、土方伯爵が、元気かなァと思って…」
「はぁ?何だよそれ…。俺ァ、元気だから大丈夫だ。それから…土方でいい」
「でもさ…ケガとか、するかもしれないし…」
「そりゃあ、こういう仕事だからな」
「だから…なるべく傍にいたいんだ」
「傍にって…オメー、自分の仕事はどうすんだよ…」
「仕事はちゃんとやります!家賃も滞納しません!だから、だから…」
瞳を潤ませて懇願する銀時に、土方は絆されてしまう。
「分かった…。仕事をちゃんとやるなら、空き時間は好きにすればいい…」
「ありがとうございます!土方さm…土方の邪魔も絶対しません!」
「ああ…」
「それじゃあ、あの…お邪魔しました!」
「ああ…」
土方に深々と頭を下げて銀時は土方の部屋を出た。
しかし、部屋を出ても銀時の気配は遠ざからない。
どうやら今日の仕事は終わっているようで、土方を「見守る」体勢に入ったらしい。
(アイツ…本当にちゃんと仕事してんのか?まあ、俺に嘘つくようなヤツじゃねェな…。
ていうか、傍にいたいって…ただ、こっそり見てるだけじゃねェか。一歩間違えればストーカーだぞ…)
嬉しそうな表情で仕事に戻った土方は、銀時の行為を迷惑だとは全く思っていないようだ。
(アイツの心配性もかなりのもんだが…アイツになら、ストーカーされても嫌じゃねェって思ってる
俺の方が重傷だな…。結局のところ…)
―そんなアイツに惚れた俺の負け、か。
そんなことを考えながら土方は、銀時に「見守られて」今日も仕事に精を出すのであった。
(10.06.13)
誰か土方さんに、銀さんは既にストーカーだということを教えてあげて下さい(笑)。近藤さんとのストーカー談義(?)に花が咲いちゃったし…^^;
仕事の合間に来てると土方さんは思っていますが、銀さんとしては、見守りの合間に仕事してる感覚です(笑)。でも、土方さんに宣言したからちゃんと稼いではいます。
次回、遂に最終話です!最後はいちゃらぶエロで終わらせたいなぁ、と思っております。第十話は土銀版と同時に、今月中にはアップします!
ここまでお読み下さりありがとうございました。
追記:続きアップしました。18禁です。→★
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