第七話の翌朝です。



ヘタレな恋人 第八話:恋心が冷めてしまいそう


「すいまっせーん!!」
「………は?」

目覚めた途端、土方の耳に飛び込んできたのは謝罪の声。
ベッドに寝たまま首だけ横に向けると、ベッドの脇で土下座している銀時が見えた。
銀時は頭を絨毯に擦りつけ、何度も謝り続けている。

「本当にすいまっせーん!!草履の裏でも何でもなめますんでェェ!!」
「いや…今、裸足だし…」

問題なのは草履を履いているかどうかではないのだが、土方は寝起きで上手く頭が働かないようだ。
だが必死に謝る銀時はそんなことに気付かない。

「じゃあ、足の裏でも何でもなめますんでェェ!!本当に、本当にすいまっせーん!!」
「えっと…とりあえず、顔上げろよ。…っ!」
「ああっ!!」

土方は徐々に覚醒してきたが、それでもなぜ銀時が土下座しているのか理解できない。
謝る理由を聞こうと体を起こしたところ、下半身に鈍い痛みが走った。
それを見た銀時は再び頭を下げる。

「申し訳ありませんごめんなさいすいまっせーん!!」
「あのよ…何を謝られてんのかサッパリ分からねェんだが…」
「き、昨日…俺、途中からワケ分かんなくなって…気付いたら、土方がぐったりしてて、その…」

昨晩二人はようやく一つになれたのだが、我慢に我慢を重ねた銀時は途中で限界が訪れて
その後は本能の赴くままに土方を抱き続けてしまった。
我に返った銀時は慌てて土方の身体をキレイにして、新しい浴衣を着せ、使ってなかったベッドへ寝かせた。
そして、土方が目覚めたらすぐに謝ろうと一睡もせずに朝を迎えたのだった。

「そのことなら別に怒ってねェから謝んなくていいぞ」
「でもでもっ、さっき起きた時、なんか痛そうで…」
「あー…まあ、ちょっと怠いだけだ」
「やっぱり…。こうなったら腹を切るしか…」
「アホか!んなことで死ぬんじゃねーよ」
「土方に酷いことをしたんだ!こんな俺なんか死んだ方がいいに決まってる!」
「決まってねェ!…ったく、普段はヘタレ…あっいや、遠慮がちなくせに、なんでこういうトコだけ頑固なんだよ…
いいか?俺は別に怒ってないから、詫びる必要もねェよ」
「分かった…。今までありがとうございました」
「全っ然、分かってねェじゃねーか!何ですぐ別れようとすんだよ!」
「だって…謝っても無駄なくらい、俺のこと嫌いになったんでしょ?」
「そういうことじゃねェよ…」

自分のことを考えてくれているのだと分かっているつもりだが、こうも簡単に別れようとする銀時を見ていると
本当に別れてやろうかと思ってしまう。
土方が別れを切り出したら最後、二度と修復できない気がするので言わないではいるが…。

許しを請おうと必死の銀時に、土方はどうしたものかと考えて部屋を見渡す。
そこである物に目を留めた。

「…銀時、コーヒー淹れてくれるか?」
「へっ?」
「コーヒー。そこにあんだろ」

土方は冷蔵庫の上を指差す。そこには電気ポットや湯呑み、コーヒーカップ等が置いてある。
セルフサービスで緑茶とコーヒー、紅茶が飲めるようになっているのだ。

「美味いコーヒー淹れられたら許してやるよ」
「わっ分かった!」

銀時はポットの元へ走っていく。許すも何も、最初から土方は怒っていないのだが
銀時は「怒っている」と思い込んでいるようなので、適当な条件をクリアさせて許したことにすればいいと考えた。

「あの…」
「ああ、そこのテーブルに置いてくれ」
「はい」

コーヒーの準備ができたらしく、カップを持って立ち尽くしている銀時に土方は指示を出し、ベッドから下りる。
未だ下半身に痛みがあるが、銀時を不安にさせぬよう、できる限り平静を装った。

「………何の真似だ?」
「イス、です」

テーブルにカップを置いた銀時はその場で四つん這いになる。ワケが分からず土方が問うとイスだと返ってきた。
それでも土方には何が何だか分からない。

「イスって…はっ?」
「だから、土方がイス代わりに俺に座って…」
「いや…そこにソファがあるじゃねェか」
「…俺に座るのが嫌なんだ」
「ちょっ、ちょっと待て」

銀時が項垂れた理由は分からなかったが、土方は銀時の体を起こさせてソファに並んで座った。

「銀時お前…誰かに何か吹き込まれたのか?」

いつもおどおどしている銀時ではあったが、今日の様子は明らかにおかしい。
切腹するとかイスになるとか、さすがにそんなことは今まで言われたことがなかった。

「吹き込まれたというか、その…沖田くんに、アドバイスを…」
「総悟にアドバイス!?一体何のアドバイスだよ…」
「土方を怒らせちゃったから…どうしたら許してもらえるかと思って…」
「…んな相談、いつの間にしたんだよ」
「昨日…ロビーの公衆電話から…」

どうやら土方が眠っている間に、銀時はなけなしの小銭(現在三百円しか持っていない)で電話を掛けたようだ。

「ハァー…それにしても何で総悟なんだよ…」
「屯所に電話したら沖田くんが出て…土方のことは近藤が一番詳しいかと思ったんだけど
沖田くんが、土方に怒られた経験は誰よりも多いから、謝り方なら自分が一番詳しいって…」
「…それで?総悟は何て言ったんだ?」
「基本は土下座で…とにかく何でもするって姿勢が重要で、でも…どうしてもダメなら切腹しかないって。
真選組の中には切腹を回避するために、奴隷生活を送ってるヤツもいるって言うし…」
「奴隷生活ぅ!?」
「土方のイスになったり、素手でタバコの灰を受け止める灰皿になったり、新しい刀の試し斬りの相手になったり
ストレス解消のサンドバックになったり…」
「おい…テメーはそれを信じたのか?」
「だって鬼の副長だし…」
「ハァー…」

土方は今日一番大きな溜息を吐いた。

「そりゃ、鬼とか言われてるけども!だからって、ヘマやらかした部下を奴隷扱いなんかするかよ!
オメー、総悟にからかわれたんだよ。アイツはサディスティック星の王子なんだからよ…」
「あっ、沖田くんは土方がその星の大王だって言ってたよ。部下を奴隷扱いするのも愛情表現のうちだって。
だから土方が俺に座ってくれなかった時、俺のことは嫌いなんだと思って…」
「あの野郎、勝手に人をドSキャラにしやがって!…それも嘘だから。俺にそういう趣味はねェよ。だから……」

テーブルの上に放置されて冷めかけているコーヒーを土方は一気に飲み干す。

「コーヒー美味かった。昨日のことはこれで許してやるからな」
「ほん、と…?」
「ああ」

土方はにっこりと笑った。
その笑顔を見た瞬間、銀時は昨晩から続いた長い長い緊張状態から解放されたのであった。

「良かった…。本当によか、た…」
「お、おいっ」

銀時は徹夜の疲れに襲われ、その場で倒れ込むようにして眠りに就いた。

土方は眠ってしまった銀時を抱え上げ、自分が今まで寝ていたベッドにそっと寝かせた。
それからフロントへ連絡し、チェックアウトが遅れる旨を伝えるのであった。


(10.06.09)


銀さんを抱っこする土方さんって…また何の需要もなさそうなものを書いてしまった^^; 銀さんはヘタレとか以前に、土方さんのこととなるとアホの子になるみたいです。

何でもかんでも信用してネガティブになりすぎです。どこをどうしたら土方さんがドSに見えるんでしょうね(笑)。土方さんのために喜んでイスになろうとした銀さんは

ちょっぴり(?)Mな気がします。この人間イスは、ヘタレ連載開始直後にとある方からいただいたネタです。Iっちさん(伏せ字の意味がない;)漸く使えましたよ〜^^

ここまでお読み下さりありがとうございました。 続きはこちら

 

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