ヘタレな恋人第六話:何処まで悩ませればいいのやら
大江戸ぷりんすホテル―かぶき町で最も有名なホテル。
そのホテルのエントランスを抜けると、銀時は土方をロビーのソファに座らせた。
「俺、手続してくるから座って待ってて」
「だが…」
「土方は有名人なんだから…男とホテルに来たって知られたくないだろ?」
「いや…」
出張や捜査等で隊士や幕府関係者と宿に泊まることはよくあるので、例え土方の身元がバレても問題はないと思われる。
しかし、銀時の気遣いを無碍にすることもないかと、土方は懐から財布を取り出して銀時に渡した。
「え、あの…」
「金、忘れたんだろ?」
「でも、会計って帰る時じゃ…」
「こういう所はたいてい最初にいくらか預けておくんだよ」
「あ、そうなの?さすが土方…」
「別に…仕事で宿をとることがあるから知ってるだけだ」
「そっか…じゃあ、お借りします」
「おう」
土方の財布を持って銀時はフロントに向かう。
自分の懐事情とあまりに違う財布の中身に挫けそうになりながらも
銀時は何とか宿泊手続を済ませ、カードキーを受け取って土方の元に戻ってきた。
「じゃあ、行こうか」
「おう」
銀時の先導でエレベーターに乗り込む。
わざわざホテルを予約した銀時の意図に、土方はとっくに気付いていた。
何でもない風を装ってはいるものの実は非常に緊張しており、今自分がどこを歩いているのかも分からない状態だった。
「あっ、ここだ」
銀時が部屋番号を確認し、カードキーを差し込む。
こちらも緊張で手が震えていた。
(この部屋、土方が気に入ってくれなかったらどうしよう…。一応、一番安い部屋は避けたけど
それでもこのホテルでは安い方の部屋だしなァ。…えぇい!今更変えられねェんだ。よしっ!)
気合を入れ直し、銀時は部屋の扉を開けると土方を先に中へ通す。
「どーぞ」
「あ、ああ…」
「……えっ」
土方に続いて部屋に入った銀時はがっくりと項垂れた。それを見て土方は慌ててフォローを入れる。
「いい部屋じゃねェか。広すぎると落ち着かねェしな。…それに、なかなか眺めもいいぜ」
「ああ、うん…」
実は銀時が問題にしていたのは部屋の広さや眺めではなかった。
(何でベッドが二つあるんだよォォォ!バカ!俺のバカ!
二人部屋ってツインとダブルがあるじゃねーか!ああああ…どーしよう…)
「銀時、どうした?この部屋、気に入らなかったのか?」
「………」
銀時はフルフルと首を横に振った。
(俺がちゃんと確認しなかったのが悪いんだ。仕方ない。今日はこのまま別々に寝て…
…そんなの嫌だ!今日こそは土方とエッチしてェ!何とか考えないと…)
銀時は腕を組んだり、頭を掻いたりしてうんうん呻っている。
土方は部屋のソファに腰掛けてその様子を見ていた。
(…何をそんなに悩んでるんだ?部屋がダメだったのかと思ったが違うみてェだし…
そもそもコイツが予約したんだから部屋が悪いってことはないよな。じゃあ何だ?
…もしかして、ヤろうって言い出せなくて悩んでる、とか?…仕方ねェな)
「銀時、とりあえず風呂に入ったらどうだ?」
「風呂?ああそうね。………いや、お先にどうぞ!」
「そうか?じゃあ、そうさせてもらう」
「ごゆっくり〜」
土方はホテル備え付けの浴衣とタオルを持って浴室へ向かった。
(やべェ、やべェ…土方ほったらかしだったよ!呆れられちゃったかな?でも、風呂入ったんだから帰る気はないってことだよな?
よしっ、土方が風呂から出たらちゃんと…でも、どうやって?………あっ、そうだよ。
エッチの時は片方のベッドだけ使えばいいんじゃん!あー、何でこんな簡単なこと思い付かなかったんだろ。
むしろその方が遠慮なくドロドロに溶け合うようなエッチが…。
そんで終わったら、土方に使ってないキレイなベッドで寝てもらって、俺はその辺で寝ればいいよな。よしっ、完璧!)
ごくごく当然の考えに漸く思い至った銀時は、とても満足そうに風呂上りの土方を出迎えた。
「…何かいいことあったのか?」
「いやー、別にー。じゃあ、俺も風呂入ってくるな」
「おう」
よく分からなかったが、とりあえず銀時がいつもの調子を取り戻したのでいいかと土方は思った。
しかし、風呂から出てきた銀時はまたもや険しい顔をしていた。
(俺、土方を抱くことしか考えてなかったけど…土方も同じだったらどうしよう。
土方のやりたいようにさせたいけど、突っ込まれるのはちょっと…ああ、でも、それで別れるくらいなら
一回くらい…いや、でも…)
「銀時、何を悩んでるんだ?」
「なっ悩んでるというか、その…」
「…俺には言えないことか?」
「そそっそういうんじゃなくて、えっと…あのっ!ひひひ土方は、その…ううう上ですか、下ですかっ!」
「………」
いきなり何を聞かれたのか分からなくて、土方は目をパチパチさせる。
それを銀時は拒絶と解釈したようで…
「ごごごごめん!まだ早かったよね!えっと、じゃあ…」
「あっ…そういうことか。えっと、その…お前さえよければ…しっ下で…」
「えっ!…いっいいの!?」
「………」
コクンと土方は首を縦に振った。
銀時は糸が切れた操り人形のようにその場にへたり込んだ。
「お、おい銀時?」
「良かった…俺、土方に嫌われたらどうしようって…」
「何で嫌いになるんだ?」
涙目になりながら銀時は胸の内を吐露していく。
「だって…土方とエッチしたくて…でも、そんなことしたら嫌われるって…」
「ったく…お互いいい歳なんだから、付き合うってことは、そういうことも込みだろーが」
「俺はそうだけど…土方はそうじゃないかもしんないじゃん」
「分かった、分かった。…俺も同じだから、なっ」
「うん」
銀時はもう一度「良かった」と言って、安堵の溜息を吐いた。
* * * * *
窓際のベッドに土方を寝かせ、銀時はその横で正座している。
「あ、あの…帯、解いていい?」
「ああ」
土方の浴衣の帯を、銀時は震える指でゆっくりと解いていく。
「あ、あの…前、開けてもいい?」
「…ああ」
銀時はゆっくりと着物の合わせを開いていく。
(…俺が乗っかった方が早いんじゃねェか?いや、初回からそれは流石に…でも遅ェ。
浴衣の前を開くのに何分かかってるんだ!せめて服くらいは自分で脱げば良かったか?
だがそれはそれで恥ずかしい気も…あー、時間をかけると余計に恥ずかしさが…もしかして、そういうプレイ?ドS天パめ!)
これが焦らしプレイだと土方も本気で思っているわけではない。
だが慎重すぎる銀時の行動に、土方の羞恥心はどんどん募っていき、心の中だけでも悪態を吐かなければ平静を保っていられなかった。
恋人達の夜はまだ始まったばかり。
(10.05.17)
まず最初に謝っておきます。すみませんでした!前回、「次はいよいよ」みたいなこと言いましたが、無理でした。銀さんがヘタレ過ぎたのが原因です^^;
もう、土方さんが乗っかっちゃえばいいと思うんですよね(笑)。でも、土方さんは土方さんで、最初から受けの自分が積極的に出るのはマズイ…とか思っています。
だから出来る限り銀さんに任せているのですが、そのせいで余計に恥ずかしい思いをする羽目になっています。次こそは、本当の本当に…18禁になる、と思います(笑)
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
追記:続き書きました。18禁です。注意書きに飛びます。→★
ブラウザを閉じてお戻りください