今日こそ、今日こそアイツと結ばれるんだ!



ヘタレな恋人 第五話:手際の悪さに苛々が募り



土方と付き合って半年が過ぎた。そろそろ、いいんじゃないかと思う。…何がって、ナニが
ぶっちゃけ、我慢の限界なんだよね。土方ってほら、エロいだろ?
なんかこう…滲み出てる気がするんだよね、フェロモン的なものが。
隣で寝てる時なんか、マジで襲いかかっちゃいそうでヤバいんだよ。

でもさァ…そんな本能のままに手ェ出したら、絶対に嫌われるじゃん。
土方ってかなり真面目だから、付き合ってすぐヤろうなんて言ったら軽蔑されると思う。
それにこういうコトには淡白そうだからな。あんまりガッついてると思われたくない。
だから頑張ったんだよ。

そんな禁欲生活とも明日でおさらば!明日の夜、俺は土方と結ばれるんだ!
明後日は土方が非番だから、その前夜に飲みに行こうって言ってくれた。
しかも泊まりOKだって。いつもはウチに泊まるんだけど、明日はホテルに誘ってみようと思う。
前に清掃のバイトをしたことがあるホテルだから下見はバッチリだ。
本当はラブホの方が安くつくんだけど、最初はきちんとした所の方が土方も喜ぶはずだ。


*  *  *  *  *


決戦の日…じゃない、約束の日。俺は約束の時間の一時間前に待ち合わせの居酒屋に着いた。
絶対に遅刻したくなかったというのと、家にいてもそわそわして落ち着かなかったからだ。

そして約束の時間の五分前、土方が居酒屋にやって来た。ヤベェ!超ドキドキしてきた!

「あっ…いらっしゃい」
「…ぷっ、ここはオメーの店かよ」
「あ、ああ、ははは…」

確かに「いらっしゃい」は変だったな。…呆れられたかな?でも楽しそうにも見えるし…。

「銀時?」
「っ!」

なっ何!?コテンって首傾げて、可愛すぎだろー!ちょっ、ダメだ…落ち着け、俺ェェェ!
土方が変に思うだろ!ここでいい雰囲気になって、ほろ酔い加減の土方をホテルに誘うんだから!

「えっとね、その…」
「銀時…別の席でもいいか?」
「えっ?あっ、カウンターの方が良かった?」

土方が来てから注文するっつったら、オヤジに奥の座敷に押し込められたんだよな。
飲み食いしねェヤツが目立つとこ座ってんな、とか言われてよー。
だが、土方が問題としたのは座敷か否かではなかった。

「いや、座敷でもいいんだが…ここ、禁煙席だから」
「あっ!」

俺の座っているテーブルの端には、タバコに斜線のマーク。

「ごごごごめん!すぐ出よう!早く出よう!」

俺は急いで座敷を出…ようとしたが、ブーツがなかなか履けねェ。
くそっ!何でこんな面倒なもん履いてきちまったんだよ!

結局、俺と土方はカウンター席に並んで座ることにした。

「え、えっと…きょっ今日は、その…ありがとう」
「…何のことだ?」
「あ、えーっと…」

何言ってんだ俺ェェェ!ありがとうって何だよ!意味分かんねェ!
しかも「今日はありがとう」って別れの挨拶じゃね?まだ会ったばかりなのに?
もう帰りたがってるとか思われたかも!早く訂正しなきゃ!

「えっと、ありがとうじゃなくて、その…あのね?」
「銀時…とりあえず、ビールでいいか?」
「あっ、そっそうだね。…ありがとう」

土方は店員を呼んでビールと肴を幾つか頼んだ。そうだよ!ここ飲み屋なんだからまず注文だよ!
「何頼む?」って聞けばよかったんじゃねーか!ありがとうじゃねーよ、俺ェェェ!
ヤベェ…このままじゃいい雰囲気になるどころか嫌われて別れの危機!?そんなの嫌だー!

「え、えっと、あの…お仕事、お疲れ様です」
「おう。…オメーの方はどうだったんだ?」
「えっ俺?俺は、えっと………あっ、依頼ありました!模様替えの手伝い!」
「そうか…。仕事あって良かったな」
「あ、はい…おかげさまで」
「…俺は何もしてねェよ。お前らが信用されてるから仕事、頼まれるんだろ?」
「あ、それは、どうも…」

…マズイ。土方の労を労うつもりが逆に労われている。ちゃんと土方を楽しませないと!

「あ、あの…土方の方は、繁盛してるの?」
「繁盛って…ウチは商売じゃねーからな。だいたい、俺達の仕事が少ない方が平和でいいだろ」
「あっ…それも、そうだね」

バカ!俺のバカ!警察が繁盛して嬉しいワケねーだろ!

「えーっと、えーっと…」
「銀時…とりあえず飲むか食うかしたらどうだ?さっきから一口も手ェつけてねェよ」
「あ、うん」
「…もしかして、嫌いなモンだったか?勝手に注文して悪かったな」
「ちちち違う!俺、何でも食えるから!」
「そうか?」
「うん…いただきまーす!」

ヤバイよ…せっかく土方が注文してくれたのに、話すこと考えるのに夢中で何も食ってなかった。
…絶対、気を悪くしたよな。あー、そんなつもりじゃなかったのに!

「こっこれ、美味いな!」
「そうか!?本当にそう思うか!?」
「う、うん。すげェ美味い!頼んでくれてありがとう!」

よーしっ!土方喜んでくれた!
しっかし、テキトーに口に放り込んだから何食ったか分かんねェや。…んっ?刺身か?
ツマミに刺身って、さすが金持ってるヤツは違うね!…でもこの刺身、なんか酸っぱくね?
腐ってんのか?…いや、違ェ。こっこれは、この味は…

「マヨネーズぅぅぅ!?」
「どうした銀時。マヨネーズが足りなかったか?」
「いいいいえ、大丈夫です!」

何で刺身の皿にマヨネーズが乗ってんだよ!…あっ、土方が注文したからか。
土方この店よく来るって言ってたもんなァ。店員も土方がマヨラーなの知ってんだ。
…じゃねェよ!俺、刺身にマヨ付けて「美味い」って言ったのか!?そりゃ土方喜ぶよ!
でもこれはマズイ!…刺身もマズイし俺の立場もマズイ。
土方に気に入られたいが、いくらなんでも刺身マヨは無理!まずはこの酸っぱい口を何とか…

「あの…甘いもん、頼んでいいですか?」
「…別にいちいち断り入れなくていいから、好きなの頼めよ」
「あ、はい」

バニラアイスを急いで持って来てもらって、何とかマヨ刺身の衝撃は和らいだ。

その後も、まあ、あんまり何話したか覚えてないけど、とにかく時間は過ぎていった。
そろそろ締めるかな?いつもは割り勘だけど、今日は俺が払うんだ!…あ、あれっ?
懐を探ってみたら財布が軽い…。えっ…だって俺、今日まで頑張って貯金して…貯金?
…下ろすの忘れたァァァ!どどどどーしよー!おおお落ち着けー。考えるんだー!!
俺ならできる!万事屋の頭脳(管理人注:恋人を真似て自称)の俺に不可能はない!

そうだ!コンビニで下ろせばいいじゃねーか。この際、時間外手数料とか言ってる場合じゃねェ!
幸い、この店の向かいがコンビニだ。厠に行くふりしてちょっと店を抜け出して行けばいい。

「あ、あのー、ちょっと厠に…」
「おう」

作戦通りに厠へ行き、そこで重大なことに気付いた。キャッシュカード持ってねェェェ!
祈りをこめて財布を開けてみたら三百円しか入ってなかった。…これじゃ割り勘もできねェ。
俺のバカ!なんでちゃんと準備しておかねェんだよ!約束の一時間も前からここにいて、
何で確認しなかったんだ!もうダメだ…。土方に嫌われる。
アイツすっげーモテるみたいだし、デート代すら出せねェ俺なんか相手にしてくれないよな…。

土方を失う悲しみでふらつきながら何とか席に戻った。

「銀時?気分でも悪いのか?」
「いや…悪いのは全部俺だよ…」
「何言ってるんだ?」
「金、忘れた…」
「は?」
「財布に、三百円しか入ってなかった…」

うぅ…最期の言葉が「三百円」って俺、情けねェ…。

「…今日、仕事あったんじゃなかったのか?」
「あったけど…依頼料は振込みで…下ろしてくるの忘れた」
「ははっ、オメーらしいな。いいぜ、ここは払ってやる」
「ゴメンなさい」

土方に払ってもらって店を出る。ハァー…これでお別れか。

「じゃあ…元気でな」
「ちょっ、ちょっと待てよ。今日は泊まりって言っただろ?」
「うん。だからね…ホテル、とったんだけど、俺、金忘れたし…」
「ホテル?何処の?」
「…大江戸ぷりんす」
「へェ…」

土方は目を丸くしてる。…ああ、こんな顔も可愛い。別れたくないなァ…。

「随分と奮発したな」
「そんな、高い部屋じゃねェけど…でも、三百円じゃ無理だから…」
「じゃあ行くか」
「どっ何処に?」
「…大江戸ぷりんすだろ?」
「えっ、でも…」
「代金なら俺が払っといてやる。次会う時、半分返せよ?」
「い、いいの?」
「ああ。どうせこのまま泊まらなくたって、泊まるのと同じくらいキャンセル料取られるぞ?
それなら泊まった方がいいだろ?」
「あ、あの…泊まって、くれるの?」
「はぁ?そのために部屋とったんじゃねーのか?」
「あ、うん…」

マジで?こんなグダグダな俺とホテルに泊まってくれるの?うおぉぉぉっ!
ありがとう神様!…あ、いや、土方様!

「ありがとうございます!」
「ほら、行くぞ」
「は、はい!」

ホテルに向かう土方のすぐ後ろをついていく。…もう何処までもついて行きます!
あっ、でもホテルに着いたらきちんとリードします!
ここまでの準備はダメダメで、自分で自分に腹が立つくらいだけど、でもここからはっ!


決意も新たに俺は土方とホテルに向かった。

(10.05.07)


手際の悪さに苛々が募っているのは銀さん本人でした。土方さんはこれくらい「いつものこと」だと思って気にしていません。この半年で慣れたようです。

それから前回問題(?)になっていた銀時呼びですが、漸く銀さんも慣れました。…慣れるまでの過程をすっ飛ばしてすみません^^; 次回はいよいよ!?…だったらいいな(笑)

サイトで仲良くしていただいてる方々にイベントでお会いした際「ヘタレ銀さん楽しみにしてます」と言って下さった方がいて…テンション上がりまくりました!頑張って書きます!

追記:続き書きました