ヘタレな恋人 第三話:おろおろする姿にため息


「おはよう」
「おおおおはよう」
「………」

初めて一夜を共にした(といっても手を繋いで寝ただけだ)翌朝、相変わらず万事屋は挙動不審だった。
上体だけを起こして、布団の上で並んで座る格好になる。…つーか、いつまで手ェ繋いでる気だ?
起きたんだから顔洗ったり着替えたりしてェんだけど…コイツだってそうじゃねェのか?

俺が繋いでいる手をじっと見つめていたら、万事屋は慌てて手を離した。

「ごごごごめんね。一晩中なんて、嫌だったよね?」

勝手に俺の気持ちを想像して万事屋はしょげている。ったくよー…

「勘違いすんじゃねェ。朝だから顔洗って着替えようと思ってただけだ」
「ああああそうなの?えーっと、タオル置き場は…」
「…昨日、風呂入ったから知ってる」
「ああああそうか!えーっと、えーっと、じゃあ……ごゆっくり」
「…おう」

よく分からない送り出し方をされて俺は和室を出た。



「あっ、着替えは和室使っていいよ。俺、こっちで着替えるから。
…大丈夫。土方がいいって言うまで絶対に襖、開けないから。安心して!」
「あ、ああ…」

顔を洗い終わると俺は一人で和室に通される。…男同士なのに別々の部屋で着替える必要あんのか?
しかも俺がいいって言うまで開けないって…女じゃねェんだから、着替え見られたところで別に…。
ていうか、万事屋の方が明らかに着替えが面倒そうな服だろーが。ハァー、仕方ねェ。
アイツが着替え終わるまで待っててやるか…。


俺は襖の向こうで衣擦れがしなくなったころを見計らって襖を開けた。

「あっ、着替え終わった?えっと次は、えーっと…」
「………」

何か変だ。いつもの黒い上下に白い着物を羽織っている万事屋…だが、何か違和感がある。
何だ?何が違う?…パッと見はいつもと同じに見える。
実は微妙に着物の柄が違う、とか?
いや、そうじゃねェ。服は同じはずだ。だが、何か、何かが………あっ!

漸く俺は違和感の正体に気付いた。

「お前それ、左右逆じゃね?」
「へっ?ななな何?俺、何か間違った?」
「間違いっつー程じゃねェが…いつもと出してる腕、逆じゃねェか?」
「へっ?…ああああ本当だ!やべェ!」

何がやばいのか分からないが、万事屋は慌てて着物の左袖に腕を通し、右腕を抜いた。
…前から思っていたが、そもそも片袖抜く意味あんのか?
まあ、今のコイツにそんなこと聞いたら余計にうろたえそうだから黙っておくか。

「えーっと…なっ何の話、してたっけ?」
「…何の話もしてねェよ。お互い、着替えてただけだ」
「あっ、そうか!えっとじゃあ………えー………ど、どうする?」
「………」

どうするって何がだ?…この後どうするかってことか?別に何でもいいんだが…
でもコイツに「何でもいい」とか言うと絶対もっと焦り出すよな。
面白そうだからちょっと見てみたい気もするが…可哀相だからやめておくか。

「万事屋、メシ食わねェか?」
「あっ、そうだね!えっと、その…」
「外に食いに行くか?」
「あ、うん」
「ファミレスでいいか?…甘いモンもあるし」
「あ、うん。じゃあ、行こう」

次の行動が決まって漸く万事屋は安心したようだ。
スタスタと玄関に向かい、スムーズにブーツを履けた。…考えてみりゃ当たり前のことだな。
だが着替えも間違えるくらい慌てていたことからすれば、今は大分落ち着きを取り戻しているらしい。


けれどファミレスに向かう道中、再び万事屋の行動がおかしくなった。
やたらと腕を振り回したり手首を振ったり…。…もしかして、またアレか?
ハァー…どこまでも世話のかかるヤツだぜ。

「万事屋…手、繋ぐか?」
「えっ!ひ、土方が、いいなら…」
「じゃあ…」

本当はこんな往来で手を繋ぐなんざ勘弁してほしかったが、アイツの必死な顔見てたら嫌だなんて言えねェ。
相変わらず繋ぎたがるわりに俺の手を取ろうとしないので、俺がアイツの手を握ってやった。

こうして俺達は手を繋いでファミレスに向かっていった。


(10.04.21)


銀さんは手を出したい気持ちはあるけど拒否されるのが怖くて言い出せないだけです。土方さんはフォローの人なので銀さんの考えを察して合わせてくれています。

でも本当は、銀さんから迫ってくるのを待ってたいんだと思います^^ お泊りデートの話は今回で終わりです。次回はまた別の日の話になります。

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