ヘタレな恋人 第二話:手を繋ぐのに許可を求める人
万事屋と初めて共に過ごす夜、漸くしたキスは唇を当てているだけだった。
舌は使わねェのかと聞いてみたら、使っていいのかと聞き返された。
泊まりなんだからキス以上もと言ったら、ヤっていいのかと聞き返された。
…俺は今、その問いにどう答えようか思案しているところだ。
ヤるかヤらないかを迷っているワケじゃねェ。付き合ってて泊まりなんだからヤるのは構わねェ。
というか、俺はそのつもりでココに来た。
だがわざわざ確認するってことは、万事屋はそのつもりじゃなかったってことかもしれねェ。
それなのに俺だけがヤる気充分みたいに思われんのもなァ…。
黙ってしまった俺の様子を窺うように万事屋が顔を覗き込んできた。
「あ、あの…えっと…土方が、嫌ならシないよ?」
「そうか…」
嫌ではないんだが…コイツにも迷いがあるようだし、無理にヤらなくてもいいか。
「じゃあ、今日はこのまま寝るか?」
「うん。…おやすみ、土方」
「おやすみ」
万事屋が部屋の明かりを消し、並んで敷かれた布団に其々入る。
俺が寝ると言った時のアイツはどことなくガッカリしていたような…だがホッとしていたようにも見えた。
どっちだったんだ?相変わらず読めねェ野郎だ…。
* * * * *
「………」
隣で寝ている万事屋の様子がおかしい。
寝ていると言っても横になっているだけで、眠ってはいないのだろう。
コッチを見たり布団の中でもぞもぞしてたり…今は、布団から出した腕をバタバタやってる。
部屋は暗いが、そんくらい気配で分かんだよ。
何だ?やっぱりヤりてェのか?だったらヤれば…そうか。俺が寝てると思って手を出せねェんだな。
「万事屋…」
俺はまだ起きていることを伝えるため、アイツを呼んでみた。
「あっ…まだ、起きてた?」
「ああ。お前こそ、まだ寝てなかったんだな」
「おっ俺は、昼寝したし、その…」
「…たまには働けよ」
「つつっ次から、頑張るよ」
「………」
「………」
どうして何も言ってこないんだ?ヤりてェんじゃねェのか?
仕方ねェ…こっちから切り出してやるか。
「万事屋…俺に、何か言いたいことがあるんじゃねェか?」
「いっ言いたいってワケじゃ…。でも、その…」
「どうした?構わねェから言ってみろよ」
「じゃああのね…ダメだったらいいんだけど、その…てっ手を、ね…」
「手?手がどうかしたか?」
さっきまでこっちの様子を窺がっていた万事屋は今、こちらを見ようともせず
仰向けになり、片腕を曲げたり伸ばしたりしている。…そんなに言いにくいことなのか?
「おい、よろず…」
「てててて手を繋いでもいいですかっ!」
「………」
いきなり腕を俺の目の前に出してきたかと思ったら、万事屋は早口で、しかもなぜか敬語で言った。
急なことに一瞬、何を言われたのか分からなかった。えっと…手を?
俺が万事屋の言葉を理解するより早く、コイツは俺の無言を勝手に解釈した。
「ああああ、むっ無理ならいいんだ!おやすみっ!」
「ちょっ…」
万事屋は反対を向き、布団をかぶっちまった。
何なんだ一体?俺の聞き間違いでなきゃ、コイツはさっき「手を繋いでもいいか」と言ったんだよな?
そんなの、わざわざ断りを入れるようなことか?…繋げばいいじゃねェか。
俺は布団から出て、万事屋を布団ごと揺すった。
「おい万事屋…勝手に寝てんじゃねェよ。…手、繋ぐんだろ?」
「い、いい…の?」
こちらを見上げる万事屋の瞳が不安げに揺れる。…コイツ、何でこんなに自信ねェんだ?
「いいに決まってんだろ。俺達、付き合ってんだぞ」
「う、うん。そだね…」
「ったく…」
俺の枕を万事屋の方に近付けて、俺は再び布団に入る。
…相変わらず俺の側の腕だけ布団の中でもぞもぞ動かしてやがったから、俺が腕を伸ばして繋いでやった。
そしたら漸く大人しくなった。…ていうかコイツ、俺が手ェ握ってんのに握り返してきやがらね…
あっ、今やっと握り返してきた。さっきのキスといい、やたら時間を掛けやがる。
万事屋のヤツ…モテねェモテねェ言ってたのは謙遜だと思っていたが、本当にこういうことに慣れてねェのか?
なんだか意外だ。まあ、可愛げがあると言えなくもないか…。
その日、俺達は手を繋いだまま眠りに就いた。
俺はそれからすぐ寝入ったが、万事屋は緊張でほとんど眠れなかったらしい。
…自分から手を繋ぎたいと言い出したくせにアホなヤツだ。
(10.04.13)
ヘタレな銀さんは年下の恋人みたいで可愛いと思います。…実際の年は、銀さんの方が土方さんよりちょっと上だと萌えます。
土方さんにとっては「手のかかる子ども」みたいな感覚でしょうかね。それと、銀さんより精神的に優位な立場に立てたのが少し嬉しいとも思っているはずです(笑)
もともと恋愛に関してあまり積極的なタイプではない土方さんなので、二人の関係が進むのには時間がかかりそうです。続きはこちら→★
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