「万事屋…オメーのことが好きだ」
「……マ、マジでか?」
「ああ」
「…信じらんねェ。実は、その…俺も、お前のこと…」
「本当か?じゃあ、付き合ってくれんのか?」
「もちろんだよ」
「そうか…」
こうして俺達は恋人同士になった。
だがこの時の俺は、まだ本当の万事屋を知らなかったんだ。
ヘタレな恋人 第一話:キスするまで何日掛かる?
アイツと付き合って一週間経った頃。俺は、仕事終わりにアイツを飲みに誘った。
「なァ万事屋…オメー明日、仕事は?」
「ねェよ」
「…俺も、昼までは空いてる」
「そっそうなんだ。えっと、その、あの…」
「お前ん家に、泊めてくれるか?」
少し早いような気もしたが、俺は思い切って言ってみた。
優しい万事屋のことだ。俺が覚悟を決めるまでは待つつもりだったに違いねェ。
だが、万事屋の反応は俺の予想と少し違っていた。
「とと泊まるって…でもっ、ウチには神楽が…」
「そうか…じゃあ、宿にするか?」
「ややや宿!?えっと、えっと…俺、金ねェし…」
「それくらい俺が出しても…」
「いいいや、それはダメだ!金、貯まるまで、待って」
「…分かった」
律儀なヤツだと思った。
確かに、最初から宿代を相手に出させるっつーのは男として情けない気もするよな。…俺も男だが。
ただコイツには養うガキが二人もいるし、気にすることなんかねェとも思ったんだけどな。
まあ、万事屋なりの考えがあるんだろうから、焦る必要はねェか…。
その日は二人で酒を酌み交わして、其々の家に帰った。
* * * * *
数日後。
「マヨラー。お前、次の休みいつアルか?」
巡回中、チャイナに会ったと思ったら唐突にそんなことを聞かれた。
「はぁ?何でンなこと教えなきゃなんねェんだ?」
「お前が休みの日はアネゴの家に行ってやるネ…酢こんぶ買ってくれたらな」
「そうかよ」
おそらく万事屋が何か言ったんだろうな。…ったく、ガキに余計な気を遣わせやがって。
俺は駄菓子屋で酢こんぶを買い、チャイナに非番の日を教えた。
その日の夜、万事屋から電話がかかってきた。
『あっあのさァ…○日、神楽がお妙んトコ泊りに行くって言ってんだけど…。あっ、無理しなくていいよ。
仕事なら仕方ねェし…ただ、どうなのかなーって思っただけだから』
「そうか…ちょうどその次の日は非番だな」
白々しいとは思いながらも、何も知らないフリをして俺は答えた。
『えっ、そうなの?…あー、じゃあ、えっと…』
「…泊まりに行ってもいいか?」
『あ、うん…』
「じゃあ○日、仕事終わったらそっちに行く」
『うん…』
* * * * *
約束の日。付き合い始めて半月が経過していた。
万事屋へ行く道すがら、そういえばまだキスもしていなかったと気付き
初キスと初エッチが同じ日というのも俺達らしいか…とか、そんなことを考えていた。
「邪魔するぜ」
「い、いらっしゃい」
万事屋がどことなく緊張しているように見えて少し意外だった。
アイツもこんな貌することがあるんだな…。
見たことのない万事屋の表情を俺が引き出しているのだと思うと、何となく優越感を覚える。
「あの…先、風呂入れよ」
「そうか?悪ィな」
思ったよりも俺の仕事が長引いてしまったので、夕飯は各自で済ませた。
そうなるとやることは一つしかねェ。
俺は勧められるままに風呂へ入った。
俺が風呂から出ると万事屋が風呂に入る。
その間、布団が並べて敷いてある和室に一人で待っていたら何だか緊張してきた。
心の準備はできてたはずだが、やはり初めてのことだからな…。
「お、お待たせ…」
「おっおう…」
万事屋が風呂から出てきて俺の向かいに座る。
やべェ!マジでドキドキする!
俺は一瞬だけ万事屋の顔を見て、それから目を閉じた。
あ、あれっ?
俺が目を閉じると万事屋の手が俺の肩に乗っかった。
そのまま引き寄せられてキスするのだとばかり思っていたが、一向に動く気配がない。
変だと思った俺はゆっくり目を開けてみた。
「万事屋?」
「えっ、う…あー、その…」
「………」
視線をキョロキョロと彷徨わせながら意味のない言葉を繰り返す万事屋。
なんだ…コイツ、かなり緊張してんじゃねェか。
俺以上に緊張している様子の万事屋を見ていたら、何だか気持ちに余裕が出てきた。
俺は体を前に伸ばして万事屋の唇に自分の唇を重ねた。
「○×△※◇〒☆〜!!」
俺と万事屋の唇が触れた瞬間、ワケの分からない言葉を発して万事屋は部屋の端まで後ずさった。
なんか、傷付く…そんなに俺とキスするのは嫌なのか?まさか、今まで手ェ出さなかったのは
優しさなんかじゃなく、コイツにとって俺がそういう対象じゃないからなのか?
「悪ィ。嫌だったんだな…」
「ちちち違うっ!きゅ、急だったから、ビックリして…」
「本当か?無理しなくてもいいんだぜ」
「むっ無理なんかしてねェ!おおお俺達、つつつ付き合ってんだから…」
真っ赤になりながら必死で言い訳する万事屋は、嘘を吐いているようには見えねェ。
俺の思い過ごしだったようだ…。自分のタイミングでいきたかったのに、俺が先に動いちまったから
いけなかったんだな。よし、次は万事屋に任せよう。
「万事屋…」
「ははははい!」
「………」
もう一度俺は目を閉じて、万事屋からのキスを待つ。
再び両肩に万事屋の手の重みを感じて…………また動きが止まった。
何だこれは?焦らしプレイの一種か?だがここで俺が動いたらさっきと同じになっちまう。
我慢だ!万事屋が動くまでじっと待つんだ!
どのくらいの時間そうしていたか分からない。
じっと目を閉じているのもそろそろ限界だと思った時、漸く体が引き寄せられた。
それからもやたらと長い時間がかかって、なんとか唇同士が重なった。
「………」
万事屋は固く口を引き結んで、キスというよりは唇を押し当ててるといった感じだ。
心なしか肩に置かれた手が震えているようにも思える。ていうかコイツ、息止めてねェか?
そんなんじゃ苦しいだけだろ。…そう思ってたら万事屋の唇が離れていった。
案の定、急いで呼吸している万事屋に聞いてみた。
「舌、とか…使わねェのかよ」
「つっ使って、いいの?」
「…泊まるってことは、それ以上だって…」
「えっ…シて、いいの?」
「………」
何かがおかしい―そう思い始めた瞬間だった。
(10.04.08)
最初に挑戦するお題がヘタレって…。だいたいウチの攻めはヘタレ気味なので珍しくも何ともない気がします。でも、お題見た瞬間パーンってなりました!
いつにも増してヘタレな銀さんと、銀さんがヘタレ故にいつもよりちょっと積極的な土方さんを書いていきたいと思います。エロも入れたいです。
…といっても、先の展開は全く考えていないのでどうなるか分かりません^^; ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
第二話→★
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