※お題部屋の「禁断の関係で十のお題」その九:狩人と獲物と同じ設定です。
単独でも読めますが、よろしければそちらをお読みになってからお進みください。
※素敵な挿絵付きです。下の方にあるので小説はスクロールして読み飛ばしてもOKです(笑)。
ここは真選牧場。ここではウシやウマ、その他様々な動物たちが仲良く暮らしています。
元々はウシとウマしかいなかったのですが、徐々に動物の種類が増え、今ではちょっとした動物園のようです。
それが珍しくて遠方から訪れるお客さんもいて、真選牧場は毎日大変賑わっていました。
なぜそんなにも多くの種類の動物がいるかというと、牧場で飼われている仔ウシの十四郎が拾ってくるからです。
ある日、十四郎は二匹の仔猫を拾いました。十四郎はその猫に「銀時」「退」と名付けて可愛がりました。
実は銀時はトラだったのですが、十四郎の親がトラに食べられたのだと知って猫のフリを続けようと決めました。
大好きな十四郎と一緒にいるため。
ウシとトラと記念日の贈り物
ある日の夕食時、銀時と退の席には食事以外に可愛くラッピングされた十センチ四方ほどの箱が置いてありました。
退が十四郎に尋ねます。
「あにょ…これはにゃんですか?」
「ケーキだ」
「ケーキ?どうしてケーキがあるにょですか?」
「今日はお前達がここへ来てちょうど一年の記念日だからな」
「きにぇんび…」
「他のヤツらも一年のお祝いには、とっつぁんに頼んで特別なエサを買ってもらったんだ」
とっつぁんとは、牧場主の松平片栗虎のことです。松平は飼育が大変になるので、十四郎が色々な動物を拾ってくることを
あまり良くは思っていませんが、それでも十四郎達のおかげで珍しい牧場だと噂になっているのも確かです。
そのため、最初の記念日だけという約束で特別なエサ―その動物の好物―を買ってあげているのです。
「銀時は甘いものが好きだからケーキにしようと思ったんだ。銀時の好きなイチゴをいっぱい乗せてもらったぞ」
「な、なぅ」
銀時は猫の鳴き真似をしてペコリとお辞儀しました。本当はもっと十四郎と話をしたいのですが、猫のフリをしているため
話すとなれば退と同じように「猫語」で話さなくてはなりません。銀時は「猫語はカッコ悪いから」という理由で
十四郎の前ではあまり口を聞いていません。
「退は、好き嫌いないから銀時と同じでいいよな。あっ、でも、銀時みたいにイチゴが特に好きってわけじゃないから
イチゴの量は普通にしてもらったからな」
「あにがとうございみゃす…」
退は自分のケーキが銀時の「ついで」みたいだと思いましたが、祝ってくれるのは感じたのでお礼を言うことにしました。
その日の夕食は、銀時と退が来てからの一年間の思い出話に皆で花を咲かせました。
* * * * *
その夜、自室に戻った銀時はケーキの入っていた箱をぼんやりと眺めながら考え事をしていました。
(俺も、十四郎さんに「拾ってくれてありがとう」って何かプレゼントしたい。毛が白いからって除け者にされてた俺を
十四郎さんは拾ってくれて、名前まで付けてくれた。それまでは「白いヤツ」としか呼ばれなかったのに…。
もう少ししたら、きっと俺がトラだってばれちまう…。そうなる前にちゃんとお礼をしておきたい!)
銀時はどうしたら十四郎に恩返しができるのか、一所懸命考えています。
(「とっつぁん」とかいうヤツに頼むのが一番早いんだけど…アイツ、怖ェよ…。牧場にいるようなヤツに見えねェよ。
どう見ても反社会的勢力の方だよ。組長的なアレだよ…。十四郎さんはよくあんな怖そうな人間と話せるよな…)
トラとはいえまだ幼い銀時には、牧場主の容貌が恐ろし過ぎて近寄れないのです。
(何か俺一人で作れるものとかないかな…。牧場に咲いてる花で髪飾り、とか……ダメだ。それは前に神楽がやってた)
神楽というのはウサギの名前です。彼女も銀時より少し前に十四郎に拾われてきました。
(じゃあ十四郎さんの仕事を手伝うとか!……ダメだ。十四郎さんの前で俺がトラだと人間に言われるかもしれない)
十四郎の仕事とは、広場へ出て人間達と触れ合ったり、牛乳の入ったタンクや牧草を運ぶことです。
銀時も広場へ出ますが、十四郎の前で「トラ」と呼ばれないようにと普段は十四郎から離れたところにいるのです。
(できれば俺だけって感じのがいいなァ。何か、ないか…うーん…………そうだ!)
漸く銀時は十四郎へのプレゼントを思いついたようです。銀時は早速プレゼントの制作に取り掛かりました。
元来、夜行性である銀時は夜起きていることは得意なのです。しかも十四郎のためであれば尚更です。
* * * * *
「できた!」
明け方近くになり十四郎へのプレゼントは完成しました。銀時は早く渡したくて十四郎の部屋へ走りました。
トントン
銀時は十四郎の部屋の扉をノックしました。暫くして眠そうな顔の十四郎が出てきました。
見たことのない十四郎の髪を下ろした姿に銀時はドキリとしました。
「銀時…どうした?こんな夜遅く…いや、朝早くか?」
「あっ!…ごめんなさぃ」
銀時は十四郎に言われて初めて、十四郎は寝ている時間だったと気付きました。
意気揚々とプレゼントを持ってきた銀時の貌はみるみる沈んでいきます。そんな銀時に、十四郎は優しく微笑みかけました。
「別に怒ってねェから。何か俺に用があったんだろ?入れよ」
「………」
十四郎は銀時を部屋に招き入れました。
「銀時から俺のところに来るなんて珍しいな…。で、どうしたんだ?」
「あっあの、これっ…」
銀時は勇気を振り絞ってプレゼントを十四郎の前に差し出しました。十四郎はそれを受け取ります。
「これ…ケーキの包みか?」
「はい」
銀時が渡したのはケーキの箱を包んでいた包装紙で作った平袋。十四郎は袋に傷を付けないよう、そっと中を開きました。
「このリボンも…ケーキのヤツだよな?」
「はい」
「でもよ…こんなボンボン付いてなかったよな?」
十四郎は袋から赤いリボンを取り出し、両端に付いているふわふわの飾りを見詰めます。
「…もしかしてこれ、お前の毛か?」
「はい」
「これを、俺がもらってもいいのか?」
「はい」
「すげェ嬉しい。…けどよ、何でこれを作ってくれたんだ?」
「あの……お礼、です」
「お礼?何の?」
「拾って…名前、付けて…だから…」
長々としゃべると猫でないことがバレると思い、銀時は途切れ途切れに言葉を紡ぎます。
「そうか…お前、そんな風に思っててくれたんだな。ありがとう。…これ、つけてみてもいいか?」
「はい!」
十四郎は台の上にリボンとリボンの入っていた袋を置き、ブラシを手に取り髪を束ねていきました。
そしていつものように頭の高い位置で一つにまとめると銀時からもらったリボンをその根元にぐるぐると巻き付け
最後に蝶結びにしました。
「どうだ?」
「十四郎さん、カッコイイ…」
「ハハッ…銀時のリボンのおかげだな。ありがとう」
「あの…時間、ごめんなさい…」
「もういいって。でもまだ朝メシまでは時間があるからもうひと眠りするか…」
「じゃあ、俺…」
「一緒に寝るか?」
「えっ!」
自分の部屋に戻ろうとした銀時を十四郎は引き止めました。
「いいんですか!?」
「ああ」
十四郎と銀時は一緒に寝床に入りました。
銀時はドキドキしてとても眠れそうにありません。大好きな十四郎が近くにいるというのもありますが一番の原因は…
「と、十四郎さん…どうして、こっち向き?」
そう。銀時は仰向けになっているのに、隣の十四郎は横向きになって銀時の方を向いているのです。
「ああ…せっかくだから髪を結んだままにしたくてよ。上向くと、リボンが崩れそうだから…」
「でっ、でも…俺、見られてる、みたい…」
「気になるか?じゃあ、コッチにするな」
十四郎は向きを反対にしました。自分に背を向けられたようで銀時は少し寂しく思いましたが、視線を少し上にずらすと
自分のあげたリボンを巻いた十四郎の髪が目に入り、とても嬉しくなりました。
銀時はとても幸せな気分で眠りに就きました。
* * * * *
銀時と一緒に眠っていた十四郎が再び目を覚ますと、銀時は十四郎の背中にくっつくようにして眠っていました。
「―っ!?」
十四郎がそろそろ起きようかと思っていると、まだ夢の中の銀時が十四郎の腕に自分の腕を絡ませてきました。
そして銀時は十四郎の首筋に頬ずりを始めました。十四郎の体が恐怖で固まります。
(銀時は俺を喰わない。銀時は俺を喰わない。銀時は俺を…)
十四郎は呪文のように心の中で繰り返します。十四郎は銀時がトラだということを既に分かっているのです。
けれど銀時が自分を猫だと思い込んでいるようなので敢えて訂正はしないだけです。
トラである銀時となぜ一緒に暮らすのか…それは十四郎が銀時のことを気に入っているからです。
親を食べたトラを怖いと思わないわけではありません。けれど、だからといって銀時と離れる気はないのです。
牧場でエサをもらえる銀時が、親を食べた野生のトラとは違うことも分かっています。
それでも食事前の銀時に近付かれて硬直してしまうのは、草食動物の本能というものでしょう。
「ひっ!」
そんな十四郎の思いなど知らずに眠っている銀時は、十四郎の髪を口に含みました。
銀時の表情はとても幸せそうです。眠っているとはいえ、大好きな十四郎に甘えられて満足しているのでしょう。
好き勝手に跳ねている自分の髪と対照的なサラサラとした感触が気に入ったのか、ムグムグと口を動かしました。
(俺はエサじゃない!朝メシはもう準備されてるはずだから!)
銀時を起こして朝食を摂らせれば怖くなくなるけれど、今は怖くて動けない―
十四郎が起きてこないことに気付いた誰かが十四郎の部屋に来てくれるまで、十四郎は本能が察知する恐怖と闘い続け
銀時は心地よい眠りを満喫するのであった。
(10.09.02)
サイト開設一周年記念企画で書いたウシとトラの小説の二人(二頭?)をがらてあの典雅様が描いてくださいました!しかもこの絵、典雅様のブログに描いてあったものを
無理言っていただいちゃったんです^^; いや〜、可愛いです!本当に可愛いです!しかも「拾ってくれたプレゼントに、自分の毛でボンボン付けたリボンを贈る」という設定は
典雅様が考えてくださったものです。そして、典雅様が銀さんファンなので、最後はトラ銀さんが幸せな感じで締めました。まあ、ウシ方さんだって銀さんとくっつけて幸せなんだとは
思いますよ。ただ、草食動物の本能で怖がってるだけで…。銀さんはもちろんウシ方さんを食べる気なんてありません。甘えてるだけです^^
典雅様、素敵な絵と設定を本当にありがとうございました。ここまで読んでくださった皆様もありがとうございます。
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