※2012年銀誕記念作品「もんぺとくゎ」の続きです。
2013年バレンタインデー記念作品:それぞれの二月十四日
バレンタインデー、それは恋人達の一大イベント。
そしてもちろん、仮初めの愛を売るホストクラブにとっても一大イベントである。
そんなホストクラブにおいて、人一倍その日を楽しみにしている男がいた。
この店のナンバーワンホスト・金時である。バレンタインデーは自分のためにあるとまで
豪語する甘党の彼。いつもより早く店へ来て、郵便で届いたチョコレートを頬張っていた。
「今日は何時までいられるんですか?」
開店準備中のオーナーホスト・新八の質問に金時は怪訝な顔をする。
「ラストまでに決まってんじゃねーか」
イベントの日にナンバーワンが途中で帰るわけにはいかない。
さも当然だと言う金時に新八は「トシーニョさんはいいんですか」と尋ねた。
「あっちだってバレンタインだろ」
「まあそうなんですけど」
「どっちがチョコ多くもらうか勝負してんだ。で、負けた方が上になんの」
「上?」
負けたのに上とは一体……新八の問いかけは、
「ならトシがネコで決まりじゃねーか」
会話に乱入してきたナンバーツー・晋助の言葉によって、発する前に解消された。
なんだそういうことか相変わらずラブラブだな……しかしこの勝負、どうにも金時の分が悪い
ように思える。同じナンバーワンホストといっても、客の質も量もあちらが上ではないか。
そんな新八の疑問を感じとったのか金時は、
「プレゼントの数じゃなくてチョコの数。あっちは甘いモンそんなに食わねーからな」
ルールの詳細を説明してやる。
なるほどそれならいい勝負になりそうだ。甘党の金時にバレンタインデーといえばほとんどの
客がチョコレートを持って来る。一方、トシーニョにはそれ以外のプレゼントも多そうだ。
「つーかお前が『ハニー』じゃなかったのかよ」
二人の仲が公認になった時のトシーニョの発言を持ち出し、からかうように言う晋助。
それには、違ェよと唇を尖らせる。ハニー役が嫌でないことは、チョコレート勝負に勝った
者が「下」としていることからも明らか。しかし、違うものは訂正しておく必要がある。
「ハハハ……誕生日の時のトシーニョさん見たら、あちらの方がハニーっぽいですよね」
金時の誕生日、トシーニョは女装姿でこの店を訪れた。その完成度の高さには度肝を抜かれた。
すると何故か晋助が「アイツのような上玉はそういない」と誇らしげ。それには金時が反論する。
「土方は俺のハニー兼ダーリンだ」
「俺が紹介してやったおかげじゃねーか」
「ハッ……俺達はずっと昔、前世から愛し合ってきたんだよ」
こう言うと可哀相な人扱いされるが真実なのだから仕方がない。もちろん、それだけで
付き合っているわけではないが。
今の彼を愛しているからこそ、前世からの繋がりも感じられるのだ。
「はいはい……じゃあ今日も頑張って稼いで下さいね」
「任せとけ。また差ァつけてやるよ、晋ちゃん」
「誰が晋ちゃんだ!その余裕、いつまでも続くと思うなよ!」
ダンダンと足を踏み鳴らしながら晋助は携帯電話を取り出して何処かへ消えた。
おそらく客へ連絡を入れるのだろう。
「金さんは営業しなくていいんですか?」
「大丈ー夫。他のイベントならともかく、チョコの日に負ける気はしねーよ」
「まあ店としては、誰がナンバーワンでも売上げが伸びるなら万々歳なんですけどね」
「まだまだ稼いでやるよ〜。もう一人の新ちゃん」
「はいはい」
* * * * *
一方その頃、別のホストクラブでも着々と客を迎える準備が整えられていた。
「いいか皆!今年は逆チョコ作戦でいく!」
オーナーホストのコンディはホスト達を集めて気合い充分。
「バレンタインだからとチョコを強請るのはもう古い!こちらから先にチョコを差し上げれば、
シャイな妙さんもお返しとして気軽にチョコを渡せるはずだ!」
妙さんとは、言わずもがなコンディの想い人。同じ歌舞伎町に勤めるキャバ嬢で、今のところ
コンディの一方通行である。
いつの間にか店の方針が個人的な方針にすり替わっているようだが、いつものこととホスト達は
気にしない。つまりコンディは今日、逆チョコと称して妙の店を訪れるつもりのようだ。
営業中にオーナーがいなくなるのもいつものことと誰も気にしていなかった。
「そうだトシ、お前は何時に抜けるんだ?」
「は?」
さも当然のように聞かれてトシーニョは眉を顰めた。大事なイベント日に店を空けるわけがない。
なのにコンディは「トシが帰る前には戻ってくるから」と抜けること前提で話を進めようとする。
「俺はラストまでいる」
「ああそうか、あっちが来るのか。ならVIPルームを空けておかなきゃな」
「あっちって誰だよ」
「トシのハニーに決まってるだろ」
「ハニ……金時か……」
「おう!」
ばちんと片目を瞑ったコンディにトシーニョは頭を抱えた。
「来ねェし行かねェよ」
「恥ずかしいのか?よしっ、俺が一緒に行ってやろう」
「あのな……」
「遠慮はいらない!実は向こうのオーナーが妙さんの弟さんらしくてな、未来の兄として
挨拶に行かなくてはと思っていたんだ」
「いや……」
「安心して下せぇトシーニョさん、アンタ亡き後は俺が立派にナンバーワンを務めてやりますぜ」
ナンバーツー・ソウの言葉で漸くコンディの思い込みの理由が分かった。コイツがあること
ないことコンディさんに吹き込みやがったのか……
「勝手に人を殺すな」
「そろそろ寿退社って聞いたもんで……似たようなもんでしょ」
「えっ!トシ辞めちゃうのか!?」
「コンディさん……ソウの話をまともに聞くんじゃねーよ」
何度騙されても信じることをやめないコンディ。その純粋さは危うさを通り越して神々しいと
思えるほどではあるのだけれど。
「とにかく今日はラストまで店にいるし金時も仕事だ。コンディさんもストーカーは程々にな」
「シャイな大和撫子・妙さんのため、こちらから会いに行くだけだ!」
「はいはい……」
「色ボケで早く死ねトシーニョ」
「あ!?」
今の会話、色ボケなのはむしろコンディではないか……睨みつけてやっても顔色ひとつ変えず、
「ああ間違えました……日本語って難しいですねィ」
などと見え透いたことを言う。
「一応聞いてやるが、何て言おうとしたんだ?」
「えー……お二人さんの……あー……endless love、とか?」
「良かったなぁトシ!ソウも祝福してくれて!」
「いや絶対ェ違うだろ。今考えたんだろ」
「酷ェやトシーニョさん……endlessのendと人生のendをちょいと間違えただけですぜ」
「全然違うよね?むしろ真逆だよね?」
「あっ、そろそろ時間ですよ」
「おいっ!」
会話を一方的に打ち切って、ソウは店のエントランスへ向かう。
開店時刻が近いのは事実――トシーニョの表情もホストのそれへ。
今日という日に相応しい、濃いブラウンの扉が開けば、そこは一夜の夢舞台。
「「Happy Valentine!いらっしゃいませ」」
「トシーニョ様」
「来てくれてありがとう、クリコ」
「ソウく〜ん!」
「よく来たなサーヤ」
今宵最初のお相手を恭しくエスコート。
「じゃあ俺、妙さんをお迎えに行って来るな」
早速店を抜け出すオーナーを止めるものは誰もいない。
* * * * *
同じ頃、金時の勤める店も開店時刻を迎えていた。
「「ハッピーバレンタイン!いらっしゃいませ」」
「金さぁん!」
「よっ、さっちゃん」
「晋助様!」
「来たか、また子」
こちらも開店と共に馴染みの客がやって来て、金時とトシーニョによる場外戦も始まった。
バレンタインデー、それは恋人達の一大イベント。
(13.02.14)
たまには二人の絡みのないバレンタイン話もいいかと思いまして。イベントといえばホスト!ということで、二人のホストらしい所を書こうかなぁと……
外国人ホスト側は今までちゃんと書いたことがなかったのでこの機会に。といってもただの近藤さんと総悟ですが^^;
そして、当シリーズ初・女装無し回です。二人の勝負の行方についてはご想像にお任せいたします^^ ここまでお読み下さり、ありがとうございました。