※土誕2012「振替誕生日」の続きです。








「お疲れーっス」
「お疲れ様です。それと、おめでとうございます」
「どうも」

十月九日夜―正確には零時を過ぎているので十日―ナンバーワンホストの金時(本名:銀時)は
オーナーに祝われてその日の仕事を終えた。十月十日は彼の誕生日。

「明日も期待してますよ」
「オッケ〜」

前夜祭の今日もかなりの賑わいを見せたが誕生日当日は更なる集客が見込まれた。
金時の携帯電話には既に何通ものお祝いメールが届いているようだし、中には今日も店を
訪れていた女性からのもある。
けれどそれらを確認するより前にプライベート用の携帯電話をチェックする。そこには一通の
メールが届いていた。

「フッ……」

タイトルだけは「おめでとう」だが、続く本文は仕事が終わったら連絡をくれといういつもの
内容。相変わらずつれないと口元を綻ばせつつ負けずに「ありがとう」というタイトルで
今終わったといつものメールを返して店を出た。



2012年銀誕記念小説:もんぺとくゎ



店を後にした「銀時」は近くの路地に停車していたタクシーに歩み寄る。
タクシーの後部座席には既に一人乗っており、銀時に気付いてドライバーに何かを告げた。

「おっ、サンキュー」

乗車扉とトランクが開き、銀時は両手いっぱいの荷物―客からもらった前祝いのプレゼント―を
トランクへ入れてから車へ乗り込んだ。

「お疲れ〜」
「お疲れ」

とりあえず同乗者に挨拶をしていると、行き先も聞かずに車は走り出す。おそらく先に乗って
いた男から聞いていたのだろう。

この「男」とはもちろん、銀時の恋人である土方。彼も別の店でホストをしている。
土方は五センチ四方ほどの小さな紙包みを銀時の前に差し出した。

「やる」
「……あのさァ、もうちょっと何かあるだろ。誕生日だよ?そんでもってお前、ナンバーワン
ホストだろ?」
「はいはい……Joyeux anniversaire Gintoki.Je te souhaite plein de bonheur en cette
journée spéciale」

流暢なフランス語で何やら祝いの言葉らしきものを囁き、片手を取ってそこにプレゼントを
乗せた。加えて柔らかな笑みまで向けられたら、何を言われたのかはさっぱり分からなくとも、
ありがとうと受け取る以外に道などあるはずがない。

「……めるしーぼーくー」
「おう」

辛うじて知っていたフランス語で礼を言いつつ受け取って、銀時は包みを開けた。

「また随分と可愛いものを……」

中には、ピンク色でショートケーキの飾りが付いた小さなヘアクリップ―通称パッチン留め―が
一つだけ入っていた。

「五十三円て……安っ!つーか、おまけなのは分かってるけど値札くらいは取ろうぜ」

実を言うと、誕生日デートは既に終わっていた。
当日に店をあげてのパーティーがあることは土方も同業者であるから分かっている。
だから数日前の休日に銀時の誕生日祝いをしていた。

大江戸タワーへ行き、夜景の綺麗なレストランで食事をし、スイートルームに泊まるという、
五ヶ月前の自分の誕生日に銀時がしてくれたこと、そっくりそのままお返しした。
唯一違ったのは土方の格好。銀時の好みに合わせた「男らしい」服装でデートに臨んだ。
基本的に男物は仕事着―煌びやかなスーツ―しか持っていなかったから、その日のために
街中で着られるようなスーツを新調したのだ。

そんなわけで、今日の髪留めはおまけどころかウケ狙いでしかなかった。

「これ、小学生に人気の店だろ?こないだテレビでやってたぜ」
「知ってたか。他にも同じような値段でケーキが付いてるやつは色々あったんだが……
一個だけの方が逆にインパクトあるかと思ってな」
「お〜、ナンバーワンホストのトシーニョ様が、ちっちゃい子に混じって五十三円お買い上げ
してるとこ想像すると笑えるな」
「……残念ながら平日の昼間行ったんで子どもはいなかったぞ」
「そっか〜……」

何にせよ、特別な人からもらうプレゼントは嬉しい。銀時にとってそれは、トランクに入っている
高価なプレゼントよりも価値のあるものだった。
銀時は早速、ヘアクリップで前髪の端を留めてみる。

「どう?似合うか?」
「おー、可愛い可愛い……」

音を立てずに拍手して土方が褒めると、それに乗って銀時もポーズをつけて戯けてみせた。


ほどなくしてタクシーは二人の住むマンションに到着し、二人はそのままの格好でベッドへ
ダイブする。

今夜もよく飲んだ。
まずは体を休めてから……相手のジャケットだけは脱がせて、けれどそれ以上のことはせずに
緩く抱き合う。
ふと、銀時が聞いた。

「そういやお前、明日休みだろ?どーすんの?」
「実家にちょっとな……」
「実家?」

そういえば土方の家族のことは殆ど知らない。両親はアメリカ人とフランス人で土方が生まれる
前から日本で働いていたというくらいしか……幾度も生まれ変わって愛し合ってきた歴史が
あるとはいえ、今の土方について何も聞いていなかったと内省した。

「実家って遠いのか?」
「いや……都内だ」
「土方の親父さんって何やってる人?」
「……社長」
「すげー!何の会社?」
「アパレル関係」
「へ〜……それで『トシ子ちゃん』が生まれたわけか……」
「誰がトシ子だ……」

トシ子とは、土方が女性の格好をしている状態のこと。銀時が勝手に呼んでいるだけで土方は
認めていない。

「あ、流石に親御さんはトシ子ちゃんのこと知らねェか……」
「いや……昔からこうだったから知ってる」
「マジでか!理解あるな〜」

ゲイであることを伝えたら「孫の顔が見られない」とがっかりしていた自分の親とは大違いだ。
尤も、銀時の親だって今は銀時が幸せならそれでいいと言ってくれているが。

「じゃあ将来は親父さんの後を継いで社長に?」
「継げるかどうかは社員が決めることだろ。とりあえず今は任された店舗で頑張るだけだ」
「えっ!お前、店持ってんの?」
「一応な」
「……どっちの格好で接客すんの?」
「基本的に裏方で接客はしねーよ。まあ、出勤前に寄ることが多いから大概こんな格好だな」
「そもそも何でホストやってんだ?」
「質問ばっかだな……」

後でお前の話も聞かせろよと前置きして、土方は話し始めた。

「元々は親のところじゃなくてもいいからファッション業界に行きたくてな……高校出た後は
そっち方面の専門学校に行ってたんだ。その頃、高校の先輩だったコンディさんに店を手伝って
ほしいと頼まれて……コンディさんの親父さんはホストクラブのオーナーなんだ。
初めは学生のうちだけのバイトのつもりで、だがそのうち歌舞伎町に二号店を出す話が
持ち上がり、コンディさんがそこの店長になると決まり……」
「んで、一緒にやろうと誘われて本格的にホストとなったと……」
「ああ。……で、そん時はもう親の仕事も手伝ってたから、結局ずっと掛け持ちしてる」
「なるほどね〜」

愛する人のことを知るのは楽しい。これもまたプレゼントのようだと銀時は思った。
そして今度は銀時がお返しする番である。

「俺の方はそんな面白いことねェぞ。一攫千金狙って夜の世界に飛び込んで、最初はゲイバーで
働いたんだけど、その店が老舗といえば聞こえはいいが、オーナーも客もジジィとババァ
ばっかでよー……何か違うなと。そんでまあ、色んな店をフラフラしてた時に今のオーナーに
会って、ホストになって……そん時のナンバーワンが嫌な野郎で!金持ってる客をあからさまに
贔屓するわ、借金させてまで貢がせるわ、ヘルプのホストに無理矢理飲ませて潰した挙げ句に
裏で殴る蹴る……」
「救いようがねェな……」
「だろ?そんなクソ野郎でも売上げはあるからオーナーも下手なことできなくて、だったら俺が
蹴落としてやればいいんじゃねーかと」
「お前、たまにヒーローっぽいよな」
「たまにとは何だ!銀さんはいつでも皆のヒーローだ!」
「はいはい……。それで?ヒーローはどうやって悪を退治したんだ?」
「それがよー……神楽っつー、中国の大金持ちの娘だかマフィアの娘だかって女がいてな?
ソイツの乗ってた車と俺の車が事故って……つっても軽いやつな。ちょっと塗装が剥げたくらいの。
……けどその縁で神楽がウチの店に来て俺を指名して、とんでもなく高い酒どんどん
注文してくれて……」

もしやそろそろツッコミ所かとも思ったものの、誕生日に免じて大人しく聞いていた。

「あっという間に売上げトップクラスよ!それから数日後にナンバーワンが結婚詐欺と恐喝で
訴えられて店辞めて、めでたく俺がナンバーワン!」
「……良かったな」
「あの……ツッコんでくれていいんだけど……ていうか、ツッコんでくれないと寂しいなー……」
「いや〜、悪が滅びて本当に良かった良かった」
「ツッコんでくれよ〜」

銀時は土方の上に覆いかぶさった。

「重い……」
「ツッコんでくれないなら突っ込んじゃうぞ〜」
「……好きにしろよ」

銀時の頬に手を添えて、土方はその唇に自分のそれを重ねた。

(12.10.08)


今年の銀誕は土誕の続きです。が、土誕以上にデートの描写を端折ってすみません。ここからが本番!……といってもこの直後のエロはカットして翌日の

金さん誕生祭にいきます。それから作中で土方さんが言っていたフランス語は「誕生日おめでとう銀時。素敵な一年になるよう願っているよ」とかそんな意味

……だったらいいな^^; 続きはこちら