2011年七夕記念作品:願いは叶う


七月六日夜。土方は恋人の家である万事屋銀ちゃんを訪れた。

「いらっしゃい。」
「おう。」

出迎えた銀時に軽く挨拶をして家の中へ入る。

「いや〜、今日も暑かったなァ。」
「そうだな。」
「これからカキ氷作るんだけどよー、土方も食う?」
「ああ。」

居間のテーブルには家庭用の削氷器が置いてあった。銀時は床に直接腰を下ろして上部のハンドルを回す。
ゴリゴリという音と共に下に置かれたガラス製の器の中へ削られた氷が落ちていく。
その様子を暫く眺めていた土方であったが、手土産があったことを思い出し「万事屋」と銀時を呼んだ。

「なに?」

ハンドルを回す手は休めずに銀時が顔だけこちらに向けて問えば、土方は持っていたコンビニの袋を
少しだけ上げて示す。

「冷蔵庫、借りるぜ。」
「ビール?」
「ああ。」
「サンキュー。…あっ、ついでにシロップと練乳も持って来てくれる?」
「ああ。」

台所へ行き、買って来た缶ビールを冷蔵庫にしまった土方は、そこに入っていたイチゴ味のシロップと
チューブ入りの練乳と、そしてマヨネーズのボトルも持って居間に戻った。

その頃には銀時が二人分の削氷を終えていた。

「ほらよ。」

土方から手渡されたシロップを銀時が二つの氷の山に満遍なくかける。それから土方は練乳のチューブを
銀時の傍に置き、自分はマヨネーズを持って長イスに腰掛けた。

「はい。」
「おう。」

目の前に出された赤い氷の山を土方は何の迷いもなくマヨネーズで覆い隠していく。にゅるにゅると
とぐろを巻いて氷が覆われるのを、銀時はしかし気にする素振りも見せず、隣に座って自分のカキ氷に
練乳を回しかける。
交際も一年以上が経過し、重度のマヨラーぶりにもすっかり慣れていた。

思い思いのカキ氷を完成させた二人は、最近起きた他愛もない出来事をああでもないこうでもないと
話しながらカキ氷で涼を取った。


器の氷がなくなる頃、土方は銀時の事務机の上に折り紙があるのに気付く。

「七夕か……」

独り言のように呟いて、そういえば玄関の外に笹飾りがあったなと土方は思い至る。

「あー、うん。新八と神楽がなんか、張り切っちゃって……ガキだよな。」

言葉とは裏腹に銀時の瞳は慈愛に満ちていて、土方には、子ども達と楽しく笹を飾り付ける銀時の姿が
容易に思い描けた。

「ウチの連中もやってるぜ。」
「そうなんだ。土方も短冊とか書いた?」
「ああ。」
「マヨネーズで世界征服!とか?」
「ハハッ…何だよソレ。じゃあテメーは糖分で世界征服、か?」
「まあね〜。」
「マジかよ……サラサラヘアーは諦めたのか?」
「毎年同じじゃお星さんも飽きちまうだろ?たまには変化を持たせねーと。」

ハハハと笑い合い、二人は同時に空の器をテーブルへ戻した。

「なあ、土方は何て書いたの?」
「世界中の人達にマヨネーズの魅力が理解されますように。」
「ハハッ…何だよ。やっぱ当たってたじゃん。」
「征服なんて物騒なもんとは違うんだよ。…まあ、それも気付いたら総悟に上書きされてたけどな。」
「何て?」
「……早く死ねますように。」
「沖田くんらしいね〜。…じゃあマヨネーズの件はウチで願っとけば?」

銀時は事務机の上から、折り紙を切って作った短冊とカラーペンを持って来る。

「俺、先に風呂入ってるからさァ、好きなだけ書いて飾っていいぜ。」
「ンな欲張りじゃねーよ。……一枚でいい。」

短冊に向かう土方を見届けつつ、銀時は浴室へ入っていった。

土方は少し考えてから「マヨネーズで世界征服」と書いて玄関の扉を開ける。
万事屋の笹は短冊以外にも折り紙で作った天の川や提灯などが吊るされており、ほとんど葉が見えない
状態になっていた。銀時が子ども達と折り紙をする様を想像し、土方はフッと口元を緩ませた。

玄関先に置ける小ぶりの笹には、確かに「糖分で世界征服」と書かれた短冊が一番上にかかっており、
土方はその少し下に自分の短冊を吊るした。何となくお揃い気分で照れ臭かったが、この家の一員に
なれた気がして嬉しくもあった。

(これはチャイナのか……)

笹の中程には、歪な字で「ごはんいっぱい」と書かれた短冊。所々文字が逆さまになっているのはご愛嬌だ。

(こっちがメガネだな。)

神楽の短冊のやや上には「お通ちゃん」という字が二重線で消され「道場再建」と書かれた短冊。

(フッ…書いてる途中でツッコまれたのか?……ん?)

微笑ましく七夕飾りを見ていた土方であったが、銀時の短冊の隅に模様のようなものが描かれているのを
発見する。仕事柄、気になったことは調べずにいられない土方はそっと銀時の短冊を外して近くで見た。

(何だ?……字か?)

それは、短冊と同色のペンで小さく書かれた文字であった。

(こんなんじゃ見えねェだろうが……)

日に焼けて見えにくくなったのかもしれない、書き直してやろうと土方は目を凝らして文字を読む。

「アイツ……」

土方は銀時の短冊を元の位置に吊るして居間へ戻り、少しして別の短冊を手にもう一度玄関へ。
そして、銀時の短冊の後ろにピタリと重なるようにしてそれを吊るした。



*  *  *  *  *



翌朝。新八と神楽が万事屋へ出勤したのは土方が屯所へ帰った後であった。

「おはようございます。」
「おはようアル。マヨラー、ちゃんと短冊書いたアルか?」
「おー、書いてたぜ。」
「どれどれ……プッ『マヨネーズで世界征服』ってこれ、銀さんが書かせたんでしょ?」
「銀ちゃんとおんなじアルな。」
「なにアイツ……そんなこと書いたのかよ。」

土方の短冊を見ながらはしゃぐ子ども達。それを見る銀時の表情も柔らかい。

「あれっ?もう一枚ありますよ?ほら、銀さんの短冊の後ろに……」
「ん?土方のヤツ、二枚も書きやがったのか?欲張りだなぁ。」
「何て書いてあるアルか?」
「んーと……」

銀時にしか届かない位置に括られた短冊に子ども達は目を輝かせる。まさか恋人らしい願い事でもしたのか、
子どもの前で恥ずかしい思いをさせられたら堪らないなどと思いつつ、銀時も知らぬ間に書かれた短冊に
内心ドキドキしていた。

「アイツ……」
「何も書いてないアル。」
「ちょっと銀さん!?」

銀時はその短冊を毟り取ると、一目散に駆け出した。
新八と神楽が驚いて呼び止めるのも構わずに。


*  *  *  *  *


「ひーじーかーたァァァ!!」

炎天下の中、屯所まで走って来た銀時は汗だくになりながら副長室へと怒鳴り込む。
対する土方は涼しげな表情で銀時を迎え入れた。

「どうした?お前、水でも被ったみてぇになってんぞ?」
「テメー、これはどーゆー了見だ!俺に黙ってこんな……」

銀時は持って来た短冊をバッと勢いよく広げた。

「好きなだけ書いていいっつったのはテメーだろ。勝手に外すなよな……」
「そうじゃねェ!こんな、こんな……」
「メガネとチャイナに何か言われたのか?」
「いや…アイツらが気付く前に回収したから。」

徐々にトーンの落ちた銀時は頭をガシガシ掻いて土方の前に腰を下ろす。そしてバツが悪そうに俯き加減で
話し始めた。

「お前、よく気付いたな。あんな小っせぇ字。」
「ああ。早く気付いてやれなくて悪かったな。」
「あれ吊るしたの、昨日だし。」
「そうじゃねェ。テメーの気持ちに気付けなかった。…いつから思ってた?」
「別に……」
「正直、あれを読むまで気にしたことがなかった。すまん。」
「えっ?恥ずかしくて、とかじゃねーの?」
「恥ずかしいわけねーだろ。前からそうだったから変えてなかっただけだ。」
「でも昨日だって一度も……。今だってさァ……」
「あー……元々あまり呼ばねェからな。悪かったな、銀時。」
「―っ!」

銀時の顔が瞬時に赤くなった。

「ハハハッ…テメーにこういう可愛い面があったとはな。」
「……十四郎。」
「―っ!」

土方の顔も赤くなる。

「あっれぇ〜?どーしたのかな〜?顔が赤いよ、十四郎くん。」
「ううううるせェ!先に赤くなったのはテメーじゃねーか!」


ぎゃあぎゃあと言い合いながらも、銀時の手には確りと土方の短冊が握られていた。
そこには短冊の色と同色のペンでこう書かれていた。


  万事 銀時の願いが叶いますように


一方、万事屋の玄関で夏の日差しを浴びている銀時の短冊の隅には


 名前で呼んでくれますように


と、書かれていた。


二人の願いは今日、七夕の日に叶えられたのだった。


(11.07.07)


銀土ではよくある「銀時呼び」ネタを土銀で書いてみたかったのですが、結局のところ攻受不明に落ち着きました。とにかくこの二人がいちゃいちゃしててくれたらいいんです。

二人に短冊渡したら、マヨネーズとか糖分とかサラサラヘアーとか煙草とか書くんでしょうけど、本当の願いは互いの幸せとか、二人の将来とかそんなんだと思います!

少し前、「白い紙に白い色鉛筆で好きと書いた」みたいなテレビCMがあったのを思い出しました。短冊上でもいちゃいちゃしてる二人が書けて満足です!

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 

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