2011年バレンタイン記念小説の続きです。



寒さも幾分和らぎ始めた三月のある日、巡回中の土方は買い物帰りと思しき新八と神楽に会った。

「よう。」
「こんにちは、土方さん。」
「桜餅が美味しい季節アルな。」
「ハハッ…分かった。今度持ってってやるよ。」
「いつもすみませんね。」
「銀ちゃんと付き合わせてやったんだから、これくらい当然ネ。」
「神楽ちゃんは何もしてないよね?二人が付き合うって聞いた時、ビックリしてたじゃない。」
「でも、私が定春連れて新八のトコに行ってる間に、コイツらずっぽしアル。」
「しっぽり、ね…」
「入れたり出したりしてんだから、ずっぽしで間違いないネ。たまに私がいる時でも…」
「えーっと!も、もうすぐホワイトデーですね!」

神楽にこれ以上好きさせたらとんでもないことを言いかねないと、新八は強引に話題を変えた。

「土方さんは、銀さんからバレンタインチョコもらったんですよね?」
「ああ。」

銀時にチョコレートをもらった日のことを思い出し、土方は幸せそうに目を細めた。

「実は銀さん、バレンタイン当日に渡せなかったことを気にしてるみたいで…」
「そうなのか?」
「そうネ。お前にチョコ渡した後、ちょっと元気なかったヨ。」

実を言うと銀時は、自分用にと奮発して買ったチョコレートを土方へ渡してしまったことを
悔やんでいたのだが、そんなことを知らない子ども達はこのように解釈していた。

「銀さん、本当は二月十四日に渡したかったんだと思います。でも、お金が足りなくて…」
「十四日が過ぎて、安くなってから買うしかなかったアル。」
「あのチョコレートにはそんな事情があったのか…」

土方は銀時のいじらしさに目頭が熱くなるのを感じた。

「銀ちゃん、頑張ったアル。だからホワイトデーは三倍返しネ!」
「ああ、任せとけ。…俺とあいつにとって初めてのホワイトデーだしな。」
「マヨネーズは抜きアルヨ。」
「分かってる。」
「十四日はお休み取れそうなんですか?」
「ああ。」
「それならいいアル。」
「銀さんのこと、よろしくお願いします。」
「ああ。」



2011年ホワイトデー記念小説:良いものと好きなもの



三月十四日。土方は昼過ぎに万事屋を訪れた。

「どーぞ。」
「ああ。」

軽く挨拶をして中へ入る。
子ども達は気を利かせてどこかへ出かけているようであった。
土方を事務所のソファに座らせ、銀時はその向かいに座る。

「これ…」

土方が傍らに置いた紙袋から四角い包みを取り出し、銀時の前に置く。
縦二十センチ、横三十センチ、高さ五センチほどの箱―その包みには銀時が先月土方にあげた
チョコレートと同じ店のロゴマーク。

「すっげ…。あの店のこんなデカいのなんて、高かっただろ?」
「こういうモンの相場が分からねェから、高いかどうかは…。俺ァただ、お前と同じ店のもんなら
間違いねェと思って買っただけだ。」
「そっか…。ありがとな。」
「お、おう…」
「………」
「………」

銀時がはにかみながら礼を言うと、土方も何だか気恥しくなってくる。
次に何を言えばいいか分からず、二人は若干頬を染めて見詰めあう。

「えっと…開けるな?」
「おう…」

ふわふわした空気にいたたまれなくなった銀時は、プレゼントを開けることにした。
紙を破らないよう丁寧に底のテープを剥がし、剥がし終えた包装紙は四角く折り畳んで箱の隣に置いた。

「マジですげェな!二段になってんのかよ…」

上段は本の表紙のように蓋が開き、トリュフやプラリネなどが並んでいて、
下段は側面から引き出せるようになっており、三センチ四方ほどの板チョコが一つずつ包装されて
敷き詰められていた。
予想を遥かに超える豪華な「お返し」に銀時は少し申し訳ない気持ちになる。

「なんか悪いね…。俺、もっと小さいヤツで、しかもバレンタイン当日じゃなかったのに…」
「大きさや日付は関係ねェ。要は気持ちだ。俺は先月、お前の大きな愛を感じた!
だから俺もそれに負けないくらいの大きな愛を込めて…」
「あー、もういいよ。分かったから。…恥ずかしいヤツ。」
「分かってくれたか!そうか…良かった。」
「はいはい。分かった分かった…」

素っ気ない台詞を吐きながらも、銀時の表情は満更でもない様子であった。
銀時は上段右端のチョコレートを一つ口に放り込んだ。
土方の熱い視線が銀時に注がれる。

「ど、どうだ?」
「…うん、美味い!スーパーで売ってるようなチョコとは全然違うな。サンキュー。」
「喜んでもらえて良かった。…気に入ったなら、今度来る時も買ってくるな。」
「いいって…。こういうのは特別な時に食うからいいんだよ。」
「そういうもんか?…じゃあ次は桜餅にするか…」
「おっ、いいねぇ。…ところで、そろそろ出ねェ?」
「…チョコはもう食わねェのか?」
「ちょっとずつ食いたいんだ…」
「そうか…」

大事そうに蓋を閉じた銀時を見て、土方は胸がジーンと温かくなる。



それから二人は万事屋を出て、行き付けのラブホテルへ向かって行った。


(11.03.13)


土銀版ホワイトデー小説です。バレンタインの時は銀土版の後にアップだったので、ホワイトデーは先にアップできるようにしました。

後編は18禁です。