2011年バレンタインデー記念作品:坂田銀時VS志村新八?
二月十四日が何だっていうんだ。今日はただの月曜日。いつもと変わりない平凡な一日…
そんなことを思いながら万事屋の掃除に勤しむ新八の目の前に、神楽が差し出したのは
手の平サイズの綺麗にラッピングされた箱。
「どうせアネゴからしかもらえないだろ?…あげるアル。」
「えっ、これ…チョコレート!?」
「勘違いするなヨ。ここで恩を売っておけば来月お返しがっぽりネ。」
やや頬を赤らめて話す神楽を見れば、照れ隠しで憎まれ口を聞いていることは明白だった。
新八は敢えてそれに気付かないフリをする。
「ハハハッ…分かってるよ。ちゃんとお返しするからね。…ありがとう。」
「分かればいいアル。」
「それにしてもよく買えたね。先月も給料、酢こんぶだったのに…」
「銀ちゃんは本当にいい恋人を見付けたアルな。」
「もしかして、土方さんに買ってもらったの?」
「男にチョコ買わせるようなことはしないアル。倉庫の整理手伝ってお小遣いもらったネ。」
「なるほどね…」
バレンタインデーに参加したい神楽のために「仕事」を用意してくれたのだと新八は感心していた。
「ところで、土方さんは今日のこと何か言ってた?銀さんはまだ寝てるけど…」
「トッシーは明日まで出張ネ。可哀想だから私、銀ちゃんには大きいチョコ買ってあげたアル。」
神楽が見せたチョコの包みは、先程新八に渡したものの三倍くらいの大きさだった。
「そっか…。土方さんは、自分が当日渡せないから神楽ちゃんに託したのかもしれないね。」
「世話の焼ける大人達アルな…」
その後、昼近くになってから起きてきた銀時にも神楽はチョコレートを渡した。
起き抜けでいつも以上にくるくるした頭を掻きながら、銀時はそれを受け取ると欠伸を一つする。
「あ〜、そうか…今日は十四日だったな。サンキュー。」
「来月楽しみにしてるアル。」
「はいはい…」
「僕ももらったんですよ。ほら…」
新八は今朝、神楽からもらったチョコレートの箱を銀時に見せた。
「ん〜?新八のは随分小っちゃくね?」
「それは…」
「おいおい…冗談じゃねーぞ。ンな期待されても、大したお返しはできねェからな。」
神楽が説明するより速く、銀時は自分なりの解釈をして溜息を吐く。
「よし、新八…お前のと交換しよう!」
「なに言ってるんですか!神楽ちゃんがせっかくくれたんですよ?」
「くれたっつってもよー…この差、明らかに来月狙いだろ?いいか、神楽…エビで鯛を釣りたきゃ、
もっと金持ってそうなヤツにデカいチョコを贈れ。」
「ちょっと銀さん!神楽ちゃんは日頃の感謝を籠めてチョコをくれたんですよ。それに土方さんが…」
「そう!俺には土方くんっていう、大本命がいるからね!」
「でも今は出張中なんでしょう?」
「そうなんだよ…。でも明日は会う約束してるから。何だかんだ言っても、土方くんは毎年ちゃーんと
チョコレートを用意してくれるんだよ…。そんな土方くんの愛に応えるべく、俺もホワイトデーには
お返しをしなきゃなんねェ。つーわけで神楽、俺からのお返しはないと思っててくれ。」
「それはないでしょ!…神楽ちゃん大丈夫だよ。銀さんはちゃんとお返しくれるよ。」
「当然ネ。私は、もらうと決めたものは何が何でももらうアル!」
「ほら銀さん…来月、土方さんと神楽ちゃんにお返しできるよう、頑張って仕事しましょうよ!」
「あー、そうね…」
「二人とも頑張れヨ。」
「仕事はオメーも一緒だろ。」
口では色々言っていても三人の表情はとても和やかで、このイベントを楽しんでいるようだった。
* * * * *
翌日。買い物に出た新八は制服姿の土方に出会った。
「土方さん、こんにちは。」
「よう。…買い物か?」
「はい。土方さんは出張から戻られたんですね。」
「ああ…ついさっきな。」
その頃、少しでも早く土方に会いたかった銀時もまた、制服姿の土方を見付けていた。
(あれ?新八もいる…。よし、二人を驚かせてやれ。)
銀時は気配を絶ち、物陰に隠れながら二人に近付いていった。
二人の会話が銀時の耳に入ってくる。
「そういえば…バレンタインデーはありがとうございました。」
「ああ…別に大したことじゃねェよ。」
(えっ?バレンタインがどうしたって?)
聞こえてきた会話が気になって、銀時は声を掛けるのをやめて耳を欹てる。
「本当に嬉しかったです。僕、こういうのに縁がなかったもので…ハハッ。」
「姉貴はくれるんだろ?」
「それはそうなんですけど、手作りだから…ちょっと、アレなんで…」
新八は語尾を濁し、気まずそうに笑った。
「だから、あのチョコレートは余計に美味しく感じました。」
「…もう食ったのか。」
「はい。…実はちょっと、酸っぱいこととかも覚悟してたんですけど、普通の甘いチョコで…」
「お前にやるんだから、お前の好みに合わせるのは当然だろ。」
「そうですよね…。そんな風に考えるなんて、失礼ですよね…」
「まあ、日頃の行いを見りゃ、そう思っちまう気持ちも分かるがな…」
「ハハハ…。あっ、今夜は銀さんとデートなんですよね?」
「チッ…あの野郎、またベラベラと余計なことを……すまねェな。」
「気にしないで下さい。それじゃあ…」
「おう。じゃあな…」
土方は屯所へ、新八はスーパーマーケットへ向かって其々歩き出す。
銀時は二人が見えなくなってもその場から動くことができなかった。
(えっ…なに、今の会話…。「バレンタインありがとう」とか「嬉しかった」とか…えっ、違うよね?
土方が新八に…とかじゃないよね?そもそも土方は出張で今日帰って来て…そういえば新八、土方が
出張だってこと知ってたな…。それに…「酸っぱいと思ったけど普通のチョコだった」ってアレ、
マヨネーズ入りだと思ったけど違ったってことか?土方も「お前の好みに合わせた」とか言ってたし…
嘘だろ…。そんなはずねェよ!だって土方は昨日、出張で江戸にいなかったんだぜ?…まさか郵送?
…そうだよな。直接渡されたんなら、今になって礼を言うのはおかしい。でも何で新八にだけ…)
銀時の脳裏に先程の二人の会話が再生される。
『今夜は銀さんとデートなんですよね?』
『チッ…あの野郎(中略)……すまねェな。』
『気にしないで下さい。』
(何で俺とデートすんのに謝ってんの?まさか、まさか…まさか!!)
先程の会話に銀時の解釈が加わり再び脳内を巡る。
『今夜は銀さんとデートなんですよね?』(新八、表情が曇る)
『チッ…あの野郎(中略)……すまねェな。俺が本当に愛しているのはお前なのに…』
『気にしないで下さい。分かってますから…』
『新八…』
『土方さん…』(二人、手を取って見詰めあう)
「いやあああああ〜!!」
自分の想像に銀時は頭を抱えて身悶えた。
(違う違う違う違う違う…そんなワケない!土方と新八が…なんて絶っっっ対に有り得ない!!)
銀時は体の横で力強く拳を握り立ち上がる。
(そうだよ…有り得ねェよ。そりゃあ、あの二人は似たところがあって気が合うみたいだけど、
前に、土方がトッシーのフリしてんのを新八が見抜いたことあったけど、イボ事件の時もアイツら
一緒にいたけど、銭湯で会った時もつい二人一緒にフォロー係にしちまったけど…でも違う!!)
沸き起こる嫌な可能性を否定しようと、銀時はブンブン頭を振った。
(11.02.13)
バレンタイン話なのにメインは二月十五日以降です(笑)。今年のバレンタインは銀さんの受難?中編から二人のバレンタインデートが始まります。→★