2010年クリスマス記念作品:サプライズなプレゼント(銀土版)


十二月二十四日の昼下がり、銀時・新八・神楽の三人は江戸の町を真選組屯所に向かって歩いていた。

「マヨラーと銀ちゃん、明日会う約束してるのに、何で今日わざわざ会いに行くネ?」
「神楽ちゃん…銀さんはイブにプレゼントを渡したいんだよ。一所懸命仕事して買ったんだし…」
「あんな趣味の悪いもの、よく買う気になったアルな…」
「でも土方さんは喜びそうじゃない?」
「まあな…。でも何で私達も一緒に行かなきゃいけないネ?」
「きっと一人じゃ照れ臭いんだよ。」
「恥ずかしいくせに明日まで待てないアルか?」
「お前らなァ…」

ここまで黙って歩いていた銀時は大きく息を吐いて頭を掻く。

「勝手なこと言ってんじゃねーよ。今日はオメーらにもプレゼントくれるって言われてだな…」
「マジでか?私達もプレゼントもらえるアルか!?」
「ああ。…毎年、幹部連中で部下達にプレゼントやってるんだとよ。…この時期、警察は忙しくて
まとまった休みが取れない代わりとか何とか…。そんで、ついでにお前らにもくれるってよ。」
「へぇ…でも、本当に僕らまでもらっていいんですかね?」
「アイツがいいって言ってくれたんだから、いいんだろ。」
「そうヨ。くれるものはもらわなきゃ損アル!銀ちゃん、早く早く!」
「お、おい…」
「待ってよー…」

神楽は銀時の手を引いて走り出し、新八もその後を追った。


*  *  *  *  *


「総悟!それは一番隊全員分だっつっただろ!勝手に包みを開けるんじゃねェ!」
「どうせ多めに買ってあるんだ…一つ二つもらったっていいでしょう?隊長の俺だってクリスマス
プレゼントがほしいんでさァ。」
「一つ二つならいい。…だが四つも五つも開けようとしてるから止めたんじゃねーか!
…お前の分もちゃんと取ってあるから、まずは部下に配ってこい!」
「へ〜い…」

銀時達が屯所に着くと、紙袋を持った土方が同じく紙袋を持った沖田に怒鳴り散らしていた。
忙しそうだから出直そうかと銀時が思案しているうちに、土方がこちらに気付く。

「よっ。…忙しそうだね。後にしようか?」
「構わねェよ。」
「そう?なんか悪いね…」
「いや…お前らにはいつも世話になってるからな。…ほらよ。」
「えっ…」

土方は持っていた紙袋から十五センチ四方ほどの箱を三つ取り出し、銀時・新八・神楽それぞれに
手渡した。深緑色の包装紙に赤いリボンがかけられたそれを、銀時は何とも微妙な表情で見詰める。
プレゼントの中身に文句があるわけではない。包装紙に書かれた店名は有名洋菓子店のもので
以前、土方とテレビを見ている時に銀時が「一度でいいから食べてみたい」と言った店だった。
催促したつもりはなかったが、何気ない一言を覚えていてくれたのかと喜びたい気持ちはある。
気持ちはあるが素直に喜べないのは、自分の両脇にいる子ども達も同じ箱を持っているから。
更に言うと、先ほど沖田が同じものをたくさん抱えているのも見た。
銀時の気持ちを察した神楽が土方に尋ねる。

「銀ちゃんには明日、別のプレゼントを渡すアルか?」
「あ?何で二つもやらなきゃなんねーんだよ。」
「お前、銀ちゃんとその他大勢とを…ムグッ!」

神楽の口を銀時が塞いだ。

「余計なこと言うんじゃねーよ。…土方、ありがとな。仕事、頑張って…」
「おう、また明日…日付が変わるまでには行けると思う。」
「んっ…まあ、無理すんなよ…。じゃあな。」
「ああ。」
「むぐぅ〜〜!!」

暴れる神楽の口を押さえたまま、銀時は屯所を後にした。土方へのプレゼントは懐にしまったまま…


*  *  *  *  *


「何でありがとうなんて言ったアルか!」

万事屋に着いた神楽はテーブルをバンバン叩いて怒りを露わにする。

「それ以上叩くなよ…。壊れるじゃねーか…」
「銀ちゃんの分まで怒ってるアル!」
「怒ることじゃねーだろ…。土方はちゃんとプレゼントくれたんだし…」
「全然ちゃんとしてないアル!」
「そんなことないだろー?ここの菓子、一度食ってみたかったんだよ…」
「でも皆と同じだったアル!銀ちゃんは恋人なのに!…銀ちゃんだって、それが嫌だったから
マヨラーにプレゼントあげなかったんでしょ?」
「…忙しそうだったから明日にしようと思っただけだよ。」

上手く誤魔化せた自信はなかったが「この話はお終い」とでも言うように神楽の頭にポンと手を乗せ
銀時は自分のイスに座る。事務机に土方からもらったプレゼントを置き、短く溜息を吐いた。

(土方は悪くねェよ…。ちゃんと俺の欲しいもんをくれたんだし…)

「…新八ィ、お茶を持ってくるネ!」
「えっ?」
「こんなものはさっさと食べてしまうアル。」

神楽はもらったプレゼントの包みをビリビリに破いて開く。神楽の意図を読み取った新八も同意する。

「そうだね。僕も食べちゃおうっと。」
「新八のも開けといてやるから、お茶の準備をするアル!」
「はいはい…。こういうお菓子には紅茶かな?…でもウチにはそんな洒落たものはないから
ほうじ茶でいい?色は何となく似てるし…」
「何でもいいから早く!」

新八は台所へ向かい、神楽は新八の分の包みを破いた。



プレゼントの箱には味の異なる四種類のムースが入っていた。
新八が三人分のお茶を淹れて戻ってくると、既に自分の分は平らげたのか、神楽の周りには
空のプラスチックカップが四つ転がっていた。神楽は新八の箱に手を伸ばす。

「あっ、それ僕の分でしょ!」
「細かいこと気にしちゃダメヨ。一刻も早くこれを処分するのが重要アル!」
「だからって僕の分まで食べないでよ!」
「うるさいアル!」
「お前ら、せっかくの高級菓子なんだから味わって食えよ…」

銀時も自分の箱を持ってソファへ移動する。子ども達の気遣いを感じ、徐々に持ち直してきていた。

「高くても大したことないアルよ。ほんのちょーっとふわふわで、口の中でとろけて、甘さの加減が
絶妙なだけヨ!」
「そうか、そうか…」
「あと…ツリーのカップに入ってるのもありきたりアル!いかにもクリスマスプレゼントって感じで
恩着せがましいアル。」
「そう言いながら僕のまで食べないでよ。」
「処分を手伝ってるアル!このピンクのやつなんか、一口食べただけで口の中にイチゴの味が広がって
…こんな小さいのじゃなくて、バケツ一杯食べたいアル!本当にマヨラーは気が利かない男ネ。」
「ハハハ…」

子ども達に元気付けられ、銀時もプレゼントを開けようかという気になる。
赤いリボンを解き、裏面のシールを剥がして包装紙を外す。

「…こういうところに気が回らないっていうのは、擦れてない感じで可愛いと思うんだけどさ…」
「マヨラーはお付き合いってもんが分かってないアルよ。」
「銀さんが教えてあげたらいいんじゃないですか?」
「そうだな。…あーあ『アナタだけに』とかって書いてても…何百人も特別がいるんだろうなー…」
「…どこにそんなこと書いてあるアルか?」
「蓋のトコに書いてあんだろ?『especially for you』って…。確か、そんな意味だよな?」
「あの…僕らの箱にはメリークリスマスとしか書いてませんけど…」
「あ?メリークリスマスの前に書いてあんだろ?…乱暴に開けたから破れたんじゃねーの?」
「包装紙はビリビリですけど、箱は無事ですよ。…ほらっ。」

新八は自分のと神楽の蓋を銀時に見せる。その中央には確かに「Merry Chiristmas!」と書かれていた。

「で、でも、こっちはよー…」
「本当だ…違うこと書いてあるネ。」

銀時の蓋には「especially for you」と「Merry Chiristmas!」が二行に渡って書いてあった。
もしかして…一瞬淡い期待を抱いた銀時であったが、即座に打ち消す。

「まっまあ、色んな種類の箱があんだろ。何つっても大量に買ってるんだからなっ。」

銀時は声を上ずらせながら、箱と蓋を貼り付けているテープを剥がして蓋を開けた。

「「「あっ!」」」

箱の中身を見た三人は一様に声を上げた。
中には箱いっぱいに広がる大きなピンク色のハート―イチゴムースケーキ。

「これ…銀ちゃん用アルか?」
「きっとそうですよ!やっぱり土方さんは分かってたんですよ!」
「そそそんなわけねーだろ。箱と同じで中身も何種類かあんだよ…。お前らは偶々同じ種類だったの!」
「私、確認してくるネ!」
「おい、待っ…」

銀時が止める前に、神楽は外へ駈け出してしまった。


*  *  *  *  *


暫くして神楽は同じプレゼントを何個も抱えて帰って来た。

「マヨラーは仕事でいなかったけど、いたヤツら全員ツリーのムースだって言ってたヨ!それから
余ったのを全部もらって来たアル!」

神楽は箱をテーブルの上に広げて包装紙を破り始める。新八も神楽を手伝った。

「おいおい…」
「これも、これも、これもツリーアル!」
「箱にもメリークリスマスだけですね。」
「…ほら、銀ちゃんも開けるの手伝うネ!」
「チッ…しゃーねーな…」

言葉とは裏腹に、銀時の手は期待と緊張で震えていた。



「全部ツリーだったアル!」
「そう…だな。」
「やっぱり銀ちゃんだけ特別だったアルよ!」

神楽は自分のことのように嬉しそうにキャッキャとはしゃぐ。銀時は気恥しくて素直に喜べなかった。

「…でもよ、土方は同じ袋から俺達三人分のプレゼント出したんだぜ?やっぱり偶然じゃね?」
「同じ箱に見えましたけど…実は銀さんのだけ印が付いてたとかじゃないですか?」
「印ねぇ…」
「きっとそうアル!アイツならそういう小細工やりそうネ!」
「小細工って…土方さんはきっと、銀さんをビックリさせたかったんじゃないかな?」
「私達が別々に開けて、気付かなかったらどうするつもりだったアルか、あのマヨラー…」
「そしたら明日タネ明かしをするつもりだったんじゃない?ねぇ、銀さん。」
「あ、ああ…そうかもな。」

銀時は箱の横に付いていたプラスチックのスプーンで、ハートの端を一口掬って口に入れた。

「美味いな…。さすが高級ケーキ…」
「美味しいのは高級だからってだけじゃないんじゃないですか?」
「マヨラーの愛が籠ってて美味しいアルか?」
「お前らなァ…」
「銀さん…顔、赤いですよ。」
「ラブラブアルな。」

楽しそうに笑う二人を見ていたたまれない気持ちになった銀時は、ずずっと茶を啜った。


*  *  *  *  *


二十四日深夜。神楽は銀時が玄関の扉を開ける音で目を覚ました。

「銀ちゃん、出かけるアルか?こんな夜遅くに…」
「お、おう。ちょっくらコンビニに…」
「…サンタの格好で?」
「………」

神楽の指摘通り、いつもの白い着流しの襟元や裾から赤と白の服が見え隠れしていた。

「こ、これはアレだよ…寒いから偶々目に付いた服を中に着ただけで…」
「はいはい…いいからニコ中マヨラーの所にプレゼント届けてくるアル。」
「だ、だから…コンビニ行くって言っただろ!」
「じゃあ、おやすみヨ〜。」
「チッ…」

銀時は「違うって言ってんのに…」とブツブツ言いながら外へ出ていった。


(ったく、神楽のヤツ…俺がサンタの格好してプレゼント?ンな恥ずかしいこと考えるわけねーだろ。
いくつだと思ってんだよ。これだからガキは…)

そんなことを思いながらも銀時はコンビニエンスストアを素通りする。

(これはだな…ガキの夢を壊しちゃ悪いと思って、神楽の言うとおり屯所に行ってやろうかなーと…
なんか偶然にもプレゼント持ってきてるし、ついでに渡してあげよう。…俺としては別に明日渡しても
いいんだけど、まあ、外に出たついでだ…)

あくまでも自分の意志ではないと自身に言い聞かせ、銀時は小走りで屯所へ向かっていった。
雪こそ降っていないが十二月の深夜ともなれば、僅かな風でも凍えるような寒さを運んでくる。

(寒ィ…手袋とマフラーもしてくりゃ良かったな。でもサンタはンなもん着けてねーし…いや、俺は単に
温かそうだと思って赤い服着て来ただけだけど…)

銀時は両手に息を吐きかけながら屯所への道のりを急いだ。



*  *  *  *  *



(アイツ、まだ仕事してんのか…)

顔パスで屯所の中に入った銀時は一直線に副長室へと向かう。閉じられた襖の僅かな隙間から灯りが洩れ
部屋の主がまだ起きているのだと判る。銀時は懐に忍ばせていた赤い帽子を被り、着流しを脱いで
サンタクロースの格好になると静かに襖を開けた。

「お、前…どうしたんだよ、こんな時間に…。しかもその格好…」

文机に向かっていた土方は襖が開いて初めて銀時の訪問に気付き、仕事の手を止めた。

「えっと…コンビニに用があって…そのついでに、クリスマスイブだってのに徹夜で仕事してる
お巡りさんへプレゼント…みたいな?この格好に深い意味はなくて…温かそうだったから着てみただけで…」
「すげぇな…」
「…何が?」
「いや…よく恥ずかしげもなくそんな格好で来たなと…」
「おいっ、人がわざわざ…あ、いや、だから防寒着だっつってんだろ!」
「お前がンなことをするとは意外だったな…。俺が寝てる隙に枕元にでもプレゼント置いておこうと
思ったのか?悪かったな起きてて…」

ニヤニヤと口元を緩ませる土方は銀時の「ついで」という言葉など全く信じていないようである。

「いいからこれやるよ!はい、メリークリスマス!」

銀時は投げやりにそう言って土方に手の平サイズの箱を手渡した。

「ありがとな。…開けていいか?」
「いいよ…」

土方は丁寧にプレゼントの包装紙を開いていく。

「これ…」
「お前さ…いつもその辺にポイ捨てしてんだろ。こーゆーの、持っといた方がいいぞ。」
「そうだな…。それにしてもこのデザイン、よく見付けたな。」
「見付けたんじゃねェよ。作ってもらったの。」

銀時が渡したのは革製の携帯灰皿―マヨネーズ柄。

「ありがとな。大事に使わせてもらう。」
「おう。…俺も、ありがと。ケーキ美味かったよ。」
「もう食ったのか…」
「ちょっとだけね。…でもあれ、気付かなかったらどうするつもりだったの?」
「は?何のことだ?」
「新八達にやったのと、俺のは違ったじゃん。」
「あっちの方がよかったのか?」
「そういうことじゃなくて…」
「あの後、チャイナが来て余りを全部持ってったみてェだが…お前には回って来なかったか?」
「いや、それは俺も食ったよ。…ていうか、俺が言ってるのはそういうことじゃなくて、ああいう
渡され方したら同じもんだと思っちまうってことだよ。」
「開ければ違うのが分かるだろ。何だよ…一人だけ違うってアイツらに文句でも言われたのか?
仕方ねーだろ。偶々同じ店だったんだからよー…」
「はぁ?」

互いに話が通じないと苛立っていたが、土方の一言によって場の空気が変わった。

「偶々?今、偶々っつったか?狙って同じ店の、同じような箱の商品にしたんじゃねェの?」
「ンな紛らわしい真似しねーよ。だいたい、部下にやるやつは俺が注文したんじゃねーし…
今朝届いたモンを見て俺も驚いたんだ。」
「…よく、俺の分と他のヤツらの分が混ざらなかったね。」
「一応渡す直前まで付箋を貼っておいたが、それでも心配だったからずっと持ち歩いてたんだよ。
ついでにガキ共の分も確保しておかねェとと思って…。昼間お前らが来た時、すぐに渡せただろ?」
「ああ…」

銀時は手品の種明かしを見たような気分だった。
言われてみれば確かにその通りなのに、言われるまで全く気付かなかった。
全ては偶然だったのだ。土方は銀時を驚かせるつもりがなかったばかりか、同じものをもらったら
いい気分でないという事にすら思い至っていなかった。土方はただ、銀時が食べてみたいと言った店で
銀時の好きそうな菓子を買っただけ。部下達と一緒に、新八達にもプレゼントをくれただけ。
ただそれだけで、二つの出来事には何の繋がりもなかったのだ。

銀時は土方の唇に自分のそれを重ねた。

「お、おい…俺はまだ仕事が残って…」
「分かってる。続きは明日、ね?」
「あ、ああ…」
「それじゃあお邪魔しました。…あまり根詰めすぎんなよ。」
「ああ。」
「じゃあ、また明日…」
「また明日な…」

銀時は来た時と同じく静かに屯所を後にした。
外の気温は来た時よりも下がっていたが、銀時には温かく感じた。

恋人達のクリスマスは続く。



(10.12.23)

photo by 素材屋angelo 


今年はちゃんと二人でクリスマスです。恋愛事に疎いため何も考えてない土方さんと、考え過ぎて落ち込む銀さんは書いていて楽しかったです。

でも最後はラブラブで。クリスマスですから^^ 後編は18禁になります。