※この話は、希月さよ様からいただいたキリリクイラストと希月様の連載している「マヨ王子とパフェ王子」及び
「銀にゃ!!」を元にした小説です。
ここはマヨネーズ王国。
国民が皆、マヨネーズボトルの着ぐるみ(マヨぐるみ)を着ているなんともメルヘンチックな国。
ある日、そんな国の宮殿でちょっとした騒動がありました。
マヨ王子と銀にゃ
「そっちに行ったぞ!」
「あ、今度は向こうだ!」
「くそっ…また見失った!」
「すばしっこいヤツめ!」
「どうしたマヨ?」
騒ぎを聞いてやってきたのはこの国の王子。彼は「マヨ王子」の愛称で人々に親しまれています。
話す際、語尾が「マヨ」になるのは立派な王子の証。流暢な「マヨ語」を操ることは王位継承者として
重要なことの一つなのです。
そんな王子の登場に、衛兵達は姿勢を正します。
「王子、騒がしくして申し訳ございませんっ」
「それはいいマヨ。それより、何があったマヨか?」
「はっ、宮殿内に賊が侵入しまして…」
「…何か盗られたマヨか?」
「食料庫の食べ物を少し…申し訳ありません。我々がもっと警備をしっかりしていればっ!」
「食べ物以外の被害は?怪我人はいないマヨ?」
「今のところありません。あの、王子…本当に申し訳ございません!」
「いかなる処罰もお受けいたします」
「食べ物くらいいいマヨ」
この王子、顔貌はどこかの鬼副長とそっくりですが、性格は随分穏やかなようです。
「他に被害が広がらないよう、犯人を早く捕まえるマヨ」
「「はっ!」」
「俺も手伝うマヨ」
「えっ!そ、そんな…王子を危険な目に遭わせるわけにはまいりません」
「いいから犯人の特徴を教えるマヨ!」
犯人探しに参加する気満々の王子を前に、衛兵達は仕方なく口を開きます。
「犯人は、モコモコした毛並みの不細工な白猫です」
「猫?泥棒って猫だったマヨか?」
「猫といって侮ってはいけません。悪知恵だけは働くようで、我々が通れないところを選んで
逃げているような輩です」
「そうマヨか。分かったマヨ。怪しい白猫を見付けたらすぐ連絡するマヨ」
「決してお一人で近寄らないでくださいね」
「大丈夫マヨ〜」
マヨ王子は「猫〜、どこにいるマヨ〜」と言いながらトテトテと宮殿内に戻っていきました。
* * * * *
「猫〜、出てくるマヨ〜」
「あっ王子、こんなところにいらしたんですか」
「山崎、猫を見なかったマヨか?」
マヨ王子は自分を探していたらしい使用人に尋ねます。
「猫って…食料庫を荒らした泥棒猫のことですか?
そういうことは衛兵達に任せて王子は部屋にいて下さいよ」
「部屋にいて仕事するだけじゃつまらないマヨ。もっと現場に出たいマヨ!」
「現場って何ですか…。とにかく、王子には王子の仕事があるんですから…」
「今日の分の書類なら片付けたマヨ」
「えぇっ!あんなにたくさんあった書類を全てですか!?」
「もちろんマヨ。だから猫探ししていいマヨな?」
「い、いけません。とても凶暴な猫だと聞いております。王子にもしものことがあったら…」
「山崎テメー、俺が猫なんかにやられるとでも思ってんのか?あ!?」
マヨ王子は急に声のトーンを落とし、語尾の「マヨ」も忘れて山崎を睨み付けます。
それはまるで三頭身ちびキャラが八頭身になるような、マスコット的存在がチンピラ警察に
なるような、そんな変わりようでした。
あまりの豹変ぶりに山崎はその場で固まってしまいました。
「ふっふくちょ…いえ、王子?」
「あぁ!?」
「そ、そろそろおやつの時間ですから…。お部屋に、あの、マヨールをお持ちしますので…」
「マヨール!?」
大好物のお菓子の名前を聞き、土方―いえ、マヨ王子は「早く用意するマヨ〜」と言い残し
自分の部屋へ戻っていきました。いつものマヨ王子に戻ったことに、山崎は胸をなでおろし
今日のおやつをマヨールにするよう、食事係に伝えに行きました。
ちなみにこのマヨール―マヨネーズを使ったロールケーキ―はマヨネーズ王国と同盟を結ぶ
パフェ王国のパフェ王子が考案したケーキなのですが、それについては本家「マヨ王子と
パフェ王子」を読んでくださいね。
それでは本編に戻りましょう。
「マヨールが来るまで本でも読んで待ってるマヨ〜」
マヨ王子が上機嫌で部屋の扉を開けると、何かがサッと机の下に潜り込みました。
もしかして…マヨ王子はそっと扉を閉め、出来る限り机と距離をとりながら僅かに開いていた
窓も閉めました。それから身を屈めて、机の下を覗き込みます。
机の下にモコモコした影が見えました。
「猫マヨか?安心するマヨ。怖くないから出てくるマヨー」
マヨ王子の声かけにも机の下の影は動きません。マヨ王子は一歩、また一歩と机との距離を
縮めていきます。すると、モコモコの上に三角形のシルエットが二つ見えました。
「やっぱり猫マヨ…。おいでマヨ〜。食料庫に入ったことなら怒ってないマヨ。大丈夫だから
出てくるマヨー」
その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえました。マヨ王子は慌てて扉に駆け寄ります。
「な、なにマヨ?」
「おやつをお持ちしました」
「そ、そこに置いておくマヨ」
「どうかなされたのですか?」
「いい今、着替え中マヨ」
「それでしたら係の者を呼んで来ましょう」
「へへへ部屋着になるだけだから呼ばなくていいマヨ」
「…かしこまりました。それではおやつのマヨール、ワゴンごと扉の外に置いておきます」
「よろしくマヨー」
使用人を部屋に入れずに済み、マヨ王子はふぅ〜と息を吐きました。
「良かったマヨ…。見付かったら連れて行かれるところだったマヨ」
そんなマヨ王子の独り言が聞こえたのか、机の下の影は漸く顔を出しました。
「あっ!出てきてくれたマヨか?」
マヨ王子は嬉しそうに机の下から出てきた影―猫―に近寄ります。
「わー本当にモコモコマヨ〜。こんなモコモコの猫、見たことないマヨ〜。…触ってもいいマヨか?」
「…なぅ」
マヨ王子の言葉が分かるのか、猫は一つ鳴いてマヨ王子の足元に座りました。
マヨ王子はそっと猫の背に触れてみました。
「ふわふわマヨ〜。ふわふわでモコモコマヨ〜」
ふわふわ・モコモコと言われる度、猫の耳が垂れ下がって表情が強張っていくように見えますが
マヨ王子はそれに気付かず、猫の毛の手触りを楽しんでいます。
「…でもお前、随分汚れてるマヨな。もしかして、キレイになったらもっとモコモコになるんじゃ
ないマヨか?…きっとそうマヨ!よしっ、風呂に入るマヨ!」
「にゃにゃっ!?」
マヨ王子は猫を抱えてバタンと部屋の扉を開けました。
「山崎〜、さっさと来るマヨ〜」
「はいはい何ですか…って王子!?その猫…」
「俺の部屋にいたマヨ。汚れてるから風呂に入れてあげようと思って…。山崎、猫用のシャンプーを
用意するマヨ」
「ちょっと待って下さい。そいつは件の泥棒猫ですよね?」
「なに行ってるマヨ。この猫は違うマヨ」
「いやでも、モコモコの白猫だって…」
「モコモコで不細工な白猫だって言ってたマヨ。こいつはこんなに可愛いんだから犯人じゃないマヨ!」
自信たっぷりに言い切ったマヨ王子に山崎は溜息を吐くしかありませんでした。
「…この際、王子の美的感覚は置いておきますけど、この猫は食料庫に侵入した猫ですって。
そうでなきゃ、こんな所に猫がいるはずないでしょう?」
「…お前が犯人マヨか?」
マヨ王子は猫の向きを変え、目を合わせて問いかけました。
すると猫はバツが悪そうに「う、うみゃあ」と鳴きました。
「ほらね!さぁ王子、早くその泥棒猫を衛兵に引き戻しましょう」
「いやだマヨ!きっと、きっと何かワケがあるんだマヨ!すっごくお腹が空いてたとか…」
「まあ、猫が盗みに入る理由なんてそんなところでしょうけど…」
「お腹が空いていたなら仕方ないマヨ。こいつは悪くないマヨ!」
マヨ王子は猫を確りと抱きかかえ、山崎から隠すように背を向けました。
「王子がそこまで仰るのでしたら…。では、そのまま野に帰しましょう」
「えっ、飼っちゃダメマヨ?」
「そんな汚い野良猫、ダメに決まってるでしょ」
「山崎テメー…」
「ヒィッ!」
マヨ王子が再び「鬼」の声になり、山崎は竦み上がりました。
「わっ分かりましたよ!ではせめて獣医に病気を持っていないか調べてもらってからにしましょう」
「健康診断マヨな?それはいいことマヨ。早く手配するマヨ」
「はいはい」
それから山崎は獣医を呼んで猫を診せ、そのまま猫を預かって庭で体を洗いました。
専用のシャンプーで汚れを洗い流し、真新しいタオルで水分を拭うと、猫の毛は風にふわふわと靡き
日の光を浴びてキラキラと輝くようになりました。
「キレイになったマヨ!山崎にしては上出来マヨ」
「…何で俺に対してだけ辛口なんですか。ていうか王子、大臣との話し合いはどうしたんですか?」
山崎に猫を託して仕事に戻ったはずのマヨ王子が現れ、呆れ気味に山崎は尋ねました。
「猫のことが気がかりで早目に切り上げたマヨ。…大丈夫マヨ。必要なことは話してきたマヨ」
「そうですか…」
「それにしても本当にキレイマヨ〜。キラキラマヨ〜」
「見た目はともかく、この銀色の毛並みはキレイですよね」
「見た目も可愛いマヨ!それに、銀色の猫なんて珍しいマヨ」
マヨ王子は猫を抱き上げようとして猫に触れ、その毛並みの手触りに驚きました。
「すっごくふわふわマヨ!モコモコマヨ!可愛いマヨ〜〜!!」
猫を撫でまわすマヨ王子はとても幸せそうです。猫の方はというと、相変わらずモコモコと言われる度
微妙な表情をするものの、可愛がられるのは満更でもないようです。
それからマヨ王子はこの猫に「銀」と名付け、自分のお気に入りのハンカチを銀の首に巻き
たいそう可愛がりました。
(10.10.16)
冒頭にも書きましたが、希月様の描くマヨ王子と銀にゃの魅力にノックアウトされてできた話です。イラストをいただいた時、あまりの可愛らしさに頭がパーンとなりまして
パーンとなった頭で「マヨ王子と銀にゃの話書いていいですか?」と厚かましいお願いをして、快諾してくださいました!…それなのにこんな出来で申し訳ありません^^;
本家の漫画はもっと可愛らしいのですが、私が書くとどうしてもギャグが入ってしまう- -; 山崎に対して「鬼」が出てくるのは私の勝手な捏造です。本家のマヨ王子は
常に可愛らしいです!そして今のところ、本家マヨ王子と銀にゃは出会っていません。こんな小説をもらっていただけた希月様、ありがとうございました。
ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございました。
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