銀魂中学二年A組の坂田銀時と、同じくB組の土方十四郎は幼稚園からの腐れ縁。クラスが離れ
それぞれ別の交友関係を築いてはいるものの、共に過ごした歴史の長さは何にも替え難く、
互いに相手が最も気の合う友人だと感じていた。
だから学級を超えた活動は常に一緒。二人で剣道部に所属し、土方が生徒会役員に推薦されたと
聞けば坂田も立候補し、揃って当選を果たしたのだった。
五周年記念リクエスト作品:友情と愛情と心強さと
ある日の昼休み。坂田は教室でいつものメンバーとランチタイム。小学校から一緒の高杉晋助と
桂小太郎、そして中学で知り合った坂本辰馬である。
購買部のあんパンとイチゴ牛乳は坂田のランチに欠かせない。今日はそれにピーナッツバター
サンドを加えてみた。なかなかいける。
高杉と坂本は弁当を持参。坂田と同じく買い弁派の桂が焼きそばパンを食べながら言う。
「高杉お前、また新しい彼女が出来たらしいな」
「ん?C組の子とはもう別れたんか?」
「まあな」
この弁当もその彼女の手作りなのだと自慢げに、だが料理の腕は前の方が良かったなどと偉ぶる
高杉。桂と坂本はケッと同時に唾を吐いた。
「わしだって、りょうちゃんとあと一歩ちゅーところまで来てるぜよ。昨日も一緒に帰ろうと
したら照れて先に行ってしもうた」
「ふっ……勝ったな坂本。俺は幾松先輩からデートに誘われたぞ」
坂本が同じ組の想い人への手応えを語れば、桂も負けじと昨年卒業した先輩との関係を語る。
だがそれには高杉が冷静にツッコミを入れた。
「辰馬は逃げられただけだし、ヅラはバイト先の蕎麦屋の割引券もらっただけだろ」
「りょうちゃんは奥ゆかしいんじゃ!」
「蕎麦屋じゃない、蕎麦も置いてるラーメン屋だ!」
「はいはい……。銀時、お前はどうなんだ?」
「あ?」
銀髪天然パーマに死んだ魚のような目。しかし剣道は上級生を負かす程の腕前で、生徒会役員と
して教師の評判も上々。それなりに女子からも人気のある坂田であるが、昔から、この手の話題
には全く乗ってこなかった。
「好きな女はいねェのか?」
「いねェよ。つーか面倒臭ェ」
紙パックを傾けて、最後の一滴までずずっとイチゴ牛乳を啜りつつ坂田は応える。
以前はゲームや漫画の話が中心であったのに、いつの間にか誰が可愛いだの美人だのと女の話
ばかり。その面白さが坂田にはサッパリ分からなかった。
けれど友人達は、そんな坂田のことを少し心配していた。年頃になれば異性を意識して当然。
前述した通り、坂田さえその気になれば寄ってくる女子はいる。目覚めが遅いのならば友として
協力してやらなくてはなるまい。既に妙な噂も立っていることだし。
「お前、何度か猿飛に告られてんだろ?試しに付き合ってみろよ」
「面倒臭ェからパス」
「B組のツッキーとか言う子も、お前に気があるっちゅー噂ぜよ」
「二股はいかんぞ。どちらかに決めろ銀時」
「だからァ……付き合うとかそういうのが面倒臭ェんだよ」
相手が誰でも同じ。友人関係ならどんなに広がっても構わないのに、男女交際となれば一対一。
しかも会うにはオシャレをしてデートプランも考えなくてはならなくて……何事も行き当たり
ばったり主義の坂田にとって、窮屈そうでしかなかった。
そんな坂田の態度に三人は視線で合図を送り頷いて、高杉が代表で口を開く。
「お前、女に興味がないのか?」
「は?……まあ、オメーらみたいな話に興味はねェな」
「つーことはその……男に興味が?」
「何でそうなるんだよ……」
空になったイチゴ牛乳のパックを机に転がし、坂田は髪に隠れた耳の穴へ小指を突っ込んだ。
「バカかオメー。好きなヤツがいないだけだっつーの」
「そ、そうか」
どことなくホッとした様子の高杉。役目は果たしたとばかりに弁当へ戻る。
後を継いだのは坂本であった。
「好きな芸能人はいないんか?」
「んー……」
コントの面白い芸人や曲がカッコイイ音楽グループなど「好きな芸能人」と聞いて浮かぶ顔は
あるが、求められているものと違うのは分かる。しかも悪いことに浮かんだのは皆男だ。
そういう「好き」では勿論ないのだが、この流れで男の名など挙げればゲイだと思われる。
それは心外だ。
坂田は顔がキレイな女性芸能人を思い出そうと試みる。普段、そんな目でテレビを見ていない
だけに悩むところだが……
「あっ、結野アナ」
「お天気お姉さんか。なるほどのぅ」
「バツイチというのがそそるところだな」
「お前にしちゃいい趣味だな」
手近なところで、登校前に見たニュース番組から見繕ってみたが成功したらしい。
と安堵したのも束の間。
結野アナのような女子と付き合いたいのだなと確認されて、首を捻る坂田少年であった。
ではどのようなタイプとなら付き合うのだ――贅沢者めとやや苛立ち気味に桂が問えば、また
少し間があって、「楽なヤツ」との返事。
「どういうことだ?」
「約束なんかしなくてもふらっと寄れば家にいて、メールの返信が三日後でも怒らなくて……」
「そんな都合のいい女がいるかっ!」
「十四郎はそんな感じだもん」
「…………」
しれっと放たれた台詞に他の三人は硬直する。聞き耳を立てていたクラスの女子の一部が俄かに
落ち着きをなくしていた。
こうなれば本人にきちんと知らせた方がいい――再び三人で目配せをして、放課後ちょっと顔を
貸せと高杉が誘う。
「今日は十四郎と遊ぶからパス」
「ふおっ」
思わず声を挙げた女生徒をキッと睨み付け、高杉は坂田に向き直った。
「……約束してんのか?」
「いいや」
いつものように一緒に帰り、そのまま土方家へ行くつもりなのだと説明してやる。
坂田が男女交際を億劫がる一番の理由はここにあった。
気取ることも気遣うことも気負うこともなく共に過ごせる「親友」の存在。その他の友人より
親友を優先させても問題はないが、恋人となると別格扱いしなくてはならないだろう。
幼馴染みの親友との時間を削ってまで、別の人間関係を構築したいとは思わない。だから恋人は
いらない。
だが坂田の行く末を案じる友人らも、このまま引き下がるわけにはいかなかった。
学校から最も近い坂本の家で、三十分以内という条件付きで何とか妥協させる。
面倒なことさせやがって……ぶつぶつ言いながら隣の教室へ赴く坂田の後を、件の女子達が
こっそりとつけていく。その様子に高杉らは溜息を吐くのだった。
坂田がB組を覗けば、窓際のいつもの席で土方はマヨネーズ塗れの弁当を食していた。一緒に
いるのは同じクラスの山崎退と沖田総悟。これもいつもの面子であった。
「十四郎ぉ」
坂田の訪問にB組の一部の女生徒は色めき立ち、廊下の「同志」とアイコンタクトを送り合う。
それに構うことなく――というより気付かずに――土方は坂田の待つ出入口へ。
「どうした?」
「今日、家にいてくんない?後で行くから」
「居残りか?」
普段通り一緒に帰ることができない理由を土方なりに推測してみたが、それは即座に否定された。
「辰馬ん家に寄れって言うから仕方なくな。でも三十分だけって約束したから」
「そうか」
クラスの交友関係に口を出す気はないし、今日は出掛ける用事もなかった。土方が「待ってる」と
言えば、教室と廊下でやや控え目に上がる黄色い声。
とはいえ土方も坂田も、自分達が原因だとは認識していない。長い休み時間。テンション高い
女子が仲間内で盛り上がっていると思っているのだ。
だから騒がしくなった周囲に僅かばかり眉を潜め、土方は坂田に顔を近付けて話す。
それが逆効果だとも知らずに。
「千とペドロ、だろ?」
「そうそう!見たことあるからいいやってスルーしたんだけど、やっぱり見たくなってな」
千とペドロの借りぐらし――先週末にテレビ放映された映画である。公開中、小学生だった
二人は、互いの親と映画館へ足を運んだ。その後も何度かテレビで放送されるたびに見ていた
から、今回坂田は別のテレビ番組を見てしまった。
だが今朝になって無性に見たくなったのだ。
ペドロシリーズ好きの土方は、本作品も含めてシリーズ全てのDVDを所有している。なので
放課後は遊びに行こうと勝手に決めていた。土方とて出掛けないわけではないのだけれど、
坂田のタイミングで「ふらっと寄れば家にいる」のが当たり前であり、逆もまた然りだった。
今日はそのタイミングをずらされてしまったから、約束を取り付ける必要が出てきたのだ。
「いいぜ」
「サンキュー。じゃあまたな」
「ああ」
坂田が土方の肩にぽんと手を置き、また無自覚に一部を騒がせて、自分の教室へと戻っていく。
そんな二人の姿を沖田は至極楽しげに、山崎は気の毒そうに見守っていた。
「旦那とデートの約束か?リア充爆発しろィ」
「誰が旦那で何がデートだ」
バカじゃねーのと沖田を窘めマヨネーズランチを再開させた土方。バカなのはアンタだと思わせ
振りに言いながら、沖田は真実を教えてやる気はないらしい。
山崎も真実を知る一人であるが沖田からきつく口止めされており、結局、知らぬは当人ばかりと
いった状況が続く。
「遊びに来るだけだぞ。お前だって来たことあるじゃねーか」
「旦那とアンタにゃ、他とは違う絆みたいなのを感じるんでね」
「付き合いが長いからだろ」
「なるほど。昔からの『付き合い』ね……」
「ああ」
付き合うという言葉に沖田が含みを持たせて繰り返すと、例の如く数人の女子がはしゃぎだす。
可哀相に――何も知らない土方に、心底同情しつつ山崎はあんパンを齧るのだった。
* * * * *
その日の放課後。中学から徒歩二分の場所にある坂本宅にA組の四人が集合。
何だか知らねぇけど早くしろよと急かす坂田を宥めつつ、ダイニングテーブルに着かせる。
他の三人も各々座り、口火を切ったのは正面に陣取った高杉。
「お前と土方、噂になってるぞ」
端的に事実だけを伝えてやるも、坂田は訳が分からないと首を傾げた。
この鈍さのせいで噂が一人歩きしているのだと、高杉は息を吐く。
「お前と土方が付き合ってると噂になってんだよ」
「何だそれ!ふざけんな!!」
「二人の漫画や小説を書いとる女子もいるらしいぜよ」
「えっ、それはちょっと見てみたいような……」
「おいっ!」
誰が書いてんの?俺がサラサラヘアーになる話とかあるかな?などと興味津々な坂田に高杉の
ツッコミが入った。
そんな話あるわけなかろう――サラサラヘアーを惜し気もなく靡かせて桂は言う。
「お前と土方がにゃんにゃんしてる話ばかりだ」
「マジでか!」
「この前読んだのは二人が一緒に住んでいるという設定でな……」
「ふんふん」
「おはようからおやすみまで、事あるごとにキスする話だったぞ」
「へぇ〜」
「読んでんじゃねーよヅラ」
坂田の友人として、根も葉も無い噂を否定する立場のはずが……予想外の方向へ進む話に高杉の
ツッコミも弱々しくなっていった。
「十四郎とキス……」
口元に手を当て、何もないテーブルを見詰め始めた坂田。これはダメだと高杉はいち早く悟って
しまう。
目的変更。
噂の鎮静ではなく坂田の自覚へ。
「土方とキスしてぇのか?」
「違っ……ただ、どんな感じかなって……」
「なら土方が誰かとキスしてたらどうだ?」
「どうって何だよ」
「オメーの気持ちだ。良いか悪いかで言ったら?」
「…………悪い」
視線を彷徨わせ、たっぷり考えて出て来た答え。この辺りで坂本と桂も気付いた。
だがやはり最後に残されたのは坂田本人。
「土方くんと付き合いたいんじゃろ?」
「ンなわけねーだろ。俺ァホモじゃねぇ」
「ならば土方に恋人ができても平気だな?」
「そっそれは、嫌だけど……」
「銀時、いい加減認めろ」
「いや好きとかじゃねぇよ。アイツは親友だから、遊ぶ時間が減るのが嫌なだけで……」
「じゃあお前と会う時間さえ変わらなければ、土方に彼女ができてもいいんだな?」
「…………」
最後通告のような高杉の言葉に反論することができなかった。土方が架空の彼女と仲良く歩いて
いる場面を想像するだけで息苦しくなる。
押し黙り丸くなる坂田の背中、隣に座る坂本の手が添えられた。高杉、桂も続く。
「きっと上手くいくぜよ」
「腐れ女子共の見る目もバカにできねぇな」
「にゃんにゃんするのはまだ早いからな」
三者三様に励まされ、坂田はふんと鼻を鳴らした。
「協力なんていらねぇからな!」
勢いよく立ち上がり、親友改め初恋の人の元へ向かわんと玄関へ駆け出す坂田。スニーカーの
踵を潰したままドアノブを握って一言。
「ありがと」
その声は親友らの耳にしっかり届いていた。
(14.11.27)
今回は、ぎん様のリクエストです。リクエスト内容は後編の後書きで。
後編を15禁にするか18禁にするか悩み中です。続きアップまで暫くお待ちくださいませ。
追記:15禁になりました。続きはこちら(注意書きに飛びます)→★