※当サイトに同じ設定の話はありますが、これだけでも読めます。
銀魂保育園で運命の出会いを果たした坂田銀時と土方十四郎。月日は流れ、二人は同じ小学校へ
進学した。入学式の日、銀時は父親に、十四郎は母親に付き添われて二家族四人で初登校。
新しい環境になっても変わらず大好きな人が共にいるから不安はない。そう思い校門をくぐった
幼い恋人達の前に、クラス分けという障害が立ち塞がった。この学校は一学年三クラス。
かくして、小学校生活中盤までを、銀時と十四郎は別々のクラスで過ごすことになった。
五周年記念リクエスト作品:5年2組の恋人達
四月。五年生に進級した二人はいつものように手を繋いで、しかし緊張の面持ちで学校へ向かって
いた。今日は新学期の初日。二年毎に行われる小学校のクラス替え、最後の発表日。ここで同じ
組になれなければ六年間離れ離れの教室で過ごすことが確定してしまう。クラスが違っていたって
こうして毎日一緒に登校はしているし、放課後も大抵一緒に帰れる。同じ組にも友達はできた。
けれど、最愛の人が壁の向こうにいるという現実は、耐え難い寂しさを感じさせる。
それがあと二年続くかどうかの分岐点。
相手の手をきゅっと握り、昇降口まで進み出た。
「いっ行くぞ十四郎」
「ああ」
学年別の下駄箱にはクラス名簿が貼り出してある。
一歩、また一歩、愛しい人と彼の地へ近付く銀時の元へ、黒い影が突進した。
「金時ィ、また同じクラスぜよー」
「ぶべらっ」
銀時と負けず劣らずの天然パーマに土佐訛りのでかい声、坂本辰馬である。彼は昨年銀時の組に
転校してきて以来の遊び仲間であった。
「痛ェな!それと、オレの名前は銀時だ!」
「おー、歳三くんもおはよう」
良く言えばおおらか。友人の名前も正確に覚えない辰馬は、銀時の抗議を軽く受け流して十四郎に
挨拶した。訂正するだけ無駄と十四郎はただ「おはよう」と返す。
「おい辰馬、コイツは十四……」
「キミも同じクラスじゃ。よろしく」
「えっ!」
とてつもない朗報がもたらされ、無礼を責める場合ではなくなった。勇んで駆ける二人の前にまた
友人が一人。同じ保育園出身の沖田総悟である。下駄箱の名簿を見ていた総悟は彼らの顔を見て
チッと舌打ちした。
「今日も仲良くダンナと来たのか土方コノヤロー」
「総悟」
「あ、沖田くんおはよー」
総悟と十四郎は四年間同じクラス。この歳にして既に交際六年目となるカップルを身近で見ていた
一人である。そのうち十四郎の夫になる人、という意味で銀時のことを「ダンナ」と呼び二人を
からかっていた。
「ダンナと同じクラスになれてうれしいだろ?うれしいです総悟様って言ってみろ」
「やっぱり、同じクラスなのか!?」
「いや……」
パッと表情が明るくなった十四郎。彼をイジメることが生きがいの一つである総悟は、失敗したと
5年2組の名簿を両手で覆い隠した。
「見せろよ!」
「アンタの名前はねぇよ」
「あっ、オレ2組だ。沖田くんと一緒になんの初めてだねー」
「はあ」
総悟の指の隙間からちゃっかり自分の名前を見付け出し、銀時は笑顔で近寄っていく。
こういう時の銀時が総悟は苦手だった。どちらかと言えば好きな子はイジメたい派の銀時。二人で
悪ふざけをして十四郎を怒らせることもしばしば。
けれど、二人の恋路の邪魔となるなら話は別。邪魔をするなと無言で圧力をかけてくる。
十四郎のように激昂してくる方が総悟にとっては扱いやすかった。
渋々場所を空ければ、そこにはやはり「土方十四郎」の文字。
「十四郎っ!」
「銀時っ!」
念願叶った恋人達は、人目も憚らずしっかと抱き合った。
彼らはこの学校でもちょっとした有名人。少なくとも同学年の児童らは全員、二人の交際を知って
いた。初めこそ、男同士だからと奇異な目で見るものや面と向かって批判する者もいたけれど、
当人達が「好きな人と付き合って何が悪い」とばかりに堂々としており、また、互いの親も認めて
いることも後押しして、殆ど学校公認状態なのである。
そんな二人が保育園以来初めて揃う5年2組の教室には、ちょっとした人集りができていた。
「おめでとうございます」
「今のお気持ちを一言」
「とってもうれしいです」
ペンケースをマイクに見立て、芸能リポーターよろしく囃し立てる同級生達に満面の笑みで応える
銀時。総悟が増殖したようだと、十四郎は少しも笑う気になれなかった。
心から祝福してくれるなら有り難いが、彼らは明らかに面白がっているように見えるから。
教室に入れば前の黒板に座席表が貼ってあった。一学期の最初の席は出席番号順――男女混合の
五十音順――と決まっている。一列五人、全部で六列。銀時は二列目の前から四番目、十四郎は
五列目の一番前の席となっていた。
自分の席に向かう十四郎の後をついて来て、銀時は当然のように隣へ座る。
「あのー、この席……」
「貸して」
「あ、うん」
本来その席に座るはずの山崎退ももちろん二人の関係を知っているから、ランドセルを背負った
まま、所在なげに立っているしかなかった。
「担任は誰がいい?」
「とりあえず松平先生以外」
「ハハッ……十四郎、一年からずっと松平先生だもんなァ」
地味なクラスメイトの様子などお構いなしに、銀時は同じ空間に恋人のいる幸せを噛み締める。
「悪い人じゃないんだけどな」
「顔は悪い人っぽくね?ヤクザにしか見えねーよ」
「去年、一年に話し掛けた時、防犯ベル鳴らされたしな」
「マジでか!」
「ああ」
十四郎もまた、今日から始まる高学年の生活に胸躍らせていた。
「おはようございます」
「じゃあまたな、十四郎」
「ああ」
教室に担任の先生が入って来て、銀時は恋人に暫しの別れを告げた。このまま座席が乗っ取られる
のではないかと密かに心配していた退は、胸を撫で下ろして着席する。
しかし、このくらいの「試練」など、二人にとっては慣れたもの。離れがたくとも離れなくては
ならない時があることは四年前、入学式のクラス分けで学習済み。そこを乗り越えてこそ、真の愛
なのだと周りの大人達から教わっていた。
それに、現れた担任は吉田松陽先生。銀時が低学年の頃にも担任で、最愛の人との間を引き裂かれ
失意の底にいた銀時を励ましてくれた、十四郎とは別の意味で大好きな先生。
迷惑をかけたくはなかった。
「このクラスを担任する吉田です。どうぞよろしく」
先生の挨拶に合わせて児童らも「よろしくお願いします」と頭を下げる。それが済むと透かさず
銀時が手を挙げた。
「先生、席替えはいつですか?」
「まだ決めていません」
「明日がいいと思います!」
「それは早過ぎますね」
「じゃあ明後日」
「一学期のうちにはやりますから、暫くは今の席で頑張って下さい」
「……はーい」
銀時の魂胆などお見通し。席替えをしても希望通りになるとは限らないと付け加えた。
「先生、今日の給食は何ですカ?」
「今日は給食ありませんよ」
銀時の右隣に座る女子児童・神楽の質問を受け流しつつ、先生は銀時の成長ぶりにこっそり目頭を
熱くしていた。自分の希望が聞き入れられなかったにもかかわらず、大人しく席に着いている
銀時の成長ぶりに。
――とうしろうとおなじクラスがいい。
――クラス替えは三年生になってからです。
――やだ!
――寂しくても頑張れば、今よりもっとカッコよくなれますよ。
入学して早々に教室からの脱走を繰り返した銀時。吉田先生はその度に根気よく話をしていった。
実を言うと二人のことは入学前にそれぞれの親から聞いていた。子どもの恋愛ごっこかもしれない
けれど、できれば本人達の自由にさせてやってほしいと。
その上で学校として、距離を取らせる対応を決めたのだ。二人の思いを否定することはできないが
「普通」の小学校生活も送ってほしいと願いを込めて。
この四年間、二人は別々のクラスで友人と学校生活を送りながらも、交際は交際で続けてきた。
最後くらいは一緒の組にしてあげてもいいのではないか、というのが教師陣の考え。
かくして、銀魂小学校5年2組の恋人が誕生した。
* * * * *
二ヶ月後。ティッシュボックス大の箱を携え教室へ入って来た吉田先生に、銀時は「起立」の号令も
待たず立ち上がった。あの中には席替え用のくじが入っているはず。以前も先生はそうして席を
決めていたから。
「これから席替えをします」
予想通りの台詞に銀時はガッツポーズ。結果は運任せであるけれど、これで十四郎の隣になれる
かもしれないと。
順番にくじを引いていく5年2組の児童達。くじには1〜30の数字が書いてあり、「1」なら
一列目一番前、「2」ならその後ろ、「5」なら一番後ろといったように新しい席が決まる。
一人引く毎に「何番?」「どこの席?」といった質問が飛び、その都度先生が、全員引き終わる
までくじを開かないよう注意した。
全員のくじ引きが終了し、折り畳まれた小さな紙を一斉に開いていく。誰も彼も緊張の瞬間。
「やった!」「げっ!」――悲喜交々飛び交う中、銀時は十四郎の元へ。
「十四郎、何番?」
「12」
「あー……オレは19」
十四郎のくじは三列目の前から二番目の席を、銀時のそれは四列目、四番目の席を示している。
今よりは近付けたけれど隣ではなかった。また次に期待するしかないかと自席に帰り、荷物の
整理を始めた銀時。同じ教室ですらなかった昨年までと比べればマシだと切り替えつつあった頃、
神楽が別の女子児童を連れて十四郎の所へやって来た。
彼女の名は徳川そよ。いわゆる良家のお嬢さんであり、十四郎とは殆ど話したことはなかった
けれど、神楽とはよく一緒にいるのを見る。就学前は家庭教育中心であったそよにとって初めての
友人が神楽であったらしい。
そよは先生の視線を気にしながら、声を潜めて言った。
「これ、差し上げます」
「えっ」
彼女の手には「14」――銀時の右隣の席――のくじ。とても有り難いことだけれど「ズル」では
ないのか。皆それぞれ仲の良い悪いはあって、それでも己の引いた番号に従っているというのに。
迷っているうちに何事かと他のクラスメイトが数人集まってきてしまった。
「どうしたの?」
「あー、交換しちゃダメなんだよ」
「徳川さんがいいなら別にいいんじゃない?」
「恋人同士なんだから隣にしてあげようよ」
「でも先生に見付かったら徳川さん怒られちゃうかも」
「じゃあオレと交換しろよ」
逆隣のくじを引き当てた男子児童まで現れる始末。何だ何だと十四郎の周りは更に人が増え、遂に
銀時も騒ぎに気付いて恋人の元へ向かおうとしたところ、
「皆さん」
先生の声に教室は静まり返る。
「先生は職員室に忘れ物を取りに行きます。戻るまでに席替えを済ませておいて下さいね」
ニッコリ笑って先生が教室を出た瞬間、クラスは一つになった。初めの申し出を尊重し、そよと
十四郎のくじを交換。銀時の隣の席へ納まった。
未だ、十四郎は納得がいっていなかったものの、何故だか恩着せがましく総悟にくじを奪われ、
そよの物と強制的に取り換えさせられてしまい、「14」の席へ移動したのだ。
戻ってきた先生にバレやしないかとビクビクしていたが、何事もなかったように一時間目の授業が
開始された。児童の自発的な善意に基づく「不正」を吉田先生は黙認することに決めたのである。
(14.10.31)
五周年記念リクエ スト第二弾は明夜様リクエスト「幼児パロシリーズ・・・その後、銀土バージョン」です。
どの程度「その後」にするかで色々妄想を膨らませた結果、小学生になりました。後編は18禁になる予定です。
アップまで少々お待ち下さい。
追記:予定が変わり前中後編になりました。中編はこちら→★