俺は万事屋に惚れていて、できればどうにかなりたいなんて思ってしまったので、
「まずはお友達から」をやってみようと思います。……作文?



三周年記念リクエスト作品:サディスティック星のキューピッド



アイツと友達になると目標を掲げて早半月。俺達の関係は何も変わらず……どころか会えても
いなかった。考えてみれば、仕事中に会えるヤツじゃねぇし、普通に生活していたらヤツの家を
訪ねる用事なんか出てこねぇ。何か切っ掛けを作らなければ……俺がヤツに会う大義名分を何か……

ピリリリリリリ……

ん?縁側から電話の音が……微かに総悟らしき声が聞こえる。アイツ、またサボってやがったな……

万事屋の件は後回しにして部下を注意するため障子を開けた。

「おい総悟……」
「……ああはい、煩いヤツが来たんで……それじゃあ旦那、また夜に」

旦那?コイツ、万事屋と電話してやがったのか?

「勤務中に私用の電話は禁止だ」
「へいへいすいませんねェ」
「悪いと思ってねェだろテメー……」
「ところで土方さん、どうせ今夜も暇ですよね。たまには奢ってくだせェ」

左手で酒を飲む仕種をする総悟。お前は未成年だろという類のツッコミは今更なので勘弁願おう。
それより俺が引っ掛かったのは「たまには」という言葉。

「俺と飲む時、テメーが一円だって払ったことあったか?」
「ありませんでしたっけ?おかしいな……ああ、あれは確か土方殺害計画パターン五のイメージ
トレーニングだった。トレーニングもやり過ぎると実戦と区別がつかなくなっていけねェや……」

ツッコミ所が多過ぎてツッコむ気になれねェ……

「土方さん、ツッコんでくれないとボケたこっちが恥ずかしいじゃないですか」
「お前に恥ずかしいって感情があったのか?」
「俺だって恥じらいの一つくらい身につけてますぜ」
「はいはい……で、今夜飲みに行きてェのか?」
「ええ、土方さんの奢りで」
「チッ……いつもの所でいいな?」

甘いとは思うがここで拒否しても色々と理由を付けて最終的に奢らされるだけだからな。

「今日は五丁目の角の店でもいいですかィ?」
「五丁目ってぇと……パチンコ屋の隣か?」
「はい。もうその店で飲むって約束しちまったんで」
「……誰と?」
「万事屋の旦那と」
「あ?」

そういやさっきの電話、また夜に、とか言ってたな。万事屋と飲む約束してたのか……
つーか万事屋は俺も来ること知ってんのか?俺としてはこれが契機になるなら行くのも吝かでは
ないのだが、何も知らずに俺が行って機嫌を損ねられても……

「気の利く部下を持って幸せですねィ」
「まさかそれはテメーのことか?」
「勿論でさァ」

コイツ、何か勘付いてやがるのか?いや……落ち着け十四郎。総悟は俺のダメージになりそうな
ことなら何でもするヤツだが馬鹿だ。そこまで深くは考えていないだろう。おそらく、万事屋が
いると知らせて俺に奢りを拒否させ「一度決めたことは守れ」だ何だと文句を言いたいだけだ。

「約束したんなら仕方ねェ……裏庭の掃除しとけよ」
「はぁ?何で俺が……」
「勤務中の私用電話、見逃したわけじゃねーぞ」
「チッ……」

冗談が通じないだの死ねだのとぶつぶつ言いながら裏庭に向かう総悟。けれど掃除はしないだろう。
アイツが素直に罰を受けるたまじゃないのは分かってる。暫くしたら様子を見に行くか。



*  *  *  *  *



その夜。

「え、何で?」

俺と総悟が例の居酒屋に着いた時、先に来ていた万事屋は俺の顔を見て目を丸くした。
やっぱり言ってなかったな……

「ちょっと沖田くん、どういうこと?」
「日頃世話になってる旦那にご馳走するって言いませんでしたっけ?」
「言ってたねェ……でも副長さんも一緒ってのは聞いてなかったけど?」
「旦那にご馳走しようと財布を持って来たまででさァ。……いけませんか?」
「あのなァ……」
「誰が財布だ、誰が」

呆れたように息を吐きつつ万事屋の向かいに腰を下ろせば、総悟も俺の隣に座る。
強引にでも席に着いてしまえばこっちのもんだ。俺と飲むのは不本意だろうが、万事屋は既に
顔が赤くなるほど飲んでいる。奢りだと思ったからこそ遠慮なく飲んでいたに違いない。
ならば、総悟が払おうが俺が払おうが構わないだろう。

たまには総悟の嫌がらせも役に立つものだ……万事屋には悪いが俺はこの機会を利用させて
もらうことに決めた。


*  *  *  *  *


「じゃあ土方さん、後はよろしく〜」
「分かった分かった……お前も気を付けて帰れよ」

俺の存在が余程気に食わなかったのか、黙々と酒を呷り続けた万事屋は早々に潰れてしまった。
耳元で呼び掛けても揺すっても起きない万事屋を送ってやることにして、居酒屋の前で総悟と
別れる。これで明日、コイツの体調を気遣って俺が家を訪ねるのはやり過ぎだろうか……
偶々オフだったからとか何とか理由を付ければそんなに不自然ではない、か?

などと練っていた作戦は間もなく全てパアになるのだが、この時の俺は予想だにしていなかった。


「あれ?土方くん?」
「起きたか……気分はどうだ?」
「んー……眠い」
「ハハハ……」

まだ酔っているようだ。普段より喋り方が幼くて可愛いとすら思えてしまう。

「土方くん、どこ行くの?」
「お前ん家」
「今日はねー、そっちじゃねーの」
「じゃあどっちなんだ?」
「あっちー」

酔っ払いの戯言だと分かっているが、少しでもコイツと一緒にいたくて万事屋の指差す方へ。

「次はこっちー」
「はいはい」

だんだんとホテル街に向かっているような……いや、気のせいだな。もしくはコイツが適当に
言ってた道が偶然そっち方面だっただけだ。そのうち万事屋に向かうだろう。

「そこ曲がってー」
「ああ」
「はい、到着〜」
「えっ……」

いやいやいや、「到着〜」じゃねェよ!どっからどう見ても万事屋じゃないんですけど!
無駄にメルヘンチックな外観ですけど!「ご休憩」って書いてますけど!!

「早く入れよー」
「いや、ここお前ん家じゃな……」
「今日は土方くんとお城にお泊まりでーす!」
「ちょっ……」
「レッツゴー!」
「分かった!分かったから静かに!」

大の男を背負ってホテル街を歩いて来た時点でかなり注目を浴びている。これ以上目立つことは
避けなければ……俺は万事屋と「休憩所」に入っていった。


「おばちゃーん、部屋空いてる?」
「あら銀さん、今日はお連れ様がいるのね」
「そう。今日は金払うからいい部屋よろしくー」
「はいはい」

知り合いの宿なのか……。「今日は」連れがいると言ってたことからして、連れがいなくても、
つまり一人でも来てるってことだな。知り合いの誼みで、今日みたいに酔って帰るのが面倒な
時なんかに泊めてもらってるのか……。
また主人の店にも顔を出してよ、なんてことを言いつつ万事屋に部屋の鍵を手渡す女。
ご苦労様ですと微笑んで、俺にも部屋番号を告げた。

*  *  *  *  *

「いい加減、下りろ」
「はーい」

万事屋を背負ったままでは部屋の鍵が開けにくい。自分からは決して下りようとしない万事屋を
部屋の前で下ろしてやると、持っていた鍵で部屋の扉を開けた。
……俺はここへ入ってもいいのだろうか。俺はコイツを「家」に送り届けようとしていただけで
一晩共に過ごすなんて大それたことを考えていたわけでは……

「ひーじかーたくーん」
「お、おう」

まあ、万事屋がいいと言うならいいのだろうと、俺は部屋の中へ入った。



「土方くん、こっちこっち」
「お、う……」

ベッドの上に座り、自分の隣をポンポンと叩く万事屋。えっ……マジでそういうこと?
ここまで来たんだからヤることは一つ、的な?合意の上で入ったんだろ、的な?そういうこと?

「いやいやいやいやいや……」
「なあ、早くー」
「お、う……」

万事屋に腕を引かれ、俺はベッドに乗り上げた。
えっ……いいの?マジで?そりゃあ、俺にとっては願ってもないことだが、だがしかし……

「ひじかたぁ……」
「万事屋……」

甘ったるい声で俺を呼び、万事屋が抱き付いてきた!

「すき……」
「え……」

確かに「好き」と聞こえた。というか今まさに万事屋の唇が俺にっ!!

「万事屋っ!!」

ここまでされて我慢などできるわけがない。俺は万事屋をベッドに押し倒した。



*  *  *  *  *



「ぎゃあああああああああ〜!!」

翌朝、俺は万事屋の叫び声で目を覚ました。

「うるせェな……」
「おまっ……土方ァ!?」

そうじゃねェかと思っていたが……やはり記憶がないようだ。当然のことながら俺は全て
覚えているがな。

「ひっ土方お前、服着てるよな?」
「着てねーよ」
「ああああああ……じゃあ、このケツのふわっとした感じはやっぱり……いいいやでも、
ふわっとしてるだけでぬるっとした感じはないから……」
「ちゃんとゴムは着けたぞ」
「ごごごごむとかそんな生々しいこと……ん?お前、覚えてんの?」
「ああ」

昨日のことを酒の上の過ちになどするつもりはない。万事屋は覚えていなくとも、アイツが俺に
好きだと言ったのだ。酒の勢いもあるだろうが、いくら酒が入っていたとしても嫌いな相手に
好きだなどとは言わない。万事屋は俺と昨日のようなことをしたいと思ってくれているはずだ。
この機を逃しはしない。「お友達から」なんて知るか。一気に決めてやる!

「お前は覚えてないのか?」
「……おんぶされてたのは、何となく……」
「そうか……では改めて言おう。万事屋、好きだ」
「えっ……」

俺が好きだと言って万事屋が驚いて固まる……昨日と逆だな。

「そそそんな急にすっ好きとか言われても……」
「昨日も言ったんだけどな」

お前への返事として、ってのは言わないでおくか。どうせこの後聞けるんだ。

「マジでか……。俺、その時、何て?」
「酔った時の話をしても仕方ねェだろ。俺は今のお前の気持ちが知りてェんだ」
「気持ちって……」

耳まで真っ赤に染まる万事屋。コイツって、こんなに分かりやすいヤツだったか?
昨夜会った時、既に顔が赤かったのは、飲んでいたからではなく俺が来たからではないかと
自惚れたくなるほどだ。

「万事屋、俺のこと嫌いか?」
「嫌いじゃ、ねーよ」
「なら試しに付き合ってみてくれないか?」
「試しにって……」
「実際に付き合ってみて見えることもあるだろ?嫌になったら何時でも終わりにして構わない!」

勿論、簡単に終わらせるつもりはない。万事屋が了解しやすいようにしているだけだ。
あと一押し……

「頼む!俺と付き合ってくれ!」
「っ……」

俺は万事屋の前で深々と頭を下げた。

「いっいいよ」
「本当か!?ありがとう万事屋!」

万事屋を抱きしめるとドクドクと非常に速い鼓動を感じる。きっと顔は先程以上に赤くなって
いるのだろう。こんなに愛されて、俺は最高に幸せ者だ。

「あっ飽きたら、すぐ別れるからなっ」
「それでいい。少しの間でもお前の傍にいられたら俺はそれで……」

可愛くないことを言う可愛いヤツを抱きしめ続ける。

「……俺、そんなに飽きっぽくはない方だから……」
「そうか……」

前言撤回。可愛いことを言う可愛いヤツを抱きしめて俺は、その赤い耳朶に口付けた。


俺は万事屋に惚れていて、できればどうにかなりたいなんて思っていたけれど、こんなに可愛い
ヤツだとは思っていませんでした。どうにかなれてよかったです。

(13.01.02)


リクエスト内容は「『トッシーの里帰り』の二人のこれからかこれ以前」でしたので馴れ初め話にしました。「トッシーの〜」の中に「俺が頼んだから、付き合ってくれてるんだよな」という
セリフがありまして、その時の銀さんの反応を妄想して下さったとのこと。予想通りだったでしょうか?というか実は銀さんから告白したというね……土方さん、基本的にヘタレだから(笑)
今回、キューピッド役となった沖田ですが、彼がどこまで分かっていて飲み会をセッティングしたのかは、ご想像にお任せします^^
匿名希望様、リクエストありがとうございました!ここまでお読み下さった皆様もありがとうございます。



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