※倉庫土銀No.80「純情な人と初デート」の続きです。
土方が銀時と交際を始めて最初のデート。極度の緊張と羞恥で家に逃げ帰った銀時に合わせ、
二人は万事屋で一夜を過ごすことになった。
食事を終えたので、というより銀時のひっくり返した茶を被ってしまったので、これから
入浴の時間である。
「たっタオル、出しといたから」
「……おう」
自分は寝床の準備をするからと襖を閉めて和室に籠ってしまった銀時。
これまでの経験から一緒に入れるなどという期待は抱いていないものの、せめて浴室までついて
来てくれてもと思うことすら高望みなのだろうか。恋人になる前の方が気楽に話せたのにと
些か寂しい気分で土方は浴室へ向かった。
三周年記念リクエスト作品:純情な人と初めてのお泊まり
「さっ先に、寝てて、いいよ」
「ありがとな」
肩に置かれそうになった手をかわし、銀時は小走りで浴室へ。
寝ていていいと言われたということは、泊まることは認めてくれている。これが銀時なりの
愛情表現なのだと自分に言い聞かせ、土方は和室の襖を開けた。
「…………」
部屋の中央にはきれいに敷かれた布団が一組。自分の分はまだなのかと思ったが、夕食前、
銀時が布団に包まっていたことを思い出す。敷きっ放しの自分の布団をわざわざ片付けて別の
ものを敷いたのだろうか。もしやこの布団で一緒に……
「ンなわけねーか」
今の銀時がそんなことを考えられるわけがない。緊張のあまり訳が分からなくなって片付けて
しまったのだろうと土方は銀時の分を敷くため押し入れを開けた。
だがそこに布団は一枚も入っていない。どこにやったんだアイツ……
そういえば、別の押し入れを神楽の寝室にしていると聞いたことがある。そちらに入っているの
かもしれない。
布団探しに土方は和室を出てざっと居間を見渡す。
「アイツ……」
銀時の布団はきちんと敷かれていた。居間の端、和室から遠い方のソファーの陰に。
今夜はここで寝る気なのだろうが、いくらなんでも離れすぎだと土方は思った。
自分達は恋人同士なのだ。布団をぴたりと付けて隣で寝てもいい仲だ。それなのに、襖と
ソファーを隔てたその先なんて……
土方は銀時の布団を抱えて和室へ戻った。
* * * * *
「あれっ?」
入浴を終えた銀時は敷いてきた位置に布団がなくなっていることで首を傾げた。
現在この家にいるのは自身を除けば土方のみ。銀時は恐る恐る和室の襖に手を掛ける。
「ひっ!」
ほんの数センチ開いた襖の隙間から見えた光景は、今の銀時には信じがたいものであった。
豆球だけが灯る部屋で土方が寝ており、そのすぐ横に銀時の布団。
銀時は慌てて襖を閉じた。
銀時とて、一般的な恋人付き合いがどういうものかくらいは知っている。あの布団の配置は
恋人として当然なのだけれど、それでも無理なものは無理だ。恥ずかしい。ドキドキする。
逃げ出したい。自分の家だというのに全く寛げない。休まらない。
やや寸足らずだが今夜は神楽の布団を借りるしかないと銀時が決意を固めた時、襖が開いた。
「おおおおおはっ、よう……」
「……まだ夜だぞ」
よくもここまで緊張していられるものだ……半ば感心しつつ土方は銀時へ歩み寄る。
ゆっくり一歩。
銀時の肩がぴくりと反応を見せた。が、それ以上の動きはない。
もう一歩。
銀時が部屋の出口を一瞥したため、土方はそこで歩みを止めた。
実のところ、土方は空寝を決め込むつもりであった。自分が先に寝てしまえば、襲われる心配も
なく隣に来てもらえるのではないかと考えたのだ。けれど現実は部屋にすら入って来なかった。
そこで迎えに行く作戦へと切り替えたものの、部屋の端と端、ソファーセットを隔てた距離は
詰められそうにない。どうしたものかと土方が思案している間、銀時は土方の視線を感じて
ソファーに身を隠し、羞恥に耐えていた。
「なあ……同じ部屋で寝るのは嫌か?」
作戦も何もない。正直に聞いてみる以外にないという結論に至った。
自分達は恋人としての付き合いを始めたばかり。まずは互いを知ることからだ、と。
ソファーの陰から遠慮がちな銀時の声が聞こえた。
「あのな……嫌ってわけじゃねぇ、けど…………」
緊張で寝られる気がしないのだろう。「嫌ではない」が今の銀時の精一杯。
「布団、離してもだめか?」
「……どのくらい?」
「一畳くらい?」
「…………」
少し待ってみたが返事はない。
これではまだ近すぎるのかと部屋の両端で寝ることを提案したものの、それには少し間があって、
自分がこちらの部屋ではだめなのかと返ってきた。
けれど土方も、同じ部屋で寝ることを諦めきれない。
「間に何か衝立のような……例えば、そこのテーブルを置いたらどうだ?」
「…………」
「襖は開けておいていいし、俺は決してお前の許可なしに自分の布団から出ないと誓う。だから……」
何故こんなことに必死なのかと、客観的に見れば思う。
触れるどころか近付くことすらできないのだ。同じ部屋でも隣の部屋でも大差ないではないか。
けれどこの時の土方は、銀時から譲歩を引き出すことに躍起になっていた。
その一方で銀時も、ここまで懸命に近くにいたいと訴える土方に少しでも応えなくてはと
思うようになっていた。「一夜を共に」という行為は如何にも恋人らしくて、想像するだけで
心臓がフル稼動する。だからこそ可能な限り距離を置きたかったのだが、何もしないと約束して
くれるなら、記念すべき初デートができなかったお詫びに……
「いっ……いいよ」
「本当か!?」
「うっ、うん」
言ってしまった。もう後戻りはできない。同じ部屋で眠れるだろうか……最悪、明日の朝
土方が帰ってから寝よう。
こうして、銀時の覚悟は決まった。
土方を居間に残して和室に入り、布団を敷き直す。手伝いの申し出は、一人でできると断った。
程なくして今夜の寝床が完成した。
襖から向かって右端に土方、左端に銀時。その中央に横向きで立てた居間のローテーブル。
その即席衝立で隔てられた左右の「部屋」へ各々入っていく。
明かりを消し、床に就いて、互いの顔も見えなくなった状態で土方は銀時を呼んだ。
名前を呼ばれたことに息を飲みつつも「なに?」と応えた銀時。それには軽く詫びてから、
「ありがとな。一緒に寝てくれて」
と続いた。
声の通りから土方がこちらを向いているのだと想像できる。銀時はゆっくり一呼吸して顔を
ややテーブルの方へ。それからもう一度息を吸って吐いて吸って、
「つっ……付き合ってんだし、このくらい、別に……」
「そうか……ありがとな」
「……ごめんね」
本当はこんな衝立などなしにもっと近くで過ごしたかったろうに……
「何で礼を言って謝られるんだよ」
「だって……」
「もう寝るぞ」
「うん……。……ありがと」
「おう」
衝立越しの「初夜」――周りから何と見えようとも、二人にとってこれは愛の証。
(12.11.10)
これ、土銀に見えますかね?指一本触れてないこの状態ではどっちが攻めかなんて分からないような……。いやでも、この作品は土銀です!
そもそもリクエストが「土銀」だし、前作(純情な人と初デート)を書いたきっかけも「受けが純情だったら?」というコメントからだったし、うん、完全に土銀だな。
……言えば言うほど怪しくなってくるのでこの辺で止めます^^;
リクエスト下さったあきな様、ありがとうございました。こんなんでよろしければ、あきな様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ^^ もしサイトをお持ちで「載せてやってもいいよ」と
いう時は拍手からでもお知らせくださいませ。 それでは、ここまでお読みくださった皆様ありがとうございました!