(1)
拍手だと知らずに押してしまった方も
分かっていて押して下さった方も
皆様ありがとうございます!

次のページからエイプリルフール話が始まります。
以前にサイトで書いたウシとトラの設定ですが、
これだけでも読めると思います。

それでは、どうぞ。

(2)
ここは真選牧場。ウシやウマ以外にもニワトリやウサギ、イヌやネコ、イノシシやトラなど
様々な動物が仲良く暮らしていることで有名な牧場です。ある春の日、朝ごはんの準備をしている最中に、ネズミの総悟はトラの銀時にいいこと
教えましょう、と耳打ちしました。

「今日は嘘を吐いていい日なんですぜ」
「は?」

総悟は銀時が来るよりも前からこの牧場で生活しているため、度々こうして先輩風を
吹かせています。

「エイプリルフールといって、嘘を吐いても許される日なんでさァ」
「ふぅん……でも俺、嘘とか吐いたことねェし」
「その嘘、なかなか傑作ですねィ……ネコの旦那」

銀時はこの牧場に拾われてきた時、自分をネコだと偽っていました。まだ子どもだった銀時を
拾い主がネコだと勘違いし、また、拾い主の親がトラに食い殺されたと聞かされて、銀時は自分が
トラであることを隠していたのでした。

けれど今は自他ともに認めるトラです。
拾い主も、銀時は親を襲ったトラとは違うと信じてくれているのです。

(3)
「で、嘘吐いてもいいからなに?」
「十四郎さんを一番驚かせたヤツには賞品が出るんです」

十四郎というのはこの牧場にいる若いウシの名前です。長い黒髪を銀色ぼんぼんの付いた
赤いリボンで高い位置に結び、裾の広がるワンピースを着たオスのウシ。この牧場にいるウシと
ウマ以外の動物は皆、この十四郎が拾ってきたのです。先に述べた銀時の拾い主というのも勿論
この十四郎です。

「賞品って何だ?」
「ソイツの一番好きな食べ物でさァ」
「苺か!?」

銀時は果物が好物というちょっと変わったトラでした。

「まあ、旦那の場合はそうでしょうねィ」
「そんないい日があったのか〜……よーし、十四郎さんをビックリさせるぞ!」
「頑張って下せェ」

実はここまでの話自体、総悟の考えた嘘なのですが、銀時は大好きな苺のために大好きな十四郎を
驚かせようと知恵を絞ります。

そして、十四郎の部屋へ向かっていきました。

(4)
「十四郎さんっ!」
「銀時、あのな……」
「俺、十四郎さんのこと……」

何か言いかけた十四郎を遮り、銀時は取って置きの嘘を叫びました。

「大嫌いです!」
「え……」

大きく目を見開いた十四郎。ビックリさせられたと喜ぶ銀時の前で、その目はみるみる悲しみに
染まっていきます。

「十四郎さん、あの……」

嘘ですよ、と銀時が言うより早く十四郎は「分かった」と言って部屋の奥へ引っ込んで
しまいました。銀時は急いで後を追いますが、十四郎はベッドの中に潜り、頭からすっぽり
布団を被ってしまいます。

「ごめんなさい十四郎さん」
「来るなっ!」

十四郎に拒まれては部屋に入ることもできません。仕方なく銀時は扉を開けたまま、
ギリギリ部屋の外へ出て話します。

「十四郎さん、さっきのは嘘です。俺、十四郎さんのこと大好きですから」
「気休めはいい」

布団の中から十四郎は応えました。
銀時は拾い主である自分を気遣っているだけだと十四郎は思っています。
けれどそうではありません。銀時は本当に十四郎が好きなのです。

(5)
「あの、今日は嘘を吐いてもいい日だって聞いて……十四郎さんをビックリさせたら苺が
もらえるって……」
「……誰に聞いた?」

少しだけ、十四郎は布団から顔を出してくれました。銀時は一歩進んで部屋の中へ入り、
扉を閉めてみます。
十四郎は何も言いませんでした。

「総悟が言ってました」
「そうか……今日は四月一日か……」

人間との生活があまり長くない銀時には「四月一日」が何なのかよく分かりません。
けれども、自分の言葉が嘘であったと分かってもらえたようだというのは分かりました。

銀時はベッドの横まで行ってそこに座りました。

「お前、総悟にからかわれたんだな」
「そうみたいですね。嘘吐いてごめんなさい」
「嘘で良かった……」
「あ……」

この日初めて十四郎の顔をまともに見た銀時は、十四郎の顔がいつもよりも赤いことに
気付きました。

「十四郎さん、もしかして今……」
「ああ。だからお前に嫌いだと言われて、一人で何とかしねェとって……」

十四郎がベッドに入っているのは、銀時から隠れる以外にも理由があったようです。
銀時はベッドに上がると、十四郎にキスをしました。

「本当にごめんなさい。十四郎さんのこと大好きだから、ちゃんと最後まで付き合います!」
「頼むぞ」

十四郎は掛け布団を剥いで銀時を抱き寄せます。
その体はとても熱く、銀時はもう一度「ごめんなさい」と謝ってキスをしました。

春は恋の季節です。



めでたしめでたし

(6)
お読みいただきありがとうございました。
次からは別のエイプリルフール話となります。
原作設定・デキてない二人の話です。

(7)
皆さんこんにちは、さっちゃんです。
今日は、私と彼のラブラブな日常をちょこっとだけお見せするわね。

彼の名前は坂田銀時。会社の経営者よ。彼はとても優秀で人望も厚く、皆からは親しみを込めて
「銀さん」と呼ばれているの。
そんな彼だから勿論恋敵も多いわ。彼は皆に優しいだけなのに勘違いしちゃうコっているのよね。
本命の彼女がここにいるって何度言っても諦めないの。人気者の彼氏を持つと大変。

では早速、昨日の夜の話をするわね。……あっ、夜といってもそういう意味じゃないわよ?
やだ私ったら恥ずかしい!
でね、昨日の夜――

零時過ぎ。彼はどこかへ電話をかけようとしていたわ。
きっと仕事関係の連絡よ。受話器を取っては時計を見て時間を確認してまた受話器を置いて
また取って……結局、行ってみるか、と言って外へ。

こんな時間まで仕事なんて偉いと思わない?社長なんだから社員を使えばいいのに、こういう
大変な仕事は全部自分でやっちゃうの。そんな働き者の彼が心配で、私も一緒に家を出たわ。
でもそれが彼にバレたら「ベッドで待っていてくれハニー」って追い返されちゃうから、
気付かれないようにそっとね。

……なんだかさっきから「妄想乙」って聞こえるけど、気のせいよね?もしくは私と彼の関係を
嫉んだ人よね。でもね、誰が何と言おうと私と彼はラブラブなの。揺るぎない事実なの!!

(8)
話を戻すわね。

深夜、家を出た彼はとある警察署の前までやって来たの。ここを調べるのが今回の仕事みたい。
彼は民間人にして役人からも一目置かれる存在だから、警察の内部事情を探るなんて朝飯前。
軽々と塀を乗り越えて敷地内へ入ったわ。
……不法侵入ですって?ふっ……甘いわね。世の中きれいごとだけじゃ渡っていけないのよ。
誰かが汚れ役を演じなきゃならないの。彼は自ら進んで嫌なことを引き受ける器の大きな人なの。

植木に身を隠し、明かりの透ける障子をじっと見詰める彼。ああ……なんて慈愛に満ちた目を
しているのかしら!きっと、家に残してきた可愛い恋人(もちろん私のことよ)を思い出して
いるんだわ。早く帰って、私とめくるめく夜を過ごしたいと考えているんだわ〜。

そうとなったら、さっさと仕事を終わらせないと。あの部屋の中を確認すればいいんでしょ?
くの一さっちゃんにお任せあれ!

建物内に侵入し、彼が見張っている部屋の天井裏へと難無く到着。ストーk……いえ、忍者である
私には簡単過ぎる仕事だわ。彼ももっと私を頼ってくれていいのに。家庭に仕事を持ち込まない
姿勢は立派だと思うけれど。
やだ私ったら家庭だなんて……近い将来そうなる予定だけど今はまだ……あ、いけないいけない。
彼の仕事を手伝ってるところだったわ。

天井板の隙間から覗けば、男が一人、文机に向かって書き物をしていた。
あの書類の内容を探ればいいのかしら?……ていうかあの男、真選組の副長じゃない?
そうそう、言い忘れていたけれど、ここは真選組の屯所よ。

作成中の書類は……四月の掃除当番表?もう明日から四月だというのに今頃慌てて作るなんて、
やっぱり田舎侍は仕事の効率が悪いわね。トップがストーカーゴリラだから当然かしら。
たいしたことしてないって彼に教えてあげましょう。

私は彼の待つ植木の影に。

「ぎーんさんっ」
「おわっ!」

人差し指を口元に当て、静かにしろと無言で訴える彼。自分のビックリした声の方が大きいのに
お茶目なんだから。
さあ、声を潜めていよいよ二人だけの夜の語らいの始まりよ〜。

(9)
「何でここにいるんだよ!」
「私、銀さんを見守る妖精的な存在だから」
「いらねーよ……」

私まで過酷な労働に付き合う必要はないって。優しいでしょ?
でも大丈夫、今夜はアナタの仕事ももう終わり。

「土方十四郎なら、どーでもいい書類を作っていたわよ」
「は、えっ、お……う?」
「依頼で調べに来たんでしょ?」
「おっ、おおおお、そうだよー。でなきゃ誰がこんな所に好き好んで来るかってんだ!」
「そこにいるのは誰だ!」
「「!?」」

私達の愛が大き過ぎたせいで、部屋の中にまでラブラブな空気が届いてしまったみたい。
障子を開けて土方がこちらへ向かってくる。こうなったらアレしかないわ!

「愛し合いましょう、銀さ〜ん!!」
「てめっ、デカイ声出すなよ!!」
「万事屋!?……と、始末屋」

いちゃつくカップルには近寄りがたい作戦失敗。彼と私が熱く抱き合っているというのに土方は
お構いなしに踏み込んできた。ああん、もうっ、銀さんったらそんなに恥ずかしがらないで!
邪魔者が来たからって離れる必要なんてないのよ〜!

「ここで何してやがる」
「あー……こんな時間まで仕事?ご苦労様でーす」
「何してるかって聞いてんだよ!」
「え、あ、いや……お、お元気ですか?」
「あ?用があるなら表から入れ」
「よっ用なんてねーよ!ちょっと通りすがっただけだ!」
「通りすがる場所じゃねーだろ!吐け!何しに来やがった!」
「何にもねーよ!自意識過剰か!そんなに用事があってほしいのか!?」
「ほっほしくねーよ!テメーなんかと関わり合いたくもねーよ!!」
「!!……お、俺だってテメーなんか、テメーなんか、大っ嫌いだァァァァァァァァ〜!!」
「おい!」
「銀さん、待ってぇ〜」

土方と逆方向に駆け出す彼。そのまま塀を飛び越えて、「よしっ」とガッツポーズ。
ターゲットに気付かれはしたけれど、私のおかげで任務が遂行できたから喜んでいるのね。
頬を染め、息を弾ませる様はまるで告白を終えたオトメのよう。

こうして三月最後の――もう日付が変わっているから四月最初ね――仕事を全て終えた彼は、
最愛の恋人と共に家路についたのでした。



おしまい
(10)
最後までお付き合いいただきありがとうございました。

(13.07.21)


2013年4月1日から7月までの拍手文でした。珍しく二人のぐだぐだ会話文がない拍手です。

 

メニューへ戻る