(6)

〜第四章〜(土方視点)

 

 

『たたっ、たんじょーびおめでとー!』

「えっ…」

 

深夜の電話はそれだけ伝えると一方的に切れた。

現在の時刻は零時数分過ぎ。…そうか、もう五月五日になったのか…。

万事屋のヤツ、わざわざ外に出て電話したのか?チャイナに聞かれるのが恥ずかしかったとか?

ていうか、そうまでして俺に電話を…

 

べっ別に大して嬉しくないぞ!こんな時間に電話なんて非常識だ。…俺は偶々仕事で起きていたが。

どうせ、一番に祝いたいとかそんなんだろ?そういうガキっぽいこと、アイツなら考えそうだ。

 

自然と頬が緩んでしまうが、これはアレだ…。万事屋がない知恵絞って考えたのかと思うと、

子どもを見守る親のような気分になって微笑ましく……ただそれだけだ!愛を感じた、とかじゃねェ!

 

それから妙に仕事が早く片付いたが、これが俺の実力ってことだな…。万事屋に祝われて嬉しくなって

やる気が出た、ということではない。絶対に!

 

だが折角仕事が終わったってのになかなか寝付けなかった。根を詰め過ぎたせいで、まだ脳が働いている

のかもしれねェな…。脳内でやたらとアイツからの「おめでとう」が反芻される。

きっと、仕事に集中してる時に電話を取ったから、アイツの言葉にも集中しちまったんだ。

俺達、一応付き合ってんだから恋人の誕生日を祝うのなんて当然だし…だから別に、さっきの電話は

何も特別なことではなく、会うのが楽しみで寝付けないとか、そんな遠足前のガキみてェなことは…

 

そもそもアイツと会うだけで寝られないほど気分が高揚するわけないだろ。

まあとにかく、今日の俺は寝付きが悪かったと、そういうことだ。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「副長ー、お客さんですよー。」

 

朝は山崎に起こされた。…客?こんな朝早くから?…と思ったがもう十時を過ぎていた。

 

「おはようございます。それと、おめでとうございます。」

「おう。…で、誰だ?」

「刀鍛冶の女の子です。何でも、旦那のお遣いで来たとか…」

「そうか。」

 

万事屋絡みで刀鍛冶の女というと一人思い当たるヤツがいる。

山崎と共に玄関へ行くと、やはりあの時の女だった。確か…鉄子、とか言ったな。

女はやや俯き加減で口を開く。

 

あの…お誕生日おめでとうございます。

「…万事屋に聞いたのか?」

はい。それで、これ、銀さんから…

 

そういって女は風呂敷包みを差し出した。

 

「…何だ?」

「刀の手入れに使うものです。村麻紗に最適なものを選びました。」

「もしかして、旦那からのプレゼントですか?敢えて直接持って来ないってのがにくい演出ですね。」

 

勝手にやりとりを見ていた山崎が横から口を挟んできた。

 

「るせェよ。…あー、確かに受け取ったと伝えてくれ。」

「はい。それじゃあ失礼します。」

 

女は帰り、俺はニヤケ顔の山崎を一発ぶん殴ってから部屋に戻った。

 

 

 

折角なので村麻紗の手入れをしよう。目釘を抜き、柄と刃を分離させる。

そうか…何で会う時に渡さねェんだと思ったが、外で刀をバラすわけにはいかねェからか…。

万事屋の以外な心遣いに少しだけ、本当に少しだけだがアイツを見直した。

 

その日も空は五月晴れで、手入れを終えた村麻紗は心なしか普段より輝いて見えた。

 

(7)

〜第五章〜(銀時視点)

 

 

「ハァ〜…」

 

リボンを巻き付けたマヨネーズと煙草を前に自然と溜息が漏れる。

土方に電話をし、少し休憩を取ってからマヨネーズと煙草を買った。家に戻ってリボンを巻いてみたが

どうにもみすぼらしい。頑張ってリボンで花を作ってみたが、それでもイマイチ…。

別の物を買おうにも、リボンと格闘していたせいでもう時間がない。

 

あーあ…恥を忍んで鉄子のトコに行っときゃよかったかなァ…。

でも、土方の誕生日如きで必死になるのもなァ……って、そんなことばっか考えてるからこうなるんだよ。

気は進まねェが行くしかねェ。プレゼントが大したことない上に遅刻なんかしたらマジで愛想尽かされ…

………ても一向に構わねェんだけどね!

 

俺はマヨと煙草を紙袋に入れ、土方との待ち合わせの居酒屋に向かった。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「ほしけりゃ、くれてやる。」

「…は?」

 

いつもよりちょっと高めの、でもギリで大衆向けの、個室がある居酒屋。

二人用の座敷に入り、適当に注文して、店員がいなくなってから土方にプレゼントを渡した。

…渡し方がどうとか言うなよ?俺からもらえるだけで充分なんだよ!

なのに土方は「何だそれ」みたいな顔をしている。くそっ…

 

「誕生日、だろ。…やる。」

「だ、だが、お前…」

「何だよ。いらねェのかよ。」

「い、いや…」

 

土方はやっと紙袋を受け取った。ったく、勿体付けやがって…

 

「…開けていいか?」

「好きにすれば?」

 

開けるっつっても紙袋の口は閉じてねェから、既に中身は見えてるんだろうけど。

土方は紙袋からマヨと煙草を取り出し、テーブルの上に置いた。

 

「これが…プレゼント?」

「悪かったな…。俺、金ねェから…」

「いや…今朝、鍛冶屋の女が来て、お前からのプレゼントだと言って村麻紗の手入れの道具を…」

「鍛冶屋って…鉄子か?」

「ああ。…お前が届けさせたんじゃねェのか?」

 

鉄子がコイツに?…何でかは後で本人から聞くとして、ここは話を合わせておくか。

 

「あー、そうだった!いや〜、大分前に予約しといたからすっかり忘れてた。そーだよ。

鉄子に頼んどいたんだった。なんだよ…じゃあそれ、買うんじゃなかったなァ…」

「お前…そんなに前から準備を?」

「ちっ違ェよ!偶々鉄子に道具を買わねェかと勧められて…でも俺ァいらねェからお前にやろうと

思っただけだ!」

「そうかよ…」

「何だ?前々から準備してくれたと思って喜んでたのか?」

「ちっ違ェよ!お前にしては上出来だと思っただけだ。」

「ヘッ…嬉しいなら素直にそう言えよ。そしたらもっと盛大に祝ってやるよ?」

「テメーこそ、祝いてェならそう言え。ほら『おめでとう』はどうした?」

「そんな心にもねェこと言えるわけねーだろ。…銀さん正直者だから。」

「抜かせ、この天邪鬼が。…このリボンは何だ?テメーが一所懸命結んだのか?」

「べーつにー…銀さん器用だから、このくらいどーってことないし〜…。

なに?キレイにラッピングされてて驚いた?」

「ハッ…このくれェで感動なんかしねーよ。」

「おいおい…俺は『感動』なんて言ってねェけど?マジで感動しちゃった?俺が『おめでとう』って

言ったらもっと感動しちゃう?言ってやろうか?」

「だっだから違ェって言ってんだろ!まあ、祝いてェなら祝えよ。」

「祝ってほしいなら祝ってやるけど〜?」

「そんなに言うなら、祝われてやってもいいぞ。」

「あっそ〜。…じゃあ、祝っちゃおっかなぁ…」

「勝手にしろよ。」

 

 

「誕生日おめでとう。」

「あ、ありがとう。」

「………」

「………」

 

 

それから俺達は、一切目を合わせることなく食事をし、宿に向かった。

初めての恋人同士の誕生日。まあ、それなりに楽しかったような気がしなくもないかな…。

 

(8)

〜最終章〜(土方視点)

 

 

万事屋からまたプレゼントをもらった。…鍛冶屋に頼んでいたのを忘れたらしい。

アイツは否定したが、きっと前々から準備をしていたのだろう。

…そんなことをされても嬉しくはないが、まあ、アイツなりに頑張ったのは認めてやる。

 

それに…おめでとうと言ってくれたしな。

 

…言って「くれた」って何だ!アイツが言いたくて言ったんじゃねーか。ただそれだけだ。

偶然にもその瞬間、生まれてきたことが本当にめでたいと思ったが、それは今までの人生を

振り返ってみてそう感じただけであって、決して万事屋に祝われたからではない。

 

だがまあ「おめでとう」と言われたからには礼を言っておいた。…大人として当然のことだ。

何となくその後は会話をする気になれなかった。…照れてなんかいねェ!万事屋が喋らなかったから、

俺も合わせてやっただけだっ!

 

そういえば、このマヨと煙草のリボンも万事屋が結んだと言っていたな…。この花みてェなの、

どーやってんだ?…よく分かんねェから、帰ったら写真を撮っておこう。

…後で結び方の謎を解き明かすための資料にするのであって、誕生日の記念とかじゃねェからな?

 

 

そんなこんなで今は万事屋と宿に来ているわけだが…アイツ、いつもよりいい部屋を選びやがった。

ここでもアイツは祝ってくれる気らしい。…そんな雰囲気を醸し出している。

…悪ィがお前らにゃ、ここから先は教えらんねェよ。「ご想像にお任せします」ってヤツだ。

色々と事情があんのは分かってんだろ?…分からなければ管理人に聞け。

 

アイツは今日、呑み代も出したのに宿代も出すつもりらしい。…大丈夫なのか?

…アイツが破産しようが俺の知ったことではないが、そのせいでガキに迷惑がかかるのは可哀想だ。

次に会う時は差し入れでも持って行ってやるか。

…あくまでもメガネとチャイナのためだからな。俺はガキに優しいんだ。

 

 

初めての恋人同士の誕生日。まあ、それなりに楽しかったような気がしなくもないかな…。

 

拍手文としてアップしたのがこの日でした→(11.05.02)


というわけで、本編はここまでです。土方さん生まれてきてくれてありがとう!銀さんと末長くお幸せに! 最後にちょっとだけ「おまけ」を付けました。鉄子の行動の真相です。 

(9)

おまけ〜五月二日・万事屋にて〜

 

鉄:あの…銀さんいますか?

新:お久しぶりです鉄子さん。銀さんなら今ちょっと出てまして…

神:多分、トッシーのプレゼント選びに行ってるアル。

鉄:プレゼント?

神:もうすぐトッシーの誕生日アル。

鉄:そういえばそんなことを…。じゃあこれ、銀さんに渡しておいてもらえる?

新:何ですか?

鉄:刀の手入れに使う道具。さっき銀さんがウチに来たんだけど、村麻紗の名前を出したら帰っちゃって…

神:そういうことアルか…

新:申し訳ないんですけど…鉄子さんからそれ、真選組の屯所に届けてもらってもいいですか?

鉄:えっ?

神:銀ちゃんツンデレ病だから、「土方の誕生日なんか祝いたくないもん」とか言うに決まってるアル。

鉄:…なんだか大変そうだね。

新:そういうわけで鉄子さん、お願いします。

鉄:分かった。皆には世話になったし、届けておくよ。…誕生日は何日?

新:五日です。ありがとうございます。

神:よろしくアル〜。

 

(10)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(11.07.08)


当サイトの拍手お礼文としてはかなり長いものになってしまいました。こうして続けて載っているならまだしも、ポチポチ拍手しながら読むのってキツイですかね?

何はともあれ、今年もこうして土方さんの誕生日を祝えて楽しかったです。ツンデレな二人は結構気に入ったので、できればこの二人で銀誕も書きたいと思ったり

思わなかったり^^;    ここまでお読みくださりありがとうございました。

 

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