※タイトルの通り、本誌12号・第五百二十九訓ネタです。大丈夫な方はスクロールしてお進みください。







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妄想的観測による第五百二十九訓その後


「俺の制服に落書きした奴切腹!!」

肩に羽織る「死ね」の文字に懐かしさすら感じる。久方ぶりの制服の重みに土方は、込み上げるものを煙草のフィルターを噛み締めて堪えた。
立場も進路もあやふやな状況で、護るためには何かを捨てるしかないと思っていた。捨てても護りきれないと感じながらも捨てるしかないと思っていた。だが今、己のすべきことが漸く判った。

護りたいもの全てを護る。

答えは単純明快。今までしてきたことと何ら変わりはないのだ。この程度の解答に辿り着くまで、思わぬ助けまで借りて、随分と遠回りをしてしまった。我ながら情けない。
副長の復活に僅かばかり表情を和ませて、沖田は銀時に向かい別の制服を投げ付けた。

「旦那もさっさと着替えて下せェ」
「え、俺は……」

これから共に進むつもりではあるけれど、この制服は選ばれた者だけが着られるもの。自分などがおいそれと袖を通して良いものではない――遠慮する銀時に、沖田は早く着ろと迫る。

「あのなァ……」
「新郎新婦ご入場よろしく二人揃って来たくせに、今更がたがた言うんじゃねェや」
「誰が新郎新婦だ!!」

ツッコんだのは、すっかり調子を取り戻した土方。沖田の襟を掴み上げる。

「誰が新郎で誰が新婦だ?あん?立ち位置からして俺が新郎だよな?そうだろ?」
「土方くん違う違う」

やはりまだ調子がおかしいようだ。
沖田から土方を引き剥がし、銀時がツッコミを入れた。

「俺が新郎に決まってるじゃねーか」
「ふざけんな!テメーの方がなんか白くて新婦っぽいだろーが!」
「銀さんは銀色であって白じゃありませんー」
「似たようなもんじゃねーか」
「どこが。それよりも最近の悩み苦しむ土方くんを優しく包み込んでいた銀さんこそ夫に相応しい」
「優しいの意味分かってんのか?昨日も気分じゃねぇって言ってんのにテメーはしつこく……」
「あれは余計なこと考えずにぐっすり寝られるようにっつー優しさです」
「ぐっすりっつーか、ぐったりだったけどな」
「お前だってアレ、二回目からはノリノリだったじゃねーか」

どんどん話が逸れていくけれど、沖田達はぐっと我慢している。この馬鹿馬鹿しい儀式を経て、二人の関係もこれまで通りに戻っていくはずだから。

恋人同士の戯れ合いが一通り終わり、このところの逢瀬の様子なども赤裸々に暴露したところで二人はやっと我に返った。

「とっとりあえず借りとくな」
「お、おう」

覚悟を決めて集まった彼らに対し、申し訳なくて前が見られない。同じく俯き加減で新たな煙草に火を点けた土方を横目で伺って、銀時は黒衣を引っ掛けた。

「あれ?」

そこで初めて寸法が合っていないことに気付く。丈も袖も肩幅も、銀時の体躯より一回り大きいそれはおそらく……

「これ、近藤の……?」
「ええ」

他の制服は全て着る者がいるからと尤もらしい理由を付けて、さりげなく貴重品を預けてきた。だがこれを護るなら己より適任がいるではないか。
局長服を右手に持ち、ひらひらと振ってみせた。

「サイズ合わないんで交換してもらえます?」
「チッ、仕方ねぇな……」

ほらよと隣の男が寄越してきたのは男がまさに羽織っていた制服で、銀時の左肩にそれを掛け、右手の黒を奪って己の双肩へ。

「先ずは三番隊と監察で――」
「おいぃぃぃぃ!」

そのまま作戦指示に入る局長代理を慌てて制止。

「何しれっと自分のくれてんの!?」
「テメーがサイズだ何だとうるせェからだろーが!」
「こんな縁起でもねぇこと書かれた服着られるか!」

これは土方が着るから意味のある服。肩から下ろした制服を土方へ投げ付け返してやる。

「何すんだテメー!」
「その彼シャツ的着こなしはやめてそっちにしとけ」
「あ?服に嫉妬か?」
「それは着る奴が決まってるだろってこと」
「そしたらテメーの着るもんがねぇじゃねーか」
「だから俺は別にこのままでも……」
「いい加減にしろよバカップル」

状況が状況だけに大概のことは許そうと広い心で構えていた沖田が、雨の中、元隊士達をここまで率いてきた沖田が、規制線を解いてくれたと思ったら銀時とごちゃごちゃ話しているのも只管じっと待っていた沖田が、遂にキレた。腰の刀を抜き、胸倉を掴み合う恋人達の間へ差し向ける。

「『お色直し』するんですか?しないんですか?」
「「……します」」

テメーのせいで恥をかいた――いやテメーのせいだ……目だけで諍い続けながらも、着替えのため建物へ入ろうと同志の横を通り過ぎていく二人。溜め息を零しつつ沖田は刀を鞘へ。
こんな時でもいつものように仲良くケンカしてくれて何より。「副長」帰還に銀時の存在が欠かせないことは理解していた。

そういえば……沖田は銀時の背中に呼び掛ける。

「旦那の着物、どこかで見たことあると思ったら土方さんのじゃねェですか。だから着替えたくなかったんですか」
「これはそのー……一応お尋ね者なんで変装をね」
「変装ねェ……まあ、その格好がいいってんなら無理に着替えろとは言いませんが」
「あ、そう?なら面倒だからこのままでいこうかな……」
「どうせ真選組(うち)の服着るとしても、土方さんのになるんでしょうねィ」
「別に土方くんのじゃなくても構わないんだけどね……殆どサイズ一緒だしね……うん、とりあえず早く作戦会議しようか」

程なくして、正装姿で現れた土方により、緩んでいた緊張感が一気に引き締まる。
いざ、全てを護る戦いへ。

(15.02.18)


将軍暗殺編が始まってからの本誌の重い展開は、なかなか妄想を挟む余地がなかったのですが、ここ数週は二人の絆をこれでもかと見せ付けられて
遂に我慢ができなくなりました。銀さんが「土方さんに」自分の過去を話したんですよ!今でも夢に見るって!
もうこれは、自分の全てを引き受けてくれ的な、俺はお前の全てを引き受けるから的な、そんな意味が籠ってますよね!!
……というか私のジャンプにはそう書いてあった気がします!
そんな思いが少しでもこの作品で表現できていたらいいな……。ここまでお読み下さりありがとうございました。



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