※「俺が純情なリーダーでアイツが純情なリーダーで」の続きです。






ひょんなことから魂が入れ替わってしまった銀時と土方。最初のうちこそ怪しまれつつも成りきっていられたが、付き合いの長い仲間達をそうそう騙せるはずもなく、

「銀さん、何かありました?」
「なっ何かって?」
「ていうかお前、本当に銀ちゃんアルか?」
「そそそのー……」
「わうっ!」
「……すまん」

観念した土方(見た目は銀時)。とりあえずついて来てほしいとだけ伝え、新八・神楽・定春を連れて真選組の屯所へ向かうのだった。


俺が純情なマヨラーでアイツが純情な甘党で


「何でコイツらまで……?」

土方から来訪の連絡を受けていた銀時(見た目は土方)は、万事屋一堂勢揃いの状況に面食らう。今日も仕事を手伝うために来てくれたのだとばかり……

「もう限界だ」
「あ……」

その一言で全てを悟った。己も薄々感じてはいたから。

「上がって。……近藤と沖田くん呼んでくる」
「ああ頼む」

懐から手拭いを取り出して定春の足を拭く「銀時」。
まさかそんなでもこれは――二人の会話を聞きある仮説に辿り着いた新八は、恐る恐る聞いてみた。

「もしかしてアナタ……土方さん?」
「……ああ」
「――っ!」

予想通りの答えが返ってきたにも関わらず、心臓が止まるほどに驚く新八。神楽もあんぐりと口を開けて固まっている。
唯一、定春だけは「やっと気付いたか」とでも言わんばかりの表情だった。

「詳しい話は入ってからだ」
「あ、はい」

目の前の背中は銀時のそれであるが最早土方にしか見えない。俄かには信じがたいこと。けれどそれが真実であると物語っていた。



「えっと……こっちの土方さんに見える方が銀さんで、こっちが土方さん、なんですよね?」
「ああ」
「うん」

副長室に万事屋一行、近藤に沖田、そして偶々報告書を持って来た山崎も加わって、問題の二人を取り囲む。改めて新八が確認すれば、土方(外見は銀時)と銀時(外見は土方)双方から肯定の返事。驚愕の事実ではあるものの、ここ数日の違和感を思い起こせば納得もできた。

銀時の顔をした土方が互いの身の上に起きたことを説明していく。
といっても、交通事故後に目覚めたら入れ替わっていたのだ。解決策は未だに不明。大した話にはならなかった。
そして聞かされた側も大した反応はできない。

「とにかく調べるしかないな」
「そうですね」

近藤の発案に新八初め全員が同意。

「真選組と万事屋が協力するんだ。すぐ元通りになるさ!」

快活で楽観的な近藤の態度は、先が見えず重くなりがちな空気を明るくしてくれた。
そんな頼もしい大将を、最初から相談しておけば良かったと見詰める土方。まるでもう事件は解決したかのような安堵の表情を浮かべる土方に、銀時は己の不甲斐なさを痛感していた。
聞けば土方は「万事屋銀ちゃん」として立派に働き、銀時が滞納していた家賃や光熱費等を完済する勢いだとか。それに比べて自分は厳しい規律に付いていくのがやっと。しかも都合の悪い時は仮病でごまかす始末。

一方で土方は、己の居場所を再確認するとともに、銀時の居場所を奪ってしまった申し訳なさを感じていた。

「では元に戻るまで、二人まとめて万事屋に寝泊まりしてて下せェ」
「「ええっ!!」」

だがそんな二人の落ち込みも、沖田の一言で一気に隅へと追いやられる。
何故そうなるのだという土方の尤もなツッコミは「邪魔だから」で一蹴。加えて近藤から休暇を申し渡されてしまった。

「この際ゆっくり休むといい。おっとトシはこっちだったな、すまん」

身なりに釣られてうっかり銀時へ呼び掛けてしまい、近藤は即座に、銀時の格好をした土方へ詫びる。

「今のところ大きな捕物もトシが出る会合もないし、何とかなるさ」
「だが事件はいつ起こるか……」
「何かあれば連絡入れますって。かぶき町からならすぐ駆け付けられますよね」

山崎も「万事屋で過ごす案」に乗っかってしまい、土方はいよいよ追い詰められた。
二人揃っていないと副長業務を熟せない現状。だが取調や現場検証にまで銀時の姿で同行するのは厳しい。となれば、非番扱いにしてもらい銀時(外見は土方)と万事屋運営をする方が有益であろう。

それは充分に理解できる。

しかしそうなると、入れ替わる前はデートとして訪れていた場所で恋人と生活することになるのだ。そんな、想像しただけで心拍数が上昇する暮らしに耐える自信がない。依頼人の前で失態を演じ、万事屋銀ちゃんの看板に泥を塗るような事態に陥ったら……けれど強く拒絶しては銀時と共に過ごすのを嫌がっているように取られかねない。

結局、四人と一匹で万事屋へ戻るしか術はないのであった。



「沖田さんから聞いたんですけどね」

道中、これからの生活を思い描き、既に憔悴している様子の二人に苦笑しつつ新八は尋ねた。

「下の名前で呼び合ってるって」
「なっ!?」
「なななななに言ってんだ新八テメー」

二人同時に赤くなり、しどろもどろに言葉を発する土方姿の銀時。本当に中身は銀時なのだと短い台詞からでも実感できる。

「自分のことだからそんな呼び方になったんですか?」
「そんなわけないアル。ずっと前から呼んでたはずネ」

折角だからこの機会を利用して二人の関係を進めたいというのが新八と神楽の――更に言えばここにはいない山崎や沖田の――共通の願い。放っておけば何年先になるかも分からない体の関係。それが、かなり変則的な形ではあるが、達成されている。これに慣れてくれれば儲け物。

「あああのな神楽……」
「ふかーく愛し合う二人なら当然でしょ?」
「それもそうだね。すいません銀さん土方さん」
「あ……」
「いや……」

訂正できぬ間に確定してしまった。たった一度呼べただけであったのに。

「僕らの前では遠慮して名字で呼んでたんですか?」
「気にしなくていいネ。ちょっと呼んでみるアル」
「「はあ!?」」

逃げ場を与えてもらえそうにない。ちらりと視線を交わし、二人は押し黙った。

「どうしたんですか?」
「いつも通りに呼んでみるネ」
「こっ公衆の面前でできるかっ」

照れ隠しの土方の怒声に銀時もそうだそうだと同意。やはりまだまだなのかと遥かな道程に息を漏らす新八と神楽であった。


*  *  *  *  *


「わんっ!」
「依頼人か!?」

万事屋へ戻ると玄関前に女性が二人。いち早く気付いた定春がそれを知らせれば、今は銀時役の土方が階段を駆け上がった。

「あら良かった」
「申し訳ありません!」

そこにいたのは車椅子に座る日輪と月詠。
頭を下げつつ開錠して土方は二人を万事屋へ通す。残りのメンバーも間もなく追い付いて、ぞろぞろと中へ入っていった。


「銀さんにお願いがあるのよ」
「はい。何なりと仰って下さい」
「……悪いものでも食べたのか?」

よそよそしい話ぶりに月詠が眉を潜めれば、

「恋人の前だから張り切ってるんですよ」

空かさず新八がフォローを入れる。そこで依頼人達の視線は土方(に見える人物)へ集中してしまう。

「これからデートだった?」
「そうネ」
「ちょっ……」
「でででたらめ言ってんじゃねーよ!」

言葉を失う土方と神楽に詰め寄る銀時。事情を知らない二人にはやはり不自然な光景に映った。
ごほんとわざとらしくも咳払いをして、土方(見た目は銀時)は表情を引き締める。

「彼のことは気にしないで下さい」
「そう。休みの日にちょっと来てみただけだから」
「制服姿じゃが……」
「あっ朝で仕事が終わって休みになったんだよ!」
「……そうか」

土方とはこのような話し方をする男だったかと疑問に思う月詠であったが、かといってそれを主張できるほど土方をよく知るわけでもない。しかも今は自分達が万事屋に依頼をしたくて来ているのだ。「銀時」の言うように、気にせず話を進めるのが得策であろう。目と眉の距離を近付けて、珍しくやる気になっているようであるし。

「晴太が、家を出たんじゃ」
「詳しい話を聞かせていただけますか」
「私から話すわ」

膝の上で祈るように両手を組み、伏し目がちに日輪は口を開いた。

「晴太に最近、彼女ができたのよ。同じ寺子屋に通うお嬢さんでね。私も月詠も温かく見守っていたのだけれど、あちらの親御さんに交際を反対されたらしくて……自由になったとは言っても、吉原に対する世間の目は厳しいじゃない?」
「確かに偏見はありますね」
「ある程度は仕方のないことだと思っているわ。でも晴太が頑張って勉強して立派に成長すれば、あちらも認めてくれるだろうって言ったのよ。だけど、それまで待てなかったみたいで……今朝早く、彼女と一緒に何処かへ行ってしまったの」
「駆け落ちアルか」
「ええ」

生活力はある子だから最悪の事態は避けられるはず。だがこれでは益々彼女の家族との溝が深まってしまう。幼い恋を応援するためにも、大事になる前に保護者の元へ返したいというのが依頼であった。
土方が僅かに視線を送れば銀時は黙って頷く――この依頼は受けるべき。

「分かりました。探してみましょう」
「ありがとう。素敵な恋人のいる銀さんの言うことなら、晴太も聞いてくれると思うわ」
「こっここ……」
「ふふふっ」

同じタイミングで頬を染めた「土方」の方へも顔を向け、表情を緩めた日輪。息子のことで心配は尽きないけれど、救世主が手を貸してくれるから大丈夫。

「何年も付き合ってるって聞いたけど、着替える間も惜しんで会うなんて未だにあつあつなのね」
「そうアル」
「ちょっ……」
「またお前は勝手なことを!」
「晴太を捕まえたら、銀ちゃんとトッシーが恋人の見本を見せてあげるネ」
「「はいぃぃぃ!?」」
「それはいいね」
「やり方は任せる」
「よろしくお願いします」

いつの間にか依頼内容が「晴太と彼女を探すこと」から「晴太と彼女に交際の手本を示すこと」にすり返られてしまった。寺子屋に通う程の若さで駆け落ちを選択した、未熟な恋人達を導いてやる必要はあるだろう。その役割を担うのは現在相手がいる者、というのも一理ある。そしてこの場でその条件を満たすのは銀時と土方だけというのも理解できる。
けれど、自分達だって恋愛の何たるかを語れるほどの上級者ではない。一般論としてならともかく、「実際はどうなのだ」と質問されでもしたら答えに窮するのは必至。

見付け次第、家に帰す――銀時と土方の思いは一つになった。

(14.12.21)


お久しぶりの純情シリーズです。前話から一年近く更新期間が空いていますが、まだ入れ替わりの二人が書きたくて小説の中では数日しか経ってないことにしました。続きは少々お待ち下さい。

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