※「純情な二人のラブコール」の続きです。
※原作の第四百七十訓ネタです。























交通事故を切っ掛けに魂が入れ替わった二人。病院での検査は異常なし。定食屋で「自分自身」と
対面して漸く事態を把握した。


俺が純情なリーダーでアイツが純情なリーダーで


「あっあのさ……」
「そ、そうだな……」

人目を避けるようにとあるビルの屋上までやって来た「銀時」と「土方」。かろうじて声を
発してみたものの相手のそれを聞く余裕はなかった。

自分は今、相手の体と共にいる。

愛しくて愛しくてただそこに存在してくれるだけで幸せを感じる人。と同時に肉体的な交わりは
遥か先の関係。抱き締め合うことはあっても未だ、素肌同士で触れられるのは手と唇のみ。
それ以外は触れるどころか見るのも躊躇われる――その体が常識では到底考えられない形で己の
ものとなったのだ。
驚愕と羞恥で飛びそうになる意識を気合いでつなぎ止め、銀時の姿をした土方が話を始める。

「ゆゆゆ夢を見たっ……」
「えっ?」
「俺の体が下に見えて後ろからもふもふとぶつかって坂田の方に飛ばされて……」

事故に遭ってから目覚めるまでの「夢」を早口で捲し立てた土方。勝手に高鳴る心臓で
過呼吸気味になりつつも、銀時の耳は何とかその言葉を拾っていた。

「そ、それって夢なんだよな?」
「……だと思う」

だが、と付け加えられた接続詞は単なる夢では済まされない証。銀時もそれは身に染みて
理解していた。
信じられないことだが自分達は魂が入れ替わってしまったのだ。元に戻るには同じ状況に、
というのが定石。けれど大切な人の身体を傷付けるわけにはいかないから……

「し、暫くこのまま……?」
「そう、だね」

相手として生活しつつ戻る方法を探すほかないと決意した。その時、

「見〜〜つけた」
「あれっ、土方さん?」

銀時を追っていた神楽と新八が到着。競馬で使い込んだ給料と家賃分の制裁を加えようとしていた
二人であったが、土方の姿を見留めてその気は失せた。土方に助けを求めに行ったのか偶然会った
のかは分からないが、この場所に来たのは二人きりになるためと見て間違いない。
積極的な逢い引は推奨すべきこと。どんどん会って関係を深めてくれればいいと温かく見守っていると、

「旦那と一緒だったんですか」

バズーカを担いだ沖田も現れる。その様子に、一人でいたら確実に撃たれていたと密かに胸を
撫で下ろす土方であった。

「仕事サボってデートですかィ?」
「休憩中だ。もう戻る」
「え?」
「あ……」

いつもの調子で沖田に応えてしまった土方(見た目は銀時)。急いで銀時(見た目は土方)が
フォローに入る。

「と、話していたところだったんだよ。なっ、坂田?」
「おおああ。そのとーり」
「何だか二人……」

じっと神楽に見詰められ、入れ替わりがバレたかと冷や汗をかく二人。

「この前よりラブラブアルな」
「「へっ?」」

しかし幸いにもそれは取り越し苦労であった。

「かばい合っちゃって……」
「そうだね。相手のことを理解してるって感じがするね」

相手って自分のことですけど――二人は心の中で新八にツッコミを入れた。

「でも土方さんはお仕事中なんだから、迷惑かけちゃダメですよ」
「そろそろ行くネ」
「あ、はい」

坂田銀時として連れられていく土方の背中に向かって銀時が慌てて言う。

「あっあのソイツ、さっき事故に遭ってるから労わってやって」
「事故!?大丈夫なんですか!?」
「ああ。ちょっとトラックに当たっただけだから」
「トラック!?全然大丈夫じゃないじゃないですか!」
「そうネ!慰謝料がっぽりのチャンスアル!」
「神楽ちゃん、そういうことじゃなくて……」

本当に大丈夫なんですかと心配そうな新八に平気だと胸を叩き、銀時姿の土方は沖田へ向かう。

「総……じゃねェ、沖田くん」
「何ですかィ?」
「その、ソイツも同じ事故に遭っているから、無茶させんなよ」
「二人仲良くデート中に事故ですか……」
「デッ……とにかく!巡回中にバズーカ撃ち込んだり、職質中にバズーカ撃ち込んだり、帰りしなに
バズーカ撃ち込んだりするんじゃねーぞ!」
「はいはい、アンタの大事な人は手厚く葬ってやりますって」
「葬るな!」

顔を真っ赤にして沖田に食ってかかる「銀時」は恋人を護らんとするナイトにも見えて、土方への
思いをこんなにも堂々と態度で示せるまでに成長したのかと、新八も神楽も目頭が熱くなる。
どうやら沖田も同じ思いのようで、

「旦那に免じて今日の暗殺は諦めましょう」

素直に申し出を聞き入れた。その一方で「銀時」の中の土方は、自分の言うことなど一つも
聞かない沖田が大人しくなるのを目の当たりにして、銀時の偉大さを再確認していた。
そしてそんな男が恋人でいてくれることに感謝する。
今は己が坂田銀時なのだ。その名を汚さぬよう精一杯努めなくてはと決意も新たに土方は、
新八達と万事屋へ向かった。

土方の中の銀時はと言えば、沖田の襲撃という厄介事を取り除いてくれた土方へ大いに感謝すると
ともに、家賃と給料の未払い問題を残したままの己を恥じていた。そしてせめて土方十四郎である
うちは真面目に生きようと心に誓うのだった。


*  *  *  *  *


霜月の名に相応しく冷たい風が枯れ葉を散らせる季節。己の脇ではためく袖を一瞥し、銀時の中の
土方は右の拳を握った。

「銀ちゃん」

隣を歩く神楽に呼ばれ、土方は咄嗟に息を飲む。想起するだけで胸が高鳴るその名前。耳にすれば
自ずと顔が熱くなる。だが今は己がそれを背負っているのだ。平然としていなくてはと取り繕う。

「な、何だ?」
「寒くないアルか?」

それ、と着流しの右袖を指され土方は、表情に出さぬよう堪えたものの、焦っていた。もう何年も
この出で立ちを貫いているはずなのに今更こんなことを聞かれるとは……おそらくは普段と様子が
異なることを見抜かれたのだ。先程やや強めの風が吹いた時、着物の袖を通そうかと僅かに脳裏を
過ぎったのが失敗だったかもしれない。
俺は坂田だ俺は坂田だ俺は坂田だ……心の中で自身に言い聞かせて神楽に答える。

「寒くねェよ」
「本当に?」
「ああ。ところで、今日の仕事は何時からだったかな?」

深く追及される前に話題を変えた土方。当たり障りのない内容を選んだつもりであったのだけれど、

「どうしたネ?」
「事故で頭でも打ったんですか?」
「は?」
「銀ちゃんが仕事の話するなんて……」
「ここ最近、何の依頼もないじゃないですか」

余計に怪しまれてしまった。これはマズイと軌道修正を図る。

「じ、事故のせいか記憶が曖昧でな……仕事があった気がしたんだ」
「逃げるからそうなるネ」
「自業自得ですよ」
「すまん」

よく分からないが逃げていたらしい。きっとやむにやまれぬ事情があったに違いない。
暫くないという仕事を探していたのかもしれないと、どこまでも恋人を信じる土方は、銀時に
成り代わり仕事に勤しもうと気持ちを固めた。


とはいえ決まった仕事などない万事屋。誰かの依頼を得る必要がある。先ずは困っている人を
探そうかと視線を遠くに送りつつ歩いていく。市中巡回のようなものだと鬼副長モードに近付いて
きていた。その後ろ姿を横目に新八が神楽に耳打ちをする。

「銀さん、何か変じゃない?」
「銀ちゃんはいつも変ヨ」
「でも今、仕事探してるんだよ?顔付きもかなり真剣だし……」
「多分トッシーが何かしたアル」
「何かって?」
「う〜ん、頑張って働けって言うとか……」
「そうか!土方さんみたいにちゃんと働く気になったのか」
「じゃないと釣り合わないとか思ったに決まってるネ」
「なるほどー……あ、あれっ?」

新八が納得して向き直るとそこに銀時の姿はなかった。いつの間にか十メートル程先にいる。
そして銀時のそばには一人の若い女性と二人の男性……と思しき天人。首から下は背広姿だが
その上が薄桃色で爬虫類のように見える。

「どうしたんですか、銀さん?」
「絡まれていた人を助けただけだ」
「絡んでねーよ。ちょっと声をかけたらこの女が騒ぎやがって」

駆け寄ってきた新八に事情を説明すれば、天人の一人が即座に反論する。それには女性が反論。

「トカゲは嫌いだからって断わったのにしつこいんです」
「俺らをトカゲなんぞと一緒にするな!ウーパールーパーだ!」
「きゃっ」

女性が土方の陰にささっと身を隠せば、天人の怒りの矛先は当然そちらへ向かう。

「そこをどけ、もじゃもじゃ侍!」
「彼女は嫌だと言っている」
「何だと〜?貴様、我々が誰だか分かっているのか!?」
「阿保魯戸瑠(アホロートル)星の大使館職員、だろ?」
「そ、そうだ」
「阿保魯戸瑠星の大使といえば確か、愛妻家で潔癖症で有名だったな……」

その大使に仕える身で女性をナンパするのかと暗に匂わせてやれば、天人達は返事に窮した。

「わっ我々はその、大使の奥様のため、この星で女性が好む場所をリサーチしようとだな……」
「そ、そういうことだ。決して我々がその女とどうこうという目的で声をかけたのではない」

しどろもどろに言い訳を繰り広げる天人へ、土方は銀時行き付けの甘味処を何軒か教えてやる。
天人達は形ばかりの礼を言い、その場から去っていった。
残された女性は胸の前で手を組み、土方を上目遣いに見詰めて謝意を表す。

「ありがとうございました」
「気にするな。当然のことをしたまでだ」
「あの、よろしければお名前を……」
「名乗る――」

程の者じゃない、そう言おうとした土方であったがふと思い留まり自分の――つまりは銀時の――
懐を探り、名刺を一枚女性へ差し出した。

「失礼。私、こういう者です」
「万事屋……」
「はい。この町の平和を護るため、困っている方々の手助けをしています」

土方にとって銀時の仕事はこのように見えるようだ。新八と神楽は先の天人を追い払った件から
ずっと、あっけにとられて口もきけずにいた。
女性はパチンと手を叩き、尊敬の念を込めた笑顔を見せる。

「まあステキ!では助けていただいたお礼に、今からお食事でもいかがですか?」
「いえ。今回のことは私が勝手にやったことですのでお気遣いなく」
「そんな……」
「ですが、また何かお困りの際には何なりとどうぞ」

これは依頼を増やす作戦。道行く人を助けて回るのは銀時ならば当たり前と土方は考えており、
その上でさり気なく自己紹介をすれば万事屋の宣伝になると思い付いたのだ。
けれど別の思惑のある彼女はこれで終わりにしたくはない。

「今、困ってます!」
「はい?」
「これからご飯を食べに行こうとしてたのですが、さっきのようにまた絡まれたらと思うと
一人じゃ心細くて……だから、私と一緒に食事して下さい!もちろんお代は払います!」
「分かりました」
「銀ちゃん!」

流石にこれはいただけないと窘めたつもりの神楽であったが、

「行くぞ」
「え?」
「え?」

万事屋三人で彼女に付いて行くのだと言われて、女性と共にぽかんと口を開ける結果となった。
そこで新八も話に加わる。

「あの、僕らも行っていいんですか?」
「今のところ他の依頼はないだろ?」
「そうですけど……」
「ん?」

新八に釣られて女性を見やれば、何とも不服そうな表情をしていた。それに対する土方の反応は
「コイツらの食事代はこちらで持ちます」と的外れなもの。どうやら本心から彼女をただの依頼人
として見ているらしい。
銀時に好意を寄せている彼女を気の毒だと思いながらも、最愛の人以外に目を向ける余裕など
ないのだから仕方ないかと食事処へ歩を進める新八と神楽であった。

(13.12.19)


入れ替わりネタを純情な二人でも^^ 後編は土方さんになった銀さんのターンですが……先にクリスマス話を書くのでアップまで暫くお待ち下さい。
後編、年内には上げたいな……

追記:遅くなりましたが続きはこちら