終編
それから一週間。盛りの過ぎた桜は小さな若葉を覗かせていて、新緑の季節の到来を伝えている。
そんな爽やかな季節にもかかわらず俺は部屋に篭っていた。食欲もあるし睡眠もとれているのに
外へ出たがらない俺を最初はダラけていると目をつり上げていた新八と神楽。それもここまで
続くと心配し始めてしまった。ここらが限界か……
「聞いてほしいことがあるんだけど」
昼メシの後で二人に言えば、ちょっと嬉しそうな顔をして、聞く体勢をとってくれた。
「実は……ずっと前から好きだった土方くんと遂に一発キメられたんだけど、告白するの
忘れちゃったんだよねー」
ハハハッ――深刻になりすぎないよう敢えて軽く言ったのに、二人はお気に召さなかったらしい。
「笑い事じゃないアル!」
「ツッコミ所ばかりじゃないですか!」
「え、何が?」
「何もかもです!」
「早く自首した方がいいヨ」
「おいおい待てよ……俺ァただ、酔って寝てた土方くんをホテルに連れてっただけで……」
「速やかに自首してください!」
新八までも俺を犯罪者にしやがって……二人は勝手に、どうすれば死刑を免れるかなんて相談を
始めちまった。
「好き過ぎて魔がさしたってことにするネ」
「情に訴える作戦だね。でも鬼の副長に通じるかな……」
「ストーカーゴリラのことを黙ってるかわりに、銀ちゃんの罪を許してもらうのは?」
「そっちの方がまだ……」
「お前らいい加減にしろよ。土方くんにはちゃんと……いや、一応……それとなく……辛うじて
……とにかく、合意の上だから大丈夫!」
全く大丈夫じゃないじゃないかという冷たい視線にもめげず、俺は悩みの核心部分へ。
「それでな、もしこれから告白したとして、土方くんが身体目当てだったらどうしようかと……」
「むしろ銀さんがそうだと思われてるんじゃないですか?」
「俺は違う!真剣に土方くんを愛してる!」
俺の本気が漸く伝わったのか、新八と神楽の態度が協力的になる。
「じゃあそれを伝えたらいいじゃないですか」
「ちゃんと言えば分かってくれるヨ」
「分かってくれた上でフラれたら……」
「そしたら残念会ですね」
「パーッと飲んで忘れるネ」
「あの気持ち良さは忘れられねーよ。今も思い出すと股間がうずうず……ん?どうした?」
「「身体目当てじゃねーかァァァァァァァ!」」
二人に殴り飛ばされ蹴り飛ばされ、俺は家を追い出された。
「土方さんに謝るまでウチには入れませんよ」
「捕まっても面会には行かないからな」
「痛っ!」
ブーツを投げ付けられて完全に閉め出される。何だよチキショー……ここは俺の家だぞ!
と言っても無駄なので土方くんの所へ行くことにした。どうするかは歩きながら考えるか……
「あ……」
家の階段を下りた瞬間、土方くん発見。どうするか何も考えてねーよ!でももしかして土方くんは
俺に会いたくて来たとか?それなら会ってあげないと可哀想だよな〜……って、部下らしきヤツと
一緒だから違うか。謝るにしても告白するにしても土方くん一人の時じゃないと……あれ?
土方くんが一人でこっちに向かって来たんですけど!
「よう」
「ど、どうも」
「ここ、テメーの店か?」
万事屋銀ちゃんの看板を仰ぎ見ながら土方くんは言う。
「今、いいか?テメーに言いたいことがある」
「あっ、じゃあウチ……は今ダメだった。えーとえーっと……」
で、結局この前の宿に来てしまいました。
「万事屋、あのな……」
しかもあの日と同じ部屋。あの日は使わなかったソファーに身を寄せて座る。
ヤバイ……もうチンコ勃ってきた。一先ずヤってから話聞く感じでもいいかな?
「土方くん、ヤらせてください」
「はあ?テメー人の話を……」
「後で聞くから。もう股間がのっぴきならない状態なんで」
「お前……」
土方くんに跨がり手を取って俺の状況を理解させれば、驚いたように動きを止めた。
けれどキスしようとした瞬間、土方くんの手が俺の口に……
「俺はテメーに惚れてる」
「え……」
「それでもいいなら、好きにしろ」
キスを止めていた土方くんが力を抜いたから、俺は慣性の法則に従って土方くんに倒れ込む。
「今の、本気?」
「ああ」
「えっと……」
願ってもないシチュエーションのはずなのに、心臓がバクバクいって腕が震えて言葉が出ない。
「あん時はお互い酔ってたからな……責任取れなんて言わねーから安心しろ」
「っ……」
「万事屋?」
力いっぱい土方くんに抱き着いて、言葉の替わりに態度で示した。
土方くんの腕が俺の背中と頭に回り、赤ん坊をあやすようにぽんぽんとたたかれる。
「好き……ずっと前から土方くんが好きだった」
「ありがとな」
今度は言葉が溢れて止まらない。
「好き。好き。好き……」
「ああ」
「ずっと、ずっと……」
「万事屋……」
土方くんから初めて受けたキスはとてもとても優しくて、何故だか涙が零れ落ちた。
「ごめん……十年越しの恋が実ったからつい……」
「お前、武州にいたのか?」
「ううん。土方くんを初めて見たのは十年前の……戦場」
「戦、場?」
「その時は名前なんて分からなかったから適当に『多串さん』って呼んでたけどね」
言っても分からないだろうと思いつつ話す。だけど、
「お前……白夜叉か?」
「えっ!」
思わぬ形で反応が返ってきた。しまったァァァァァ!土方くん真選組だよ!攘夷志士捕まえるのが
仕事だよ!そんな人に戦争行ってたって言ったら……
「ああああのな……」
「夢、だと思っていた。だがいつ見た夢かは分からねぇ」
「へ?」
何やら語り始めた土方くん。テロリスト容疑がかかっているわけではなさそう?
「俺は当時着たことのない洋装で戦場にいて、持ったことのない真剣で天人と戦っていた。
だが攘夷が目的ではなく、仲間の一人を救うために戦っていたらしい」
「……て、夢なんだよね?」
「武州を出たのは戦争が終わってからだからな。だがその夢の格好が、これにそっくりだった」
ぴらっと上着をはためかせて土方くんは、それとな、と続ける。
「救いたいヤツのことを『俺』は白夜叉と呼んでいて、ソイツの格好が今のお前にそっくりだった」
「…………」
「夢の話だ。今のお前がテロリストでないことは分かってる」
「う、ん……」
もしかして土方くんは本当に多串さんなんじゃないだろうか……それにしては若いけど、例えば
十年前からタイムスリップしてきたとか。それで記憶が曖昧になってるとか。
だとしたら土方くんが好きなのは俺じゃなくて……
「うっ!」
「万事屋?」
急に頭痛がして色んな情報が頭の中に流れてくる。
白詛、時間泥棒、魘魅、珍宝、アレ勃ちぬ、ナノマシンウイルス、毒キノコ、コンビニ店長、
俺を殺れんのは俺しかいねえ――止まっていた涙がまた溢れ出す。
「おい、大丈夫か?」
「俺も……その夢、見たことあるかも」
同じ「夢」を見ていたなんて、やっぱり俺達は運命の相手だったんだ。
嬉しくて笑っているつもりなのに、笑いたいのに涙がぼろぼろ落ちていく。
土方くんがぎゅっと抱きしめてくれた。
「幸せに、してやるからな」
「土方くんは俺が幸せにしてあげる」
「俺は、お前といられればそれでいい」
「俺も土方くんと一緒にいれば幸せになれそう」
「ああ。絶対にお前の傍を離れねェよ」
「俺もずっと、離れないから」
それから土方くんに呼び出しの電話がかかってくるまで、俺達は只管に抱き合っていた。
あの記憶が何なのか、正直なところ今でも不明のまま。人生は一度きりでやり直せはしない。
だけど土方くんとは何故か「今度こそ」幸せにならなきゃいけない気がしている。
まあとりあえず、俺が土方くんと一緒にいれば安泰なんだろ?心の中の多串さんに問えば、
まだ少し不安そうな表情。信用ねぇな……
俺、坂田銀時は、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、
貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、真心を尽くすことを誓います!
(13.08.24)
最後の誓いの言葉、結婚式でよくやるあれですが、「命ある限り」的な言葉が入るんですよね。これは劇場版未来の銀さんの結末を考えて削除しました。
銀さんには土方さんと末長く幸せになってほしいものです。最後までお付き合いいただきありがとうございました!!
感想などいただけると嬉しいです^^ →
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