※タイトルの通り、劇場版の「万事屋よ永遠なれ」ネタです。
※「弐」とありますが続きものではありません。
※ちなみに壱(無印)は企画室の15万打リク話です。
※ヤることヤってないのでCPはお好きなように。
※未来の世界をハッピーエンドにと考えた末の話です。

以上をお読みになり、大丈夫と思われた方のみお進みください。



     ↓








俺を殺(や)れんのは、俺しかいねえ――「自身の」木刀に貫かれた銀時。薄れゆく意識の中、
思い出すのは幸せだった日々。

(新八、かぐら……バ、バァ……ひ……)

そこで意識は途切れた。


劇場版第二弾の話 弐


「え……」

次に意識を取り戻した時、銀時は病院らしき場所でベッドに寝かされていた。まさか夢を見ていた
とでも言うのか?いや……全身の痛みが先の戦闘を現実のものだと伝えている。と同時に、痛みを
感じるということは生きているということ。

「目ェ覚めたか」
「…………」

寝た姿勢のまま顔だけ横を向ければ、前髪を左右に分けた土方が丸イスに座っていた。

「覚えてねェか?お前はターミナル跡地で大怪我負ってたんだぞ」
「えっと……」
「メガネとチャイナが見付けたんだ。今はテメーに食わせる甘いもん買いに行ってる」

何でもないことのように、また妙なことに首突っ込んだんだろうとでも言いたげに、五年も行方を
晦ませていたというのに、淡々と土方は状況を説明していく。
傷は体を貫通していたもののギリギリで急所は外れていた。厚着をしていたおかげで「敵」の目を
欺けたのだろうなどと――

「敵は俺の方だ!」

やっとのことで事態を把握した銀時は勢いつけて起き上がり、この場から去ろうとする。
それを阻み、自らベッドへ乗り上げて銀時を押さえ付ける土方。
新八と神楽が病室へ戻ってきたのは、まさにその時であった。

「何してるんですか土方さん!」
「退院まで待てないアルか!発情期ですかコノヤロー!」
「違ぇよ!このバカが暴れやがるから押さえてたんだよ!」
「来るなァァァァァァ!!お前らまでウイルスにやられちまったら俺は、俺は……」

銀時の異様な事態に新八と神楽も駆け寄った。五年もの単独行動の末、大怪我で発見された銀時。
きっと途方もない何かを抱えているに違いない。

「銀ちゃん、ウイルスって何のことネ?」
「まさか白詛ですか?」
「そうだ!だから早く……」
「テメーは白詛なんかに罹っちゃいねーよ!!」
「え……」

土方の叫びに銀時は動きを止めた。
やっと大人しくなったか手こずらせやがって――土方はベッドから下り、丸イスに座り直す。
新八と神楽も各々イスを持って来て腰を落ち着けた。

「テメーの髪がそんなだから、怪我の治療のついでに検査したんだよ。生まれつきだと言っても
医者がやると聞かなくてな……」

まさかそんなはずは……罹る罹らないではなく自分はウイルスの苗床なのだ。

「本当に調べたのか?」
「ああ」
「……何かの間違いだ」
「あ?」

感染していることが信じられないのなら分かるが何故……聞き間違えたのだろうか?
土方はもう一度、間違いなく感染していないと伝えてやった。

「ハッ……とんだヤブ医者だな。この髪見れば分かるだろ?」
「あのなァ……」

新八と神楽は黙って成り行きを見守っている。
五年振りの再会。積もる話は色々あるけれど、生きて会えたから、これから幾らでも話せるから、
銀時の「病気」の件は土方に一任していた。

「テメーは元々白髪じゃねーか」
「でもここまで白くはなかった」
「…………」

白詛が広まるずっと以前から、銀時に対して思うところが土方にはあった。告知せずに済むなら
それでいいと見過ごしてきたけれど、今回の長期に亘る失踪の原因がやはり「それ」にあるらしく
ここまで事が大きくなってしまっては、本人にも自覚しておいてもらった方がいいだろう。

決意を固めた土方が新八と神楽を見遣れば、二人も真剣な表情で頷いた。
新八と神楽には失踪二年目で伝えていた。初めは二人共そんなはずはないと否定したものの、
銀時が失踪中に書いたと思しきメモ帳を見付け納得したのだ。

キッと眉を吊り上げて土方が銀時の名を呼ぶ。

「テメーは白詛より厄介なもんに蝕まれている」
「何だって?」

目と眉の間を近付けて、銀時は土方の言葉を待つ。

「銀時、お前は……自分が世界の中心にいると思ってねぇか?」
「……はあ?」

どんな大病を患っているのかと思えば訳の分からない質問をされ、銀時は間抜けな声を上げた。
その拍子に目と眉の距離が開く。
真面目な顔で何を言い出すんだコイツは……俺が世界の中心?ンなこと思ってねぇっつーの。
暫く会わねェうちに土方くんってばこんな冗談言うようなヤツになったの?つーか面白くねェよ。

「大丈夫ヨ銀ちゃん……」
「僕ら、何があっても銀さんの味方ですからね」
「お、おう……」
「俺もな」

瞳を潤ませ銀時の手を取る新八と神楽。その上に土方の手も重ねられた。
……何だこれは?もしや、さっきの質問に答えなかったから俺がおかしくなったと勘違いされた?
こんな簡単な質問にも答えられないくらい脳味噌やられてるとか思われてる?きっとそうだ――
そう結論付けて銀時が先の問いを否定してみても「改めて聞かれりゃ誰でもそう答える」と、
信用してもらえない。

「ふざけろよテメー!」
「大声を出すな。病院だぞ」
「つーかお前が……まあいいや。で、仮に世界の中心だと思ってたとして、だから何なんだよ」

また近付きつつあった目と眉が遠ざかる。何故だ。何故シリアスパートに入れない!このままでは
劇場版第二弾が台なしではないか。ここでこけたら本当に俺の人生完結しかねないんだぞ。
せっかくサン〇イズ最長アニメの座を獲得したってのに、連載十年にして漸く掴んだオリジナル
映画なのに……

やはりこの三人にも自分の状況を、現実を受け入れさせるしか道はないと銀時は考えた。

「いいかお前ら……俺の体には白詛の本体とでも言うべきコアが根を張っている」
「銀ちゃん……」

神楽の頬を透き通った雫が伝う。
ごめんな神楽。俺は生きてちゃならねェ存在だったんだ。だが最期にお前らに会えて良かったよ。
こんな俺のために泣いてくれるお前らに――銀時の瞳に光るものが浮かぶ。と同時に神楽は銀時に
抱き着いていた。……押し退けられた土方はイスから立ち上がる羽目に。

しかし銀時も神楽もそれを気にする素振りは全く見せない。

「よせ神楽!こうしてる間にも俺の体からはウイルスが……」
「銀ちゃんは銀ちゃんアル!」
「そうです!僕らの大切な銀さんです」

新八も逆側から銀時を抱擁する。

「新八、神楽……」
「はいそこまでー」

抑揚のない低声と両手を打ち鳴らす音に新八と神楽はハッと我に返った。感動の一場面に水を
差された形だが、新八と神楽は土方に礼を述べていて銀時だけが一人ぽつんと置いてきぼり。
土方は二人に向かって説教を始める。

「気をしっかり持てと言っただろ」
「いつの間にか巻き込まれてました、すいません」
「これが銀ちゃんの病気アルか……」

何も解らぬうちに二人は離れていき、また土方が銀時の近くに腰を下ろして咳ばらいを一つ。
あの程度の質問では生温い。こうなればきちんと病名を伝えた方がいい。銀時はショックを受ける
だろうがその後のフォローをすれば……

「よく聞け銀時。お前の言うウイルス云々は全て妄想の産物だ」
「はあ?」
「端的に言おう……お前は重度の中二病を患っている」
「ちゅ、中二病?」
「今の白詛の広まりとテメーにゃ何の因果関係もねェよ」
「うそ……」
「感染源なら既に特定されている――蠱毒を素にした細菌兵器を用い倒幕を目論むテロリスト共の
せいだった。杜撰な管理体制のせいで使用前に自分達が感染して全滅。ウイルスだけが残っちまった
というわけだ」

同じ攘夷志士として反吐が出ると言う土方の表情は真剣そのもの。嘘や冗談を言うキャラではない
のは、五年経っても変わっていないようだ。つまり、今の話が真実で俺のは妄想……?

「いやいやいやいやいや……」

流石にそれはナイと銀時は全力でかぶりを振る。だが、真実はいつも一つなのだ。

「現実を受け入れろ。そこから治療が始まるんだ」
「中二病の治療か?ふざけろよ!ここまで引っ張ってそれはねーよ!」
「引っ張ったのはテメーだ。その現実も受け入れろ」
「いやいやいやいやいや……」

満を持しての劇場版第二弾。それに相応しい過去から未来へ続く壮大なストーリー展開。
万事屋坂田銀時最期の敵は己自身――これが全て単なる思い込みでしたなんて、そんな馬鹿な
ことがあってたまるか!

と息巻いてはみるのだけれど、

「……マジ、なのか?」
「ああ」

土方に続き新八と神楽も頷いてみせる。

「髪が、白くなったのは……?」
「ただの老化現象だ」
「俺、まだ三十代前半(推定)なんですけど……」
「そのくらいでも白くなるヤツはなる」
「……体中に出てた詛いの文様みたいなのは?」

これも強い思い込みが成せる技だと土方が一蹴。

「聖痕って聞いたことねぇか?信仰心の厚い一部の連中は、聖人の受けた傷と同じもんが体に
浮き出るらしい」
「……それと同じだってのか?」
「強い思いが体に影響を及ぼすって意味ではな」
「…………」

自分の身に降りかかったはずの災難が、次々となかったことにされていく。まさか本当に俺は
勘違いだけで五年も……?

「せ、切腹しようとしてもできなかった」
「テメーそんなことまでしやがったのか!?」
「だって俺の体内に蠱毒のコアが……けどな、マジでそん時体が動かなかったんだぞ!」
「お前は本当に……」

生きてて良かったと項垂れる土方に銀時の心臓は急激に活性化していく。

「あのなぁ銀時、テメーを傷付けるのに躊躇いがないヤツなんていねェんだよ」
「じゃあ俺はウイルスに操られて……」
「ない」
「ついでに言うとそのウイルスも、遂に特効薬が完成した」
「へ?」
「最初の症例から五年も経てば薬くらいできる」
「姉上も一命を取り留めましたよ」

新八の嬉し泣きにまた銀時の心臓がドクリ。

「これで皆元通りアル」

神楽の笑顔にもドクリ。
脳裏に描かれるのは自分自身にしてしまった最期の依頼――

「銀ちゃんの病気はゆっくり治せばいいネ」
「あ、あのな……」
「恥じることはない。長年主人公をやってると大概罹っちまうもんなんだ。自分は特別な存在で、
世界を揺るがす大事件は全て自分の周りで起こっているとな」
「実は、その……」
「何でも屋なんて設定も、勘違いの素ですよね。自分は何でもできる、みたいな」
「銀ちゃんが着てた服、どこで買ったネ?魘魅屋アルか?」
「ハハッ……あれっ、メガネが合わないのかな?銀さんが半透明に……」

メガネを外して裾で拭いてまたかけ直す。けれどもやはり銀時の体が透けてうっすらと向こうが
見えている。それは新八だけではなかった。

「銀ちゃんがスケスケアル!」
「どういうことだおい!」
「だからね、俺を……戦争で魘魅を倒した直後の俺を、殺してくれって……過去から来た俺に
頼んじゃった」
「「「はあァァァァァァァ!?」」」

病室に三人の怒声が轟く。

「何やってんだテメー!」
「だってあん時蠱毒に感染したと思ったんだもん」
「だもんじゃないネ!」
「珍さんですね?あの銀さんが過去の……」
「うん。俺を殺(や)れんのは俺だけかなァって……」
「バカ野郎!!例えテメーの想像通りだったとしてもだ、俺達も過去へ行って一緒に戦えば、
感染自体を防げるじゃねーか!」
「あ、それもそうだねー」

文字通り存在が消えゆく銀時に慌てふためく三人とは裏腹に、本人は至って落ち着いていた。
若干変則的ではあるけれど、ここには頼まれたら何でもやってくれる三人が揃ってる。きっと、
俺の依頼だって受けてくれる。

「悪ィ。今土方くんが言った感じで昔の俺、助けてもらえる?タイムマシンは源が――」
「「「!!」」」

突如、銀時の体が強い光に包まれて三人は思わず目を閉じた。
次の瞬間、新八と神楽は壊れていないターミナルの中で、土方は真選組の制服を着て屯所で
目覚めることとなる。

失われた記憶を求め、時空を超えた旅のはじまりはじまり。

(13.08.05)


何度も言うように私はハッピーエンド主義なのですが、魘魅になった銀さんもハッピーエンドにしたい!と考えた結果がこれです^^; すみません。
皆で戦争時代に行って魘魅を倒して全て無かったことになってめでたしめでたし、という映画の結末も勿論ハッピーエンドなのでしょうけれど、ありのままの五年後銀さんも幸せになってほしくて……
今回は中二病がテーマの話でしたので(?)全部思い込みで片付けてしまいましたが、例え銀さんが感染していたとしても、薬ができるまで隔離しておけば問題ないかと^^;
開けられないガラス窓越しに愛を育む銀さんと土方さんとか!五年前の自分相手にあれだけ戦えるんですから、他の白詛患者と違って寿命が縮むわけではなさそうですし。
色々な(妄想の)可能性を秘めている劇場版第二弾ですが、一番アホらしい選択をしたつもりです。せせら笑っていただけましたら幸いです。ここまでお読み下さりありがとうございました。

 

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