後編


一方、真選組の屯所では「偶然」話を聞いてしまった沖田と山崎により、土方が銀時と同じような
目に遭っていた。

「今の電話、旦那からですか?」
「あ、ああ」
「恋人からの電話だってのに随分とつまらねェ会話でしたねィ」
「何話そうと、俺の勝手だろ」
「そんなことじゃ、旦那に愛想尽かされちまいますぜ」
「坂田はそんなヤツじゃねーよ」

キスするのがやっとで大人の関係からは程遠いくせして、こういう信頼関係だけはバッチリだから
イラッとくる。心が繋がっているなら身体まで繋がってみやがれ土方コノヤロー。

「まっ、旦那は優しいですからねィ」
「まあな」

そんな恋人を誇らしくすら思い、頬を染める土方。
この状態では皮肉も通じないのかと沖田は視線で山崎へバトンタッチ。

「あの、次は副長から掛けるんですよね?」
「ンな所まで聞いてやがったのかテメー……」

ぎろりと睨みつけるが顔は赤くしたまま。普段の十分の一の迫力もなく、だからですねと山崎は
平然と続ける。

「こちらから掛ける時くらい、甘い台詞の一つでも言ってみたらどうかと思って」
「はあ!?なななななに言ってんだテメー……」
「恋人同士ならこのくらい普通ですよ。ねえ?」
「そうだな。そもそも何で電話するんですかィ?」
「そっそれは……」

元々赤かった土方の顔が更に赤くなっていく。

「あらら、もしかして言われるまでもなく愛の語らいですか?」
「ちちちちち違う!」
「じゃあ何で電話するんで?」
「そっそれは……」

耳も首も赤くして、彷徨いつつも視線は襖の方へ。
逃げ出したくて堪らないといった土方に、逃がしてなるものかと沖田が畳み掛ける。

「用もないのに電話なんてしませんよねィ?」
「そっそれは……」
「隊長、もしかして副長は旦那の声が聞きたいだけなんじゃないですか?」

図星を突かれて土方の体がびくりと震えたものの、気付かぬふりをして沖田は山崎に向かった。

「いくらラブラブで熱々、つっても流石にそれはねーだろ」
「そうですかぁ?とーっても愛し合ってるように見えますけどね」

居た堪れずにぷるぷる震え始めた土方の前で二人の小芝居は続く。

「そりゃあ二人は愛し合ってるぜ。けどな山崎、もう三年以上付き合ってんだ。声を聞くだけで
満足するなんて幼稚な関係、とうに卒業したに決まってらァ」
「ああ、そうですね。三年もあれば、もっと凄いこと沢山してますよねー、副長」
「え……」

突然聞かれて咄嗟に言葉が出てこなかった。尤も、内容が内容なだけにどんな状況で聞かれても
答えられないとは思う。だが、答えられないけれど考えてみれば、自分達は何度も夜を共にし、
舌を使って口付けまでするような大人の恋人同士になったのだ。そんな自分達が実のない会話で
声を聞いて満足できるのだろうか……
いや、土方自身は非常に満足している。電話も通じない辺境の星にいたことを考えれば、電波の
届く範囲に恋人がいるという事実だけで安心する。ほんの挨拶程度であろうと、自分に言葉を
掛けてくれることが喜ばしい。

明日をも知れぬ危険な身上。けれどもう一度あの声を聞くまではと踏み止まれる、そんな存在。
ただ、本当に銀時も同じように思っているのかは分からない。もう少し、恋人らしさを出した方が
いいのだろうか……
最愛の恋人のため、土方は二人の話を聞き入れることにした。

「……どうしたらいい?」
「えっ、何がです?」
「電話。……俺は、話すのが得意じゃねーから、今まで全然……」
「あー……アンタ、男は黙って、ってタイプですからねィ」
「そういうわけじゃ……」
「無理に話題を作るより、ここは素直に『愛するアナタに早く会いたいです』って言うのは
どうですか?」
「そそそそんなこと言えるわけねーだろ!」

山崎の提案は即座に却下。
したけれど、そう簡単に引き下がってはくれない。

「えー……どの辺がダメなんですか?」
「あああああいあいあい、とか……むむむむりだっ!」
「またまたァ……そんなこと言って、いつも言ってるんでしょ?大丈夫ですよ。恋人同士なら
普通ですから」
「いいいいやあのな……」
「敢えて堅苦しく時候の挨拶から始めて、最後に『愛してるぜ銀時』で締めるってのはどうだ?」
「はあっ!?」
「おっ、隊長にしてはまともな案ですねー」
「俺ァいつだってまともでィ」

またしても土方を置き去りに、沖田と山崎の間で次々と恋人達の会話が作られていく。

「愛してるって言われたら、やっぱり旦那が『俺もだ十四郎』みたいに返すんですかね」
「そうだろうなァ……そんで、『早く会いたい』ってなるんだぜ」
「案外『俺の方が愛してる』って喧嘩になったりして」
「いやいや……そういうガキみたいな関係じゃねーだろ。熟練カップルの域に違いねェや」
「そしたら『会いたい』なんて温くないですか?むしろ『お前が欲しい』くらいかも」
「ちょいと土方さん、聞いてます?アンタのために俺らは……」
「わっ分かってる……」

分かってはいるものの、無理だと告げたはずなのに流されて、更に過激になっていくものだから
始末に負えなかった。

「お前らの考えるような台詞、俺には無理だ。もう今まで通りでいい」
「諦めちゃダメですよ!」
「もう少し簡単なのにしますから」

頑張りましょうと励まされ、渋々頷く土方。
ここまでは二人の予想通り。愛しているだの欲しいだのと土方が言えるとは端から思っていない。
先にハードルを上げておいて後から示す本来の目標を低く見せる作戦だ。

「好き、くらいなら言えますか?」
「いや……」
「旦那のこと、好きなんでしょう?」
「そっそれは、そう、だけど……」

思っていても言葉にできないことはある。銀時の声が聞けるだけで、嬉しくて嬉しくて言葉に
できない。らーらーら、ららーらーら、なのである。

「毎日電話しても飽きないくらい好き、とかいいんじゃないですかィ?」
「や……」
「好きって言うのも照れ臭いんですよね?それなら『声が聞きたくて電話しました』とかだったら
言えそうですか?」
「うー……」

正直なところこれでも充分恥ずかしい。しかしこれなら一つ一つの単語は言えないものではない。
このくらいのこと、言えなくてどうする。つまらない電話に毎日付き合ってくれている恋人へ、
それどころかつまらない自分と付き合ってくれている恋人へ、日頃の感謝と熱い思いを込めて!

「わっ分かった」
「頑張ってくだせェ」
「応援してますからね」

今日も張り切って仕事するぞと、山崎はともかく沖田まで気合いを入れて副長室を後にした。


*  *  *  *  *


その日の昼休み。文机の中央に携帯電話を置き正座した土方は、目を閉じて深呼吸を三度。
それから二拍手一礼。自分でも何にか分からないが「どうかよろしくお願いします」と祈って
携帯電話を手にした。

記憶している番号を人差し指で確りと押して耳に当てる。

『はっはい、万事屋銀ちゃんです』
「わわわたくし土方十四郎と申します。坂田銀時様でいらっしゃいますか」
『はははい、その通りでございます』
「あ、あのっ……」
『はっはい』
「あ、あのですね……」
『はっはい……』
「そのっ……」
『は、い……』
「あっあなたの……」
『私の……?』
「ここっこえが……」
『声?』
「声が、その……」
『はい』
「きっ聞きたいです!」
『え!』
「…………」
『…………』
「……なので電話、しました」
『あ……』
「…………」
『あの……』
「はっはい」
『わ、私は……』
「はっい……」
『ひ、土方さんの……』
「私の……?」
『ここ、こえが……』
「声が?」
『声が、その……』
「はい」
『きっ聞けて嬉しいです!』
「え!」
『…………』
「…………」
『……だから電話、ありがとうございます』
「こっこちらこそいつも、ありがとうございます」
『いえいえこちらこそ……午後もお仕事頑張って下さい』
「本当にありがとうございます。坂田さんも頑張って下さい」
『お気遣いありがとうございます』
「ご丁寧にありがとうございます」
『ありがとうございます』
「ありがとうございます」
『でっでは、この辺で……』
「はい。それではまた」
『また……』
「ありがとうございました」
『ありがとうございました』
「ありがとうございました」
『ありがとうございました』

(13.05.31)


終わります^^ 純情な土方さんが「銀時」って言ったの、今回が初めてかしら?
純情な銀さんはサラッと聞き流してしまいましたが、後から思い出して羞恥に悶えればいい。もちろん土方さんもね*^^*
前回ベロチュウ(?)を経験してすっかり大人な関係になったつもりの純情な二人。続きはまた忘れた頃に書くと思います。
ここまでお読み下さりありがとうございました。いえいえ本当にありがとうございました。はい、ありがとうございました。ありがとうございました!



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