※「純情な二人と離れ離れの先に」の続きです。
長期出張の試練(?)を見事乗り越えた銀時と土方。しかも、離れていたことで二人の関係に進展が
見られたというから、いい意味で期待を裏切られた四人も万々歳。胸を撫で下ろしている。
四人とは勿論、二人を大人の恋人同士にしようと画策する者達のことである。
今日も何処かで話し合いが行われていた。
「会えない時間が愛育てるとはよく言ったもんだよねー」
山崎がしみじみと言えば、沖田は「そうだろう」と得意げ。土方の出張が自分の嫌がらせに
端を発したことを言っているらしい。それには神楽が、
「たまたま上手くいっただけネ」
と異を唱えた。
「あ?」
「まあまあ」
不穏な空気が漂い始めたところ、透かさず新八が割って入る。
「上手くいったんだからいいじゃない」
「でもあれから銀ちゃん、何したか教えてくれなくなったアル」
「そうなんだよねー……」
およそ半年間、手紙のやりとりしかできなかった反動か、土方が帰国してからは互いに電話を
掛けることが日課となっていた。朝起きた時、昼休み、寝る前――ほんの挨拶程度ではあるものの
隙を見ては電話をしている。
一応、周囲に内緒で掛けているつもり。しかし銀時は固定電話で土方は集団生活。そわそわしつつ
通話する姿を見れば誰の目にも相手は明らかであった。
だからきっと土方が帰国した夜、万事屋で二人きりで過ごした夜に何かあったのだとは思うけれど
それが何かは分からない。これまでであれば顔に出たり態度に出たり口を滑らせたり……とにかく
容易に判明していたというのに。
「土方さんは何か話しました?」
「あの日のことはあまり……旦那からもらった煙草は大事にしまってるんだけどね」
「たまに取り出して赤くなってやがるぜ」
「こっちも似たようなものです」
「もしや一発キメ……」
「ええっ!?」
「それはないネ」
「だな」
いくら何でもあの二人に限ってそれはない――浮かんだ可能性を沖田は即座に否定した。そして、
「いつもより長くキスをしたとか、そういう感じじゃないですか?」
山崎の言葉に一堂納得。
土方は以前、ベッドでキスをしたと酔った勢いで自慢したことがあった。しかも恐らくはほんの
一瞬、唇同士が触れ合うだけのキス。
そんなことを自慢できるような彼らである。久しぶり会えた喜びに任せて相手を抱き締め
キスでもすれば、かなり大胆なことをしてしまったと後になって恥ずかしくなるかもしれない。
それなら、帰国祝いデートについて口を閉ざすのも頷ける。
「なら、無理に銀さんから聞き出そうとしなくてもいいですかね?」
「いいと思うよ」
「どうせ大したことしてねェからな」
「じゃあ新しい作戦考えるネ」
近況報告が終わり本格的な作戦会議が始まる。
折角二人が毎日電話をしているのだから、そこで何かしたいというのが自然の流れ。
「テレホンセッ〇スは?」
「隊長……本気でできると思ってます?」
「まあ無理だろうな」
「真面目に考えるネ!」
「そんならテメーはどうなんだ?俺に文句つけるってこたァ、テメーは考えてるんだろ?」
「うぬぬ……」
「まあまあ」
放っておくと喧嘩腰になっていく沖田と神楽。地味な二人で宥めつつ会議を進め、結果、電話で
愛を語らせる作戦に落ち着いた。
純情な二人のラブコール
「おはようございまーす」
「はあっ!?」
ある朝、万事屋へ出勤してきた新八の声を聞き、銀時は驚愕と共に目覚めた。
新八が来る前にやっておきたいことがあったのに……
「早ェよ!」
「別にいいじゃないですか……朝ご飯は家で済ませてきましたよ」
そういう問題ではない。神楽と定春の食費に比べたら新八一人分くらい何ともない。
そうではなくて神楽が起きる前にやりたいことがあるのだ。
適当な用事を頼んで出てもらうか?それとも自分が外へ出て……
「銀さん、布団干しちゃっていいですか?」
「えっ、ああおう……しっ、新八!」
チャンス――銀時は思った。
これが新八の作戦とも知らずに。
「ついでにこの部屋、掃除しといてくんない?俺、朝メシ作らねーと」
「いいですよ」
「こっちに埃が飛ばねーように襖は閉めとけよ」
「はいはい」
分かりましたよと新八は箒を手に窓を開け、銀時が出てから襖を閉める。そして布団干しや掃除を
しつつ襖の向こうへ聞き耳を立てるのだった。
そんなこととはつゆ知らず、銀時は椅子の上で正座して受話器を取る。
大きく一度深呼吸をしてからダイヤルを回せば、受話器の奥でコール音が三回鳴って止まった。
『おっ、おはようございます、土方です』
「わわわたくし坂田銀時と申します。おはようございます」
『はっはい。おはようございます坂田さん』
「こちらこそっおはようございます土方さん」
『これはこれはご丁寧に……おはようございます』
「いえいえそんな……おはようございます」
この後互いに三回ずつ「おはようございます」を交わし、漸く次の話へ。
といっても、
『ほっ本日もお仕事、頑張って下さい』
「ああありがとうございます。土方さんも頑張って下さい」
おはようございますと殆ど変わらぬ毎朝の決まり文句。そして次には結びの言葉。
『それでは、ご連絡ありがとうございました』
「また、かけてもよろしいでしょうか」
『こっ今度はわたくしから連絡させていただきますので』
「よよろしくお願い致します。本日は貴重なお時間を裂いていただき、本当にありがとう
ございました」
『こちらこそ、ありがとうございました』
「いえいえそんな……」
今度は「ありがとうございました」を四回ずつ言い合って、朝の電話は終了。
銀時は一仕事終えた後のような満ち足りた表情で受話器を置き、額の汗を腕で拭った。
それが作戦決行の合図となる。
「今の電話、何ネ?」
「土方さんってまさか、恋人の土方さんじゃないでしょうね」
和室と廊下、それぞれの境の扉が開かれ、神楽と新八が銀時の元へ。
「ななな……てっテメーら、人の電話聞いてやがったのか!?趣味悪ィぞ!」
「銀ちゃんの声が大きかったから聞こえたアル」
「それより、誰に電話してたんですか?」
「ひ、土方だよ。……聞こえたんなら、分かるだろ!」
ここで二人は態とらしい程に驚いて見せる。
「えっ!本当にあの土方さんですか?」
「恋人に電話してたアルか?」
「べべ別にいいだろ……」
「ダメですよ!」
「ダメアル!」
バンバンと事務机を叩きながら銀時に詰め寄る二人。
「恋人同士の電話はもっとロマンチックじゃなきゃダメネ!」
「ロマンチックぅ?」
「そうですよ。銀さんさっき、おはようとありがとうしか言ってませんよ」
「だ、だってその……土方の声が、きっ聞きたいだけでっ……」
これ以上は無理だとばかりに両手で顔を覆った銀時。
大の男がそんなことしても可愛くない――彼らの交際を見守る中で幾度も感じたことを改めて
痛感する新八と神楽であった。
「兎に角、土方さんだって忙しい合間を縫って電話に出てくれたわけでしょう?」
「たっ多分」
「だったら、もっと実のある会話をしないと迷惑ですよ」
「着信拒否されちゃうかもヨ」
「ちゃ着信拒否!?」
それは困ると銀時は視線で助けを求める。
これで作戦の半分は成功したようなもの――新八と神楽は目配せして頷き合った。
「さっきも言ったように、もっと恋人らしい会話をすればいいんですよ」
「そうそう。二人はラブラブの恋人同士なんだから」
「それはそうだけどどうすれば……」
ラブラブなのは否定しないのかとツッコミたいのをぐっと堪え、新八が続ける。
「相手の体調を気遣う言葉を掛けたり、次のデートで行きたい場所の話をしたり……」
「どんなパンツ履いてるのか聞いたり……」
「ええっ!?」
「神楽ちゃん!それはやり過ぎ!」
「じゃあ、愛してるって言うだけで勘弁してやるネ」
「そそそそんなこと……」
言ったことがないわけではないけれど、そうそう言えることではない。言わないで済むなら
そうしたい――なのに銀時の気持ちを無視して新八も賛同してしまう。
「それいいね。やっぱり、恋人同士なんだらか『愛してる』で締め括るくらいじゃないと」
「よくない!反対!」
「愛してないアルか?」
「それはァ……違うけど……」
「毎回『愛してる』じゃなくてもいいですよ。『好きだ』とか『早く会いたい』とかでも」
「そんなこと言うわけねーだろ!」
「なに怒ってるんですか」
「るせっ!」
例えとはいえ、土方の出張中、自身が手紙に綴った言葉を聞いて銀時は激しく取り乱す。
今になって思えばあれは恋文とも取れるものだった。あの時は、長い間会えない淋しさが
募りに募ってほぼ無意識に筆が動いてしまった。あの経験があったから、今は近くにいるのが
嬉しくてついつい毎日電話を掛けてしまうけれど、声が聞けるだけで満足なのだ。
より恋人らしく、などと思ったことはない。現状維持上等。
けれどもし、土方が物足りなさを感じているとしたら……教育上よろしくないという理由で
新八と神楽には告げていないけれど、自分達はディープキスまでしちゃう大人な関係なのだ。
あの日の夜を思い出し、銀時の顔はカッと赤くなる。
「銀ちゃん、顔赤いヨ」
「うううるせっ!テメーらが変なこと言うからだ!」
「変じゃないネ」
「そうですよ。愛し合う恋人同士ならこのくらい普通ですって」
「次に電話する時は『愛してる』って言ってみるアル」
「やだ」
「好き、でもいいですから」
「よくねーよ」
「早く会いたいは?」
「絶っっっっ対に言わねェ」
どうやら「会いたい」は銀時にとって鬼門らしい。
きっと、例の「帰国の夜」と関係があるのだろうが、今はそこを追求する時ではない。
「じゃあ、『二人の布団、干しといたよ』はどうネ?」
「そそそそんなこと言ったら誤解されるじゃねーか!!」
「いつもアナタのことを考えています、なんてどうです?」
「臭すぎるアル」
「神楽ちゃんに聞いてないでしょ!」
その後も侃々諤々とした議論の末、土方へと伝える愛の言葉が決定した。
(13.05.28)
幼稚園児がふざけてやるレベルのチュウでも、二人にとってはドエロいことみたいです^^ 続きは……今月中に上げるのが目標です。
追記:後編はこちら→★