後編


予想に反して土方の部屋は明かりが灯ったままだった。おいおい、こんな時間まで仕事か?
単に寝る時も電気をつける派、つー可能性も……まさか倒れてるとかじゃねェよな……

「…………」

これはストーカーでなく人命救助(かもしれない)だ。何事もなければすぐに帰るから……

愛の力というのは不思議なもので、俺はセキュリティシステムの網目を掻い潜り、
土方の部屋の天井裏に到達した。
天板を僅かにずらし、土方の様子を見下ろす。土方は文机に向かっていた。
重たそうな上着は脱いでベストとワイシャツという出で立ち。ここからでは後ろ姿しか
見えないものの、筆が動いているので具合が悪くはなさそうだ。でもこんな夜中まで仕事じゃ
そのうち体調崩すんじゃ……あ、筆を置いた。書類なんかも片付けて……漸く終わりか?
ベストを脱ぎながら立ち上がったところを見るとやはり終わったらしい。

おっと……これ以上は見ちゃダメだ。

寝巻に着替えるようなので、俺は静かに向きを変えて仰向けになった。薄暗く、埃まみれの
天井裏に、俺が動かした天板から僅かに光が入る。この光が見えなくなったら……土方が部屋の
明かりを消したらここを出よう。

トントン……

「――っ!」

ちょうど背中を付けていた辺りで下から小突く音がして、俺は息を潜めた。
今までも潜めていたがもっと潜めた。
だがトントンとノックのような音は続く。

「下りてこいよ」
「!?」

ついには声が掛かった。間違いない……土方に気付かれた!うおっ!
顔のすぐ横、ずらしていた天板から刀の切っ先が覗いた。

「来ないならこっちから行くぞ」

これはもう観念するしかない……
下りられるように天板を動かせば、刀はすっと引っ込んだ。

「こ、こんばんは〜……」
「やっぱりテメーか」

刀を鞘に納めて土方はどっかと腰を下ろす。少し迷ったが俺もその向かいに正座した。
ていうか今の口ぶり、俺だって分かっていたような……あー、ドキドキして目ェ見らんねェよ。
俺はギリギリ不自然にならない程度に目を逸らして話す。

「やっぱりってどういう……」
「昨日、つけてただろ。それと今日も草むしりの前から庭にいたよな」
「バレてた?」

でも意外と怒ってはいないようだ。

「いや〜、気配消すのは結構自信あったんだけどな……」
「気配がなくてもテメーの態は目立つんだよ」
「あ、そっちか」

銀髪に白い着物じゃ隠れるのは不向きだよな。

「……で?」
「でって……?」
「何か用があってつけてたんだろ?それとも誰かの依頼か?」
「あー、うん、えっと……」

そう捉えるか……まあ、俺に好かれてるとは思わねェよな。さて、どう説明するか……

「依頼ではねェよ」
「じゃあ何の用だ?」
「用っつーほどのことでもないような……」
「こんな時間に寝巻のまま忍び込んで、何もないわけねェだろ」
「まあ、そうなんだけど……」

気になって見に来ただけとは言えねェし……あっ!ファンの女の子からお前のプライベートを
知りたいと依頼があって、とか言やぁよかった!もう依頼じゃないって言っちまったしなァ……

「まさかテメー、攘夷浪士にウチの情報を……」
「違う違う!そういう物騒な理由じゃないから!」
「じゃあ何なんだよ」
「それは……」

マズイ……土方が苛立ち始めてる。ここで下手なことを言えば仲良くなるどころか、
敵認定されかねない。このままじゃダメだ。何とかしないと。
あの夢みたいにラブラブちゅっちゅな関係になるんだ!

『銀時、愛してる……』
『嬉しい、俺も……』


そうそう、そんな感じで……

「愛してるよ十四郎」
「……は?」
「あれ?」

何言ってんの俺ェェェェェェ!!ごまかせ!今ならまだ間に合う!!

「違う違う、あのね……」
「好意があろうとも覗きは犯罪だと分かってるのか?」
「あああああ……だからそうじゃなくて……」

土方の鋭い視線が俺に突き刺さる。早く何とかしないと!
……ん?土方の視線が俺に突き刺さる?つまり土方が俺を見ている……土方が俺をじっと
見ている……寝巻姿の土方が俺のことをじっと……二人きりの部屋で寝巻姿の土方が俺のことを……

「――っ!」

そんな場合じゃないのに、イケナイ妄想が次から次に湧いてきて、頭の中の光景に赤面。

「万事屋」
「ああああああ……ごめん!すまん!忝い!」

土方はゆっくりと立ち上がり、そして俺のすぐ前で片膝をついて座った。近い近い近い近い!
こんな近くにいたらドキドキしすぎて言い訳考えるどころじゃ……

「冗談だったらぶっ殺す」
「……え?」

物騒なことを囁かれたと思った次の瞬間、土方が更に近くなって唇に、くくくくくくちびるに
むにっと……えええええええっ!!

「何とか言えよ……」

何とかって何を?つーか土方くんは何してくれちゃってんですか?むにっとやらかしましたよね?
これはまるでアレじゃないですか?俺が夢で見たアレじゃないですか?その前の台詞が随分と
違いましたけど間違いなくアレですよねェェェェェ?

「き、キス……した?」
「あ?」

土方の眉間に皺が寄る。あれっ、違った?まさか今のも夢?

「いやあの、さっき……何した?」
「寝言は寝て言え」
「ちょっと待って。なんか夢と妄想の区別が曖昧で……」
「……どっちも似たようなもんだろ」
「いやいや……え?あ!違う違う。夢と現実の区別がだな……」
「だから寝言は寝て言えと……」
「だって、唇になんかむにっときたんだもん!お前がやったのかなって思うだろ!」
「俺がやったんだよ」
「えええええええっ!!」
「…………」

土方はハァと息を吐いた。……なんか呆れられてる?

「俺がテメーにしたんだよ」
「な、何で?」
「俺も、テメーと同じだから……」

急に歯切れが悪くなってね?同じってなんだよ……夢と現実の区別が曖昧な感じ?
夢かと思ってむにっとしたら現実ですいませんみたいな?でもよ……

「いくら夢でも、やっていいことと悪いことがあるぞ」
「これは夢じゃねーよアホ」
「そんなん分かってるっつーの!俺が言いたいのは、夢だと思ってたからっていきなり
キスするのはマズイぞってこと」
「テメーまだ寝惚けてんのかよ……」
「寝惚けてんのはそっちだろ。いいか土方……テメーのことを愛してるなんて言った相手に
あんなことすりゃ、その場でカップル成立おめでとーってなことになるんだぞ!」
「分かってる」
「分かってない!お前がキスしたのは俺だぞ!万事屋銀ちゃんの銀さん!」

かなり分かりやすく説明してやったというのに、土方はまた溜息を吐いて、

「だからテメーが誰かも、これが夢じゃねーことも分かってる」

呆れ顔でこんな風に宣うばかり。
やっぱり、分かってないのを分かってないじゃないか。

「何で俺にキスなんかしたんだよ!」
「すっ……すきだから」
「……キス、すんのが?」
「あ!?」

そんなわけないとは思いながらも、普通に導き出される答の方が有り得ないことに思えて、
土方の怒りを買うような質問を返してしまった。

「ごっごめん!そういうつもりじゃ……でもその、マジで?マジで俺のこと……すっ好きなの?」

うおぉぉぉぉぉっ……すっげー恥ずかしい!ストレートに告白するより恥ずかしいよコレ!
だけど聞かれた土方も恥ずかしそうに頬を染めて、視線を斜め下に逸らして「そうだよ」って
ボソッと……そうだよって……俺のこと好きだよって……

「マジでか!」
「やっと通じたか……お前、意外と鈍いんだな」
「まさか口説く前に落ちてるとは思わねーだろ」
「そりゃそうだがキスした時点で……まあ分かったからいいか」
「まだちょっと信じらんねェけどな……」

まさに夢のような出来事ってヤツだ。

「一晩寝て起きりゃ、現実味も出てくるんじゃねーの?」
「あー、そうかもな」
「……ところでお前、何処で寝るんだ?」
「へ?」

土方のヤツ、変なこと聞くな……

「俺ん家だよ」
「ほ〜ぅ」
「何だよ……」
「恋人の部屋に寝巻持参で来てテメーは家に帰るのか……なるほどな〜」
「え……」

俺を見てニヤリと笑った土方……持参っつーか寝巻のままで来ちゃったんだけど、
ここが「恋人の」部屋になったのはついさっきだけど……これは、お誘いですよね?

「とっ泊まってっても、いい?」
「布団、一組しかねーぞ」
「大丈夫!」
「そうか」

土方が押し入れから布団を出して敷くのを見てもまだ、微かに夢ではないかと感じている。
だが、一緒に朝を迎えた暁にはきっと……
とりあえず今は、堂々とできるようになった土方観察をしたいと思います。

恋人だと思って見るとドキドキがムラムラに……あの手が、あの唇が、そしてあの××が〇〇で、
△△の□□が◎の……

「……ストーカーの次は視姦か?」
「あ……」
「そんなに見るのが好きなら勝手にしやがれ」

土方は明かりを消して布団の中に潜り込んだ。
怒らせてしまった……でも、帰れと言われなかったからいてもいいんだよな?
土方は「勝手にしろ」と……つまり寝姿見放題……ってオイ!違うだろ!いい加減にしろ俺!
謝って一緒に寝させてもらうんだよ!

「あの……ごめん」
「…………」
「そっち、行っていい?」
「…………」

土方は何も言わなかったけれど拒否もされてない、ってことで俺は布団に入ってみた。
土方の背中に抱き着いてみた。

ああ……これは夢じゃない。部屋も布団も土方本人もタバコ臭いのが何よりの証拠。
夢の中の土方はもっと甘い感じがした。

「へへっ……」
「……楽しそうだな」
「ああ。見るだけより触れた方がいい」
「そりゃよかった」

腕の中で土方が向きを変える。近付いてくる土方に合わせて俺は目を閉じた。
これも夢じゃない。だから、見えなくても大丈夫。

色々ドタバタしたけど、これにてハッピーエンドってことで。

(12.09.16)


銀さんストーカになるの巻、これにて終了です。エロシーンはどうしようか迷ったのですが、日記で予告した時に「全年齢対象です」みたいなことを書きましたし、

長くなったのでここでは割愛させたいただきます。この次、これの土方さん視点を書くつもりなのでエロはそちらで*^^*

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。感想などいただけると嬉しいです。

 

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