中編


「ハァ、ハァ、ハァ……」

どれくらい走ったか分からねェが俺は河原まで来ていた。ここまで来れば充分だろ……
だがこれからどうする?家には帰る気分じゃねーし、金はねーし、仕方ねェからその辺で昼寝……
いや、その手には乗らねーぞ。俺が土手に寝転がればまたあの夢が来るパターンだろ?
分かってんだよ。げっ!

遠くに土方(と多分山崎)の姿を確認し、俺は咄嗟に橋脚へ身を隠した。アイツら、まさか俺を
探しに?なーんてな……どーせ巡回か聞き込みだろ?あ、店に入った。

土方達の入った店の近くへ行って様子を伺っていると、「何か思い出したら連絡をくれ」と
言う声が聞こえた。やはり聞き込みか。……ん?

店を出ると土方は「後は頼んだ」と山崎に言って何処かへ行っちまった。
山崎は隣の店に入ったからまた聞き込みだろう。部下に仕事を押し付けてサボりか?
俺は何となく土方の後をこっそりついていった。



*  *  *  *  *



「……で、それから何処行ったと思う?高級料亭だよ、高級料亭。国民の税金で生きてるって
自覚あんのかね。出てきた時にはゴリラと、他にも偉そうなヤツらが一緒にいたから接待か何か
だと思うけどよ、それにしたって高級料亭はずりぃよな」

不平等な世の中の一端を目撃してしまった俺は語らずにはいられなかった。
家に帰ってすぐ、新八と神楽に見たままを伝えていく。若いお前達には酷な内容かもしれない。
だがこれを乗り越えて立派な大人になってほしい。お前達ならそれができると信じている。
そして立派な大人になれた暁には、俺に楽をさせてくれ。

「だいたいアイツ、途中までは山崎と聞き込みしてたんだぜ?それを放り出して料亭って……
まあ百歩譲ってそれも仕事だったとしよう。けどアイツ、その後ゴリラと飲みに行ったからね。
屯所に戻って私服に着替えてもう一回出たからね。部下に働かせて飲み歩くなんざ上司として……」
「あの、銀さん……」
「何だ?」
「あれからずっと土方さんの後をつけてたんですか?夕飯も食べないでずっと……」
「そういえばメシ食ってねぇな……思い出したら腹減ってきた。新八、メシ!」
「問題はそこじゃなくてですね……」
「ストーカーは犯罪ヨ」
「あ?誰がストー…………」

あれ?ストーカーって確か……好きなヤツをこそこそ見たり調べたりする陰湿なヤツだろ?
え?俺、ストーカー?違うよね?確かに今日は土方の行動を追ってたけど、偶々会ったからだし、
探してたわけじゃないし、そもそも俺……

「土方のことは好きじゃねーからな」
「まだそんなことを……」
「真っ赤になってたじゃないですか」
「だからあれは暑かったからだって!」
「素直になれヨ」
「銀さんが本気なら僕らも応援しますから」
「でもストーカーはダメアルヨ」
「違うって言ってんだろ!」
「じゃあ何で土方さんの後をつけてたですか?」
「それは何となく……」

そうだよ。何で俺、ストーカー紛いのことやってんだ?まさか本当に土方のことを……
いや違うって。ただ何となく土方の行動が気になっただけで……って、それってもうアレじゃね?
その時、急に昨日見た夢が脳裏を過ぎった。

『銀時、愛してる……』
「――っ!」
「あ、赤くなった」

神楽に指摘されるまでもなく、顔に熱が集まるのを感じる。

「マジでか……」


新八は「銀さんに好きな人ができた記念」と赤飯を炊いていて、俺はものすごーく腑に落ちないが
祝いの晩餐にありついた。

マジでか……


*  *  *  *  *


『坂田さん、今日は雨が降りますよ』
『分かりました。傘を持って行きます』
『いってらっしゃい』

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

翌朝の目覚めは最高だった。結野アナが俺だけのために天気予報を!惜しむらくは手を振って
見送られたこと。いってらっしゃいのチュウは?土方の時はあったのによー……

「――っ!」

前日の夢を思い出してまた一気に顔が暑くなる。チクショー……やっぱりマジなのかよ!

「ああああああああ〜!」
「今日はどんな夢だったんですか?」
「マヨラーといちゃいちゃする夢に決まってるネ」
「違ぇよ……」

念願の結野アナだっていうのにその喜びもすっかり失せた。

「散歩行ってくる……」

俺は着替えて外に出た。



そういえば朝メシも食っていなかったと途中であんぱんとイチゴ牛乳を購入。
土手に座ってパンを食っているとふと思い出す。ここは昨日、土方(と山崎)が聞き込みを
していた場所だ。今日も聞き込みをするのだろうか?するとしてもこの辺は終わってるから
別の場所だろうな……俺はイチゴ牛乳のパックにストローを差して立ち上がった。


*  *  *  *  *


「ここが一番確実だよな……」

暫く適当にブラついてみたが土方は見当たらず、俺は屯所に来てみた。垣根を乗り越えて庭に
入り、副長室のある辺りを目指す。蚊みたいな天人の時とかトッシーの時とか、ここには何度か
来てるから間取りは分かってる。チッ……障子が閉まってて中が分かんねーな。
副長室が見える位置の庭木に身を隠してみたものの、これでは土方がいるのかどうかすら……

とそこへ、俺の知らない土方の部下―仮に平隊士Aとしよう―がやって来て障子を開けた。
おっ、土方がいた。ナイスだ平隊士A!何だ、ここにいたのかよ……無駄に歩き回っちまった
じゃねーか。今日は書類仕事なんだな。

その後も平隊士BとかCとか、一番隊隊長Oとか地味な監察Yとか次々に土方の元を訪れていた。
こんなに色々来るんだったら障子開けっ放しといてもよくね?そしたら俺もよく見えんのに……
おっ、今度の来訪者は局長Gか。

局長Gは障子を全開にした。煙草がどうとか言っているので換気をするのだろう。ナイスゴリラ!
部屋の中では土方がゴリラの持って来た書類を見ている。ゴリラは土方の肩を叩いて笑っていて、
土方も痛いと言いながら楽しそうだ。
ちょっとアイツらくっつき過ぎだろ。昨日も二人で飲みに行ってて……仕事もプライベートも
一緒ってどうよ?そういう馴れ合いは感心しないな。警察というお堅い組織のトップ二人が
馴れ合いはいかんよ。仕事が終わったら口も聞かないくらいじゃないと……別に羨ましくて
言ってるんじゃねーぞ。会社の経営者として組織運営のなんたるかを……

「わん!」
「うおっ!……さ、定春?」

なんだ?何で定春がここに……あっ、後ろに神楽と新八もいる。

つーか何してんだ俺ェェェェェ!!なに忍び込んでんの?なに覗き見てんの?
これじゃあ完璧にストーカーじゃねーかァァァァァァ!!
二人と一匹から冷ややかな視線が投げ掛けられる。マズイ……何か言い訳を……

「えっと、これはァ……」
「話は中で聞くネ」
「中って……」
「ここで仕事させてもらえることになったんで、とにかく来て下さい」
「あ、はーい……」

新八と神楽の後に続き、俺は屯所の中へ上がった。


*  *  *  *  *


「何やってるんですか、まったく……」
「すいまっせーん」

空き部屋だか何だか分からないが、万事屋の荷物置き場兼休憩室として与えられた八畳の和室。
中庭の草むしりを「依頼」されたらしいのだが、俺は今、部屋の中央に正座している。
目の前には仁王立ちの新八と神楽。定春は庭で待機中だ。
二人の話によると――

昼メシの時間になっても帰って来ない俺を心配し、二人は定春に俺の匂いを辿らせた。
そしてここにいると分かったので、俺が堂々と屯所にいられるよう、仕事を探してくれた。
まあ、新八がゴリラに頼めば依頼の一つや二つ楽勝だろうな――

そんなわけで現在は仕事前のお説教タイムだ。
それだけのことをしでかした自覚のある俺は甘んじて受け入れている。

「こんなこと続けてたら印象が悪くなるだけですよ」

新八くんの仰るとーり。

「ストーカーゴリラを退治した時のカッコイイ銀ちゃんは何処にいったネ!」

……そんなことあったか?

「ストーカーがどれだけ迷惑か、銀さんだってよく知ってるでしょ?」

身をもって知ってまーす。

「このままじゃ銀ちゃん、ドMになってしまうアル!」

いや、ストーカーとSMは無関係だから。

「とにかく、これからは真面目に働いて好感度を上げていきましょう」
「おー!」

何で神楽が返事してんだよ。

そんなわけで、俺は屯所中庭の―主に副長室の前の―草むしりに勤しんだ。
俺が目障りなのだろう、土方は頻繁にこちらの様子を伺っていた。まあ、そのおかげで俺が
土方を眺める隙はなく、真面目に依頼遂行してるところをアピールできるからいいけど。

つーか、今までの俺なら「なに見てんだコノヤロー」と文句の一つでも言って喧嘩している
ところなんだよな……。だがそれはできない。だって、恥ずかしいじゃないか。
土方のことは気になる。色んなことを知りたいと思う。けれど近くに寄れば―寄ったことを
想像しただけで―体温急上昇。真っ赤になって何も言えなくなる。
こんなピュアなハートが俺の中にも存在してたとは……

「銀ちゃん凄いアル!」
「もうこんなに終わったんですか!流石ですね!」
「……は?」

何故だか急に大声で俺を褒め始めた二人。土方がこちらを見ているのが分かる。

「おい、静かにしろよ。仕事の邪魔になるだろ」
「あぁそうだったネ!」
「銀さんはよく気の回る人ですね!」

コイツら、まさかこんなことで土方の好感度を上げようとでも?いくらなんでも白々しすぎるだろ。

「銀ちゃん凄いアル!」
「流石です!」
「わ、分かった。分かったからお前らも頑張れよ」

居た堪れなくなってきたし、これ以上ここで話してたら本当に土方の邪魔をしてしまいそう
だったので、二人を持ち場に帰した。
だがそれからも何かと理由を付けては俺(と土方)の前に出てきて俺を煽て続けた。


*  *  *  *  *


その夜、俺は眠れない夜を過ごしていた。草むしりで疲れたはずなのに少しも眠くない。
時刻は午前一時四十五、あっ六分になった。一時四十六分……一四六……146……14、6……
十四、六……十四ろく……十四郎……なんてな。
……もう、寝たかな。朝からずっと働いてたから、この時間まで仕事ってことはないだろ。
いやでもアイツのことだから……

「…………」

ヤバイ……すっっっっっっげー気になってきた!土方がちゃんと睡眠とれてんのか気になる!
ちらっと確認……いやダメだ。それがストーカーへの第一歩だ。気になることは「調べる」では
なく「尋ねる」が正解。気さくに話せるような間柄になって「最近どうよ?」ってな感じで
本人に聞くのが正解。覗きダメ。絶対。

「…………」

あ〜……でも気になるぅぅぅぅぅぅ!だいたいにして、俺が近況聞けるような関係になるまでの
道程が果てしないんだよ。悲しいことに、土方と穏やかに話すってところから無理がある現状。
そこからどうすれば色々話せるようになれるというんだ。
その上あの夢みたいにラブラブなんて……

「…………」

ちょっとだけ……寝てるかどうか確認するだけなら……

「…………」

俺は神楽と定春を起こさぬようそっと家を出た。

(12.09.14)


ストーカー化する銀さんが書きたかったんです。すいません^^; もう少し続きます。暫くお待ち下さい。

追記:続きを書きました。